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兄弟

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「一体どうゆう状況なのこれ」

 ひとまず二人を正座させて話を聞く。ナターシャは正座をしたことがないのか、ものすごく辛そうな表情をしている。

「まずナターシャから」

「え、ええっと……家に帰ってきてから、ちょっと外に出て気分転換がてらに素振りしようとしていたらこの獣人がいきなり襲ってきたっていう感じ」

「次、シル様」

「修行しにここまでやってきて、ちょうどいい相手を見つけたから……」

「斬りかかったの?」

「いや……」

 どうもシル様は嘘をついている様子。いくら王族といえど、私よりもおそらく年下。

 子供の嘘なんて簡単に見抜けるのだ!

「で、本当の理由は?」

「……うん、やっぱりバレてたんじゃしょうがないよね」

 ため息をついて理由を語り出す。

「父上からの指令できたんだ」

「どういうこと?」

「鬼族の生き残り、って名乗る人がやってきて父上に何かお願いを……」

「その生き残りってもしかして女の子?」

「え、うん」

 ターニャでしょこれ……。なんかターニャと別れ際に「ここは任せた!」的なことを言ったような気がする……もしかしてあの子、何かしでかしてないでしょうね?

「父上がその女の子に言ったんだ。その願いを叶えてやるから、私の願いも一つ聞け……って」

「その願いっていうのは……」

「龍・族・を・滅・ぼ・す・こ・と・」

「!?」

 なぜ龍族が滅びなくてはならないのか……。ナターシャの方を見ると、今にもシル様に襲いかかりそうな形相で睨んでいた。

 そりゃそうだ、その龍族が隣にいるのだから……。

「なんで龍族を滅ぼそうなんて……」

「獣王国は龍族の保護を受けてきた。龍族が獣人族たちのために治安を維持してくれたり、魔物から街を守っていたんだ。だけど、最近は龍族は雲隠れしてしまって、手助けもなにもしてくれない」

 龍族はこの霧の中にこもっている。中から外へ出ていくものもいないのだろう。

「なにもしてくれないようになって、獣人たちは自分達で治安を維持して街を平和に保ってきた。それなのに、諸外国からは龍族のおかげだ、って龍族だけを称賛する。『守られてるだけの獣人』って自国の民が馬鹿にされてるのが、父上は耐えられなかった」

「つまり、龍族を倒すことで自分達の方が上だって示したいわけね」

「それを……鬼族の女の子にお願いしたんだ。僕はその監視のために送られた」

 ターニャは一体どんなお願い事を国王にしたのだろうか?国王が、それだけ重大そうなことをターニャに押し付けたのだから、ターニャのお願いも相当なものだったということだろう。

 国王にあったことあるが、頭はキレるタイプだと思う。

「ん?でも、そんな危険なところに息子を送り込むの?」

「僕はあくまで第二王子だから……」

 第二王子ね……第一王子がいれば、確かに国継は問題ないだろう。それに、シル様は剣の腕もかなりたつようだからお願いしたのかな?

「そういえば、お兄さんはどんな人?あったことないからわからないけど、やっぱりシル様と似て特徴的なのかな?」

 興味本位でシル様に聞くが、シル様は顔を下にむけてしまった。何かまずいことでも聞いたのだろうか?

「お兄様は……僕も会ったことがないんだ」

「へ?」

「お兄様は生まれて間もない頃に、お母様と一緒に国を出て行ったんだって」

「へ!?」

 お母様と一緒に国をでたってことは、シル様とは腹違いの兄弟ってことで……それに、会ったことがないとくると、ここの王族もかなり複雑そうな事情を抱えてそうだ。

「お兄様はお父様が獣人、そしてお母様が人間だったんだ……。生まれてきたお兄様は耳や尻尾が生えてなくて、まるでただの人間みたいだった。人間を歓迎しようとお父様が法律を制定したけど、反抗的な貴族たちがお兄様の命を狙ったんだ」

 現国王が人間に対して寛容的だというのは、前世でも知っていた。そして、次代国王は人嫌いだったというのも、私は知っている。

「流石のお父様も暗殺者の方まで対応できる余裕はなかったから、お母様とお兄様を外国へ逃したんだ」

「そんなことが……」

 それもあって次の国王は人嫌いなのか?ってことは、次の国王はシル様ではない?

 シル様は人間……というか、私に対しては寛容的だったし、人間の国へと逃げた第一王子の方も、王位を継ぐことができないから……。

 次の国王は誰だろう?

「ちなみになんだけど、お兄様はどういう特徴があるとか聞いたことある?」

「え?」

「シル様は知らないだろうけど、私って獣王国の隣の王国の公爵家令嬢なのよ!」

「そうなの!?」

 私も実はかなり偉いんだぞ!

「だから、上品なんだ……」

「上品っぽいかしら?」

「あ、いや……ルイスがそう言ってたから……」

「ルイスさん!?」

 ルイスさんと言ったら、あのおどおどした感じの子だよね!?その名前を聞くのも懐かしく感じてしまう。

 彼は元気にやっているのだろうか?というよりも、社交界に出て大丈夫なのか、あの吃り具合は……。

「ルイスが言ってましたよ?『ベア様大好き!』って。よかったですね」

「……………聞かなかったことにするわ」

「そうですね、やっぱり本人の口から言わないと」

「そうじゃない!」

 ひとまず話を戻そう……。

「で、私の暮らす王国に住んでいるのであれば、ある程度特徴を教えてくれればこちらで探せるからさ」

「特徴と言っても……赤・髪・ということしか知らないです……」

「赤い髪?」

「そうです、多分今頃成人しているんじゃないですか?」

「え、え、え?」

 一瞬頭の中にアレンの顔が思い浮かぶ。成人していて、赤い髪をしている。

 だけど、それだけで彼が第一王子だと決めつけてはならない。

 そう思っていたところに、私はふとあることを思い出してしまった。

「も、もしかしてなんだけど……お兄さんも魔眼って使えたりするのかな?」

「はい、使えると思いますよ。むしろ、人間の血が混じってるおかげで魔力も操作できるので、僕と違って永遠に魔眼を起動できると思います!」

「ごめん」

「へ?」

 もうこんなの確定じゃん……魔眼なんていうレア能力を持っている人がそうポンポンいてたまるかってんだ!

 父親とは一緒に暮らしておらず、母親との二人暮らし。そして、成人で赤い髪をしていて魔眼を使える。

「私、その人知ってるわ」

「えぇー!?」
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