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目覚め

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 深い眠りの中にいた。
 暗闇の中を一人でずっと歩いていた。

 歩く目的を理解せずに、ただただひたすらに一直線に進んでいく。
 その末に見つけたものは、なんだったか。

 正確には覚えていない。
 だが、

(母様……)

 はっきりと二人の女性の顔が見えたことだけは覚えていた。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


 辺りは静かで静まり返っており、私の耳は木々が揺れる音、動物たちの戯れる音だけを聞いていた。

 それが、眠りを加速させ、さらに深い場所まで誘われようとしていた。

 その時、何か鼻に刺激を感じた。
 耳に聞こえる自然音とは真逆で、この世の匂いとは思えない。

 それぞれ感じる感覚の差が鍵となり、私の眠りは浅くなり始める。

「——ああ!ちょっと失敗しちゃった……」

「何やってるの!?あー、これ食べれるの?」

「むぅ、多分大丈夫だよ!」

 そんな声も聞こえてきた。

(誰の声……だっけ?)

 寝ている私は思考がうまく回ることはない。
 そして、時期に、

「大丈夫かな、食べさせて……」

「ご主人様はきっと喜んでくれるもん!」

「ほんとかぁ?はぁ、僕が作ればよかったな……」

「ほら、早くあげてやりなよ!」

 そして、匂いの元が近づいてきた。
 私がなぜか拒否反応のようなものを示す。

 そして、徐々に近づいてくるその匂いを避ける前に、口の中にその味が広がった。

(まずっ!)

 その刺激が私の頭を目覚めさせる。

「んん!」

「え!?」

 口の中に入れられたそれを引き出す。

(スプーン?)

 木で作られた木製のスプーンが口の中に入っていた。

 そして、

「ベアトリス?」

 私は声のした方向を見る。
 そこには、

「レオ君!」

「!」

 私は思わず抱きついた。
 あの戦いの中、やっぱり無事で……もし本当は死んでて、私の妄想だったらどうしようとか思ってた。

「ちょ、ちょっと!離して……」

「やだ!」

 嬉しさのあまり、抱きしめる強さが上がる。
 服の上からでも、モフモフの毛並みが感じられる。

 懐かしい気分だ。
 ガバッと起き上がった私の体は所々痛む。

 しかし、そんなの気にならなかった。

「よかったぁ……」

「あの、ベアトリスさん?そろそろ……」

 レオ君の頭をわしゃわしゃとなでる。

「あぅ!」

 私の精神年齢的に、自分の子供にあやされている気分だ。
 恥ずかしいが、それよりも幸せで嬉しかった。

「はい!そこでイチャイチャしないでください!」

 レオ君のじゃない声がする。
 そして、レオ君が私を無理やり引き剥がす。

 その顔は、かなり赤くなっていた。

「ご主人様!そういう思わせぶりなことをすると、すぐに男が寄ってきますよ!」

「え?……あ!ユーリなの?」

「そうですそうです!ご主人様!」

 目の前にいるのは小さなキツネでも、巨大なキツネでもなかった。
 目の前にいるのは、小さな少女。

 明るい茶色の髪色で、獣人のような耳が横に生えていた。
 赤と白で整えられている服は、どこか着物のようだった。

 尻尾も生えていて、側から見たら、完全に獣人だった。

「そういえば、ここはどこ?」

 あたりを見渡すと、そこはボロ小屋だった。
 今にも壊れてしまいそうなほどボロい小さな家の中に三人がいる。

 その奥、隙間からは森が見える。

「さあ?わかりません!」

「そんなに自信満々に言わないでよ……」

「嫌ですぅ!わかってても教えてあげません!愛しのダーリンとイチャイチャしてればいいんですよ!」

 ユーリがツンとしている。
 この子、こんな性格だったのか……。

「っていうか、イチャイチャしてないし!私たちはただ感動の再会を……ねえ、レオ君」

「へ?あ、うん!」

 惚けていたレオ君に問うと、それに追従するように、レオ君も同意した。

「まあいいです!ご主人様が誰と付き合おうと!でも、僕がいるんですからね!」

 嫉妬深いなーこの子。(遠い目)

「そういえば、ユーリ。なんで一人称別々なの?」

「?」

「ほら、この前の屋敷での戦いでは『我!』っていてたじゃん」

「あー」

 何やら恥ずかしげに頬を掻くユーリ。

「あれはただ……カッコつけただけです!」

「え?」

「ぼ、僕だってご主人様にいいところ見せたいんだもん!だからカッコよくて頼り甲斐のある『漢』になりたかったの!」

「ふふふ、何よそれ。でもまあ、ありがとね」

 ユーリも結局は自分のことを思ってくれていたと考えると、嬉しさでニヤケが止まらない。

 どうにか笑って誤魔化す。

「あ、そうだ。フォーマはどうしたの?」

「「!」」

 私の何気ない問いに二人の顔から緊張が走った。

「え?どうしたの?フォーマに何かあった?」

 少し心配になり聞く。
 すると、予想外な回答が返ってきた。

「僕たちと一緒じゃなかったんだ」

「え?」

「転移するときに、転移陣の中に体全体が入ってなくて、少しはみ出してたみたい。転移したのは間違い無いけど、どこか別の場所に落とされたのかも……」

 レオ君がシュンとして、表情を陰らせる。
 耳も尻尾も垂れて、本気で落ち込んでいるようだった。

「大丈夫だよ」

 優しく顔を触る。

「フォーマのことだもん。すぐに、また会えるって」

「そうかな?」

「忘れたの?私たちよりも強いんだよ?」

「うん……」

 泣きそうに潤んでいるレオ君の瞳。
 ハンカチをあげようとしたところで、

「もう!すぐにまたイチャつくんだから!」

「な!イチャついてないよ!」

「いいもん、いいもん!僕は一人でいるからさ!」

 拗ねて顔を膨らませているユーリ。
 可愛いが、慰めてあげなければ……。

「ひとまずは、一緒にいて?状況の整理とかもしたいからさ」

「ふん!」

「ほら、この中で一番強いのってユーリでしょ?頼りにしているわ」

「本当!?わかった!」

 チョロすぎる……。

「って、ちなみに程度の話なんだけどさ」

「ん?」

「ユーリって女の子だったんだね」

 どこからどう見ても女の子だ。
 髪は若干長く、肩の辺りまである。

 仕草や表情の変化もまさしく女性。

 ただ、私とお風呂を一緒に入りたがらないのが、いかんせん疑問だ。


 そう思っていた時期が私にもありました。


「え?僕、男だよ?」
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