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約束は破らない
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国王を置いて、私は屋敷の外に飛び出した。
そして、またそれを見た。
「あ……あ」
私の中で、それはトラウマになっていたのだろう。
吐き気がした。
「森が……」
街が燃えていた。
私の無駄に良い目は、逃げ惑うエルフたちを見つける。
母親が子供を庇い、衛兵が二人を逃す。
襲いかかってくる魔物を相手取っている。
(なんで……なんでよ!)
どうしてエルフたちが襲われている?
理由はわかっていた。
私のせい。
だけど、認めたくなかった。
私のせいで、たくさんの人が死んでしまったら……そう考えると、その場に座り込んでしまった。
嗚咽が漏れる。
頭が痛い。
公爵領が燃えている姿と、エルフの森が燃える姿が頭の中で重なる。
「いやああああ!」
頭を抱えて叫ぶ私、そんな私の肩に手が当たった。
「ご主人様……」
「あ……ぁ……」
ユーリが心配そうに私を見ている。
思わず、顔を逸らした。
泣いている姿なんか見られたくなかった。
今更かもしれないけど、私は弱い自分の姿を晒したくなかった。
前世で力がなかったから……必要だった力を手に入れて、私は幸せになった?
弱い自分も、強い自分も嫌いだ。
力を奮って……何を成し遂げた?
私は答えを見つけることができなかった。
その間に涙を拭いて立ち上がる。
「まだ……間に合う!」
そうだ、そうだよ。
まだ間に合う。
前回は間に合わなかった。
が、今回はまだ助けることができるんだ。
エルフたち全員を。
母が病弱だったあの少女も。
私は走り出した。
無言でついて来てくれるユーリ。
走り出すと言っても、ジャンプして地上に落下するだけ。
それだけですぐに着いた。
「教官!」
衛兵の一人が駆け寄って来た。
「避難は?」
「まだ……」
「最優先で」
「ですが、魔物は!」
「私がやる」
「教官一人じゃ——」
「黙れ」
「!」
その時、初めて私はエルフを睨んだ。
肩を竦ませつつも、その衛兵は身を翻した。
「避難が優先だ!撤退!」
「ご主人様も教官らしくなったね」
「茶化さないで」
魔物がどんどんと目の前に現れていく。
この街の柵は脆く、すぐに壊せてしまう。
壊れた部分から、魔物が溢れてきている。
(先に、あの柵を直す?いえ、それだとまた穴を開けられるだけ。いたちごっこじゃ意味がない)
とる選択は一つだけだ。
「かかってこい!魔物共!」
目の前にいた、巨大なイノシシの魔物に接近し、殴りつける。
それは空中に浮遊して、何処かへと落下した。
おそらく生きてないだろう。
魔物の標的は弱い民から、強い私へとシフトチェンジした。
(それでいい)
殴りやすくなった。
「っらあ!」
向かってくるゴブリンたちの攻撃を全て避け、代わりに手刀を叩き込む。
ただし、加減はしなかった。
倒れたゴブリンを放置し、私は無策に突っ込んでいく。
もちろん、それを止めようとする衛兵もいたが、
「全員まとめて、『吹っ飛べ』!」
そう叫ぶだけで、周囲の魔物は勝手に吹っ飛んでいった。
これには衛兵も口出しすることはなかった。
ユーリは家に残っている人の救出を始める。
そして、私は魔物狩り、衛兵は避難指示。
(助けられる……!)
そう思い始めた時だった。
「ようやく見つけたぞ」
「!」
頭上からそんな声が聞こえ、私に向かって何かが飛来する。
「その魔力……質量……間違いない。エルフではない存在だ」
「誰!」
飛んできたのは、黒い槍だった。
それは地面に刺さると、ドロドロに溶けて、空中にいる何からに溶け込んだ。
ゴツい鎧を着ている黒い男がそこにいた。
空中に浮遊していることから、おそらくこいつが悪魔だろう。
(でも、なんで私の居場所がばれた?)
そんな疑問を抱えつつも、私は攻撃に転じる。
近くにあった小石を投げつける。
魔力で包み込んだ小石はそんじょそこらの魔法より強い。
ただし、それが当たっても悪魔が怯むことはなかった。
「そよ風のような軽い一撃だな」
転移を使用し、背後に回り込む。
手刀を首元に叩き込む……本気で意識を奪うつもりで。
だが、
「効かぬ」
右手が私の方に飛んでくる。
それを掴んで避けて、地上に着地。
「悪魔……」
「俺を知っているか、面白い」
次なる手を考えている時には手遅れ。
目の前から消えた男は地面すれすれに現れて、私の首を掴んだ。
「っ!」
「教官!」
叫ぶ衛兵。
「ばか……逃げろ……!」
左手を衛兵の方に伸ばす悪魔。
私はすぐに右手をふりほどき、衛兵に向かって飛来するその黒い槍を受け止めた。
どこから槍を出したのか……答えは『手』だった。
手から黒い槍が作り出されそれが射出された。
防御魔法を展開し、衛兵を庇う。
凄まじい衝撃が伝わり、防御魔法が破れた。
だが、それと同時に悪魔の槍も消えた。
「逃げろ、ばか!」
「ですが……!」
私はその続きを聞かずに、悪魔との戦いに戻る。
(こいつを倒せば終わる!)
これを倒してしまえば、エルフたちを救えて、この森にとどまる理由も……。
「消えろ!」
走り出すと同時に落ちてた槍を拾って、首元を刺す。
しかし、槍は刺さったまま抜けなかった。
槍を離して一歩後退する。
だが、
「逃さぬ」
足が地面に引き摺り込まれた。
足元には黒い影……それも巨大なもの……が生まれて、私の足を飲み込んでいた。
そして、追撃を受ける。
放たれる魔法。
至近距離で放たれるその魔法が私に当たる。
「ぐっ!」
防御を展開しつつも、それはほぼほぼ意味をなさない。
何度も命中し、そのたんびに服が破けたり、傷を負ったりした。
魔法が止んだ時には、私の体はボロボロになっていた。
「死んではいないな」
私の状態を確認するかのように、悪魔が告げる。
余裕がその表情にはうかがえた。
この場にはユーリはいない。
助けを呼ぶ人のもとに向かって駆け回っていることだろう。
結局、私が魔物を押さえつけていたのは、森の半分程度なのだ。
反対側をユーリが守ってくれている。
だから、私はこいつを倒さなくちゃいけないのに……!
前回戦った少女の悪魔。
彼女は加減をしてくれた。
敵の情けを受けたようでムカつくが、そのおかげで私は生きている。
だが、この男は容赦がなかった。
拘束されて、至近距離で魔法を連発されたのは初めてだった。
(ここでも、私は守れないの?)
ふと、そんな考えが私の頭をよぎった。
なんで、私は守れないの?
そんなことを考えていると、あることを思った。
(私は……なんでまだ帽子をつけているの?)
(なんでまだ本気を出していないの?)
(なんでまだエルフの“ふり“をしているの?)
視界が悪くなる帽子なんかつけて、戦っていた。
私はバレたくなかった。
人間であることが。
だってそうでしょ?
せっかく仲良くなれた人が私に石を投げつけるなんて……そんな想像したら、余計に怖かった。
だが、それも今更だ。
(私は精霊とも国王とも約束した!森を守るって!)
約束は約束。
私は守らなければならない。
例え、後でエルフたちから石を投げつけられようとも……!
私は視界を悪くしていた帽子を取り去った。
使っていた無駄な魔法も全て解除した。
エルフのふりもやめた。
「私が勝つ!」
私の反撃が始まった。
そして、またそれを見た。
「あ……あ」
私の中で、それはトラウマになっていたのだろう。
吐き気がした。
「森が……」
街が燃えていた。
私の無駄に良い目は、逃げ惑うエルフたちを見つける。
母親が子供を庇い、衛兵が二人を逃す。
襲いかかってくる魔物を相手取っている。
(なんで……なんでよ!)
どうしてエルフたちが襲われている?
理由はわかっていた。
私のせい。
だけど、認めたくなかった。
私のせいで、たくさんの人が死んでしまったら……そう考えると、その場に座り込んでしまった。
嗚咽が漏れる。
頭が痛い。
公爵領が燃えている姿と、エルフの森が燃える姿が頭の中で重なる。
「いやああああ!」
頭を抱えて叫ぶ私、そんな私の肩に手が当たった。
「ご主人様……」
「あ……ぁ……」
ユーリが心配そうに私を見ている。
思わず、顔を逸らした。
泣いている姿なんか見られたくなかった。
今更かもしれないけど、私は弱い自分の姿を晒したくなかった。
前世で力がなかったから……必要だった力を手に入れて、私は幸せになった?
弱い自分も、強い自分も嫌いだ。
力を奮って……何を成し遂げた?
私は答えを見つけることができなかった。
その間に涙を拭いて立ち上がる。
「まだ……間に合う!」
そうだ、そうだよ。
まだ間に合う。
前回は間に合わなかった。
が、今回はまだ助けることができるんだ。
エルフたち全員を。
母が病弱だったあの少女も。
私は走り出した。
無言でついて来てくれるユーリ。
走り出すと言っても、ジャンプして地上に落下するだけ。
それだけですぐに着いた。
「教官!」
衛兵の一人が駆け寄って来た。
「避難は?」
「まだ……」
「最優先で」
「ですが、魔物は!」
「私がやる」
「教官一人じゃ——」
「黙れ」
「!」
その時、初めて私はエルフを睨んだ。
肩を竦ませつつも、その衛兵は身を翻した。
「避難が優先だ!撤退!」
「ご主人様も教官らしくなったね」
「茶化さないで」
魔物がどんどんと目の前に現れていく。
この街の柵は脆く、すぐに壊せてしまう。
壊れた部分から、魔物が溢れてきている。
(先に、あの柵を直す?いえ、それだとまた穴を開けられるだけ。いたちごっこじゃ意味がない)
とる選択は一つだけだ。
「かかってこい!魔物共!」
目の前にいた、巨大なイノシシの魔物に接近し、殴りつける。
それは空中に浮遊して、何処かへと落下した。
おそらく生きてないだろう。
魔物の標的は弱い民から、強い私へとシフトチェンジした。
(それでいい)
殴りやすくなった。
「っらあ!」
向かってくるゴブリンたちの攻撃を全て避け、代わりに手刀を叩き込む。
ただし、加減はしなかった。
倒れたゴブリンを放置し、私は無策に突っ込んでいく。
もちろん、それを止めようとする衛兵もいたが、
「全員まとめて、『吹っ飛べ』!」
そう叫ぶだけで、周囲の魔物は勝手に吹っ飛んでいった。
これには衛兵も口出しすることはなかった。
ユーリは家に残っている人の救出を始める。
そして、私は魔物狩り、衛兵は避難指示。
(助けられる……!)
そう思い始めた時だった。
「ようやく見つけたぞ」
「!」
頭上からそんな声が聞こえ、私に向かって何かが飛来する。
「その魔力……質量……間違いない。エルフではない存在だ」
「誰!」
飛んできたのは、黒い槍だった。
それは地面に刺さると、ドロドロに溶けて、空中にいる何からに溶け込んだ。
ゴツい鎧を着ている黒い男がそこにいた。
空中に浮遊していることから、おそらくこいつが悪魔だろう。
(でも、なんで私の居場所がばれた?)
そんな疑問を抱えつつも、私は攻撃に転じる。
近くにあった小石を投げつける。
魔力で包み込んだ小石はそんじょそこらの魔法より強い。
ただし、それが当たっても悪魔が怯むことはなかった。
「そよ風のような軽い一撃だな」
転移を使用し、背後に回り込む。
手刀を首元に叩き込む……本気で意識を奪うつもりで。
だが、
「効かぬ」
右手が私の方に飛んでくる。
それを掴んで避けて、地上に着地。
「悪魔……」
「俺を知っているか、面白い」
次なる手を考えている時には手遅れ。
目の前から消えた男は地面すれすれに現れて、私の首を掴んだ。
「っ!」
「教官!」
叫ぶ衛兵。
「ばか……逃げろ……!」
左手を衛兵の方に伸ばす悪魔。
私はすぐに右手をふりほどき、衛兵に向かって飛来するその黒い槍を受け止めた。
どこから槍を出したのか……答えは『手』だった。
手から黒い槍が作り出されそれが射出された。
防御魔法を展開し、衛兵を庇う。
凄まじい衝撃が伝わり、防御魔法が破れた。
だが、それと同時に悪魔の槍も消えた。
「逃げろ、ばか!」
「ですが……!」
私はその続きを聞かずに、悪魔との戦いに戻る。
(こいつを倒せば終わる!)
これを倒してしまえば、エルフたちを救えて、この森にとどまる理由も……。
「消えろ!」
走り出すと同時に落ちてた槍を拾って、首元を刺す。
しかし、槍は刺さったまま抜けなかった。
槍を離して一歩後退する。
だが、
「逃さぬ」
足が地面に引き摺り込まれた。
足元には黒い影……それも巨大なもの……が生まれて、私の足を飲み込んでいた。
そして、追撃を受ける。
放たれる魔法。
至近距離で放たれるその魔法が私に当たる。
「ぐっ!」
防御を展開しつつも、それはほぼほぼ意味をなさない。
何度も命中し、そのたんびに服が破けたり、傷を負ったりした。
魔法が止んだ時には、私の体はボロボロになっていた。
「死んではいないな」
私の状態を確認するかのように、悪魔が告げる。
余裕がその表情にはうかがえた。
この場にはユーリはいない。
助けを呼ぶ人のもとに向かって駆け回っていることだろう。
結局、私が魔物を押さえつけていたのは、森の半分程度なのだ。
反対側をユーリが守ってくれている。
だから、私はこいつを倒さなくちゃいけないのに……!
前回戦った少女の悪魔。
彼女は加減をしてくれた。
敵の情けを受けたようでムカつくが、そのおかげで私は生きている。
だが、この男は容赦がなかった。
拘束されて、至近距離で魔法を連発されたのは初めてだった。
(ここでも、私は守れないの?)
ふと、そんな考えが私の頭をよぎった。
なんで、私は守れないの?
そんなことを考えていると、あることを思った。
(私は……なんでまだ帽子をつけているの?)
(なんでまだ本気を出していないの?)
(なんでまだエルフの“ふり“をしているの?)
視界が悪くなる帽子なんかつけて、戦っていた。
私はバレたくなかった。
人間であることが。
だってそうでしょ?
せっかく仲良くなれた人が私に石を投げつけるなんて……そんな想像したら、余計に怖かった。
だが、それも今更だ。
(私は精霊とも国王とも約束した!森を守るって!)
約束は約束。
私は守らなければならない。
例え、後でエルフたちから石を投げつけられようとも……!
私は視界を悪くしていた帽子を取り去った。
使っていた無駄な魔法も全て解除した。
エルフのふりもやめた。
「私が勝つ!」
私の反撃が始まった。
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