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決行日(ターニャ視点)
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おいらのお願い事はただ一つ。
生き残った仲間の居場所を作ること。
ただそれだけだった。おいらたち鬼人は鬼族と呼ばれ、獣王国の中で虐げられていた。
おいらたちの世代が生まれる少し前に街で暴れすぎた鬼族が獣人の反感をかったところから全てが始まった。
元々気性が荒い奴が多い種族であるため、獣人族にとっては迷惑極まりない種族だったに違いない。
だからと言って、全滅に近しい状態にまで追い込むことはなかったのではないだろうか?
おいらは、鬼族の中でも偉い立場にいたらしい。気づけば侯爵の住処に奴隷のように飼われていたが、その前は鬼族を従える族長の娘だったのだ。
族長亡き今、今代の族長はおいらである。
だから、直々に獣王国の国王へ願い出た。
「鬼族に住処を与えてやってほしい」
と……。
帰ってきた返答は竜人の排除でもって認めるとのこと。龍族の民である竜人は、長らく姿を浮世の元に晒しておらず、結果的に治安は悪化し諸外国からも舐められているとのこと。
「排除……」
そんなことをしてしまったら、おいらは……鬼族を蹂躙した奴らのように成り下がってしまうのではないか?
もちろん躊躇した。そんなことを望んでベアトリスは「任せる」と言ったわけではないのはわかっている。
だから、おいらは断ろうとした。
だが、
「引き受けます!」
「……なにを、言ってるの?」
同じ鬼族の生き残りと一緒に国王の元へ出向いたのが、いけなかったのだ。血気盛んなその生き残りは、龍族を滅ぼす道を選んだ。
「大丈夫です、お嬢。俺らが全て終わらせてきます」
違う違う違う、そうじゃない。
私がしてほしいのはそう言うことじゃない!
「他に、解決法は……」
「ないですよ」
「っ!」
あぁ、おいらはまだ族長の器じゃなかったみたいだ、ベアトリス……。
♦️
おいらの日常は特に変わらず平穏そのものだった。一日中することがなく、猫獣人の変化しては尻尾をいじって遊ぶことくらいしかすることがない。
ただ、鬼族の生き残りたちとその子孫は今も龍族と戦っている。私には止めに入るほどの力はない。
それに、私は一族の柱なのだ……私が捕まったり死ぬようなことがあれば、鬼族はどうなる?
そう思うと前線に出れなかった。
「はぁ……」
どうにかこうにか、巡回だけしてこいと命じることによって龍族との間に死者は出ていない。それだけがおいらの心の救いだ。
「お嬢」
「……なに?何かあった?」
部屋の中へと入ってくる鬼人、とその部下。
なにやら物々しい顔をしていた。何かあったのは間違いなさそうだった。
「まさか、死者が出たりとか……」
「いえ、むしろのその逆です」
「逆?」
逆とは一体どう言うことだ?生き返った?そう言うわけでもないだろう……。
「偵察に出ていた俺の部下がようやく龍族のアジトを見つけました」
「それは……よ、よかったね」
「はい、それと……」
「ん?」
何か言いずらそうな雰囲気を醸し出しながら、鬼人は声を上げた。
「龍の翼を持ち、鬼のツノを持つ少女に出会ったと……」
「それは……ハーフ、なのかな?」
ハーフとは忌み嫌われる存在。敵対してる種なら尚更だ。
「はい……それで、うちの部下がやられかけていたところを助けてもらったそうなんです」
「いい人で、よかったね君たち」
本当によかった……その人がもし龍族の味方であったならば、おいらはもう……。
「ええ、そうなんですが……その少女は龍族を従えていたと……」
「そうなのか……不思議な人もいたもんだ」
「それで、その少女に伝言を頼まれたそうです」
「伝言?それって、おいらに?」
龍と鬼のハーフの子に知り合いはいなかったはずだが?いたとしても、人間が獣人くらいだ。
もしかしてその人が敵の首魁だったり……そんなことを考えると自然に体が身構えてしまった。
「ターニャに伝言、『ベアトリスは元気だ』とのことでした」
「ベア、トリス?」
「お知り合いですか?」
「知り合いもなにも……」
ベアトリス?ベアトリスって人間だったよね……あれ?
おいら、頭悪いからわかんないけど、絶対人間だったよね!?でもでも……あーもう、この際種族なんかどうでもいい!
「ベアトリスは、おいらの恩人なのだ……」
「そうだったのですか!」
「ベアトリスは元気にしているのだな?」
それだけ聞けただけで一安心である。でも、
「どうしてベアトリスがそんな場所に?」
明らかに偶然ではない。
ベアトリスだったら、今のおいらのありさまを見たらぶん殴って止めにかかってくるだろう。あの時のように、おいらを元気付けてくれることだろう。
だが、ここにベアトリスはいない。
「最悪だ……」
こんな体たらくを見られたくない。おいらの親友にこんなところ見られたら……。
いつまでも子供みたいに手助けしてもらうわけにはいかない。おいらは、おいらの信じることをするしかないのだ。
「ごめん、ベアトリス……おいらはやるよ」
おいらは守りたいものだけを守ればいい。他はどうでもいい……。
せめて、手の届く範囲だけでもおいらが救うんだ。
「やるよ」
「はい?」
「決行は今日の夜だ……」
生き残った仲間の居場所を作ること。
ただそれだけだった。おいらたち鬼人は鬼族と呼ばれ、獣王国の中で虐げられていた。
おいらたちの世代が生まれる少し前に街で暴れすぎた鬼族が獣人の反感をかったところから全てが始まった。
元々気性が荒い奴が多い種族であるため、獣人族にとっては迷惑極まりない種族だったに違いない。
だからと言って、全滅に近しい状態にまで追い込むことはなかったのではないだろうか?
おいらは、鬼族の中でも偉い立場にいたらしい。気づけば侯爵の住処に奴隷のように飼われていたが、その前は鬼族を従える族長の娘だったのだ。
族長亡き今、今代の族長はおいらである。
だから、直々に獣王国の国王へ願い出た。
「鬼族に住処を与えてやってほしい」
と……。
帰ってきた返答は竜人の排除でもって認めるとのこと。龍族の民である竜人は、長らく姿を浮世の元に晒しておらず、結果的に治安は悪化し諸外国からも舐められているとのこと。
「排除……」
そんなことをしてしまったら、おいらは……鬼族を蹂躙した奴らのように成り下がってしまうのではないか?
もちろん躊躇した。そんなことを望んでベアトリスは「任せる」と言ったわけではないのはわかっている。
だから、おいらは断ろうとした。
だが、
「引き受けます!」
「……なにを、言ってるの?」
同じ鬼族の生き残りと一緒に国王の元へ出向いたのが、いけなかったのだ。血気盛んなその生き残りは、龍族を滅ぼす道を選んだ。
「大丈夫です、お嬢。俺らが全て終わらせてきます」
違う違う違う、そうじゃない。
私がしてほしいのはそう言うことじゃない!
「他に、解決法は……」
「ないですよ」
「っ!」
あぁ、おいらはまだ族長の器じゃなかったみたいだ、ベアトリス……。
♦️
おいらの日常は特に変わらず平穏そのものだった。一日中することがなく、猫獣人の変化しては尻尾をいじって遊ぶことくらいしかすることがない。
ただ、鬼族の生き残りたちとその子孫は今も龍族と戦っている。私には止めに入るほどの力はない。
それに、私は一族の柱なのだ……私が捕まったり死ぬようなことがあれば、鬼族はどうなる?
そう思うと前線に出れなかった。
「はぁ……」
どうにかこうにか、巡回だけしてこいと命じることによって龍族との間に死者は出ていない。それだけがおいらの心の救いだ。
「お嬢」
「……なに?何かあった?」
部屋の中へと入ってくる鬼人、とその部下。
なにやら物々しい顔をしていた。何かあったのは間違いなさそうだった。
「まさか、死者が出たりとか……」
「いえ、むしろのその逆です」
「逆?」
逆とは一体どう言うことだ?生き返った?そう言うわけでもないだろう……。
「偵察に出ていた俺の部下がようやく龍族のアジトを見つけました」
「それは……よ、よかったね」
「はい、それと……」
「ん?」
何か言いずらそうな雰囲気を醸し出しながら、鬼人は声を上げた。
「龍の翼を持ち、鬼のツノを持つ少女に出会ったと……」
「それは……ハーフ、なのかな?」
ハーフとは忌み嫌われる存在。敵対してる種なら尚更だ。
「はい……それで、うちの部下がやられかけていたところを助けてもらったそうなんです」
「いい人で、よかったね君たち」
本当によかった……その人がもし龍族の味方であったならば、おいらはもう……。
「ええ、そうなんですが……その少女は龍族を従えていたと……」
「そうなのか……不思議な人もいたもんだ」
「それで、その少女に伝言を頼まれたそうです」
「伝言?それって、おいらに?」
龍と鬼のハーフの子に知り合いはいなかったはずだが?いたとしても、人間が獣人くらいだ。
もしかしてその人が敵の首魁だったり……そんなことを考えると自然に体が身構えてしまった。
「ターニャに伝言、『ベアトリスは元気だ』とのことでした」
「ベア、トリス?」
「お知り合いですか?」
「知り合いもなにも……」
ベアトリス?ベアトリスって人間だったよね……あれ?
おいら、頭悪いからわかんないけど、絶対人間だったよね!?でもでも……あーもう、この際種族なんかどうでもいい!
「ベアトリスは、おいらの恩人なのだ……」
「そうだったのですか!」
「ベアトリスは元気にしているのだな?」
それだけ聞けただけで一安心である。でも、
「どうしてベアトリスがそんな場所に?」
明らかに偶然ではない。
ベアトリスだったら、今のおいらのありさまを見たらぶん殴って止めにかかってくるだろう。あの時のように、おいらを元気付けてくれることだろう。
だが、ここにベアトリスはいない。
「最悪だ……」
こんな体たらくを見られたくない。おいらの親友にこんなところ見られたら……。
いつまでも子供みたいに手助けしてもらうわけにはいかない。おいらは、おいらの信じることをするしかないのだ。
「ごめん、ベアトリス……おいらはやるよ」
おいらは守りたいものだけを守ればいい。他はどうでもいい……。
せめて、手の届く範囲だけでもおいらが救うんだ。
「やるよ」
「はい?」
「決行は今日の夜だ……」
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