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嫌がらせ(グラート視点)

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 ベアトリスがターニャと戦っていた間、グラートたちは森を走っていた。

「ねえ、お兄ちゃん!?顔取れるからもっとゆっくり!」

「バカを言うな、参戦が間に合わないだろう?」

 実はベアトリスとともに立てた作戦は無駄になっていなかった。

 ベアトリスとたてた作戦とは、単純明快背後からの援護。

 いくら鬼族が優位に立てる状況だろうと、数で上回れれば負けることはない。それがわかれば鬼族の面々もきっと諦めてくれるはず!

 そう思って立てた作戦ではあったが、結局使われることはないとまだグラートたちは知らない……。

 ただし、二つほどその行動は役に立っていた。

 鬼族はこの龍族二間がいまだに争っている、争うはずだと信じていたため、グラートたちが動き出すのに合わせて行動していたのだ。

 よって、グラートたちが動くことによって、鬼族の行動もある程度制御されていたのだ。

 例えば、龍族の背後には回り込まない。などである。

 なぜなら、その背後から迫ってくるもう一部族の敵に逆に囲まれないためだ。

 そして、役に立ったもう一つの理由は……。

「止まれ!」

 隊長であるグラートの指示で全員が一斉に止まる。

 グラートの体にひっついて、どうにかついてきていたルーはいきなり止まった衝撃に一瞬体が宙に浮いたが、どうにかおっこちずに済んだようだ。

 グラートたちの目の前に現れたそれを目にして、ルーは顔を隠す。

「ハローエブリワン!」

「誰だお前」

 そこには、なんとも場違いなテンションの茶髪の少女がいた。年はベアトリスと同じくらいだろうか?

「そこを退け、ここは危険だ」

「あらあら、自分の心配が先じゃないの?」

「なに?」

 ふと、頭上からもう一つの気配を感じ取る。

「ルー!」

「え?」

 体にしがみついていたルーを急いで引き剥がすと槍を構える。構えるのが少し遅れて、その暗闇から出てきた女から攻撃を喰らってしまったが、致命傷には至っていない。

「貴様……」

「私もちょっと忙しいのよぉ、それに……目的も達成できてないしね」

「なんの話だ!」

「だから、せめてもの嫌がらせにあなたたちだけでも殺してあげようかなって!」

 その少女は悪魔の如き笑顔を見せ、笑いながらその場から姿を消した。

 そして、一人残った女はといえば、表情を一切動かさずグラートを殺そうと刃を突き立てる。

 刃と表現したが、その女は武器らしいものは何も持っていない。

 どう言うことかといえば、彼女の『外骨格』から生えている棘である。

 明らかに人間離れをしている見た目だ。外見は伝承に伝わる上位悪魔そのもの。

 流れるように後ろへと下がると、その女は手の甲からもう一本棘を作り出した。

「何者かは知らんが、俺たちは急いでるんだ。邪魔するようなら殺す」

「問題ありません、

「……話にならんな」

 その女が何を言っているのかよくわからないが、ここはどうにか耐えるしかないだろう。

「やるぞ」

「兄貴や、俺ももちろん付き合うぞ?」

「勝手にしろ」

 どうせなら、三兄弟で戦ってみたかったが、まだ幼いルーを連れて戦うわけにはいかない。

 今回だってルーがどうしても一緒にいかせてほしいと言うから、特別に連れてきただけだ。ルーが死ぬことはあってはならない。

「二体一だけど、お嬢さんはいいかな?」

「問題ありません」

 機械のような反応しか示さないが、そちらの方がやりやすい。

「お前たちは先に参戦を」

「「「了解」」」

 ルーを連れて先に向かってもらうと、その場はシーンと静まり返ってしまった。

「龍族のグラート」

「同じくドラウだ」

 相手に自己紹介という概念があるのか心配の思ったが、それは杞憂だったようだ。

「地上遠征調査隊、3代目隊長」

「……名前は?」

「ありません」

 どうも妙なやつだ。

「いくぞドラウ!」

「おう!」

 二人同時に踏み込むが、目の前の女は悠然と突っ立っている。構える必要すらないという態度だが、その挑発に乗るほどバカではない。

 上段からの振り下ろしは槍には向かないかもしれないが、フェイントをかけるには効果的。

 相手に当たる前に自らの体に引き寄せ、突きに変える。だが、相手もそこらの雑魚ではない。

 棘の先端部分……最も細い部分で攻撃を受け止めると、もう片方を地面に突き刺す。

「くっ!」

 足元に斬りかかっていたドラウはそれで防がれる。そして、女はドラウの持っている槍を踏み、ドラウから武器を奪った。

「まだぁ!」

 龍族には優れた身体能力と魔力がある。魔力で固めた拳の威力は相当なものだ。

 ただ、当たらなければ意味はない。顔を狙った拳はひらりと交わされ、代わりとばかりにグラートの武器も弾かれた。

 天へと舞い上がる槍をグラートは飛び上がって掴むと、それを女めがけて投げつける。

「はああ!」

 魔力を使ったその攻撃はドラウの拳以上の威力があるはずだ。

「くだらない」

 その攻撃を左腕をかざして防ぐ。

「兄貴の攻撃を!?」

 驚くドラウだが、当の本人であるグラートはさほど驚いていない。

(ベアトリスと向こうの部族の二人を先に見ておいてよかったな)

 確かに目の前の女はかなりの脅威ではある。自慢の攻撃は片方の腕で防がれた。

 しかし、太刀打ちできないほどではない。

「ん?」

 女は左腕を見ながら、疑問符を浮かべていた。

「これは少し効くようだな」

「何をしたのですか」

「雷魔法だよ」

 ベアトリスのあの技はかなりの威力があった。それに比べれば範囲も効果もまだまだだが、それでもこの女には少し効いたようだ。

「こっからが本番だ!」
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