272 / 504
魔族の家族(フォーマ視点)
しおりを挟む
何日が経ったのかは不明。
だが、私は目覚めた。
「知らない天井だ」
ここがどこかは分からないが、ボロボロの天井を見る限り裕福な家庭の部屋の中ではなさそう。
「うっ……」
まだ体が痛む。そうだ、ゴキブリに追いかけられていたのを忘れていた。
そのゴキブリはこの場にはいない。だが、濡れたタオルと、冷たい水が入った容器が私が寝ているベッドの横に置いてあった。
「あ」
頭を押さえて考えこもうかとした時、顔を覆い隠していたフードが取れていた。
(フードで合ってる?)
組織にいたころ貰った服だったが、いまだに何の服なのかはわからないので、フードということにしておく。
それが、取れていたのだ。
「顔を見られた。殺す?」
顔がバレてしまったのであれば、もしかしたらあの悪魔の少女に居場所がバレてしまうかもしれない。
今はまだバレるわけにはいかない。よって、あのゴキブリは始末するべきだろう。
そう思って、魔力感知を再び起動しようとするが、魔力はまだ回復しておらず、使えそうになかった。
そうしているうちに、
「起きたか―?」
と、少し甲高い声が聞こえた。
となると、ゴキブリ男ではない人物のようだ。
「誰もいない?」
だが、奥にあったドアが開いたと思ってその場所を注視しても一向に誰かがやってくる気配はなかった。
「どこ見てるんだ?」
また声がする。
「下だ、下!」
そう言われて、視線をベッドの下に向けた。
「豹?」
「豹じゃないぞ!オレは――」
おそらく自分の名前を宣言しようとしていたのだろうが、後ろからやってきたもう一人の……よく知る男に抱きかかえられ口をふさがれた。
「何やってんだ?って、起きたのか白女!」
「ゴキブリと豹?」
「だからゴキブリじゃねえ!」
ゴキブリは相変わらずの見た目だ。
そして、豹の方はというと、ゴキブリ男と比べるとかなり体が小さい。大体で言えば、ユーリよりも一回り大きい程度だ。
手足が短く少々ずんぐりむっくりしている。
目つきは鋭く、まるでベアトリスのようだ。
「おい、シャル!オレに喋らせろ!」
ぷはっ、とシャルと呼ばれた男の腕から顔をだす。
「はあ?お前一応子供だからな?来客の対応は俺がするのが普通だろ」
「何を言う!オレはお前の子供ではない!」
それは見れば分かるのだが、なんだか私が来客である前提で話が進んでいるようだ。
「豹、私は来客ではない」
「む?そうなのか?」
「私は敵だ」
目を開いて固まる豹。だが、
「わはは!バカを言うな!オレが手当てしてやったんだからもう仲間だ!」
謎の理論によって笑い飛ばされてしまった。
「看病したのは俺なんだが……」
「あら、ゴキブリに看病してもらうなど落ちぶれたわね、私も」
「その淡々とした喋り方だけでもなんとかならねえか?」
「淡々?昔よりも私は饒舌になったはず」
「それでかよ!」
昔なんてもっとひどかった。喋る必要性がわからなかったのもあってか、単語を一つ一つ区切っていた。
だが、今では会話の重要性に気づいたのだ。ただ、抑揚をつけるというテクニックだけはどうも難しい。
「豹、手当てしたとは?」
「ん!オレが回復魔法をかけてやったんだ!」
「そういえば、お前はなぜ喋れるのです」
「お前じゃない!グルーダだ!」
ようやく自分の名前を名乗れたようで、ドヤ顔をしているグルーダ。
「で、グルとやら。お前の種族はなんですか?」
「グルーダ!そしてオレは精霊だ!」
精霊……その中でも少々特殊な例なのだろうか。
「あなたからは森の気配を感じませんが?」
「森?オレの出身は魔族領だぞ。魔族領に森なんてない!」
余計におかしいが、この際スルーだ。
「それで、ここはどこですか?」
「ああ、ここは俺の家だ」
「随分とぼろいのですねシャル」
「フルネームはシャルナークだ」
「そうですか、興味ないですね」
「お前……」
話を聞けば私は倒れて、そのままここまで連れ込まれたそうだ。
ここは、魔族の街から少し離れた丘に立っている家だそうだ。なぜ、街から離れたところに住んでいるのかは教えてくれなかった。
「とにかくだよ、お前みたいなか弱い人間がどうしてここにいるんだ?」
「戦ってたらいつの間にか?」
「なんで疑問形なんだよ」
と、お互いに質問しあう形に会話が変化してきた辺りで、どうやら飽きた様子のグルーダ。
「なあ、遊ぼう人間!」
「今は大人の会話をしている最中なので、お子様は黙っててください」
「オレも大人だ!オレは三歳だぞ!」
それは子供なのでは?
「人間で言うところの六歳だ!」
結局子供だった。
「つまんなーい!つまんない!」
シャルの腕の中でバタバタと反抗するグルーダ。
「しょうがない、では一つゲームをしましょう」
「ほんとか?やったー!」
寝ている最中、襲われた形跡がないので、少なくとも今は敵ではないのだろう。
そして、私は暇が嫌いだ。
私も探り合いのような会話は下手。だったら子供と遊んで話してもらったほうが手っ取り早い。
ベアトリスと合流するためにも。
ベアトリス……我が主。レオと共に私を倒した。
それでも、悪魔の少女には及ばなかった。だとしても、ベアトリスが私の主人であることには変わりない。
主が生きている限り、敗北ではないのだ。
「なにして遊ぶんだ!」
目をキラキラさせているグルーダ。
(ベアトリスにいち早く合流するべき……)
それは分かっているが、少しくらい遊んでからでもよいだろう?
「じゃあ、シャルをどちらが早くボコボコにできるかゲームをしましょう」
「なんだって!?そんな遊びを提案すんな!」
「わかった!悪いなシャル!ぼっこぼこにするから痛かったら気絶していいぞ!」
「ふざけんな!」
――私は体が完治していないので、結局グルーダがシャルと戯れあってその場は収まるのだった。
だが、私は目覚めた。
「知らない天井だ」
ここがどこかは分からないが、ボロボロの天井を見る限り裕福な家庭の部屋の中ではなさそう。
「うっ……」
まだ体が痛む。そうだ、ゴキブリに追いかけられていたのを忘れていた。
そのゴキブリはこの場にはいない。だが、濡れたタオルと、冷たい水が入った容器が私が寝ているベッドの横に置いてあった。
「あ」
頭を押さえて考えこもうかとした時、顔を覆い隠していたフードが取れていた。
(フードで合ってる?)
組織にいたころ貰った服だったが、いまだに何の服なのかはわからないので、フードということにしておく。
それが、取れていたのだ。
「顔を見られた。殺す?」
顔がバレてしまったのであれば、もしかしたらあの悪魔の少女に居場所がバレてしまうかもしれない。
今はまだバレるわけにはいかない。よって、あのゴキブリは始末するべきだろう。
そう思って、魔力感知を再び起動しようとするが、魔力はまだ回復しておらず、使えそうになかった。
そうしているうちに、
「起きたか―?」
と、少し甲高い声が聞こえた。
となると、ゴキブリ男ではない人物のようだ。
「誰もいない?」
だが、奥にあったドアが開いたと思ってその場所を注視しても一向に誰かがやってくる気配はなかった。
「どこ見てるんだ?」
また声がする。
「下だ、下!」
そう言われて、視線をベッドの下に向けた。
「豹?」
「豹じゃないぞ!オレは――」
おそらく自分の名前を宣言しようとしていたのだろうが、後ろからやってきたもう一人の……よく知る男に抱きかかえられ口をふさがれた。
「何やってんだ?って、起きたのか白女!」
「ゴキブリと豹?」
「だからゴキブリじゃねえ!」
ゴキブリは相変わらずの見た目だ。
そして、豹の方はというと、ゴキブリ男と比べるとかなり体が小さい。大体で言えば、ユーリよりも一回り大きい程度だ。
手足が短く少々ずんぐりむっくりしている。
目つきは鋭く、まるでベアトリスのようだ。
「おい、シャル!オレに喋らせろ!」
ぷはっ、とシャルと呼ばれた男の腕から顔をだす。
「はあ?お前一応子供だからな?来客の対応は俺がするのが普通だろ」
「何を言う!オレはお前の子供ではない!」
それは見れば分かるのだが、なんだか私が来客である前提で話が進んでいるようだ。
「豹、私は来客ではない」
「む?そうなのか?」
「私は敵だ」
目を開いて固まる豹。だが、
「わはは!バカを言うな!オレが手当てしてやったんだからもう仲間だ!」
謎の理論によって笑い飛ばされてしまった。
「看病したのは俺なんだが……」
「あら、ゴキブリに看病してもらうなど落ちぶれたわね、私も」
「その淡々とした喋り方だけでもなんとかならねえか?」
「淡々?昔よりも私は饒舌になったはず」
「それでかよ!」
昔なんてもっとひどかった。喋る必要性がわからなかったのもあってか、単語を一つ一つ区切っていた。
だが、今では会話の重要性に気づいたのだ。ただ、抑揚をつけるというテクニックだけはどうも難しい。
「豹、手当てしたとは?」
「ん!オレが回復魔法をかけてやったんだ!」
「そういえば、お前はなぜ喋れるのです」
「お前じゃない!グルーダだ!」
ようやく自分の名前を名乗れたようで、ドヤ顔をしているグルーダ。
「で、グルとやら。お前の種族はなんですか?」
「グルーダ!そしてオレは精霊だ!」
精霊……その中でも少々特殊な例なのだろうか。
「あなたからは森の気配を感じませんが?」
「森?オレの出身は魔族領だぞ。魔族領に森なんてない!」
余計におかしいが、この際スルーだ。
「それで、ここはどこですか?」
「ああ、ここは俺の家だ」
「随分とぼろいのですねシャル」
「フルネームはシャルナークだ」
「そうですか、興味ないですね」
「お前……」
話を聞けば私は倒れて、そのままここまで連れ込まれたそうだ。
ここは、魔族の街から少し離れた丘に立っている家だそうだ。なぜ、街から離れたところに住んでいるのかは教えてくれなかった。
「とにかくだよ、お前みたいなか弱い人間がどうしてここにいるんだ?」
「戦ってたらいつの間にか?」
「なんで疑問形なんだよ」
と、お互いに質問しあう形に会話が変化してきた辺りで、どうやら飽きた様子のグルーダ。
「なあ、遊ぼう人間!」
「今は大人の会話をしている最中なので、お子様は黙っててください」
「オレも大人だ!オレは三歳だぞ!」
それは子供なのでは?
「人間で言うところの六歳だ!」
結局子供だった。
「つまんなーい!つまんない!」
シャルの腕の中でバタバタと反抗するグルーダ。
「しょうがない、では一つゲームをしましょう」
「ほんとか?やったー!」
寝ている最中、襲われた形跡がないので、少なくとも今は敵ではないのだろう。
そして、私は暇が嫌いだ。
私も探り合いのような会話は下手。だったら子供と遊んで話してもらったほうが手っ取り早い。
ベアトリスと合流するためにも。
ベアトリス……我が主。レオと共に私を倒した。
それでも、悪魔の少女には及ばなかった。だとしても、ベアトリスが私の主人であることには変わりない。
主が生きている限り、敗北ではないのだ。
「なにして遊ぶんだ!」
目をキラキラさせているグルーダ。
(ベアトリスにいち早く合流するべき……)
それは分かっているが、少しくらい遊んでからでもよいだろう?
「じゃあ、シャルをどちらが早くボコボコにできるかゲームをしましょう」
「なんだって!?そんな遊びを提案すんな!」
「わかった!悪いなシャル!ぼっこぼこにするから痛かったら気絶していいぞ!」
「ふざけんな!」
――私は体が完治していないので、結局グルーダがシャルと戯れあってその場は収まるのだった。
0
お気に入りに追加
1,598
あなたにおすすめの小説
異世界に転生!堪能させて頂きます
葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。
大手企業の庶務課に勤める普通のOL。
今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。
ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ!
死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。
女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。
「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」
笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉
鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉
趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。
こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。
何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます
長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました
★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★
★現在三巻まで絶賛発売中!★
「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」
苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。
トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが――
俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ?
※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
世界樹を巡る旅
ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった
そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった
カクヨムでも投稿してます
スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい
兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる