上 下
227 / 504

物は試し

しおりを挟む
「ふざけんじゃねーぞてめー?三歳なんてちびっ子のくせになに訓練してんだよ!死んだらどうするんだよ!何したら、そんな風になるんだよ!」

「スミマセン」

「すみません?謝るんだったらその訓練内容を教えろよ!」

 私は、今までやってきていた訓練の数々を伝えた。

「は?きも。魔力放出しながら、筋トレ?それが三歳?死にたいの?極度の疲労に、肉体負荷かけてさぁ……で?それを毎日?四歳になっても五歳になってもずっと?」

「あーいやぁ、実はまだ続きがあるのですよ……」

 その続きも伝える。

「へぇ、やっぱりバカなんだ。誘拐された?そこまではいい。そこで懲りろよ。なんでその訓練を他人に享受するんだよ!」

 アレンのことである。
 まあ、なんか強くなりたいとか言っていたし、こうしたらいいんじゃね?って間接的に教えてあげた時の話である。

 ドン引きしたような表情で、アレンがこちらを見ていたのを思い出すと申し訳なくなってくる……。

 最近は会っていないからなぁ……。

 あ、そういえばアレンはレイのところに行っているのだっけ?
 じゃあ安心か。

「おい、なに男のこと考えてんだよ。今どういう状況かわかってる?」

「スミマセンでした」

 見慣れない風景の広い道のど真ん中でお説教を喰らっていたが、それも終わりを迎える。

「とにかく、あんたは少し異常性に気づきなさい。そして、私を殺そうとするのをやめなさい」

「ハイ……」

 なぜか言いくるめられた気がするけど、それは間違っていないと思う。
 だけど、気づいた時には手遅れ、すでに違う方法を憤怒さんは模索していた。

「確かにこの場所は私の権能であっても、破ることはできないのよねー」

「あんなに威力が高いのに、ですか?」

 正座の態勢はつらいので、私も立ち上がってそう質問した。

「最初に言ったけど、壊れた瞬間、時間が巻き戻って修復されちゃうのよ。壊すことは可能だけど、抜け出せるかどうかは別問題ってこと」

 空間をあの炎の球で破壊するのは簡単にできるようだ。

「だったら、どうするんですか?」

「それが思いつかないから、ここまで幽閉されてるのよ」

 抜け出すのはこの憤怒さんでも不可能らしい。

(え?私、逃げ出せなくない?)

 もしかして、ここで死ぬとかある?
 私はただの人間だから早く抜け出さないと死んじゃうけど?

「色欲を殺すのはそんなに難しいことではない……ここにいなければの話だけどね……」

「え、難しくない……なのに、負けたの?」

「それは私の権能に関係してくるのよ」

 そう言って、憤怒さんは権能を教えてくれた。
 別に言ったところで、あんたは私の敵じゃないから……というのが理由らしい。

「私の権能は『怒』という。怒りとか大層なお名前だけど、感情によって威力が変わったりするだけ。それと、これにはもう一つ効果があって、使えば使うほど、技の威力が格段に増すのよ」

「感情によって威力が変わって、使えば使うほど強くなる……憤怒さん、正座しますか?」

「さっきのを根に持つのはやめて」

 ちっ。

 なんだよなんだよ!
 憤怒さんのほうがよっぽどチートじゃんか!

「そんなに強い権能なのに、なんで負けちゃったんですか?」

「私は負けてない!ただ……そう、研鑽が足りなかったの。ほら、私の力は使えば使うほど、強くなる。色欲に勝負を仕掛けたころは、まだ数回しか使ったことがなかったの!だから威力が弱かったの!」

 今では、私の防御結界を破壊するほどに強力な一撃も、昔とではダイブ威力が違うらしい。

「ここを抜け出そうと何度も何度も、魔法を放った。魔力をなんども消耗しきって、倒れて起きたらまた攻撃……それを繰り返してきて、もう疲れたのよ私は。だから、ここでぐーたら生活してるってわけ」

 そんな過去があったとは……。

「もういっそのこと、自分の意志で死んでみようとか思わなかったんですか?」

 それはただの好奇心だった。
 少々、この状況ではデリカシーの欠けている発言だったのはそうだが、その疑問は意外にも憤怒さんの目を大きくさせた。

「それだ!」

「はい?」

「死んでみよう!そうだそうだ……最初からそうすればよかったんだ!」

「おいおい、ちょっと待ってくださいよ!話が見えないんですけど!?」

 いきなり目を輝かせて喜んでいる憤怒さんに、私はついていけない。

「つまり!私が死ねばいいのだ!」

「それ、さっき私が試そうとしましたよね?」

「あんたに殺されるのとは話が別なのよ!自分意志で死んだと誤・認・さ・せ・る・ことさえできればいいの!」

 誤認?

「そもそも、そんな強力な結界にあなたはどうやって入ってきた?」

「え、っと……傲慢って名乗っている人に落とされたから?」

「違う!そもそも私たちの封印まで、近づける人なんてそんなにいないのよ。他の罪人たちもそれは同じ。色欲が持つ莫大な魔力……それと並ぶほどの術者じゃないと、近づけないの」

「つまり、ほかの罪人さんたちは色欲の人より魔力量が少ないってこと?」

「その通り。そして、あなたは色欲と同等の魔力を持っているということになる」

「それはいいんですけど、それとこれと何の関係が?」

 魔力が同じくらい多いのは分かったけど、全体の話についていけない。

「ものは試しだ!行くぞ!」

「え?どこにですか?」

 そう言った瞬間、私の魔力がごっそりと抜かれた。

「開け!」

 憤怒さんがそう唱えた時には、視界は真っ白に染まっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

処理中です...