260 / 504
吸血
しおりを挟む
あの理事長ときたら、なんでたった一日前に告知してくるのだろうか。普通はせめて一週間……普通でも一か月前くらいだろ。
人影の正体を伝えるのにも一時間はかかったし、踏んだり蹴ったりもいいところである。
「明日は早く起きなきゃ……」
朝の七時から始まる入学試験をの準備のためには、各教科の先生方は四時に起きるらしい。
それを参考に私も起きるのだが、現在の時刻はすでに夕方を過ぎ、夜の八時……私の自由時間はどこへ行った?
良い子はたくさん寝ないといけないから、大変である。
え?
良い子じゃないだろって?
細かいことは気にすんな!
とにかく、身長が全く伸びないというのは考えものだ。ただでさえ、二年間の間眠っていたらしいから、その分伸びていないというのに……。
「早く帰って寝よ……」
ひとまずアネットには、別棟の空き部屋を与え、そこで寝てもらうことにした。
廊下を早足で歩く。すでに、明かりは消されているが、夜目が効く私にとってはさほどの弊害はない。
そして、すぐに教師用の部屋が並ぶ場所へとたどり着いた。
と言っても、もともと生徒が使用していた部屋なので隣にもその隣にも住んでいる人は誰もいないが。
「ただいまー」
扉を開けてみれば電気はまだついていた。が、案の定のことではあったがユーリはぐっすりと寝ていた。
「おかえり」
ベットに腰掛けているレオ君はその返事を返してくれる。
(あ、寝る前に……)
「ねえ、レオ君?」
今日の戦いで、そろそろ栄養が不足しているのは分かっているので、血を与えればいいというのも分かっている。
吸血鬼の街へ赴いた時に、帰り際、実はその場しのぎに血を貰っていたのだが……結局はその場しのぎ。
激しい戦闘が出来るようになるほどの栄養は補充できなかったのだろう。
「なに?」
とりあえず、レオ君が腰掛けるベットの横に座り、顔を見た。
少し、不思議そうな顔をしているのがよく見える。
「そろそろ血が足りないんじゃない?」
「っ!」
「あっ、待って!変な嘘はつかなくていいよ、知ってるからさ」
「そっか……まあ、僕もそれは感じてたよ」
変に気を利かせてくるレオ君にはこれくらいはっきり言ったほうがいいだろう。
「それで……なに……?」
初めて半吸血鬼であると知った時、私は何もしてあげられなかった。まあ、確かに私が何もしなくてもちゃんと助かったのかもしれないが……。
それとこれとは話が別である。
「私の血、飲んでちょうだい?」
「いや、でも……」
ためらっている理由が私にはよくわからない。飲めば体も元気になるというのに……なぜ?
分からないけど、ここで引くつもりはない。
「拒否ちゃダメよ?私はレオ君の役に立ちたいだけなんだから」
「十分だよ」
「私が不十分なの!せめてこれくらいさせて!男の子なんだから、女の子のことを少しくらい立ててよね?」
「……………」
やはり、相手の気持ちを考えるのは難しい。レオ君がここまで悩んでいるのは珍しい。
相手の気持ちがわからない……これも前世の名残なのだろうか?
というよりも、なぜ私は前世で悪逆非道を尽くしていたのだろうか?今となってはもう思い出せなくなっていた。
そして、レオ君は仕方ないな……と言った顔で、
「わ、わかったよ……後で嫌って言っても知らないからね?」
「言わないよ」
そうして、飲んでくれることには同意したレオ君であったが、再び困った顔をした。
「どうしたの?」
「どこから飲めば……」
吸血鬼は体の部位どこから飲もうと血を吸い上げることが出来る。それはレオ君にとっても同じ話である。
故に、定番通り肩から飲んでもいいし、どこだっていいのだ。
そう思って、肩を出そうとするが……。
「ダメー!」
「前も言ってたよね、それ……肩から飲むのは嫌い?」
「そうじゃないじゃん!肩からとか……恥ずかしいじゃん……」
なんとも可愛い理由だ。
私の心が大人だから忘れていたが、レオ君は子供。そういうのを気にするお年頃なのだった。
「じゃあ、どこならいいの?」
「そう聞かれても……」
「指とかは?」
「指……」
指なら気にならない……はずだ。というか、消去法で指くらいしかないだろう?
「わかった……」
了承を得た私は、魔法を使って指に少し傷を入れる。風の魔法でできた傷はさほど大きくないが、血が滴り落ちてくるくらいの深さはあった。
「ほら、いいよ?」
「……………うん」
レオ君の口が自身の指に近づく。
そう思ったら、なんだかドキドキしてきた……。
(前世も含めて私、指舐められることなんて一度もなかった……)
口が指に当たると、温かい吐息が指を湿らせる。それと同時にモフモフした顔が……。
「んっ……」
「痛い?」
「ううん、だいじょぶ」
「そっか」
口の中に入った指から滴る血は、舌を使ってきれいに吸われる。
(うわぁ……)
なんだかすごいエッチ……。
自分でやらせたわけだが、これはこれで……って違う!これはお食事!決して私がしてほしかったわけではない!
「はぁ……はぁ……」
やはりというべきか、理性で血の欲求を抑えていても、体はすでに限界だったようだ。一度血を舐めたらもう止まらないようで……。
「ふふ、急がなくてもいいのに」
たまに聞こえるぴちゃっという音……ユーリは爆睡しているため、聞こえていないだろう。
いや、ユーリ以外も同じか……。誰にこの音が聞かれようと、恥ずかしいことこの上ない。
レオ君の頭を撫でていると、ふとしたことに気づく。
(こんな風に触るの初めてかも)
初めて……は、流石に言いすぎだが、からかう時とか、どうしても体に触れないといけないという状況を除いて、触ることなど滅多にない。
「モフモフだぁ……」
そんなことを考えながら、撫でていると……
パタン、とレオ君が倒れる。
「レオ君!?」
少し驚いたが、私の膝の上に倒れたレオ君の顔はどうも眠っているようだった。
(そういえば、吸血という行為は三大欲求を引き出すのだったわね……)
少し焦ったが、心配する必要はなさそうだ。
「指……どうしよ」
唾液が少し指についているが、流石にこれは洗いに行った方がいいだろう。そのままっていうのも、なんだかなって感じだしね。
「おやすみなさい」
膝の上に寝るレオ君を名残惜しげに、枕の元へと持っていこうとする。ふと、そこで私は再び思い出した。
「三大欲求を引き出すんだったら……」
三大欲求とは、すなわち食欲と睡眠欲と性欲だ。
血を欲して飲む行為が、食欲……その過程で眠ってしまうのが、睡眠欲。
じゃあ、残ったもう一つの欲求は?
気になった私は、普段意識してみないような場所に目をやる。
「ッッッ!!!!」
ズボン越しからも、少しだけ膨らみが見えた。それは、どう考えても男の子の……。
「私は何も見てない……レオ君の尊厳のためにもね!」
急いで、全身に布団をかぶせ、私は一度部屋を出て、手を洗いに行くのだった。
人影の正体を伝えるのにも一時間はかかったし、踏んだり蹴ったりもいいところである。
「明日は早く起きなきゃ……」
朝の七時から始まる入学試験をの準備のためには、各教科の先生方は四時に起きるらしい。
それを参考に私も起きるのだが、現在の時刻はすでに夕方を過ぎ、夜の八時……私の自由時間はどこへ行った?
良い子はたくさん寝ないといけないから、大変である。
え?
良い子じゃないだろって?
細かいことは気にすんな!
とにかく、身長が全く伸びないというのは考えものだ。ただでさえ、二年間の間眠っていたらしいから、その分伸びていないというのに……。
「早く帰って寝よ……」
ひとまずアネットには、別棟の空き部屋を与え、そこで寝てもらうことにした。
廊下を早足で歩く。すでに、明かりは消されているが、夜目が効く私にとってはさほどの弊害はない。
そして、すぐに教師用の部屋が並ぶ場所へとたどり着いた。
と言っても、もともと生徒が使用していた部屋なので隣にもその隣にも住んでいる人は誰もいないが。
「ただいまー」
扉を開けてみれば電気はまだついていた。が、案の定のことではあったがユーリはぐっすりと寝ていた。
「おかえり」
ベットに腰掛けているレオ君はその返事を返してくれる。
(あ、寝る前に……)
「ねえ、レオ君?」
今日の戦いで、そろそろ栄養が不足しているのは分かっているので、血を与えればいいというのも分かっている。
吸血鬼の街へ赴いた時に、帰り際、実はその場しのぎに血を貰っていたのだが……結局はその場しのぎ。
激しい戦闘が出来るようになるほどの栄養は補充できなかったのだろう。
「なに?」
とりあえず、レオ君が腰掛けるベットの横に座り、顔を見た。
少し、不思議そうな顔をしているのがよく見える。
「そろそろ血が足りないんじゃない?」
「っ!」
「あっ、待って!変な嘘はつかなくていいよ、知ってるからさ」
「そっか……まあ、僕もそれは感じてたよ」
変に気を利かせてくるレオ君にはこれくらいはっきり言ったほうがいいだろう。
「それで……なに……?」
初めて半吸血鬼であると知った時、私は何もしてあげられなかった。まあ、確かに私が何もしなくてもちゃんと助かったのかもしれないが……。
それとこれとは話が別である。
「私の血、飲んでちょうだい?」
「いや、でも……」
ためらっている理由が私にはよくわからない。飲めば体も元気になるというのに……なぜ?
分からないけど、ここで引くつもりはない。
「拒否ちゃダメよ?私はレオ君の役に立ちたいだけなんだから」
「十分だよ」
「私が不十分なの!せめてこれくらいさせて!男の子なんだから、女の子のことを少しくらい立ててよね?」
「……………」
やはり、相手の気持ちを考えるのは難しい。レオ君がここまで悩んでいるのは珍しい。
相手の気持ちがわからない……これも前世の名残なのだろうか?
というよりも、なぜ私は前世で悪逆非道を尽くしていたのだろうか?今となってはもう思い出せなくなっていた。
そして、レオ君は仕方ないな……と言った顔で、
「わ、わかったよ……後で嫌って言っても知らないからね?」
「言わないよ」
そうして、飲んでくれることには同意したレオ君であったが、再び困った顔をした。
「どうしたの?」
「どこから飲めば……」
吸血鬼は体の部位どこから飲もうと血を吸い上げることが出来る。それはレオ君にとっても同じ話である。
故に、定番通り肩から飲んでもいいし、どこだっていいのだ。
そう思って、肩を出そうとするが……。
「ダメー!」
「前も言ってたよね、それ……肩から飲むのは嫌い?」
「そうじゃないじゃん!肩からとか……恥ずかしいじゃん……」
なんとも可愛い理由だ。
私の心が大人だから忘れていたが、レオ君は子供。そういうのを気にするお年頃なのだった。
「じゃあ、どこならいいの?」
「そう聞かれても……」
「指とかは?」
「指……」
指なら気にならない……はずだ。というか、消去法で指くらいしかないだろう?
「わかった……」
了承を得た私は、魔法を使って指に少し傷を入れる。風の魔法でできた傷はさほど大きくないが、血が滴り落ちてくるくらいの深さはあった。
「ほら、いいよ?」
「……………うん」
レオ君の口が自身の指に近づく。
そう思ったら、なんだかドキドキしてきた……。
(前世も含めて私、指舐められることなんて一度もなかった……)
口が指に当たると、温かい吐息が指を湿らせる。それと同時にモフモフした顔が……。
「んっ……」
「痛い?」
「ううん、だいじょぶ」
「そっか」
口の中に入った指から滴る血は、舌を使ってきれいに吸われる。
(うわぁ……)
なんだかすごいエッチ……。
自分でやらせたわけだが、これはこれで……って違う!これはお食事!決して私がしてほしかったわけではない!
「はぁ……はぁ……」
やはりというべきか、理性で血の欲求を抑えていても、体はすでに限界だったようだ。一度血を舐めたらもう止まらないようで……。
「ふふ、急がなくてもいいのに」
たまに聞こえるぴちゃっという音……ユーリは爆睡しているため、聞こえていないだろう。
いや、ユーリ以外も同じか……。誰にこの音が聞かれようと、恥ずかしいことこの上ない。
レオ君の頭を撫でていると、ふとしたことに気づく。
(こんな風に触るの初めてかも)
初めて……は、流石に言いすぎだが、からかう時とか、どうしても体に触れないといけないという状況を除いて、触ることなど滅多にない。
「モフモフだぁ……」
そんなことを考えながら、撫でていると……
パタン、とレオ君が倒れる。
「レオ君!?」
少し驚いたが、私の膝の上に倒れたレオ君の顔はどうも眠っているようだった。
(そういえば、吸血という行為は三大欲求を引き出すのだったわね……)
少し焦ったが、心配する必要はなさそうだ。
「指……どうしよ」
唾液が少し指についているが、流石にこれは洗いに行った方がいいだろう。そのままっていうのも、なんだかなって感じだしね。
「おやすみなさい」
膝の上に寝るレオ君を名残惜しげに、枕の元へと持っていこうとする。ふと、そこで私は再び思い出した。
「三大欲求を引き出すんだったら……」
三大欲求とは、すなわち食欲と睡眠欲と性欲だ。
血を欲して飲む行為が、食欲……その過程で眠ってしまうのが、睡眠欲。
じゃあ、残ったもう一つの欲求は?
気になった私は、普段意識してみないような場所に目をやる。
「ッッッ!!!!」
ズボン越しからも、少しだけ膨らみが見えた。それは、どう考えても男の子の……。
「私は何も見てない……レオ君の尊厳のためにもね!」
急いで、全身に布団をかぶせ、私は一度部屋を出て、手を洗いに行くのだった。
0
お気に入りに追加
1,599
あなたにおすすめの小説
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
星の記憶
鳳聖院 雀羅
ファンタジー
宇宙の精神とは、そして星の意思とは…
日本神話 、北欧神話、ギリシャ神話、 エジプト神話、 旧新聖書創世記 など世界中の神話や伝承等を、融合させ、独特な世界観で、謎が謎を呼ぶSFファンタジーです
人類が抱える大きな課題と試練
【神】=【『人』】=【魔】 の複雑に絡み合う壮大なるギャラクシーファンタジーです
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。
チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。
なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!
こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。
※注:すべてわかった上で自重してません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる