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連れ去られた公女は何処

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「って、連れ去られちゃったけど!?ねえ、どうすんのさ!」

 ユーリは一人叫ぶ。
 状況が理解できていない少年が一名、放心状態が二名……この中ではユーリが今現在一番まともだと言えるだろう。

「ちょっと、放心しないでよ!目を覚ましてよ!」

 思いっきりレオの頬を叩いて、ようやくレオも我に帰る。

「あ、あれ?なにしてたっけ?」

「ちゃんとしてよ!状況わかってんの!?」

「あ、そうだ!ベアトリスは!」

「いないよ……というか、一緒に戦ってたでしょうが……」

 そんなやりとりの間に、ネルネも放心状態から回復して、

「あ、あれ?私はなにを……。お客様!?お客様どこですかー!?」

「だからいないって言ってるでしょ!というか、がっつり見てたよね!?」

「あ、そっか……」

 少年も、なんとなく状況は理解して、ローブを深く被った。
 さっきの戦い?で、宿屋には大きな穴が空いてしまった。

 それによって、太陽の光が差し込んできているのだ。
 今は朝。

 つまりは、そういうこと。
 ただし、ネルネはそんなものもろともせずに通常運転である。

 少年がそれに驚いているのを知ることは三人にはないだろう。

「で!ご主人様連れてかれちゃったんだけど!?」

「連れてかれたって言っても……」

 レオはそこまで焦っていなかった。
 なぜなら、ベアトリスを信じているからである。

 自分よりも強くて知恵が回るのだから、問題ないだろう……少なくとも死ぬことはない、そう確信しているからだ。

(僕よりも強いのに、僕にどうしろっていうんだよ……)

 ユーリとベアトリスはレオよりも強い。
 戦闘面において、レオはさほど役に立たない。

 それを理解しているこそだ。

「って、もっと焦ってよ!大変なんだよ!?僕の攻撃も効かなかったし!」

「効かなかったって言っても、何かカラクリがありそうだけどね」

「ど、どういうこと?」

「だって、初撃は全くのノーダメージだったのに、背後からの一撃はしっかりと効いたんだ。何かトリックがあると思う。それに、ベアトリスだってすぐに気付くだろうし」

 背後からの一撃は防御できないのか?
 それが普通なのだが、あの不気味な女ならそういうことがあっても不思議ではなかった。

「ま、まあカラクリがあるとしても、ご主人様がどこにいるかはわからずじまいなんだけど?」

「それは、手がかりを探すしかないでしょ?」

「手がかりってなにを?」

 この宿屋の惨状はといえば、崩壊寸前で、ぶっちゃけ半壊状態。
 それに、所々に散らばっている紙類などはボロボロに破けてしまっている。

「ここでは手がかりを得ることはできなさそうだね」

「あの!お二人なら、お客様を追跡することはできないんですか?」

 ネルネが唐突に質問する。

「なんか魔法とか使って、バッーって!そうすれば——」

「それができたら苦労しないよぉ~!僕は自分にかかってる呪いの維持だけで一杯一杯なんだよ……。それにレオは一応?獣人と吸血鬼のハーフらしいけど?それでも、魔法使ったことないし、探知魔法使えるほど魔力ないでしょ」

「うぐ……」

 呪いという初耳情報はネルネの中でなぜかスルーされていた。

「じゃ、じゃあ私が魔法使えたり——」

「使える?」

「……無理です、はい」

「少年は?」

「俺、やったことない、です」

 四人は頭を抱えた。

「だからこそ、手がかりでしょ?」

「さっきも言ってたけど、手がかりってどんな?」

「た、例えば……あの女の人の人物像だったり?いったい誰なのか、どんな目的なのかがわかって、もし彼女が有名人なら尚更、居住区なんて場所もわかるかもしれないでしょ?」

 そこにベアトリスがいるとは限らないのだが、それは誰もツッコまなかった。
 誰も、そのことに気づけないくらい、動揺していたのだ。

「確かにそうかもしれないけどさー、じゃあ、どこに行けばいいの?」

「もちろんそんなの決まってるでしょ。二人が行っていた宿だよ!」

「あの宿ですか!?だったら、私が向かいます!」

 ネルネは立ち上がり、勢いよく言う。

「あ、僕も行くよ!当然、一緒に行く!レオも行くでしょ!」

「あ、ああもちろん……」

 なにもできなくても、なにかしら役に立てるかもしれない。
 そう思ったレオである。

「あ、あの!俺も、行きます……!」

「え?少年もかい?」

「も、もちろんで、す!恩返ししない、とですから!」

 ローブ越しにも、三人に決意固い赤い瞳が見えた。

「危ないよ……と、言いたいところだけど、いい心がけだよ、少年!」

「わっ!?」

 少年を持ち上げて、万歳をするユーリ。
 それを見て、呑気だなと呆れつつ、残り二名は宿に向かう準備をするのだった。
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