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悪魔と密約者(とある悪魔視点)

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 見つからない。
 どこにもいない。

 この広い世界から、たった一人の人間の娘を探せという命令が下った時、面倒だとは思いつつも、すぐに見つかると思っていた。

 だが、思っていた以上にそれは難航し、一ヶ月以上経っている。

「くそが!早く見つけなければ……!」

 俺は焦りながらも世界各地を回った。
 人間の国、獣人の国、吸血鬼、魔族領もだ。

 それが一ヶ月以内に行えるのは悪魔の特権だろう。
 俺は悪魔。

 悪魔は異界に住む生物、そしてこの世界では誰よりも強い種族だ!

 そして、数名の悪魔はこの地上に放たれた。
 我らの主人的立ち位置にあらせられる悪魔の少女。

 それは力こそ全ての悪魔の中では若い部類で、なおかつ強い。

 誰も寄せ付けない天才的な力。
 魔力の性質は特に厄介で、すべてを支配するという凶悪な権能だった。

 何人たりとも少女に立ち向かえば、確実に死ぬか眷属に降った。
 俺は、支配される前に自らその力に惚れ込み、部下となることを志願した。

 そして、少女の命令で地上に降り立った。
 数名がかりで一人の人間の少女を探し、時期にエルフの森という辺境の土地まあでやってきた。

 ここは嫌いだ。
 敵対する精霊という種が支配している土地だからだ。

 力を持ちながら、それを弱者を庇護するために使う馬鹿な連中。
 あいつらとは馬が合わなかった。

 森の動物を魔物化させて、捜索にあたる。
 それから一週間。

 現在に至る。

「成果はあったか?」

「はい」

 とある場所、その場所には悪魔たる俺と、その部下がいる。

「集団で行動させていた、魔物の部隊が一部消滅しました。忽然と」

「ほう?」

 魔物をまとめて集団行動をさせ、効率化を図っていた。
 それが功を奏したのか?

「これは森に住む下等種には不可能だと愚行します」

 部下のその考えは最もだった。

「そこに探し求める少女、ベアトリスがいると思うか?」

「はい。聞けばその人間種、そこそこやれるようです」

「我らが主人を追い詰めたとか。ふん!馬鹿馬鹿しい、そんなわけがない」

 いつも冷静沈着、冷酷なあの少女。
 人を痛めつけ、精神を壊すまでおもちゃとして弄ぶあの少女が初めて、ボロボロになった帰ってきた。

 服も穴が開いて、擦り傷がいくつかあった。
 ただ、所詮はその程度。

「擦り傷しか与えられないような雑魚が、俺に勝てるわけがない。さっさと探し出せ」

「はっ!」

 部下は闇に溶け込みその場から姿を消す。
 そして、俺は足跡で作った玉座に座ろうとする。

 辺りは土……面白味もない洞窟の一つだ。
 こんなところを拠点にするのは癪に触るが、しょうがない。

 そして、座ろうとしたその時、

「失礼するよー」

「!」

 軽口を叩かれ、誰かが中に入ってくる。

(俺に気配を悟らせないとは……)

 その時点で、俺の興味はかなりそそられた。
 洞窟の一角、その奥にある廊下のようになっている通路から、一人の人間……いや、エルフが出てきた。

「貴様はエルフか」

「そうさ。そういう君は悪魔らしいねぇ」

「酔狂なエルフもいたものだ、悪魔に挑むなどとはな」

 俺の見た目はお世辞にも弱そうには見えないだろう。
 鋼鉄な黒い鎧……外皮に覆われていて、胸の部分から赤く光コアがある。

 これが力の正体であり、それが剥き出しになっているのだから、普通の生物が見れば、恐怖することだろう。

 荒れ狂う魔力が一つのコアに収束されているのだから。

「挑むなんてことはしないさ、愚の骨頂だからね」

「ふん、じゃあ死を捧げにきたのか」

 近づいてくるそのエルフを警戒する必要はない。
 俺はそう思い、堂々とその場に立っている。

 だが、

「!」

「ほら、これを反応するんだから、勝てるわけないよね」

 突き出された剣は俺にかかれば軽々避けられるものだった。
 しかし、油断していたとはいえ、攻撃する隙を与えてしまった。

「僕はねえ、こう見えてエルフの中ではかなり強いんだ」

「そのようだな、だが、勝負をしにきたわけじゃないんだな」

 その剣筋に闘気が感じられなかった。

「ようやく見つけたよ……ここを突き止めるのは簡単だったけど、入るのが難しかったな」

「俺の部下を相手したのか」

「ああ、あいつらよりかは僕の方が強かったようだ」

 狂ったように笑みを浮かべるエルフ。

(ふん、強いが故に狂ったか)

 力を求める弱者は、俺たちのように生まれつき強いわけじゃない。
 強さを求め続け、最終的に精神は追い詰められる。

 エルフは寿命が長いと言われているらしいが、ひよっこに過ぎない。
 力に見合わず、精神が未熟だったのだ。

 その結果、彼は壊れたのだろう。

「なあ悪魔、僕と取引をしないか?」

「取引か、なんだ?言ってみろ」

「そうこなくちゃなぁ!」

 嬉しそうにしながら、剣をしまった。

「僕が提示するのはとある人間の殺害という依頼だよ」

「人間だと?それはどんな人間だ」

「そこまで食いつくとはね。……黒髪黒目の若い女だ、というか子供だね」

「なるほど、条件は一致するな……」

 我々悪魔が血眼で探している少女の特徴に合致した。
 ようやく見つけた……。

「あいつは、僕の剣を見たんだ……」

 そう語り始める目の前のエルフ。

「誰にも見切られることがない、僕の剣が!戒めの人間に読まれたんだ!僕に対する侮辱、万死に値する」

 強いが故に、馬鹿だ。
 強いというのは狭い世界だけの話。

 井の中の蛙、大海を知らず

 その程度で怒ってしまうような未熟な精神。
 おそらく王族だろうな。

 チヤホヤされて、尊敬されて、自分に叶うものはいないと思われた。
 だが、自慢の剣筋を読まれたんだろう。

 俺は悪魔、伝説ともされる圧倒的強者。
 だから、彼もそれには納得したのだろう。

 だが、敵対する人間に読まれたことは彼にとって初めての屈辱だった。

「いいだろう、しかし……」

「見返り、だろう?」

「いや、それはいらない」

「なんだって?」

「一つその条件を訂正してほしいんだ」

「……へー、それはなんだい?」

 迷うことなく俺は断言する。

「俺がその人間を殺すことはない」

「なぜだ!契約は守れ!」

「代わりに俺はそいつを捕らえ、とある方の元に連れて行く」

「とある方?」

「俺よりも圧倒的な力を持ち、誰よりも冷酷な心を持っている悪魔だ」

 少し悩んだ後、妥協するかのようにエルフは頷いた。

「いいだろう、ただし僕から提示する褒美はないと思ってくれ」

「構わんな。俺は任務を果たせる……ところで、どこで俺の存在を知った」

「ああ、トレイル……僕の妹が情報を持って来たんだ。精霊が悪魔の存在を——」

「なんだと?」

 既にこちらの存在はバレている?
 それはそうだ。

 精霊は森の支配者。
 俺たち悪魔の存在を感知されてもしょうがない。

 だが、エルフにも我々の存在がバレているのであれば、話は別だ。
 極秘の任務、誰にも悟られてはならない。

 それに、エルフの森……街の中に人間がいることはわかった。

「近日中に、エルフの森を襲う」

「ああ、多少の犠牲はやむおえないね」

「ふん、せいぜい死なないように過ごすんだな」

「わかっているさ、君の部下程度なら、僕でも倒せるし」

 エルフは帰って行く。
 異変に気付いた部下が中に突入してくるが、そいつらを自慢の剣撃でもって切り裂いた。

(ふふふ、ようやく見つけた。さっさと捕らえて、こんな薄汚い精霊の領地から出たいものだな)

 俺は玉座に座り直した。
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