上 下
317 / 504

冒険者登録

しおりを挟む

 次の日

 昨日は懐かしの自分の部屋で熟睡した。ミサリーも一緒の部屋に寝たのだが、寝る直前までユーリと抱き枕にしようと必死だったようだ。

 だが、それでもすぐに寝ることが出来たのは疲れていたからだろう。半日歩き続け、訳の分からない女の人に襲われ、魔物を狩る。

 重労働にもほどがあると思わなくもないが、こんな生活も後二日と数時間で終わると思えば少し悲しい。

 まあ、会えないわけじゃないから、勅命を完了させ次第、帰ってもいいわけだし。うん、なんだかまた面倒事に巻き込まれる予感がビンビンしている。

 と、今日は一応土曜。つまり休日である。

 教師としてすることがなければ、他にすることもない。

「暇だ……」

 試しに屋敷だけでも建てなおすか?いや、二日で終わる気がしないし、やめておこう。

 じゃあ、何をするのかといえば、

「ミサリー、冒険者登録に行こう」

「お供します!」

 こう見えて私は冒険者として登録していない。なお、ミサリーは十年ほど前からBランク冒険者として活動している。

 なんということでしょう、こんなところに大先輩がってことで、推薦してもらっちゃお!

 ずるいといえばずるいが、そのぐらいのずるは許してほしい。私以上に多忙なお子ちゃまはいない気がする。

「というわけで……」

 転移した先はいつぞやに訪れた王国の東側に位置する帝国のとある街。なんだかとても賑やかになっている。

 というよりも、魔物の数が極端に少なくなっている。いや、まあ私が全滅させたっていう記憶は残っているのだが、いまだにゼロ匹を維持しているのか?

 すご。

「見てくださいお嬢様!動物が!モフモフが!」

 ウサギをみてきゃっきゃと喜んでいるところ悪いが、ここの地域に動物っていたっけ?

 まあいいや。

 それよりもこの街にも冒険者組合があった気がする。

「こちらですかね?」

 ウサギを抱き上げながら言うミサリーの視線の先には、この街で一番でかいのではないかと思えるほど大きな建物があった。

 そこには確かに冒険者の文字が見えた。

 出入りしている剣士や魔術師たちもいるから間違いないだろう。

「では、入りましょうか」

 目の前にある建物に一歩足を踏み入れる。あっ、ウサギはちゃんと逃がしてからね?

 そして、入ると同時に視線があちこちから一か所に集中する。私にも集中していたが、一番視線が集まったのはやはりメイド姿のミサリーだった。

「なぜこんなところにメイドが?」とでも言いたげな視線がたくさんあったが、おそらく上位ランクであると思われる冒険者が一言呟いたら、その場の空気がすぐさま変わってしまった。

「あれ、ミサリー様じゃないか?」

 その一言で、すべての興味本位の視線が、尊敬と畏怖の眼差しに変わった。

「え、どういうこと?」

 たかがBランク冒険者に頭なんて下げるか?

「ふふふ、お嬢様?いつまでも私がBランク冒険者だと思ったら大間違いですよ?」

 それは一体どういう意味だ?と、聞く前に受付にたどり着く。

「ぼ、冒険者カードの提示を……おね、お願いします!」

 なんということだ、いつでもはきはき喋ってくれるはずの受付さんがこんなにも緊張しているじゃないか。

「こちらですね、はい」

「かか、確認します!」

 と言って逃げるように裏へ入っていってしまった。そして、背後からは「誰か話しかけろよ」「いや、ミサリー様に話しかけるなんて……」という声が聞こえる。

 一体どういうことなのだろう?

 そうして待つこと数分、裏から誰か違う人物がミサリーの冒険者カードを持って現れた。

「お待たせしました、Sミサリー様」

「S?」

 いつもならすぐ自慢してくるミサリーだが、今日はきりっとした顔立ちでその問いに応じる。

「私は、この街の冒険者支部でギルドマスターを務めているオリバーです」

 オリバーさんは清潔感のある紳士のような、びしっと決まった服を着ている。黒が基調となった服に、若干の白髪が混ざった髪ときれいに整えられた髭が特徴的だ。

「それで、王国の冒険者様が帝国まで何用で?」

「それは、諸事情によって言えません。来た目的はこちらの方の冒険者カードを発行してほしいのです」

 そういって、私のほうを指さす。すると、オリバーさんもこちらを見る。

 鋭い眼光に睨まれながら、後ろから飛んでくる「あんなガキを?」という声に反応しないよう必死に耐える。

「失礼ですが、こちらの方は……」

「私の主様です」

「主ですか?」

「こちらにおわす御方は、ステイラル王国公爵家が長女、ベアトリス・フォン・アナトレス様にございます!」

 そう言った瞬間、会場のざわめきが一瞬途絶えた瞬間、わっと湧き出す。

「ベアトリスって、あの『神童』のベアトリス!?」

「まじかよ!握手しに行こうぜ!」

「っていうか、アナトレス家って全滅したんじゃ」

「ちげーよ!行方不明だったらしいが、最近生存が確認されたらしいぜ!にしても、こんなところにいるとは……」

 このバカ!

 なぜ君は悪魔の存在を忘れているのか?見つかれば私たち終わりだよ?

 ここにとどまることはできなくなってしまった……だったら早く用事を終わらせてしまおう。

「メイドが言いましたが、改めて名乗らせていただきます。私はベアトリス・フォン・アナトレス。公爵領はつぶれたも同然なので、ただのベアトリスでいいです」

 そういうと、おお~という謎の声が湧く。

「それでは、ベアトリス様。カードを発行いたしますので、少々お時間を――」

 と、オリバーが言おうとしたその時、

「こんなガキが?お前ら頭どうかしてるぜ?」

 そんな声が後ろから聞こえてきた。ああ、またいつものパターンか。

 そんなことを思いながら振り向けばいかにもずる賢そうな顔をした男がいた。

「俺はAランク冒険者のドルドだ。そこにいるSランク冒険者様の主人なら、お前はそれよりも強いんだよなぁ?」

 生意気にそう尋ねてくる。にしてもAランク冒険者か。

 冒険者のランクは魔物のランクと対応しているとは聞くが、果たして……

「そうですね、そういうことになります」

「ははは!言い切りやがったよ!もしそれが本当なら、俺と戦え!負けたら、そこのSランク冒険者を貸し出してもらおう。うむ……ガキはまだ無理だからな」

 ドルドの目つきがいやらしいものへと変わる。

 きっしょ。

「いいでしょう、その代わり……私が勝てばAランク冒険者でランクを始めさせてください」

 そう言ってオリバーさんのほうを見れば、何やら考え込んでいる様子。

「まあいいでしょう。二つ名を冠している時点でSランク上位の実力は約束されたようなものですから」

 と、「ぼこしてきなさい」とでも言いたげな笑いでこちらを見るオリバー。

「では、始めましょうか――」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...