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騎士になる
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「きゃー!ベア様よー!こっち向いてー!」
「どうしてこうなった……」
遡ること数時間前。
私ことベアトリスは騎士団の中に潜入した。
私の素性は「ラディ副団長の妹だ」と言ってごまかした。
実をいうと、騎士団に入ったこと自体は一週間ほど前のことなのだ。
つまり、駐屯地でラディを味方につけてから一週間が経過し、その間にもいろいろ進展があった。
まず、私は完全に男の格好となった。
いや、別に私に男装の趣味があるわけじゃない。
ただ、騎士団に女がいることはなく、いたとしても掃除のおばちゃんとかだけだ。
女性に心を惑わさぬようにとのことらしい。
そのせいで私は男の匂いがするという香水?をかけられ、いっぱしの騎士の制服(これまた男用)を着て、完璧だ。
そして、私が副団長の妹という情報は、貴族たちに批判を受けかねない。
だって、私妹と公言したんだもん。
副団長には緘口令を敷いてもらい、ごく一部の騎士にしか知らされない事実と化した。
話は戻して数時間前。
「なんで私が獣王都市に向かわなければならないの?」
「うるせー、無理やりお前を『騎士団長補佐』を抜擢したもんだから、怪しまれてんだよ」
「なんとかしてよ」
「あ?お前が何とかしろよ」
相変わらず、ラディとは馬が合わなく、こうして今も獣王都市……首都を目指した馬車で口喧嘩をしている。
ここに乗っているのは副団長ラディ、団長カイラスさん、そして私こと団長補佐。
今回の呼び出しは、国王からだった。
国王の許可なしに、人員を入れるとは何事か!
というどこから聞いたのかわからない貴族たちの意見が肥大化し、さすがの温厚な国王もしぶしぶ私たちを呼び出したらしい。
「とんだ迷惑ですよ」
「だったら、さっさと出てけよ!」
「まあまあ、落ち着けって二人とも」
仲を取り持つカイラスさん。
まともなのはこの人だけだ。
豪華な馬車はさっそうと草原を駆け抜け、ガタガタという音も小さく鳴らすものの、大した揺れは感じなかった。
それこそ、帝国遠征の時なんて、死ぬかと思った。
睡眠魔法や麻痺などの魔法でそれらを耐え忍んでいたわけだが、それにも『耐性』がついてしまったのだ。
幸運にも、揺れが少なくて助かった。
「それで、今日のスケジュールは何だったかな?」
「あ、はい!まず、国王との謁見のあと、騎士団長様は本部会議に出席。そののちに、第二騎士団団長と顔を合わせたのちに、早急に帰宅という手順です!」
「ははは!ラディ!お前の妹は、お前自身よりも優秀だぞ!」
「……ちっ」
補佐官としての役割はしっかりと果さなきゃな。
そうしなくては、買って出た意味がない。
(それにしても、この二人って仲がいいんだな)
地位とか関係ないというように、仲がいい二人。
それをほほえましく感じていた時だった。
私の張っていた探知魔法……仮に魔力感知と呼称しよう……魔力感知に反応があった。
「騎士団長」
「あ、なんだ?」
「敵です」
「なに?」
私は詳しい情報を二人に伝えた。
「距離は三百ほど先、まあゴブリンの群れでしょう」
「そうか、なら問題は……」
「問題はその先です。どうやら、何者かがゴブリンに襲われているみたいです」
「なんだと!?」
血相を変えるカイラスさん。
やはりこの人は優しい。
私との接し方もそうだが、仁徳にあふれているようだった。
(と、そんなこと気にしている暇はなさそうよね)
「では、私は先に向かいます」
「は?なにを……」
聞かれる前に、馬車の扉を開け、上に飛び乗る。
(みっけ)
♦︎♢♦︎♢♦︎
「くそくそ!なんだこいつは!」
「ただのゴブリンのくせに!」
「落ち着け!こいつらはただものじゃないぞ!」
公爵家の紋章を掲げた馬車は魔物の襲撃を受けていた。
それもゴブリンのだ。
こんな街道にゴブリンがいるものか?とみんなして疑ったが、不審な点がなかったため油断したのだ。
想定以上よりも強かった。
(ただのゴブリンではないというのか!?)
普段のゴブリンよりも圧倒的に凶暴なそれを見て一瞬怖気づく。
だが、そんな簡単に敗北する騎士達ではなかった。
一応は公爵家の護衛として行動してきたその者たちは、熟練された動きで、ゴブリンに適切に対処していく。
心臓部を狙って、効率よく公爵家からゴブリンを遠ざける。
(よし!このままいけば、街道の外側まで追い返せる!)
そう思ったとき、
「うぐっ!」
ゴブリンの持っているこん棒が直撃した、騎士の一人が倒れる。
そこから総崩れ。
乱戦状態になる。
「こんなところじゃ魔法は使えない……」
お供の魔法使いもいるが、その者は役に立たないだろう。
騎士達が一人、また一人と、地面に倒れ伏す。
卑怯にも、倒れ気絶した騎士に追い打ちをかけているゴブリンを見るとはらわたが煮えくり返りそうになった。
と、そこに、
「坊ちゃま!?なぜ、外に!」
「騒がしいと、おも、って……」
カーテンで閉め切り、外の様子を確認できていなかった公爵家が一人、ルイス様。
いつも通りの水色の髪に、ふさふさな耳。
目の中の深いブルーが彼の視線に力を持たせる。
だが、その時ばかりは、視線は強いものから驚きに変わる。
そうしているうちに、
「ぐっ!」
騎士のうちの一人、まあ、自分のことなんだがな……も攻撃を食らってしまった。
「大丈夫か!?」
「問題ありま、せ……がぁ!?」
こん棒が何度も振り落とされ、タコ殴りにされる。
騎士の鎧は歪み、もはや所属の紋章すら見えなくなった。
(守りきれないのか?)
そんなときだった。
「グギャァ!?」
ゴブリンの一匹が悲鳴を上げる。
悲鳴を上げたゴブリンは、立派な剣に貫けれていた。
その長剣を見てゴブリンたちは恐怖する。
それと同時に、
「てやぁ!」
長剣に刺さったゴブリンはさぞ不運だったことだろう。
なぜなら、長剣の上に見知らぬ騎士が蹴りを叩き込んだのだ。
長剣はさらにゴブリンへと突き刺さり、苦痛に顔をゆがませていたゴブリンはゆっくりと息を引き取った。
「あれま、ゴブリンじゃないじゃん」
若い声だった。
その声が言うにはこれはゴブリンではないらしい。
では、一体何だというのだ?
「残りのホブゴブリンは二十体と、オーガが四体ね」
ホブゴブリンとは、一体でもCランクの危険度がある。
新人の騎士ですら命の危険がある。
自分のような熟練な騎士でも数体が襲い掛かれば、重傷を負うことだってあり得る。
現に自分は瀕死だった。
「ヒーリング」
再び若い声。
女なのでは?と思ってしまいそうになる、その柔らかな声が聞こえた瞬間、傷が回復し始める。
「あー、騎士さんたちを避難させて?」
「……は、はい?」
あまりにも、若いその姿を初めて認識した。
子供も子供、十歳前後だろう。
十歳ということ職業適性が分かったばかりなはずなのに、どうして騎士団の格好を?
その答えはすぐに出た。
「消えろ」
その一言放った瞬間に、ホブゴブリンたちは一瞬にして消え去った。
消え去った!?
消え去った場所に立っていたのはさっきまで細い長剣の柄の上に立っていた騎士だった。
(そうか!あの一瞬でここまで……)
そこで何かを感じ取り後ろを振り返る。
後ろにいたはずのホブゴブリンたち約十匹は姿を消していた。
(は、早い!)
そう思っている瞬間にも、神速のごとき素早さでホブゴブリンが薙ぎ払われる。
そして、公爵家の安否を確認すべく、馬車のほうを確認すれば、坊ちゃまもその姿に頬を赤く染め見つめていた。
その目は先ほどの恐怖の驚きではなく、歓喜の驚きだったことは間違いなかった。
「どうしてこうなった……」
遡ること数時間前。
私ことベアトリスは騎士団の中に潜入した。
私の素性は「ラディ副団長の妹だ」と言ってごまかした。
実をいうと、騎士団に入ったこと自体は一週間ほど前のことなのだ。
つまり、駐屯地でラディを味方につけてから一週間が経過し、その間にもいろいろ進展があった。
まず、私は完全に男の格好となった。
いや、別に私に男装の趣味があるわけじゃない。
ただ、騎士団に女がいることはなく、いたとしても掃除のおばちゃんとかだけだ。
女性に心を惑わさぬようにとのことらしい。
そのせいで私は男の匂いがするという香水?をかけられ、いっぱしの騎士の制服(これまた男用)を着て、完璧だ。
そして、私が副団長の妹という情報は、貴族たちに批判を受けかねない。
だって、私妹と公言したんだもん。
副団長には緘口令を敷いてもらい、ごく一部の騎士にしか知らされない事実と化した。
話は戻して数時間前。
「なんで私が獣王都市に向かわなければならないの?」
「うるせー、無理やりお前を『騎士団長補佐』を抜擢したもんだから、怪しまれてんだよ」
「なんとかしてよ」
「あ?お前が何とかしろよ」
相変わらず、ラディとは馬が合わなく、こうして今も獣王都市……首都を目指した馬車で口喧嘩をしている。
ここに乗っているのは副団長ラディ、団長カイラスさん、そして私こと団長補佐。
今回の呼び出しは、国王からだった。
国王の許可なしに、人員を入れるとは何事か!
というどこから聞いたのかわからない貴族たちの意見が肥大化し、さすがの温厚な国王もしぶしぶ私たちを呼び出したらしい。
「とんだ迷惑ですよ」
「だったら、さっさと出てけよ!」
「まあまあ、落ち着けって二人とも」
仲を取り持つカイラスさん。
まともなのはこの人だけだ。
豪華な馬車はさっそうと草原を駆け抜け、ガタガタという音も小さく鳴らすものの、大した揺れは感じなかった。
それこそ、帝国遠征の時なんて、死ぬかと思った。
睡眠魔法や麻痺などの魔法でそれらを耐え忍んでいたわけだが、それにも『耐性』がついてしまったのだ。
幸運にも、揺れが少なくて助かった。
「それで、今日のスケジュールは何だったかな?」
「あ、はい!まず、国王との謁見のあと、騎士団長様は本部会議に出席。そののちに、第二騎士団団長と顔を合わせたのちに、早急に帰宅という手順です!」
「ははは!ラディ!お前の妹は、お前自身よりも優秀だぞ!」
「……ちっ」
補佐官としての役割はしっかりと果さなきゃな。
そうしなくては、買って出た意味がない。
(それにしても、この二人って仲がいいんだな)
地位とか関係ないというように、仲がいい二人。
それをほほえましく感じていた時だった。
私の張っていた探知魔法……仮に魔力感知と呼称しよう……魔力感知に反応があった。
「騎士団長」
「あ、なんだ?」
「敵です」
「なに?」
私は詳しい情報を二人に伝えた。
「距離は三百ほど先、まあゴブリンの群れでしょう」
「そうか、なら問題は……」
「問題はその先です。どうやら、何者かがゴブリンに襲われているみたいです」
「なんだと!?」
血相を変えるカイラスさん。
やはりこの人は優しい。
私との接し方もそうだが、仁徳にあふれているようだった。
(と、そんなこと気にしている暇はなさそうよね)
「では、私は先に向かいます」
「は?なにを……」
聞かれる前に、馬車の扉を開け、上に飛び乗る。
(みっけ)
♦︎♢♦︎♢♦︎
「くそくそ!なんだこいつは!」
「ただのゴブリンのくせに!」
「落ち着け!こいつらはただものじゃないぞ!」
公爵家の紋章を掲げた馬車は魔物の襲撃を受けていた。
それもゴブリンのだ。
こんな街道にゴブリンがいるものか?とみんなして疑ったが、不審な点がなかったため油断したのだ。
想定以上よりも強かった。
(ただのゴブリンではないというのか!?)
普段のゴブリンよりも圧倒的に凶暴なそれを見て一瞬怖気づく。
だが、そんな簡単に敗北する騎士達ではなかった。
一応は公爵家の護衛として行動してきたその者たちは、熟練された動きで、ゴブリンに適切に対処していく。
心臓部を狙って、効率よく公爵家からゴブリンを遠ざける。
(よし!このままいけば、街道の外側まで追い返せる!)
そう思ったとき、
「うぐっ!」
ゴブリンの持っているこん棒が直撃した、騎士の一人が倒れる。
そこから総崩れ。
乱戦状態になる。
「こんなところじゃ魔法は使えない……」
お供の魔法使いもいるが、その者は役に立たないだろう。
騎士達が一人、また一人と、地面に倒れ伏す。
卑怯にも、倒れ気絶した騎士に追い打ちをかけているゴブリンを見るとはらわたが煮えくり返りそうになった。
と、そこに、
「坊ちゃま!?なぜ、外に!」
「騒がしいと、おも、って……」
カーテンで閉め切り、外の様子を確認できていなかった公爵家が一人、ルイス様。
いつも通りの水色の髪に、ふさふさな耳。
目の中の深いブルーが彼の視線に力を持たせる。
だが、その時ばかりは、視線は強いものから驚きに変わる。
そうしているうちに、
「ぐっ!」
騎士のうちの一人、まあ、自分のことなんだがな……も攻撃を食らってしまった。
「大丈夫か!?」
「問題ありま、せ……がぁ!?」
こん棒が何度も振り落とされ、タコ殴りにされる。
騎士の鎧は歪み、もはや所属の紋章すら見えなくなった。
(守りきれないのか?)
そんなときだった。
「グギャァ!?」
ゴブリンの一匹が悲鳴を上げる。
悲鳴を上げたゴブリンは、立派な剣に貫けれていた。
その長剣を見てゴブリンたちは恐怖する。
それと同時に、
「てやぁ!」
長剣に刺さったゴブリンはさぞ不運だったことだろう。
なぜなら、長剣の上に見知らぬ騎士が蹴りを叩き込んだのだ。
長剣はさらにゴブリンへと突き刺さり、苦痛に顔をゆがませていたゴブリンはゆっくりと息を引き取った。
「あれま、ゴブリンじゃないじゃん」
若い声だった。
その声が言うにはこれはゴブリンではないらしい。
では、一体何だというのだ?
「残りのホブゴブリンは二十体と、オーガが四体ね」
ホブゴブリンとは、一体でもCランクの危険度がある。
新人の騎士ですら命の危険がある。
自分のような熟練な騎士でも数体が襲い掛かれば、重傷を負うことだってあり得る。
現に自分は瀕死だった。
「ヒーリング」
再び若い声。
女なのでは?と思ってしまいそうになる、その柔らかな声が聞こえた瞬間、傷が回復し始める。
「あー、騎士さんたちを避難させて?」
「……は、はい?」
あまりにも、若いその姿を初めて認識した。
子供も子供、十歳前後だろう。
十歳ということ職業適性が分かったばかりなはずなのに、どうして騎士団の格好を?
その答えはすぐに出た。
「消えろ」
その一言放った瞬間に、ホブゴブリンたちは一瞬にして消え去った。
消え去った!?
消え去った場所に立っていたのはさっきまで細い長剣の柄の上に立っていた騎士だった。
(そうか!あの一瞬でここまで……)
そこで何かを感じ取り後ろを振り返る。
後ろにいたはずのホブゴブリンたち約十匹は姿を消していた。
(は、早い!)
そう思っている瞬間にも、神速のごとき素早さでホブゴブリンが薙ぎ払われる。
そして、公爵家の安否を確認すべく、馬車のほうを確認すれば、坊ちゃまもその姿に頬を赤く染め見つめていた。
その目は先ほどの恐怖の驚きではなく、歓喜の驚きだったことは間違いなかった。
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