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最強の吸血鬼
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聖戦が集結してから、長い時間が経過した。
その生き残りは、悠々自適に生活……というわけにもいかない。
新たに生まれた九人目の『強欲』という女。
聖戦で、六人の罪人が死んで、その直後に強欲という新たな罪人が誕生した。
それをきっかけに、代わりの罪人がすぐに現れ、吸血鬼どもを導いていく……と思っていた生き残りの罪人たち。
現実はそんなに甘くなく、実際は強欲という女がたまたま出現しただけにすぎず、残り五人分の席が埋まることはなかった。
そして時間はすぎて、聖戦から二百年……もう少し経過したころのこと。
吸血鬼の国では反乱がおきていた。
聖戦で敗北し、不満が徐々に募り始めていた民衆の怒りが爆発したのだ。
強欲の時と同じだ。
だから我々は新たな罪人の誕生を願った。
民衆の反乱を放置し、やがて我々の予想は的中した。
「新たな、罪人の誕生だ!」
同じく苦しみの過去を背負うものこそ、罪人の席にふさわしい。
我々はその少女の過去を嘆いた。
それによって、少しはましな支配体制が確立し、第三次聖戦に備えて力を蓄えることが出来るようになる。
そう思っていた。
だが、その少女は過激すぎた。
嘆いた我々を嘲笑ったのだ。
平民の吸血鬼の分際で、我々を嘲笑ったのだ。
それは我々をひどく怒らせた。
しかし、
誰も少女に勝てなかったのだ。
おかしな話だ。
同じ立場、同じ地位に立ちながらも、実力で負けているのだ。
バカにした少女を殺そうとした二人がその少女の手によって封印された。
それこそが、傲慢と、憤怒である。
少女は言った。
「私こそが頂点、雑魚は私に従えばいいの。そして、私の目的を達成するのよ」
と。
少女、もとい色欲の罪人は、彼女を頂点とする政治に身を乗り出した。
貴族どもを制圧し、同時に民衆を従え、絶対的な女王へと君臨した。
そして、彼女は調子に乗ったのか、吸血鬼の男児を集め始めたのだ。
その目的は喰らうというもの。
それは決して、色欲という名の通り、性的な意味でのものではなかった。
「お前はハズレ」
そう言って、男児を食いちぎる。
吸血鬼は同じ年齢でも見た目によるブレ幅がすごい。
なので、時には自分よりも体格が大きな青年を……時には、小さな子供まで、喰らっていた。
それを近くで見てきた他の罪人たちは、彼女の目的が理解できなかった。
わざわざ喰らう……それだけならいい。
そうすることによって、彼女の力が増大したりするという理由でもあるのだろう。
だが、なぜ男児限定なのだ?
男を喰らい、女は喰らわない。
その意図が分からない。
それに、食べる間際に言うセリフである、
「ハズレ」
が何を意味しているのかも、罪人たちは知らない。
ハズレがあるのであれば、『アタリ』があるはず。
つまり、アタリだった場合は喰わないということになる。
じゃあ、力をつけるのが目的ではない?
それも罪人たちにはわからない。
閉じ込められた傲慢と憤怒は、なおさらだった。
理不尽に閉じ込められたことで怒りは募る。
二人は名前の通り、傲慢で怒り狂っていた。
そして二人は一度、その封印を破った。
その頃は色欲の強さも未完成であらがおうと思えば、抗えるレベルだったのだ。
そして、二人は色欲に挑んだ。
罪人同士での殺し合いなど、久しくなかったこと。
二対一での戦いは色欲が負けるかと思われた。
が、そんなことはなかった。
奇襲をしかけたはずの二人は、あっさり、色欲にやられてしまう。
憤怒はすぐさま封印され、傲慢は一人で抗った。
「まだやるの?」
「ふざけるな!俺たちを閉じ込めておいて、ぶっ殺すぞ!」
「別に封印されたくないのなら、私の邪魔をしなければいいじゃない」
「はあ?邪魔なんかしたことねえよ!くそアマ!」
手傷を負った傲慢は幾分の時間を使い、会話した。
なぜ、自分がこんな目に合わなくてはならないのかが、わからなかったからだ。
「邪魔しているのよ、あんたが好き勝手に吸血鬼を殺しまわっていることが邪魔って言ってるの」
「は?お前はあんな雑魚に同情してるのか?はっ!天下の色欲がそこまで情が深いとはねえー」
「大多数の吸血鬼がどうなろうと私の知ったこっちゃないわ。だけどね、一人、白い髪の少年だけは絶対に殺させるわけにはいかないのよ」
「……そいつを見つけてお前はどうするんだよ」
色欲は天を仰ぐ。
穴の開いた天井から差し込む光を眺める。
そして、ニヤッと笑った。
「あんたが知る必要はないわ」
その言葉とともに、こんどは憤怒と別の場所に傲慢は封印されたのだった。
知る必要はない
そう言った時の表情はひどく穏やかだった。
いつもの厳しめな表情も態度もどこにもない。
それは決して、傲慢に対してのものではなく、その少年とやらに対してのものに違いない。
だが、なぜだ?
何をする気なんだ?
まだわからない。
俺は、また眠りにつくのか。
こんな何もない空間で!
退屈だ。
つまらない。
暇だ。
遊び相手が欲しい。
傲慢はこれから百年間、一人で過ごすことになる……。
♦♢♦♢♦
「そーんな時に、子猫ちゃんが来たのさ!」
「なんだか、あなたも大変そうね……少し同情するわ」
「だろうだろう!おかしいのはあの女だ!俺はなーんにも悪いことしてないのによぉ!」
「そこまでは言ってないけど……」
調子に乗らせてはいけないタイプだなこいつ。
そこで、また調子に乗ったのか、こんなことを言い出した。
「そうだ!君!どうせ暇なら、憤怒の方にも遊びに行ってあげてくれよ!」
「え?」
「あいつも百年間一人孤独に過ごしてんだ!だから、行ってあげてくれ!」
「え、いや、ここから出るのはいいけど……」
「おお!サンキューな!じゃあ、早速行ってくれ!それじゃ!」
「へ?」
その瞬間、地面がなくなったかのような無重力体験をした。
(地面に穴が開いた!?)
そういえば、この空間は自在に操れるとか言ってたような……。
でも、絶対に憤怒とかいうやつのところにはいかないからな!
絶対だからな!
って、その前に……。
(これ、落下して死ぬとか、ないよね?)
その生き残りは、悠々自適に生活……というわけにもいかない。
新たに生まれた九人目の『強欲』という女。
聖戦で、六人の罪人が死んで、その直後に強欲という新たな罪人が誕生した。
それをきっかけに、代わりの罪人がすぐに現れ、吸血鬼どもを導いていく……と思っていた生き残りの罪人たち。
現実はそんなに甘くなく、実際は強欲という女がたまたま出現しただけにすぎず、残り五人分の席が埋まることはなかった。
そして時間はすぎて、聖戦から二百年……もう少し経過したころのこと。
吸血鬼の国では反乱がおきていた。
聖戦で敗北し、不満が徐々に募り始めていた民衆の怒りが爆発したのだ。
強欲の時と同じだ。
だから我々は新たな罪人の誕生を願った。
民衆の反乱を放置し、やがて我々の予想は的中した。
「新たな、罪人の誕生だ!」
同じく苦しみの過去を背負うものこそ、罪人の席にふさわしい。
我々はその少女の過去を嘆いた。
それによって、少しはましな支配体制が確立し、第三次聖戦に備えて力を蓄えることが出来るようになる。
そう思っていた。
だが、その少女は過激すぎた。
嘆いた我々を嘲笑ったのだ。
平民の吸血鬼の分際で、我々を嘲笑ったのだ。
それは我々をひどく怒らせた。
しかし、
誰も少女に勝てなかったのだ。
おかしな話だ。
同じ立場、同じ地位に立ちながらも、実力で負けているのだ。
バカにした少女を殺そうとした二人がその少女の手によって封印された。
それこそが、傲慢と、憤怒である。
少女は言った。
「私こそが頂点、雑魚は私に従えばいいの。そして、私の目的を達成するのよ」
と。
少女、もとい色欲の罪人は、彼女を頂点とする政治に身を乗り出した。
貴族どもを制圧し、同時に民衆を従え、絶対的な女王へと君臨した。
そして、彼女は調子に乗ったのか、吸血鬼の男児を集め始めたのだ。
その目的は喰らうというもの。
それは決して、色欲という名の通り、性的な意味でのものではなかった。
「お前はハズレ」
そう言って、男児を食いちぎる。
吸血鬼は同じ年齢でも見た目によるブレ幅がすごい。
なので、時には自分よりも体格が大きな青年を……時には、小さな子供まで、喰らっていた。
それを近くで見てきた他の罪人たちは、彼女の目的が理解できなかった。
わざわざ喰らう……それだけならいい。
そうすることによって、彼女の力が増大したりするという理由でもあるのだろう。
だが、なぜ男児限定なのだ?
男を喰らい、女は喰らわない。
その意図が分からない。
それに、食べる間際に言うセリフである、
「ハズレ」
が何を意味しているのかも、罪人たちは知らない。
ハズレがあるのであれば、『アタリ』があるはず。
つまり、アタリだった場合は喰わないということになる。
じゃあ、力をつけるのが目的ではない?
それも罪人たちにはわからない。
閉じ込められた傲慢と憤怒は、なおさらだった。
理不尽に閉じ込められたことで怒りは募る。
二人は名前の通り、傲慢で怒り狂っていた。
そして二人は一度、その封印を破った。
その頃は色欲の強さも未完成であらがおうと思えば、抗えるレベルだったのだ。
そして、二人は色欲に挑んだ。
罪人同士での殺し合いなど、久しくなかったこと。
二対一での戦いは色欲が負けるかと思われた。
が、そんなことはなかった。
奇襲をしかけたはずの二人は、あっさり、色欲にやられてしまう。
憤怒はすぐさま封印され、傲慢は一人で抗った。
「まだやるの?」
「ふざけるな!俺たちを閉じ込めておいて、ぶっ殺すぞ!」
「別に封印されたくないのなら、私の邪魔をしなければいいじゃない」
「はあ?邪魔なんかしたことねえよ!くそアマ!」
手傷を負った傲慢は幾分の時間を使い、会話した。
なぜ、自分がこんな目に合わなくてはならないのかが、わからなかったからだ。
「邪魔しているのよ、あんたが好き勝手に吸血鬼を殺しまわっていることが邪魔って言ってるの」
「は?お前はあんな雑魚に同情してるのか?はっ!天下の色欲がそこまで情が深いとはねえー」
「大多数の吸血鬼がどうなろうと私の知ったこっちゃないわ。だけどね、一人、白い髪の少年だけは絶対に殺させるわけにはいかないのよ」
「……そいつを見つけてお前はどうするんだよ」
色欲は天を仰ぐ。
穴の開いた天井から差し込む光を眺める。
そして、ニヤッと笑った。
「あんたが知る必要はないわ」
その言葉とともに、こんどは憤怒と別の場所に傲慢は封印されたのだった。
知る必要はない
そう言った時の表情はひどく穏やかだった。
いつもの厳しめな表情も態度もどこにもない。
それは決して、傲慢に対してのものではなく、その少年とやらに対してのものに違いない。
だが、なぜだ?
何をする気なんだ?
まだわからない。
俺は、また眠りにつくのか。
こんな何もない空間で!
退屈だ。
つまらない。
暇だ。
遊び相手が欲しい。
傲慢はこれから百年間、一人で過ごすことになる……。
♦♢♦♢♦
「そーんな時に、子猫ちゃんが来たのさ!」
「なんだか、あなたも大変そうね……少し同情するわ」
「だろうだろう!おかしいのはあの女だ!俺はなーんにも悪いことしてないのによぉ!」
「そこまでは言ってないけど……」
調子に乗らせてはいけないタイプだなこいつ。
そこで、また調子に乗ったのか、こんなことを言い出した。
「そうだ!君!どうせ暇なら、憤怒の方にも遊びに行ってあげてくれよ!」
「え?」
「あいつも百年間一人孤独に過ごしてんだ!だから、行ってあげてくれ!」
「え、いや、ここから出るのはいいけど……」
「おお!サンキューな!じゃあ、早速行ってくれ!それじゃ!」
「へ?」
その瞬間、地面がなくなったかのような無重力体験をした。
(地面に穴が開いた!?)
そういえば、この空間は自在に操れるとか言ってたような……。
でも、絶対に憤怒とかいうやつのところにはいかないからな!
絶対だからな!
って、その前に……。
(これ、落下して死ぬとか、ないよね?)
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