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実践授業②(ナナ視点)

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「よし!結構狩ったんじゃない?」

 目の前には色々な魔物たちが転がっている。角の生えたうさぎや狼、熊といった動物型の魔物と、スライムやゴブリンなどと言った異世界ものの小説によく見る魔物だった。

「やっぱヤンキー、ムカつくけど攻撃は的確よね」

「トラオ君は転移前からヤンキーだったから、そういうのは感覚でできるんじゃない?」

 とリョウヘイくん。

 狩った魔物たちは討伐証明部位と呼ばれる部分を持っていけば、ベアトリス先生がポイントとして還元してくれる。

 スライムやゴブリンなどの弱い魔物は一点、狼や熊型の魔物は二点、それ以上の大物は三点である。

 そして、例外として謎の人影は無条件勝利。

「でも、うかうかしてられないよね。他の班がもっと狩っているかもしれないし……」

 珍しくクラさんが喋った。

 確かに油断はしていられないな。

「よっし!時間はまだあるから、もう少し倒しに行こう!」

「だったら、俺の作業手伝えや!」

 ヤンキーには討伐証明部位の切り取りを命じて……お願いしている。ま、まあやっぱりグロッキーなシーンは女の子は耐性ないですしー?

 そんなこんなで、討伐証明部位の回収も終わって、持ってきた袋にしまったところで、クラさんの声が聞こえた。

「あれ?」

「どうしたの?」

 久良さんは私たちではなくどこか遠いところを見つめていた。その目からは、小さな魔法陣が浮かんでいる。

「何かある?」

 クラさんはスキルとして『千里眼』というものを持っていた。

 遠くのものでもはっきりとその存在を認識できるといった、リョウヘイくんのスキルと組み合わせれば隙がなくなる素晴らしい能力である。

 そして、私はクラさんが先ほどと同じように新たな魔物を見つけたのかと思っていた。

 だが、それはどうやら違ったようだ。

「人影、人影です!」

「なに?」

「少なくとも大学院の生徒用の服を一切身に纏っていたない人がいます!」

 そのクラさんの声は、驚きに染まっていた。

「こっちに、く、来る!」

 今の話し声で気づかれたのだろうか?

 相手がこちらに近づいてきてる途中で私もその存在を認識する。

(気配……敵意ね。完全に敵だわ)

 気配の位置はここから数百メートル離れていた。そんなに遠くにいたのにクラさんはよく気付いたな……そう褒めたいのは山々だが、そんなことをしている暇はなさそうだ。

「来た!」

 気配が飛び跳ね、木の幹に乗り加速する。そして、視界にも入るようになった位置で、二本の短剣を取り出した。

 そして再び見えなくなる。

 いや、早すぎて見えなんだ。

 職業スキルがなかったら私は危なかっただろう。敵の気配を感知するスキルには目の前まで迫っている敵を捕らえていた。

 レイピアを前に突き出し、ガードする。すると、何かがレイピアにぶつかって金属音を響かせる。

「ぐっ!?」

 そして隣からも金属音。隣にいるのはリョウヘイくんである。本来全線で戦うタイプではないが、転移者として最低限の運動神経は持ち合わせている彼も心を読む力によって攻撃を防いだのだろう。

 気配が後ろに後退する。

「私の攻撃を受けて立っているとは……やはり私は人間を侮っていた」

 女の声がし、気配のある方に目をやると、赤い髪をたなびかせている紫の瞳をしたボロボロのローブを被った女性がそこにいた。

 特徴と言えば、頬に残る傷跡。それが彼女の戦士のような風貌を際立たせている。

「誰だ!」

「気づかれたからには、口を封じるまで」

 再び消えた。

 気配は討伐証明部位を集めた袋を持っているヤンキーの元に飛んでいく。

「トラオ!」

「わーってるよ!」

 袋を投げ捨て、ベアトリス先生と戦った時に見せた光る精霊の鎧を展開する。

「精霊の加護か……厄介な」

「っらぁ!」

 二本の短剣を弾き飛ばして、態勢を立て直すヤンキー。だが、そんなことを許してくれる敵ではどうやらなかったようだ。

「雑魚が」

 背後にいつの間にか回っていた女性は武装の脆い部分を二度刺し、武装にひびを入れた。

「離れろ!」

 手を強引に振ることで、何とか退ける。

「ねえ、精霊の武装ってひびが入るほど脆かったっけ?」

「そんなはずはねぇ、この鎧の防御力は半端じゃねえはずだ!」

 そんな会話をしていると、

「ははは!防御力?そんなのあってないようなものじゃないか。お前なんぞ、あのお方の前では児戯に等しいのよ!」

 あのお方……そのフレーズを発した瞬間、一瞬だけその女性の心から敵意の気配がなくなり、その代わり、虚無の気配が広がっていた。

「くそ、バカにしやがって!俺を舐めるな!」

「あっバカ!突っ込むな!」

 突貫していくヤンキー。だが、直情的に一直線へ突撃していけば、ベアトリス先生の時と同様にやられてしまう。

 事実、女性はやれやれというように短剣を振るい、精霊の鎧を破壊したのである。

「精霊の加護があるから厄介……そう思ってたが、どうやらそれは私の勘違いであったようだ」

「っ!てめー!」

 再び殴りにかかるヤンキー。しかし、遊ばれているようだった。

 余裕の表情で、攻撃をずっと受け流している女性は、今は油断しているはず!

 そう思って、リョウヘイくんに視線を向ける。

 授業で『手話』を習ってよかったと初めて思った。

(あの人は何て考えてるの?)

 心の内さえわかれば、攻撃は読めるし弱みも握れるかもしれない。

 その淡い期待に私は大いなる期待を寄せていた。だが、返ってきた手話の返事は残酷であったのだ。

(あいつ……あいつの頭の中が読めない!)
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