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呼び出し①

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 部屋の中に入ってみれば、案の定広かった。
 ネルネには申し訳ないが、できればこっちに泊まりたい……そう思ってしまうほどには清潔感もあり、いい。

 ネルネは悔しそうにベットを眺めていた。
 家具に関してはネルネの宿もいい勝負をしているとは思うが、装飾が……ねえ?

「ネルネ?」

「まだです!もしかしたら、何か勝るところが……!」

 諦めないことは……いいことですよ。
 うん……。

 部屋の中は外見とマッチして、おしゃれな感じ。
 モダンな雰囲気で統一された部屋には一人用のベットがあるようだが、どう見ても三人くらいは寝れそうである。

 そして、家具の一つ一つも高級そうで、ただの宿とは思えなかった。

(ネルネの高速脳内計算でもものすごい金額を割り出してたけど……)

 それが正しいのかはいまいちわからないものの、ネルネが言うには維持費だけでも大金貨何十枚……。

 金額をモノで例えたら、貴族たちが舌を巻いて羨ましがるレベルの金額だ。

 物凄い金額をかけているというのは私の目でもわかったが、

「で、この宿が問題なんだよね?」

「そうですよ、私の宿に対する嫌がらせ……早く証拠を探さなくては!」

 そう勢いでネルネが天に拳を突き上げたあたりで、扉がノックされた。

「失礼します」

 鍵はまだかけていなく、中に入ってきた人もそれを知っていたようだった。
 中に入ってきたの従業員らしき女性だった。

「お休み中のところ失礼したします、お客様。申し訳ありませんが、一階、管理人室までお越しいただけますでしょうか?お手数をおかけします」

「は?え、待っ——!」

 有無を言わさず、扉が閉められた。
 従業員も出ていく。

 さっきからそうだが、従業員がもはや私たちの話を聞いてくれない……。
 まあ、客を逃さないためだろうから仕方ないけどさ~?

 それに、急に入ってこられるとびっくりするのよね。

 あんまり部屋の中では意味がないけど、ローブをつけておいている。
 吸血鬼のフリをするだけだったら、ここで脱いでしまっても何の問題もないけど、私は悪魔からも追われてる身。

 部屋の中だろうとどこだろうと、隠す必要があるのだ。

「どうするんですか?」

「……そりゃあ、行くしかないでしょ」

 こればっかりはしょうがない。
 抵抗しても別に大した意味なんてないんだし、ここは素直にその場所に向かおう。

(管理人室だっけ?ま~た一階にいくのか……)

 私たちは部屋を出る。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


 一階、よくみればお客さんらしき人もいた。
 従業員の押し売りで気づかなかったが、エントランスでくつろいでいる吸血鬼が数多くいる。

 しかも、そのほとんどが紳士ものの服を着ていたり、ドレスを着ていたり、とにかくおしゃれをしていた。

(なんかそういうパーティーでもあるのかな?)

 あんまりじろじろ見るのもあれなので、そこそこにしておく。
 そして、隣の部屋からでてきたあの女性の姿はなかった。

 今気にする必要はないので、管理人室とやらに向かう。
 エンんトランス部分、横の通路に入り、その一番奥が管理人室とやららしい。

 宿内地図にはそう書いてあった。
 というか、宿に地図があるって……。

 若干引きつつ、私たちはその場所にたどり着いた。

 そして、扉をノックする。

「どうぞ」

 中から声がして、許可が下りた。

「失礼します」

 中に入ると、そこはより一層豪華な装飾で出迎えられた。
 見たところ、従業員がいる様子はなく、いるのはただ一人だった。

 目の前にいるのは、女性……だが、雰囲気は女性らしくなかった。

 茶色っぽい髪をしていて、キリッとした瞳、ちゃんとした正装をしていて、ずっと書類に目を通している。

「まあ、座りなさい」

「あ、はい」

 気持ち偉そうに聞こえるのはきっと本当に偉いからだろう。
 管理人室……どうやらこの人がこの宿の管理人のようだった。

(この人が、ネルネの宿に嫌がらせを?)

 とてもそんな風には見えない。
 そんなことを考えながら、近くの椅子に腰掛けた。

 木の椅子はちょうど三人分が座れるくらい大きく、目の前に置かれたテーブルは背丈が低かった。

 そして、その女性も立ち上がり、私たちの目の前に座る。

「突然呼び出してしまい、すまないね」

「いえ、滅相もございませんわ」

 一応淑女らしく返事を返す。

「さて、世間話でも挟む前に……自己紹介といこう。私はメアル、この宿の管理人をしている者だ」

「……………」

「どうかされたかな?」

「いえ……私はベアトリスと申します。どうぞよろしくお願いします」

 メアル

 という名前に若干反応を示してしまった。

(メアリ……って言われた気がしたわ……紛らわしいなーもう!)

 茶色い髪の毛もメアリ母様と似ているから、ちょっとびっくりしてしまった。

 だが、問題ない。

 この人は吸血鬼。
 人間じゃないのだから。

「あ、私はネルn——」

 ネルネが自己紹介をしようとして、私は思わず彼女の足を踏んだ。
 そして小声で会話する。

(何するんですか!)

(馬鹿じゃないの?もしかしたら、相手は名前を知っているかもしれないでしょ?)

 ネルネは一応メアルと同じ業界の吸血鬼。
 名前を知られている可能性は大いにあるのだ。

「えと、ネルと言います!」

「ベアトリスにネルか、覚えておこう」

 そう言って、メアルは目を一度瞑り再び開いた。

「世間話をする時間はあるのだが、あいにく無駄なことは嫌いなのでな。このまま本題に入らせてもらう」

 そう言って、メアルがより一層目つきを鋭くさせる。

「君たちは、どこの貴族だ?」
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