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奮戦の末

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 そこからは私の反撃が始まった。

 強大な魔法を使うわけでもなく、誰にも見えないほどの高速で動くわけでもない。

 ただただ、言葉を放つのみ。

 止まれや、消えろなど……。
 どうやら、「消えろ」とか言う、物騒な言葉は、それに類似した現象が起きるだけにすぎないっぽい。

 消えろといえば、ランダムな場所に転移させられる。
 強制転移……しかし、相手が転移魔法を使える場合は時間稼ぎにしかならない。

 死ねも同様だ。
 強烈な言葉になればなるほど、意に反した現象しか起きなかった。

 それはそうだ。
 流石に私が、言葉一つで相手の命を奪えたら、正真正銘の化け物だろう。

 むしろ、神だよ。
 そんなことがあるわけもなく、フォーマも戦いに参加して、私たちは善戦し始めた。

「鬱陶しいわね……これじゃつまらないわ!」

「私たち三人を相手しても、まだ喋る余裕があるのね……」

 私の話術師としての力よりも異常なのは、目の前の少女だ。
 強制転移させても、瞬間的に後ろに回られるだけだ。

 吹き飛ばせても、いつの間にか目の前に現れる。
 フォーマの『未来予知』の力を持ってしても攻撃が当たることはない。

 フォーマ曰く、単純な能力値の差のようだ。
 いくら先読みができると言っても、相手がそれを超えて動いてくるため、当たらない。

 この屋敷を含む空間を『支配』しているというのは、時間も合わせてという意味なのだろう。

(空間把握に未来も把握できるってこと?いくら三人だからって、厳しいわね)

 こちらは手数で勝っている。
 彼女が防げない同時の攻撃を浴びせるしかない。

 どうにか隙を生み出し、三人で不可避の攻撃をする。
 そうすればこいつを倒せるだろう。

 こいつを倒して、早く捜索しなくてはならない。
 アレンや、父様……ミサリーもだ、今はどこにいるのだろうか……。

 もし、みんな私が母親……ヘレナを殺したと知ったら、なんというのだろうか?

「そんな奴だとは思わなかった」「悪魔め」「幻滅しました」
 そんな言葉が頭の中をよぎる。

 頭をわしゃわしゃをかきむしり、目の前の少女に集中する。

『滑ろ』

 いろんな言葉を試しながら、フォーマがそれに合わせて、レオ君が後ろに回り込む。

 そして、『滑ろ』という言葉はどうやら正解だったらしい。

 地面になんの前触れもなく、氷が生まれた。
 この燃え盛る炎の中、氷は溶けることなく、少女が立つ地面の上に現れる。

「な!?」

 戦闘中、いきなり地面が滑ったら……それは大きな隙となる。
 それは少女も例外ではない。

「今!」

「了解」

 フォーマはすぐに動き出す。
 前側にバランスを崩した少女の首元を狙って光魔法。

 しかし背後から現れる闇の魔法にブロックされる。
 すかさず動き出すレオ君。

 闇魔法が切れた瞬間に懐に飛び込む。
 だが、

「調子に乗るな!」

 少女が足場から浮遊し、レオ君の攻撃を避ける。
 しかし、それは私の狙い通りでもあった。

『張り付け』

「!?」

 飛び上がった少女の背後から木の枝のようなものが生えてきた。
 それも崩れかけの屋根から……。

 こちらも氷と同様に、燃えることはなく、少女の手足を縛っていく。
 フォーマと戦った時も、この戦法はうまくいった。

 隙を作って、そこを突き、回避した先に罠を設置する。
 罠と呼んでいいのかはわからないが、

「クソガァ!」

 咆哮のような耳をつんざくような声が少女から発せられる。
 この少女は本当に人間なのだろうか?

 私と同じくらいの年齢なのに、三人で戦っても攻めきれない。
 だが、

「これで終わりよ!」

 フォーマと目配せする。
 それを見た、レオ君は自分が何もできないことを察してか、ユーリのそばまで行く。

 意外にも、ユーリはレオ君に懐いていた。

「フォーマ!なんか一番強い魔法を!」

「適当……了解」

 フォーマがいつもよりも大きく目の見開き、その目がどんどん充血していく。
 彼女が何をしているのかはわからないが、手に集まっていく、極大の魔力弾を放とうとしていることだけはわかった。

「協力者、それなりに楽しかった」

「!」

「地獄で、会おう」

 そう言って、その魔力の魂が拘束された少女に向かって放たれる。

(勝った——!)

 そう思った瞬間だった。

「舐めるなあああああぁぁぁぁ!」

「な——!」

 驚きを口にしようとした私の声は、途中で遮られる。
 いや、

(声が、出せない!?)

 枝から伸びて、少女を拘束していたツタが破れ、少女が素手でフォーマの放った魔法をはじき返す。

「!」

 それを予想していなかったフォーマはそれをもろにくらってしまった。
 凄まじい轟音が響く。

「——!」

 フォーマの名前を叫ぼうとした私の声は、耳に届くことはなく、その代わりに、

「馬鹿にしやがってええええぇぇぇ!」

 怒りに震えている少女が頭を抱えていた。
 それは、か弱い少女の姿ではなく、肌が変色しつつあった。

「メアリも……お前も!卑怯なんだよお!」

「!」

「私が、本気を出せないからって、卑怯な手を使いやがってええ!」

 そう叫ぶ少女は頭からツノが生えかかったり、肌が変色したり、服が変形したり、少しずつ変化するが、最後には元の『人間』の姿に戻った。

「はあ、はあ……だめ。使ったらお姉さまに怒られるわ……」

「——!」

「よくもやってくれたわね!ベアトリス、あなたは最後に殺す!」

 その目は、怒りに血走っていた。
 そして、さっきと同じように姿が消える。

「まずはあなたたちから」

 後ろから声が聞こえた。

 すぐさま振り向いたその先にいたのは、ユーリを抱き抱えてうずくまっているレオ君と、それに向かって魔法を放とうとしている少女の姿だった。

(やめて!)

 その声も虚しく、無残にも至近距離でその魔法は放たれた。
 フォーマの魔法と同等だと思われた、その魔法はユーリとレオ君に直接当たり、煙で姿が見えなくなった。

 やがて、煙が晴れた時には、二人とも遠くに吹き飛ばされていた。

「殺す、殺してやるわ、ベアトリス!」

 そんな少女の叫びは、私の耳に届くことはなかった。
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