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敗北の二文字

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「いくぞ!」

 掛け声に合わせて私も構える。他の受験生に対しては武器を使っていなかったが、わざわざ私を指名したのだ。

 木剣くらいは使ってあげないと失礼に当たるだろう。

 地面を蹴る音が響き、そしてアレンが駆け出す。

「うわ!」

 アレンは別に私のような特別な訓練を受けていたわけではない……なのにここまで早いのは反則である。

 どの程度の速度なのかといえば、ヤンキーよりも少し早い程度だ。子供なのだから十分すぎる。

 ああいや、もう大人なのか?

「まだまだぁ!」

 木剣を乱雑に振り回すのではなく、フェイントを混ぜながらの剣戟は初心者のものではなかった。アレンはやはり剣術の天才なのだろう。

 それ以外にもアレンには、確か特別な力があったはずだ。

 それは気配を読む力……魔力の流れを読むことができるのだ。普段の日常生活で魔力を使ってないと思われがちだが、魔力を持つ者は常に魔力を使用して生活しているのだ。

 どんな風にかと聞かれれば、椅子から立ち上がる際に無意識のうちに身体強化がされていたり、敵に襲われかけた時、無意識に魔法が発動するなどなど。

 つまり、私も意識していないだけで、魔力を使用しているということ。魔力に頼りきる貴族らしいが、このままでは勝てないだろう。

 無論、魔法の使用が許されるのならば勝てるが、残念ながら試験官は使用が禁じられている。

 対してアレンは、微弱ながら漏れ出す私の魔力を読み取って的確に攻撃を当ててくる。

 早いし、フェイントも使ってくるしで、いまいち反撃のタイミングが掴めない私をみて、

「おい……あのガキなら勝てるんじゃね?」

「いけるぞ!おせぇ!」

 などというアレンに対しての声援が聞こえてくる。

 まあ、アレンは私の友達なので許すとしよう。

「どうした!反撃してこい!」

 アレンの声は大きく、私の耳によく響いた。

 そう言われても、剣に関しては嗜みに少々程度の知識と腕前しかない私からしてみれば、剣術はアレンが格上なので反撃できるわけがない。

 だが、それでは納得しないのがアレン。男たるもの、完全勝利ってねやつね。

 全く、素晴らしい心掛けだが……

「もちろん反撃しますよ」

 次は私の番。

 最初の一撃は鋭く早く突く。

「くっ!」

 突きはフェイントにも応用可能な技なので、しっかりと見極めないと防げない技である。それを防ぐのだから流石だ。

 そして、次も私の番。

 今度はゆっくりしなるような攻撃だ。アレンの胴を狙ってわざわざ素早く振り下ろそうとしたのち、スピードを落とす。

「っ!」

 確かにアレンは剣術の才能があるかもしれないが、戦場に出た経験はないはず。

 そして、自分で言うのもなんだが……相手が格上だと思えば思うほど『手を抜く』と言うことを怠ってしまう。

 つまり、私のように緩急をつけて攻撃することを忘れてしまうのだ。そして、私はいくら好きを晒しても大丈夫。

 私の反射神経ならアレンのスピードくらいなら捌けるし、アレンはそもそも反撃の糸口を見出せていない。

 そして、何度かの攻防が過ぎ去った後、

「はっ!」

 ゆっくりとした動きの途中で、急激に加速することで、下段から上段にかけてアレンの剣を吹っ飛ばす。

 剣がなくなれば試合にはならない。よって、この時点でアレンの負けである。

「さあ、私の勝……」

 その一言を宣言しようとした瞬間だった。

 急に視界がぐらついた。別に体調が悪いとか、そう言うわけじゃない。

 ただ単純に、足に衝撃が走り、転びそうになっているのだ。

 アレンがしゃがみ足払いをしたことで、彼の狙い通りか、私は足元を掬われていた。その隙にアレンは私の手から剣を奪い、振り下ろす。

 簡単にやられるわけにはいかない。

 が、体勢を崩していて、なおかつ地面に足がついていないこの状況下で一体どうやって攻撃を避ければいいのだろうか?

 魔法は使えない。

 転移で逃げることはできない。普段の私であれば、こう言う場合は転移か結界の魔法を使用し、なんとかしているところだが、今回の制約上私はそれをすることが禁じられている……。

 負ける?

 敗北の二文字が私の頭をよぎった。

 三歳から頑張って鍛えているのに、ちょっと才能がある子に油断して負ける?

 アレンには失礼かもしれないが、言わせてもらおう。

 私の方が努力してきたのだ!

 そんな簡単に負けてはならない。

 教師としてのプライド云々の話ではない。ただただ、単純に負けたくないと言うだけ。

 何かいい案はないか……。

 そう考えていた時に、私は一か八かの賭けを思いつく。

 気づけば、アレンの振り下ろしてくる剣がすぐそこまで迫ってきている。

 私は、を前に出し、木剣を防ぐ。

 ルール上、一発攻撃をくらったところで教師が敗北になることはない。

 教師が負けることが前提とされていないからなわけだが、負けるとしたら、教師が自ら負けを宣言するか、観戦者が、教師の方が格下だと判断しない限り試合は続いていく。

 そして、

「はあああぁぁぁ!」

 気合いに満ちた声と共に、





 その時の私は気でも狂ったのか、アレンに向かって突っ込んでいった。そして私の腕は宙を舞った。

「え?」

 小さな疑問の声、それは当然のものであり、アレンが感じたことの内容も手に取るようにわかる。

 だが、今伝えるつもりはない。

 腕がちぎれた私は動揺することはなかったが、アレンは激しく動揺していた。

 自分は一体何をしてしまったのか、と、心の中で葛藤しているであろうアレン。

 しかし、

「油断禁物だよ」

 気づけば、吹き飛ばしたアレンの使っていた木剣が空から私の手元に落ちてき、私はそれをキャッチするとみぞを狙って一撃を喰らわす。

「ぐっ!?」

 その場に座り込むアレン。

「な、なんで……」

「腕がちぎれたくらいでそんなこと聞かないでよね!」

「お、俺の負けだ……」

 そうして試合は終了したのだった。
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