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ハズレ

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「支配?」

「そう!すべてを自分のものにする最高の力よ!」

 なんだそれ、反則級じゃないか……。
 性質の強さによって、その本人の実力も大きく左右される。

 支配なんていうとんでもない能力があるなら、私にできることはあるのか?

(やるだけやるしかない)

 気合を入れ直したところで、少女がとんでもないことを言った。

「まあ、元々の私の力じゃないんだけれどね」

「は?」

 どういうこと?
 性質というのは、生まれつきのもので、元々は他人の力というのはあり得ない。

「完璧には扱えない。だけれどね——」

 再び、姿が消えた。
 だが、すぐに同じ場所に再度現れる。

「この空間を『支配』することは可能よ」

「空間を?」

「この屋敷の中はすでに私の支配下なの。だから、あなたたちがいくら攻撃しても、当たることはほとんどない、それに私がやろうと思えば、空間ごと葬れるのよね」

「私が棒立ちだったら、流石に当たるけどね」と、付け足した少女。
 だが、もちろんのことながら、戦闘中に棒立ちするバカはいないわけで……。

 要するに絶対勝てないってわけか……。

 は?

「嘘でしょ……」

「まあ、頑張りなさいな」

 会話が切られ再び始まる猛攻。
 結果を先に言ってしまえば、平行線だ。

 私たちの攻撃が当たることはなく、少女も私たちを本気で殺そうとしなかった。

「つまんないわ、もう少し頑張ってよ」

「こっちは本気だよ、こんちくしょーが!」

 少女は余裕の表情を崩さず、私の攻撃をすべて躱す。
 空間を支配……統治下においているからわかるのだろうか?

「おらぁ!」

「見えてる」

 不意打ちの一撃……同時攻撃のすべてが、止められてしまった。

「ああもう!どうしろっていうのよ!」

「やっぱりまだ弱いわね。せめて職業補正がかかればまともにはなるんでしょうけど……」

「チッ!」

 職業を持っていない私は、職業の補正を受けられない。
 スキル自体は使用が可能だが、力が安定せずに連発できないし、反対に体力を消耗するだけのものなのだ。

 私はもう十歳。
 ほんとだったら職業を手に入れていたはずなのに……。

 思い出すのは教会の一室。
 少し広い部屋に子供たちが集められて、オーブに手をかざし職業を得る。

 それを神官たちに教えてもらうのだ。

(せめて、ここにフォーマがいたら……)

 私たち二人と同等の力を有する彼女がいれば、少なくとも逃げ出すことはできるだろうに……。

 そんな想像を膨らませていた時だった。

「?私の性質に干渉?」

 そう、少女が疑問符を浮かべる。
 次の瞬間には、私もその気配を感じとる。

 それは、さっきも会ったばかりの人物の気配だった。
 転移魔法で現れた人物。

「フォーマ!」

「戻った」

「あら?狂信嬢じゃない。あんた生きてたの?」

「ん、一応」

 やはり、この二人は知り合いだったのか……。
 なんとなく思っていたが、フォーマが元々所属していた組織と、この少女はなんらかの関わりがあるのでは?と、思っていたのだ。

 私のことをどうやら殺したがっているようだしね。

「それと、手に入れてきた」

「何を……って!?」

 フォーマはいつもの白装束を着ている。
 だが、いつもと違う部分があった。

 手に小さめの袋を握っている。
 フォーマがここにきてから一度も見たことがない袋だった。

 そこに手を突っ込み、それを取り出す。

「水晶……職業鑑定のオーブ?」

「それ」

「な、なんで!?」

「忘れた?私は教会所属」

「あ……!」

 そうだった!
 この人元々教会の人間だった!

 白装束等不気味な格好も、よくよく見れば、神官が来ていそうな服だ。
 少し特殊だが……。

「狂信嬢。あんた何やってんの?」

「主人に尽くす」

「は?お前が?」

「……………」

 睨み合いが数秒間続き、

「いつまで教義に従ってるのよ!人間の異端審問官風情が、調子に乗るな!」

 色々と聞きたいことが山ほどできた。
 教義の内容や、異端審問官というワードも。

 だが、今は……。

「フォーマ!鑑定!」

「ん」

「させないわ!」

 流石に、フォーマと私、それにレオ君と同時に戦うのは面倒だと思ったのか、それを阻止しようとしてくる。

 だが、

「キュン!」

「!?この獣……どけ!」

 ユーリが少女の腕に噛み付いた。
 そして、その噛んだ部分からは血が流れていた。

(すごい……ユーリ。私たちじゃ擦り傷を与える程度だったのに……)

 しかも、少女の性質の力を聞く限り、わざとくらったと考えた方がいいだろう。
 私たちは擦り傷も満足に与えられなかったのだ。

 それを考えると、ユーリって、私たちよりも強いのかもしれない。
 そう思って、自信をなくしそうになるが、私は急いで鑑定をしてもらう。

「きみは神の前に立つ。かくて、十歳になりしためしをここに宣言せり。神はきみ認め、褒美に生業を与ふ。それを受け入れよ」

 珍しく、饒舌になったフォーマがそう呪文を唱える。
 前世でも、聞いたことがある呪文だった。

(これで、戻ってくるのね)

 過去、前世で手に入れた職業。
 それが今手元に戻ってきた。

 元から使えた能力ではあるものの、確実に効力が倍化したのを感じる。

 愕然とした変化は訪れない。
 魔力が膨大化することもなければ、謎の力が現れて、覚醒したかのような気分にはならない。

 だが、はしっかりと私の体の中に入ってくるのを感じた。

 それと同時にユーリが振り落とされた。

(ごめんユーリ。後でちゃんと治してあげるから)

 心の中で謝罪を述べて、

『止まれ』

「!?」

 突然、少女の体が動かなくなった。
 しかし、脳機能などは正常に動いているため、死んだわけではない。

「くっ!……こんなの支配、すれ、ば!」

「やっぱりそう簡単にはいかないか……」

 パリンと何かがはじけて、少女の体が再び動き始める。

「はあ、はあ……何をしたの!?」

 まともに自分の動きを制限されたことに驚いたのか、少女が声を荒げる。

「職業の恩恵よ」

「何よそれ!そんな力聞いたことない!」

 勇者を筆頭に、聖女、剣聖、賢者と呼ばれる人たちの職業スキルには、私のような力を持つスキルは存在しないだろう。

「知らなくても、当然よ。だって、だもの」

「ハズレですって……?」

 ——そう、この職業は私の前世で、『ハズレ』と呼ばれていた。
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