上 下
178 / 504

受ける

しおりを挟む
「どこから話しましょうか……」

「ひとまず、魔物急増の原因について教えて欲しいの」

 精霊を目の前に、私たち四人は話を聞く。
 半ば脅しのようだったが、こればっかりはしょうがない。

「まず結論から申し上げますね」

「……………」

「魔物急増の原因は悪魔です」

「あ、悪魔?」

 その一言で私の体に緊張が走る。
 それはトレイルにも見えていたようで、四人全員が気を引き締める。

「悪魔、あなたならわかりますよね」

「!」

「悪魔、私たち精霊をは相反する生命体。自然を愛する私たち精霊と、力を欲する悪魔。その悪魔がこの森にもやってきているのです」

「悪魔……なんでここに……?」

「お分かりでしょう?」

 聞きたくなかった。
 私の中で、答えは出ていたから。

「あなたのせいです」

 精霊の目つきが変わった。
 厳しい目つきは私を恨むかのようだった。

「ただ、あなたに怒っても仕方ありません。あなたの境遇は……なんとも悲惨ですので」

「精霊さん……」

 表情は和らぎ、説明が始まる。

「悪魔たちがなんらかの方法によって召喚され、あなたを捜索しています。その捜索範囲がついにここまで広がったのです」

 私は一ヶ月寝たきりだったらしい。
 だったら、私を探す範囲が広がってもおかしくない。

 あの悪魔……屋敷にいた少女は、私を殺したがっていた。
 ここがどこなのかは知らないけど、怖い。

 あの悪魔が私を探している。
 それだけで怖いのだ。

「悪魔は魔物たちを放ちました。この森に魔物を放った悪魔を倒せば、魔物たちは散り散りになり、自然と死ぬでしょう」

「じゃあ、その悪魔を殺せばいいの?」

「そうなりますね」

「エルフたちじゃ対処できないわけだ……」

「精霊も、悪魔も……人の世では伝説の生物ですもの。その実力もまた伝説……御伽噺の域です」

 つまり、この精霊もまた悪魔と同じくらい強いはずだ。

「自分から出向かないのは?」

「その理由ですか……。しょうがないですね。私は精霊の中でも下っ端。精霊の中には長老会というものが存在します。その臆病な上位精霊たちのせいで、下界に降りることは許可されていません」

「無理やり出たら……」

「上位精霊たちは、私たち下位の精霊に対して、絶対の命令権を有しています。すなわち、私がここから出ることは現実的にも不可能なのです」

 とても残念そうにしている精霊。
 だが、下位とは言っても人の形を保っていることから、精霊全体の枠組みで見れば上位のはずなんだが……。

 それよりも上の長老会の連中とは一体……。

「そこで、私は考えたのです」

「何を?」

「ちょうどよく現れた一人の少女。その少女はとても強い。時期にあのメアリにも並ぶでしょう」

「メアリって、母様……!」

「少女を森に取り込めば、エルフたちも森の生物たちも安心して暮らせるんです」

「でも、それだったらいつか悪魔たちにバレるんじゃ?」

「私の計算では、悪魔共に気づかれた頃には、あなたの実力はそれを遥かに越しているはず。結果的に、あなたは悪魔を倒したのち家族探しの旅に出て、エルフは平穏を取り戻す。私は命令違反をせずに、森を守れる。全員が得するはずでした……」

 表情は暗く、私はその意味を理解した。
 自分で言うのもなんだが、精霊の予想よりかは私の頭は良かったようだ。

 私がなぜ『私にお願いしたのか?』と言うことに気づいてしまったのが、精霊の予想外だったのだろう。

「私は、この森を守りたい。我々が愛した自然を守りたいのです。それにはあなたの力が必要なんです」

「……………」

「お願いします、ベアトリス様」

「!」

「我々に力を貸してくださいませ」

 精霊が深々とお辞儀をする。

「私は……」

 正直迷っていた。
 ここで足止めを食らっている間に家族の身柄が危ないかもしれない。

 それに、私がエルフたちを守る義理はない。

 ただ……。

 精霊は本気だった。
 私に対して……ただの人間如きに頭を下げてお願いしている。

「ベアトリス……」

「ご主人様?」

 二人が私の方を見る。
 全ては私の判断か……。

「もう、そんな目で見ないでよ」

 仲間にまでそんな顔させておいて、私のメンツが持たないよ……。

「しょうがないわね。その依頼、受けるわ」

「本当ですか?」

「女に二言はないのよ」

「ありがとうございます!あなたは……私はあなたを騙していたのに、なんてお優しい方なんでしょうか」

「ほ、褒めても何も出ないわよ」

 ふと、トレイルの方を見る。
 状況はわかっていなさそうなトレイル。

 だが、エルフのために何かしようとしていることは伝わったようだ。
 よくもわからず、嬉しそうな顔をしている。

「本当にありがとうございます」

「森が破壊されたりしたら、寝覚めが悪いしね」

「精霊、ご主人様は素直じゃないだけだから、気にしないでね」

「うふふ、わかっていますわ魔王様」

「ちょっと!」

 あはは、という笑いが起き、そして、精霊が口を開く。

「ああ、すみません。忘れていました」

「ん?何が?」

「真実をお話しして、なのになんの手助けもなしにお願いするのは申し訳ない」

「手助け?」

「そう手助けです。私は直接的に森を守ることはできません。しかし、間接的に森を助けることはできます」

「え?」

 そう言った途端、精霊が突然輝きを増した。
 若干発光していた精霊が眩しくて直視できないレベルで光り始める。

「あなたに精霊の加護があらんことを……」

 そう言われ、手をかざされ、私の体も発光し始めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

星の記憶

鳳聖院 雀羅
ファンタジー
宇宙の精神とは、そして星の意思とは… 日本神話 、北欧神話、ギリシャ神話、 エジプト神話、 旧新聖書創世記 など世界中の神話や伝承等を、融合させ、独特な世界観で、謎が謎を呼ぶSFファンタジーです 人類が抱える大きな課題と試練 【神】=【『人』】=【魔】 の複雑に絡み合う壮大なるギャラクシーファンタジーです

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

前世は最悪だったのに神の世界に行ったら神々全員&転生先の家族から溺愛されて幸せ!?しかも最強➕契約した者、創られた者は過保護すぎ!他者も!?

a.m.
ファンタジー
主人公柳沢 尊(やなぎさわ たける)は最悪な人生だった・・耐えられず心が壊れ自殺してしまう。 気が付くと神の世界にいた。 そして目の前には、多数の神々いて「柳沢尊よ、幸せに出来なくてすまなかった転生の前に前の人生で壊れてしまった心を一緒に治そう」 そうして神々たちとの生活が始まるのだった... もちろん転生もします 神の逆鱗は、尊を傷つけること。 神「我々の子、愛し子を傷つける者は何であろうと容赦しない!」 神々&転生先の家族から溺愛! 成長速度は遅いです。 じっくり成長させようと思います。 一年一年丁寧に書いていきます。 二年後等とはしません。 今のところ。 前世で味わえなかった幸せを! 家族との思い出を大切に。 現在転生後···· 0歳  1章物語の要点······神々との出会い  1章②物語の要点······家族&神々の愛情 現在1章③物語の要点······? 想像力が9/25日から爆発しまして増えたための変えました。 学校編&冒険編はもう少し進んでから ―――編、―――編―――編まだまだ色んなのを書く予定―――は秘密    処女作なのでお手柔らかにお願いします。文章を書くのが下手なので誤字脱字や比例していたらコメントに書いていただけたらすぐに直しますのでお願いします。(背景などの細かいところはまだ全く書けないのですいません。)主人公以外の目線は、お気に入り100になり次第別に書きますのでそちらの方もよろしくお願いします。(詳細は200) 感想お願いいたします。 ❕只今話を繋げ中なためしおりの方は注意❕ 目線、詳細は本編の間に入れました 2020年9月毎日投稿予定(何もなければ)  頑張ります (心の中で読んでくださる皆さんに物語の何か案があれば教えてほしい~~🙏)と思ってしまいました。人物、魔物、物語の流れなど何でも、皆さんの理想に追いつくために! 旧 転生したら最強だったし幸せだった

処理中です...