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大群

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「負傷者は多数いますが、死亡者はゼロ人です」

「よかった……」

 鬼族、龍族ともに負傷者はゼロ人だと長老から報告を受ける。犠牲者が出なくて大変結構だが、鬼族を解放させるのは一苦労しそうである。

「これは私たちが倒した敵です、だからどう扱おうが我々の勝手ですよ」

「いや、大将取ったの私だけど……」

「だとしても、大勢を相手にしたのは我々ですから」

 はぁ、こういうところが頑固なのだが……。

 ところで、そろそろグラートたちがきてもいい頃なのだが?

「……………」

 誰も来ないのは何か不自然だ。隠れてチャンスを窺っているにしても、作戦の終了は誰の目から見ても明らかである。

 聡明なグラートならそのくらいすぐにわかるはずだから、武器を下ろして合流してくれると思うのだが……。

 と、その時だ。

「長老!侵入者です!」

「なんだと?」

「数は数十ほどの龍族です」

 きた!

「待って!それは私が呼んだ応援です!」

「どういうことですか?」

「いやぁ、もし負けそうだったら援護してほしいと頼んでおいたんだけど……結局いらなかったですね」

 私が、そう苦笑いで説明するが、伝令を伝えにきてくれた龍族は少し様子が変だ。

「で、ですが……その応援の龍族は困惑している様子でしたけど……」

「作戦が必要無くなったからでしょ?」

「いえ、『助けてくれ』って……」

 絶対に何かあったに違いない。

 こういう時の私の勘はよく当たるから嫌になる。

「すぐに案内してください!」

 私がそう叫ぶと、気迫で少しびくりとしながらもすぐに「こっちです」と案内をしてもらう。

 案内された場所は部族の裏門……鬼族の襲撃を受けた方向の真反対の入り口である。

 元々こっちから応援を呼ぶ予定だったので、ここまでにおかしいことはない。

 だが、目の前にいる龍族の知り合いが焦っているのはよくわかった。

 そして、私の姿を見つけると、みんなと何かを話した後、私の元へ近づいてくる。

「大変だ!グラート族長がヤバいのと戦ってる!」

「ヤバいの?」

「なんて言うんだ?……そう!伝承で伝わってる悪魔のような奴だ!」

「悪魔!?」

 私は戦ったことが勿論ある。悪魔の少女のほうではなく、エルフの森にて訪れた際に戦ったやつだ。

 つまり、今回現れたその悪魔とやらも少女の手下であろう。

(嫌がらせはしてくるのね……)

 本人を目の前にしたら足がすくんで何もできない私が言うのもなんだが、汚い!

 でも、まだ私が負けたつもりはない。もっと強くならなくては……。

「悪魔とやらの元へ案内せよ」

「っ族長!?」

 後ろのほうから声が聞こえる。そこから現れたのはすっかり傷跡が無くなった族長である。

 ぽっかりと空いた穴はすでにふさがれており、まるで何事もなかったかのように平然としている。

「でも……」

「何か問題でも?」

「族長が自ら出るのは大問題では?」

 まして、ここの族長は元々真龍だったんだから、なおさらだ。

「だったら、グラート族長が自ら出てくるのも大問題だな」

「うぐっ……」

「では、早く行こうか」

 族長が一緒にいてくれるなら心強い。

「わかりました、早く行きましょう」


 ♦♢♦♢♦


 すぐ近くまで来ていたので、到着は早い。

 木々を切り倒しながら行われる攻防が見えてきたら、相手の姿もはっきりと見えるようになる。

 見た目はかなりごつごつしていて、外骨格に覆われている。完全に悪魔だ。

 ただ、前回と違う点を一つ上げるとすれば、今回は女のようだ。

「グラート!」

 ボロボロになったグラートは雷魔法を駆使して相手の動きを鈍らせているようだ。流石に戦い方がうまい。相手の動きを見た限りだと、グラートたちが格下だが、それをどうにかこうにか雷魔法のデバフ効果でその差を補っているようだ。

 流石グラート。

「ベアトリスか!?」

 戦いながら返事を返すグラートだが、油断していると危ない。

「加勢するよ」

 ドラウもいたようで、こちらは四人になった。そして相手は一人。

「いじめみたいになっちゃうけど、大人しく負けてもらうわよ」

「その心配はいりません」

 その女の声が聞こえたかと思えば、木々の上に止まって休んでいた鳥たちが一斉に羽ばたきだす。

 と、同時に木々の上の更に上……雲の隙間から黒い無数の物体が生まれ始めた。

「あれらは私の部下です」

「なんですって!?」

「数にしておよそ数千。龍族たちと鬼族では相手にしきれない数です」

 ただの上位悪魔の部下ってことは中位から下位の悪魔なのだろうが、それでも十分な脅威だ。

 龍族はともかく、鬼族は空を飛べないため、一方的に撃たれて負ける未来が見える。

「それはさせない!」

 一瞬で接近して、借りていた剣で一閃。

 だが、

「当たらない?」

 しっかりと当てている。いや、なんというか……まるで実態がないみたいに通り過ぎたのだ。

「私に物理攻撃は最初から通用しないのです」

「はあ!?卑怯だろ!」

 と、何も知らずに槍で殴っていたドラウが叫ぶ。

「戦いとはそういうものです」

 物理攻撃は通用しないとなると、魔法攻撃が有効ということ。

「あなたを倒せば、あの大群は収まるのね」

「かもしれないですね」

 なんだか含みのある言い方をされたが、倒すことに変わりはない。

「では、私は一旦離脱します」

「あ、ちょっと!」

 すぐに体を掴もうとするが、意外なことに転移で逃げていった。いや、意外ではないか。

 転移を使える人はとんでもない計算能力を持っている人だけだけど、確かに今の女は頭がよさそうだったし。

「転移先はどこなんだ!?」

「落ち着け、ドラウ。転移したにしても、戦っている最中なんだからすぐ近くにいるはずだ」

 流石に、このまま戦線離脱をされていたら、私たちはあの数千を今から相手取る必要があるが……。

 ちらりと族長のほうを見ると、

「やれないことはない」

「そうですか……」

 だそうだ。何とかなるなら、よし。

「今からあいつらを相手どる必要がありそうね」

「あの女は見逃すのか?」

「いえ、木を隠すなら森の中。悪魔を隠すなら悪魔の大群の中よ」

 あの数千の中のどっかにいる違いない。

 幸いこの場には飛行能力を持っている人しかいない。

「行くわよ――!」
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