上 下
279 / 504

日常と動乱(レオ視点)

しおりを挟む
「帰ってこないねー」

「そうだね……」

 授業が終わり、クラブの方に一瞬顔を出したベアトリスだったが、その後夜まで帰ってこないとはこの場にいた二人は想像していなかった。

 三人で使ってた部屋も一人減るだけでだいぶ広く感じる。

 特に、ユーリは虚無感が凄そうだ。眠ることもせずにぼーっと天井を見つめているのはもはや病気の域なのではないかと思ってしまうレオだったが、自分もベアトリスが心配なだけに何処か落ち着かない。

「まあ……ベアトリスのことだし、大丈夫だとは思うけど」

「暇だー……」

 遊んでくれるベアトリスがいないことで、することがなく自分の尻尾を追いかけ回しているユーリ。

「ユーリはなんか子供っぽいね」

「いきなり悪口!?」

「いや、違うけど……」

 普段一緒に過ごしていると子供の見た目と幼い言動から普通の子供と思ってしまうが、このキツネは何百年と生きている魔族なのだ。

 なのに、精神年齢が低すぎるのは一体何事なのか……。

「言動が子供っぽい?それは、肉体に魂が持ってかれてるからだよ」

「どういうこと?」

「ベアトリスは、また自分の魔力を注ぎ込めば、ボクが完全復活すると信じているけど、実際は違うって話」

 ベアトリスは魔力を使い、ユーリの封印の一部を解除した。そのことによって人化(不完全)できるようになり、多少……いや、今のところかなり強い力を取り戻していた。

 だが、封印が完全に解けたわけではないそうだ。

「レオは信用できるから言っておくけど、ボクは人化している間は常に魔力を使ってるんだ。そして、ベアトリスの魔力で失くなったボクの魔力を補充するのはかなり難しい」

 ベアトリスはもうすぐ成人という年齢ではあり得ないほどの魔力を有している。が、それは人基準の話。

 魔族のトップに立っていたユーリにしてみればまだかわいい量だったようだ。

 無尽蔵の魔力を全て埋め尽くすにはベアトリスが何度も魔力枯渇症になる必要がある。魔力枯渇症は下手すれば死ぬ可能性のあるもの。

 そして、人化には相当魔力を使う。

「人化しなかったとしても、敵の襲撃が来たら一瞬でパーってわけ!」

 そもそもキツネの姿ではうまく戦えないそうで、結局人化するしかないとのこと。

「面倒だね」

「まあね、ボクが本調子ならあの女の子と互角くらいにはやりあえるよ!」

 勝てないんだ……とは言わない。

「で、少ない魔力しかないからその分人化が小さくなっちゃうの。魔族は肉体と魂が依存しているから……」

 魔族は人間とは違い、幼いのに知能が発達したいわゆる『天才』なんてものは存在しない。年齢が幼ければ知能も幼い個体しかいない。

 ユーリも例外ではない。

 僕は魔族ではなく、獣人だったおかげで若返っても知能は退化していないというわけか。

 ユーリにも、ベアトリスにも話していない秘密。

 時間を渡るユニークスキル。

(バレたら、引かれちゃうかな……)

 今までそんなことを黙っていた。後ろめたいことがあった。

 初めの人生で既に、僕はベアトリスのことを知・っ・て・い・た・。

 と、少々昔話に浸りかけていたら、

「何してんの?」

「のわ!?」

 上のベッドから落下してきたユーリの下敷きにされる。

「暇だから遊ぼ!」

「わかったわかった、何して遊ぼうか?」

「うーん、ご飯は食べたし、お風呂にも入ったし……」

 あんまり動きたくないと言った顔でユーリは思案している。

 でも、二人でも遊んでもつまらなくないか?

「あ、そうだ」

「なになに?」

「ちょっときて……」


 ♦️


 目の前には少しやんちゃそうな青年と、誠実そうな青年の二人がいた。

「なんでそうなる!?」

「まあまあ、いいじゃん。可愛いお客さんが来たんだから一緒に遊ぼうよ!」

 ヤンキー君(ベアトリスがそう呼んでいた)は若干嫌そうにしながらも、顔が若干赤くなっている。

 やはり、獣人というのは異世界人には評判のようだ。

「ダメ……かな?」

「うぐっ……べ、別にそんなこと言ってねえじゃん!」

 単純なやつで助かる!

 すぐ近くにヤンキー君とリョウヘイ君のいる部屋があってよかった。

「何して遊ぶ?」

「そうだねー……じゃんけんでもする?」

「つまらなくない?」

「罰ゲームで黒歴史発表しましょうか!」

「「「は?」」」

 リョウヘイ君の爆弾発言だったが、ユーリは言葉の意味がわかっていないのか、すぐに同意してしまった。

 ここで、ヤンキー君と自分が反対しても過半数同士で話は平行線……そうなることを予感した僕はすぐに諦めるのでした……。

「裏切ったな、先生!?」

 罪悪感がなきにしもあらずだったが、それはしょうがない。

「じゃあ、やっていきましょうか!」

 そうして、地獄のジャンケンは始まる。


 ♦️↓国王視点↓


「何?獣王国で内乱だと?」

 国王直属の執事は嘘を言うはずがない。故に、情報事態がデマでない限り、この情報は正しいことになってしまう。

 国王は頭を抱えた。

(ただでさえ今の時期厄介ごとが多いと言うのに、一体どうすればいいのだ!?)

 ベアトリスという少女が二年ぶりに生還し、国民たちを安心させるために新聞にベアトリスの置き手紙と共に、生きていることを伝えた。

 国民は信じない者を除いて全ての者が喜んだ。

 そこまでは良かったのだが、まさか隣国の帝国の『勇者』が動くなど考えてもなかった。

「黒薔薇……だったか?組織の痕跡の調査もある……やることが山積みではないか!」

 勇者の出動に獣王国の内乱。

「ベアトリス殿を呼ぶか?」

「それが……」

「なんだ!?そっちのも何かあったのか!?」

「陛下が大学院理事長に依頼した素材採集に、ベアトリス様が出かけているらしく、帰って来てないそうです!」

「なんだと!?」

 なんということだ!こんな忙しい時に救いの綱がないとは……。

「だが、今は一刻の猶予も許されん!動くぞ!」

 すぐに貴族を集め、会議を開こうと立ち上がるが、ドアがバタンと開く音がし、国王の足が止まる。

「お待ちください陛下、その事案……私に任せていただけないでしょうか?」

「おお、お前のことを完全に失念しておったわ!勇者は任せる!私は獣王国への援軍を配備しようぞ!」

「お任せください!」

 飛び出してきた女性は、とても美しい金色の髪の毛を短く切ったお嬢様というような見た目。

 それもそのはず、彼女はこの王国の第一王子の妹……『ローラ姫』なのだった。

 なおベアトリスは、長らく王家と関わっていなかったので、このことは知らない。

 ローラは部屋を退室して、静かにほくそ笑んだ。

「みぃつけた♡」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...