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追う心

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「くそ……」

 悪魔をけしかけて、尊厳を守ろうとした結果、大失態だった。
 あの偉そうな悪魔。

 実力は確かだったはずだ。
 なのに、あの女の人間には及ばなかったというのか?

 人間というのはそこまでに強力だったのか?

「認識不足だ……」

 だが、今回を経て、ある結論に思い至った。

「僕は……こんなところで腐っていい人材じゃない!」

 世界は広かった。
 エルフなんてちっぽけな存在。

 この世界の本当の強者からすれば、ゴミと一緒だ。
 そのゴミと生活を共にする必要があるのか?

 ない。

 俺は比較的にまともなゴミだ。
 磨けば光るゴミ……。

 今は汚れているが、才能はあると思う。
 事実、悪魔と人間の戦闘を見ていて、わかった。

 目で追える。
 動体視力は彼らと変わらず、引け劣らなかった。

「肉体能力は申し分ない。あとは技術だ」

 その時には、もうエルフの仲間、ハイエルフの家族のことなんてどうでも良くなっていた。

 すでに、街を出る決意をした。

 こんな小さい世界。
 自分にとっては全てが叶う箱庭。

 だが、それ以上を知ったら、それに手を伸ばしたくなる……そうだろう?
 次なる高みを目指したい。

「人間の女……それも子供があの実力だ」

 あいつは普通じゃない。
 それと同時に、ただの子供だ。

 必ず、それだけの研鑽を積んだに違いない。
 つまり、

「あの人間を基準に考えればいいんだ」

 あの人間を超えるために、認識を変えろ。

 エルフの中では最強?

 違う。

 世界から見て雑魚。

 弱肉強食の世で、強者の部類?

 否。

 弱者だ。

「あの人間を殺せるぐらいに強くなる……絶対に」

 そのために街を出た。
 未だに、人間と悪魔の交戦が続いていた。

 街は燃え、魔物たちが蹂躙……いや、よく見たら押されてるな。
 そんな混乱の中だった。

 おそらく、あのまま行けば人間が勝つだろう。
 あの戦いを見れば、恐怖すると同時に、怒りが増してくる。

「待ってろ、人間。僕は……どんなことに手を染めようとも、お前を殺してやる」

 尊厳が傷つけられた。
 それだけで、僕のプライドは許さない。

 初めて受けた屈辱……何十年も生きてきて初めてうまく行かなかった。
 そんな屈辱を全て……いつの日かぶつけてやる。

 僕は森を後にした。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎↓トレイル視点↓


 走って走って走って。
 ベアトリスの元から逃げ出した。

 短い間だった。
 時間にしたら、何十時間。

 日にちにしたら、一ヶ月もない。

 そんな短い期間だった。
 私はお父様のもとまで走った。

 自分の部屋だとしんみりしてしまうと思って……。

 扉を開ければ、笑顔の父がいた。
 だけど、私にはわかった。

 目が赤く腫れている。

「一緒にいかなかったのか?」

「はい、私にはそう決断することができませんでした」

 あの三人はいいチームだ。
 ベアトリスといい、ユーリといい、レオといい……。

 個性的だが、それぞれが能力に秀でていた。
 ベアトリスは集団戦に向いていそうだった。

 口を開いて、魔力を紡げば語られる命令。
 それを聞いた弱者は抵抗することさえ許されない。

 身体能力、魔法の応用力ともに優れていて、万能……優秀……完璧だった。

 ユーリは諸刃の剣だ。
 彼は手加減ということができないらしい。

 やるときはいつも全力、ある意味正しい行為ではあるが……戦闘においては、オーバーパワーだ。

 逆を言えば、三人の中で誰よりも強い。

 レオは、三人の中でも一番弱い。
 だけど、ポテンシャルはあった。

 あまりある動体視力は二人と比べても劣らず、逆に上回ってるかも?
 気遣いもできるし、私のお酒にも付き合ってくれた。

 戦闘の応用力というのか、獣人特有の戦闘の勘が二人よりも冴えている。
 素人目でもわかった。

 そんな三人だが、そもそもの次元が違うと思い知らされた。

 素手でドラゴンを止めたり、魔物の集団に突っ込んで返り討ちにしたり……。
 悪魔を倒したり、もうなんでもありだよ。

 平均的能力値が私を大きく上回る三人に対して、私はどうだ?

 エルフの特徴である魔法が使えない。
 魔力は多く膨大だが、それを魔法として行使できない私は無能に近い。

 身体能力が高いわけでもなく、逆に貧弱だ。
 勉強はできるけど、戦闘にはほとんど役立たない。

 雑魚、弱者、いらない子。
 私はあの三人の隣で歩ける気がしなかった。

 だから自分からそのステージを降りたのだ。

「それでいいの」

「そうか」

 お父様は少し嬉しそうだった。
 私も行ってしまうとでも、思っていたのだろう。

 そんなわけない。
 あの三人の人生は面白くなることだろう。

 私はゆっくりでいい。
 無駄に長い人生を使ってゆっくりと三人に向かえばいい。

 いつかは私も、この森を出たい。
 魔法を使えない私は、体を鍛えるしかないだろう。

 ドラゴンで苦戦するようでは、三人にはついていけない。

 もっと力が欲しい……!
 そう真摯に願った。

「お望みとあらば必要ですか?」

「え!?」

 どっかで聞いたことがある声が聞こえた。
 それはお父様にも聞こえていたようだが、お父様は笑ったままなにも答えない。

 周囲が発光して輝きだす。
 それは人の形に収束し、

「精霊様!」

 が、現れた。

「なんで、こんなところに!?」

 確か、自分の意思で出ることはできないとかなんとか。

「不思議に思っているのですね?私が出られなかったのは悪魔のせいであって、その原因が封印された今となっては、外出するのは自由なのですよ」

 外出したがる精霊は少ないですけど、と付け足して、精霊は笑った。

「それで、力が欲しいのですか?」

「あ!え?いや、別に……」

「そう願っていたでしょう?ねえ、ゴーノアさん」

「儂には、人の心の声なんて聞こえんがね」

「ええ!?知り合いなんですか、お父様!」

 色々と情報量が多すぎる……。

「私とゴーノアさんは古くからの知り合いなんです。何度か言葉を交わしただけですが、数百年はこの森を見守ってきた知り合いなんです」

 長生きでしょう?
 と言って、微笑んでくる精霊。

 さっきの力が欲しいと願ったからここまできたのだろうか?
 だとしたら、

「いらないです」

「それは何故ですか?」

「私は自分の手で手に入れたいので」

 キッパリとそう言う。
 ベアトリスは加護をもらったようだが、それはノーカウントだ。

 その前から圧倒的な強者だったし。

「人間……ベアトリスは強い。私もそれに『努力』で追いつきたいの」

「そう言う考えもできるのですね。やはり面白いです」

 納得したかと言うように、掌をポンと叩いた精霊。
 久しぶりの外出でテンションが上がっているのだろうか?

 心なしか、行動がかわいく幼く見えた。

 かわいく……。

「だとしたら、恋愛してる暇もなさそうですね」

「あら?それはなんでです?」

「だって、そんなことしてたら、あの三人には追いつけないもの」

 不思議そうに見つめる精霊、苦笑いするお父様。
 すると精霊が、

「そんなこと心配する必要はありませんよ。あそこの三人だって、恋愛しまくりですもの!」

「へ?」

「あ、つい口が……今のはなんでもないですよ?」

 わざとらしくそんなことを言う精霊。

「まあ、なんにせよ……私は精霊様の力を借りずに、あの三人に追いついて見せますわ」

 努力は裏切らない。

 私は、三人を目指す。

(いつか、またどこかで会おう。ベアトリス)


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「ん?」

 今何か声が聞こえた気が……。
 耳の中で、誰か……知っている人の声がした。

 名前を呼ばれた気がしたが。

「まあいっか!」

 私の旅はまた始まりを迎えるのだった。
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