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メイドですので(ミサリー視点)

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 ――二年前

「邪魔っ!」

 眼前に迫ってくる翼の生えた異形を蹴り飛ばすメイド。それは、異様な姿かもしれないが、公爵家に勤めるミサリーという名を聞けば、なにも不自然はない。

「お嬢様……どこに行ってしまわれたのでしょう?」

 現れてくるのは、低級の悪魔たち。

 ただ、その悪魔たちでもBランクという強者の位置づけにいる。が、今のミサりーの敵ではない。

「ふふん、お嬢様に教えてもらった訓練方法を試したら少し強くなりました!」

 その訓練方法というのは、魔力拡張訓練に激しい身体的運動を加えるというもの。

 まあ、どういうことかといえば、ベアトリスが三歳ほどから行っていた訓練である。

 魔力を常に放出し続けながら、筋トレをする。

「これ、思った以上につらいんですよねー」

 魔力を放出していると、体が悲鳴を上げて起き上がれなくなるほどつらい。そこに筋トレをプラスアルファ!

 もう魔力はあまり増えないが、体はいくらでも成長していく。その負荷に耐えることができる体へと変貌を遂げていってるのだ!

「って、そんなことはいいのです!」

 あーもう!鬱陶しい!

 このハエたちは一体何なのですか!?

「次から次へと……」

 現在住民は公爵領の街から避難を完了していて、おそらく今この街に残っているのは私だけである。

「三日間も探しているのに、見つからないってどういうことですか!」

 三日前、私は見た。

 公爵家の立派な屋敷が燃え尽きる程激しく戦闘を繰り広げていたのを。

「私じゃ勝てそうになかった……」

 戦闘もできるメイド……護衛メイド的な立ち位置で雇われていたのに、結果を見れば何もできずに傍観していただけ。

 そんな自分が許せない。

「まあいいです。お嬢様のことです、この街を見捨てたわけではない……」

 それさえわかっていればいいのだ。

 なぜなら、私はお嬢様に仕えるものだから。お嬢様の考えなんて手に取るようにわかる……はず!

 お嬢様がこの街を見捨てるわけがない。そして、あの慈愛に満ち溢れているお嬢様が民のみんなを見捨てるわけがない。

 よって、私がするべきことは……

「逃げ遅れた人の救助と、公爵領の防衛ですね」

 ぶっちゃけ公爵領はもうすでに崩壊したも同然。だが、この場所をハエたちが闊歩するのは見過ごせないのでね。

(あのハエたち……いろんな人を連れ去ってたみたいだけど、一体何が目的なのかしら?)

 ハエたちはいろんな人をどこかの場所に輸送していた。

 その場所も見つけ出さないと……。

 そんな計画を立てている最中であった。

「ん?転移の気配……?」

 一瞬私はお嬢様が転移で帰ってきてくださったのかと思った。

 だが、転移のゲートから感じる気配は邪悪なもので、私は即座に敵だと判断する。

「あーもう!ベアトリスどこ行ったのよ!」

 そんなことを叫ぶのはベアトリスに負けず劣らずの小さな少女。

 髪はぼさぼさで、顔は見た目の年齢と身長よりも老けて見えた。そんな少女はこちらを見ると、

「あっ、ベアトリスのメイドね。あなたの主人のせいで、私が起こられたんだけど?どう責任取ってくれるのよ!」

「……あなたは?」

「自己紹介とかいらないから、さあ早く。ベアトリスの居場所を教えなさい」

「私は知りません」

 どうやらこの少女もベアトリスを探しているようだ。だが、どう見たって悪意しか感じない。

(そうか、こいつがお嬢様が戦ってた相手……)

 話してる雰囲気では全然わからないけど、私なんかよりもよっぽど強そうだ。

「はあ?知らないって……あーもう面倒くさい!ベアトリスはどこにいるのよ!」

 地団太を踏む振動で大地が揺れる。

「あなたはお嬢様の敵ですか?」

「なによ、急に。敵だったらどうするの?殺す?」

 思わずと聞いてみたが、なんか違和感しかない、この少女。

「あなたって魔族?」

「うーん、魔族ではないわね」

「じゃあ何?」

「一つ言えるとしたら、あなたの主人と一緒ってところね」

「え?」

 色々と分からなくなってきた……元々そこまで頭がいい方ではなかったが、こんな時頭の回る人がいればな……。

「じゃあこちらからも質問」

「なんでしょう」

 あくまで警戒する姿勢は崩さない。

 すぐに構えて攻撃できる態勢はキープする。

「あなたたち公爵家、どうしてあんな隠し玉を持ってたの?」

「隠し玉?」

 お嬢様のこと?

「魔王よ魔王」

「魔王!?」

「そう、キツネの姿してるからって、私の目は誤魔化せない。なんてったって、キツネにしたの私だから」

 少しいやらしい笑みを浮かべながら笑う少女。

「待って?キツネ……ユーリちゃんが魔王?」

「ええ、そういうことね。だけど、おかしいのはあのキツネだけじゃないわね。もう一人、獣人の子供……あれにも何かありそうね」

「何かって?」

「獣人の子供、名前は知らないけどその子、古代語使えるっぽいのよねぇ」

 ……これは、話に乗せられているというのか?もしかして、私は今すごいデマ情報を流されているのか?

「古代の次元を超えた転移魔術の詠唱……全く、意味が分からないわ」

 そう言いながら、やれやれと頭を振る少女。

「じゃ、そろそろ私はお暇するわね」

「帰るんですか?ならここに何しに来たんですか」

「え?ベアトリスの居場所を吐きそうな人間がまだ残ってるから見に来ただけよ」

 じゃあ、戦うつもりじゃないというわけか……。

「ああ、そうそう。ベアトリスは今別の次元域に飛んでるから、公爵領にはしばらく戻ってこないと思うわ」

「助言ありがとうございます。ですが、私はここで待ちます」

「あら?どうして?」

「私は、お嬢様のことを信じていますから」

 何だろう、敵と会話しているはずなのに、不思議な気分だ。

 目の前にいる少女からは、敵意などのものを一切感じない……とか、そういう単純なことじゃない。

(感覚?相手の強さが桁違いだからとかそういう理由じゃないわね……なんかもっと別の理由で?)

 よくわからないが、相手も攻撃するつもりがないなら好都合だ。

「最後に一つだけ、聞いておくわメイド」

「っ……」

「あなたにとって主人は何?」

「へ?」

 そんなことを聞かれたのは人生で初めてかもしれない。少女の顔をよく観察してみれば、バカにする意図などは一切含まれていないように感じた。

「私にとってベアトリスお嬢様は、私の生き甲斐です」

 お嬢様に仕えることこそ、私の生まれてきた理由、存在意義なのだ。

 そう堂々と宣言すると、少女は少し笑う。

「良いわね、気に入った。あなた、面白い人間ね」

「喜んでいいのかは、考えかねますね」

「そんなあなたに一つ。とても大事なことを教えてあげましょう」

 そういうと、少女の姿が消える。

 気づけば、気配は後ろに回っていた。耳元に甘い吐息が掛かるのを感じる。

「私はベアトリスの

「それは、どういう……」

「じゃあね」

 そう言い残すと、転移の魔法の発動を感じた。そして、次の瞬間には気配もすべてその場から消え去っていたのだった。
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