上 下
228 / 504

再現記憶

しおりを挟む
 ドォン、という轟音が響き、私が立っていた地面は大きく揺れた。

「なに!?」

「えーなんてー?」

 轟音で声がかき消されて、うまく声が聞こえないっぽい。
 ったく、憤怒さん心読めるんだからそんなわけないはずなのにねー。

「ちっ、つまんないの」

 やっぱそうだった。

「もう目を開けていいぞ」

 そう言われて、私も目を開ける。
 すると、さっきまでの眩しい光はなく、代わりに変な灰色の壁が視界に入る。

「戻ってきたの?ほんとに?」

 私が声を上げて喜ぼうとしたときだった。

「いや、違うね。ここはではない」

「ど、どういうこと?」

「簡単だよ。この世界は私の記憶と誰かの記憶をもとに作られている世界。封印は色欲だけど、大部分を支配しているのは私なの。だから、それを再現しただけ」

「え?じゃあ、状況は何も変わってないんじゃ……」

 結局は再現しただけで、状況はなにも変化していない。
 ただ、封印の中で記憶を投影しただけに過ぎないはずだ。

 だが、いつの間にか現れた憤怒さんはとびっきりの悪そうな笑顔で言った。

「いや、変わってはないが、変えることはできる」

「つまり……?」

「ここは記憶を再現している空間だ。そして、ここには時間という概念があまり関係しない。つまり、未来人の記憶を再現して、それを改変すればいいんだよ」

「はい?」

 ちょっと何言ってるかわからない。
 憤怒さん、封印のされすぎで頭おかしくなったのだろうか?

「ちげーよ!だから、ここは記憶を再現する場所だから、一人の記憶を改ざんすれば、歴史も変えられるの!」

「えぇと?まだ理解できないんですけど……」

「一人の記憶を改ざんすれば、世界の防衛本能的なものが発動するってこと。この世界は記憶を食い違いからなる次元の歪みを修正するために、歴史を勝手に変えてくれるってわけ」

 言いたいことは分かるようなわからないような……。

 つまり、この世界の未来人の記憶を再現して、私たちの封印が解除されるように仕向けて?

 そうすれば、世界が勝手に次元の歪みを修正しようと、歴史の改ざんをしてくれるということ?

「そういうことだ」

「無理じゃない?」

「無理じゃない、理論上は可能だ」

 そんなこと言って、成功している人見たためしがないのだけれど……。

「まあ、まずはは試してみようじゃん?」

 まあいいんですけど……。
 ようやく話が一歩前進した気がする。

 でも、やっぱり憤怒さんをサクッと殺すのが一番てっとっり早いのだけれど。

 実力差は理解しているので、やるつもりはない。
 どうせ返りうちだろうしね。

「で、ハズレなわけだけど……」

「ハズレってどういうことですか?それに、今の城じゃないって?」

「考えてもみろ。未来人の記憶が簡単に見つかるわけないだろ?だから、この記憶は誰かの過去の記憶なんだ。だからこの城の中もこんなにきれいだ」

 確かに周りを見てみれば、確かに若干だがきれいだ。

 若干だけどね!!!

「それで?ハズレを引いたなら、次の記憶を再現した方がいいんじゃないの?」

「そうなんだけど……まずはこの記憶の中の人物に干渉できるか試してみたいんだ」

 記憶の中のものに触れることはできても、誰かに触れることが出来たりするか、話すことが出来るかはまた別な話になるようだ。

「ねえ、ここで封印を作った張本人を殺せたら、万事解決なんじゃない?」

 こっちのほうが効率いいと思うのだけど?

 だけど、憤怒さんは真顔で首を横に振った。

「ダメだ。そうなると、あんたがここに来る理由がなくなるだろう?」

「え?」

「あんた、色欲が探していたから、見つかって連れてこられたにすぎない。だから、その色欲を殺してしまうと、あんたが私と一緒に封印に入り込むという歴史がなくなっちまうだろ?そうなると、色欲を私たちが殺した歴史が上書きされるけど、あんたは私と会わなかったことになる……歴史がごっちゃになっちまうんだよ」

 色欲を過去で殺せば、憤怒さんの封印は解けて、私は外に出れるけど、連れてこられる理由はないので、出会わなかったことになって……結果どうなる?

「というか、なんで憤怒さんが私が連れてこられた事情知ってるのよ!」

 考えるのを諦めてそう文句を言うと、

「外に出れなくても聞き耳はたてておくものだろ?」

 とか抜かしてきた。
 やっぱりチートだよ、罪人さんたちは……。

「いったんここを出るぞ。今がいつの時代なのか調べないと」

「はーい……」


 ♦♢♦♢♦


 外に出るには転移を必要とした。
 どうやらこの城は現実の空間とは隔離されている場所にあるらしい。

 つまり吸血鬼の国に罪人は一人もいない!

 強欲は例外だけれどね。
 エルフの森と同じ感じである。

 森がどこにあるのか、私にはわからない。
 けど、出口を吸血鬼の国の前にしてくれたのは、精霊さんの心遣いなのだろう。

 王国の公爵領にも近いし、ミサリーを探しやすいようにと手配してくれたのだろう。

 そして、外に出てみれば、そこはシーンと静まり返った空間がー……なんてことはなく、ドッカンドッカンあたりで大爆発が起こっていた。

「ちょっと、何が起きてるの?」

 私はそこまで歳をとっていないため、これがいつの出来事なのかわからない。

 だけど、憤怒さんはなんとなく察せたようだ。

「こりゃあ、まずいな。戦争だ」

「あ、ちょっとどこ行くの!?」

 気づけば憤怒さんは走り出していた。
 私もそれの後に続く。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

かわいいは正義(チート)でした!

孤子
ファンタジー
 ある日、親友と浜辺で遊んでからの帰り道。ついていない一日が終わりを告げようとしていたその時に、親友が海へ転落。  手を掴んで助けようとした私も一緒に溺れ、意識を失った私たち。気が付くと、そこは全く見知らぬ浜辺だった。あたりを見渡せど親友は見つからず、不意に自分の姿を見ると、それはまごうことなきスライムだった!  親友とともにスライムとなった私が異世界で生きる物語。ここに開幕!(なんつって)

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~

K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。 次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。 生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。 …決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~

星天
ファンタジー
 幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!  創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。  『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく  はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

処理中です...