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 私は着々とエルフの街に溶け込んでいった。
 エルフたちもなかなかに優しい人が多かった。

 エルフは仲間意識が強いのか知らないが、人間として初めて会った人でも、ダークエルフとして初めて会った時にはものすごく優しくしてくれた。

 多分、二回目の方が素なのだろう。
 エルフを守る、家族を守りたいがために強気な態度を崩さない。

 私と似たようなところが多いなと思った。
 家族第一!

 だからか、自然と親近感が湧いて、トレイルから押し付けられた教官職も、頑張っている。

「トリスお姉ちゃんすごーい!」

「かっこいい!」

 と、近所の子供に言われて、悪い気もしないしね。

「ご主人様、デレデレ……」

「……見なかったことにしなさい」

 教官の仕事を終えて、子供たちの相手をしていたところにユーリがやってきた。

 子供たちを家に帰してから、私も帰ることにする。

「ていうか、私が教官になるより、ユーリがやった方がいいんじゃ……」

 ユーリは見た目獣人だが、人間よりも嫌悪されていない。
 種族を超えても、美的センスは基本的に変わらない。

 ユーリの美貌にはみんな惚れ込むよね。
 モテモテである。

 ただし、本人は女だと思われていることを気にしている模様。

「僕はダメだよ、手加減が苦手なんだ」

「……真意は聞かないでおくわ」

 もし、ユーリがエルフと組み手をしたら、エルフ側が心配なため、ある意味私程度がちょうどいい……のか?

「あ!それより、そろそろ僕、国王に会いに行っていいかな?」

「国王陛下に?」

「久しぶりに話したいなって……ダメ?」

「いいわ、じゃあ帰りに寄りましょうかね」

 ユーリと私は国王が住む屋敷に立ち寄ることにした。
 変わらず、向かう方法は一緒で、歩くスピードもおんなじだ。

「そう言えば、レオ君はどうしたの?」

 ユーリと同じく地元のアイドル的な存在となっているレオ君。
 子供たちにも人気だし、一部の女性からも人気というね。

 ちょっと嫉妬しそうだ。

「レオはね、トレイルにお持ち帰りされてたね!」

「あー、酒場にでも行ったの?」

「僕も行きたかった……」

「ユーリは国王陛下のところに行くんでしょ!ほら早く行くよ!」

 手を引っ張って足を早める。
 やっぱり、早足で行くことにした。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


 私たちは国王のもとまで足を運び、その扉を開いた。
 初めてこの扉を開いた時、ハイエルフたちに睨まれたのもいい思い出だ。

 そして、その部屋の中を覗いてみれば、案の定国王がいた。
 それも、深刻そうな顔で……。

「何かあったんですか?」

 私がその長い廊下を駆け抜けて、国王に近寄る。

「……っ」

「……………」

 ユーリと国王のアイコンタクト。
 ただ、深い意味はないのだろうとなんとなく思った。

「ああ、かなりの大問題だ」

 顔を上げた。
 それはいつも以上に辛そうな表情だった。

「率直に言おう。魔物が接近している、それも数百以上だ」

「え!?」

「なぜかはわからない。だが、トレイルの話にあった悪魔が差し向けたのだろうと儂は睨んでいる」

「!」

 胸のあたりが痛くなった。
 ただ、表情には出さずに真面目に聞く。

「今のエルフたちで対処はできますか?」

「……正直無理だ。エルフの精鋭が命がけで伝えてくれた情報……ただの市民が勝てるわけない」

「じゃあ、私たちが出るべきなんですね」

「そうしてくれると助かるよ」

 元々、この森が危機に直面しているのは私のせいでもある。
 私が、ここまで逃げ延びたせい。

 しかし、国王は優しい。
 そんな私の境遇を理解して、十分な実力があることも冷静に分析し、頭まで下げてくれた。

 私が自分の力を出し惜しみするわけがない。

「全力でやらせてもらいますね」

「ははは、頼もしいな。それと……ユーリ……くん」

「君付けなんていらないよ。僕と君の中だろ?」

 ユーリのトーンはいつもと比べ物にならないくらい優しかった。
 悲しげに微笑む二人。

「君には迷惑をかけてばかりだ。儂は……俺は、君と肩を並べられただろうか?」

「……………——」


 ♦︎♢♦︎♢♦︎↓ユーリ視点↓


 久しぶりに会った。
 感動の再会。

 なのに僕は……捻くれてるな。
 感動で涙を流す声ともない。

 あえて嬉しいということもない。
 ただ、陰で泣いている。

 嬉しかった。
 彼がまだ生きてることが。

 ご主人様と出会った時と同じくらいに嬉しかったんだ。
 できることなら、一緒にお酒を飲みたい。

 共闘したい。
 二人でもっとたくさんしたいことがあった。

 だが、僕たちは会うことはなかった。
 その間に、僕は魔族の王に、彼はエルフの王にまでなった。

 もっと語り合いたい。
 だけど、そんなことをすることはできない。

 理由があるわけじゃない。
 僕が捻くれてるから。

 正直に嬉し涙を流すことができない。
 僕はご主人様を第一に考えるんだ。

 ご主人様の幸せが僕の幸せ、それに、話そうと思えばいつでも話せるんだから……。

「君には迷惑をかけてばかりだ。儂は……俺は、君と肩を並べられただろうか?」

 そう言われた時には、彼が何をいっているのかわからなかった。
 彼は優秀な男だった。

 僕なんかよりもよっぽど国のために身を粉にして働いている。
 今にも死んでしまいそうな、瞳……体は弱々しく細い。

 昔の筋骨隆々で知的な彼の姿はなかったが、その覇気は未だ衰えていない。
 僕は……

 彼を追いかけてたんだ。

「……………もちろんだよ」

 そう言おうとした時だった。

 とてつもない轟音が部屋中に響き渡った。
 音が耳に入った時点で彼は全てわかったようだ。

「魔物が来たようだ」

 ご主人様は頷いた。
 なんて優しいんだろうか。

 すぐにでも、家族を探しに行きたいだろうに……。
 家族が目の前で死んで、家族を目の前で殺して……彼女ほど壮絶な人生を歩んでいる人はなかなかいない。

 そんな彼女を守りたいと思ってしまう。
 愛おしい、愛くるしい、僕のご主人様。

 高望みするんだったら、ご主人様の家族がここに集まって、この国で暮らしたい。

 そして、もっと望むならご主人様のパートナーになりたい……!

 顔が熱くなる。
 誰にも……取られたくないと考えるたびに、色々と辛くなる。

 ダメだな。

 ご主人様の決意の決まった顔をしているのに、僕がこんな調子じゃ……。
 横を見れば、鋭い瞳に力強い意志が宿っている。

 握る手には力がこもっている。

「行くわよ!」

 そう言って、踵を返して走り出すご主人様。
 僕は無言でその後についていくのだった。
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