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ハーフ
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獣人君の声を聞き、瞬間的に後ろを向く。
「ちっ!」
獣人君の言う通り、後ろから飛び上がって襲い掛かってきた黒フードの男。
(気配を消すのはさすがの獣人ね)
あらゆる能力において、人間を、人族を超えている獣人。
当たり前のことながら、隠蔽能力にもたけている。
だが、
「フォーマのほうがまだ上手い!」
突き出されたキラリと光るナイフを受け流し、男を突き飛ばす。
災害級の化け物と一対二とはいえ、やりあった経験は今でも役に立つ。
それを抜きにしても、この獣人は優秀なのだろう。
(完璧な隠蔽……いくら人が多いからって、私の嗅覚をかいくぐるなんて)
それだけで、ちょっとは分かるのではないだろうか?
こう見えても、『神童』とまで言われるくらいすごい人なのだ。
そんなすごそうな二つ名を持つ人に不意打ちを仕掛けてる時点で、こいつはできるのだ。
「早めに仕留めたほうがよさそうね……」
まわりには何事か!?と、多くの人が野次馬として集まり始めている。
獣人君はその人たちの波に飲まれていた。
実質、一対一。
しかして、負ける要素はない!
強いて言うなら、人間だとばれないようにしないといけないことか。
「うわ!」
繰り出されるナイフの連撃。
適当に振られているように見えて、計算されつくした動きがわかった。
こう見えても、兄さまの訓練を眺めてきたのだ。
剣術、斧術、槍術……多くの近接戦を学んだ今世の私。
ナイフの動きもだいたいわかる。
ただし、職業適性的に才能はないので、人並み以上だったとしても、専門職には勝てない。
だからこその、
「素手だ!」
ナイフを手刀で迎え撃つ。
「なに!?」
黒フードの男も驚愕し、まわりにいた野次馬も驚きを隠せないでいる。
人を殺すに十分な切れ味を持つであろうそのナイフを、やわな手で打ち返す子供。
ものすごくシュールである。
(強化魔法様には感謝しかないわね)
強化魔法をかけたおかげで硬質化した手。
だからこそ、ケガすることなく打ち合えるのだ。
黒フードの男はもはやナイフでは太刀打ちできないと思ったようで、ナイフを捨て去る。
「素手でのタイマンか」
「こいよ、ガキ」
遠慮なくこぶしを握り、突き出す。
先ほどよりも一段階早くしたその動き。
それに周囲は驚きつつもその少女を眺める。
だが、
「もらった」
男は私の攻撃をたやすく避け、反撃に転じてきた。
(やっば!)
避けようはあったが、態勢を崩すことを考慮して、転移で逃げる。
「な!?貴様、ハーフだな!」
「ハーフ?」
またわからない単語が出てきた。
あとで、友達、ターニャたちにしかないか。
始まった体術対決。
繰り広げられる攻撃の嵐。
風圧が周囲にいた女性をふらつかせる。
「筋はいいが、まだまだだ!」
体術系が職業適性か。
なら、この動きも納得だ。
素人の動きではない。
少なくともうちのミサリーよりも強い。
Aランクになったミサリー。
冒険者としての活動もそれなりに……、それよりも強いというのは珍しい。
本来ならば、Aランクでも英雄級なのだ。
ならば、こいつは……。
「隙あり!」
相手は隙を見せたと思い込んだのか、攻撃を仕掛ける。
「ばーか」
「!?」
攻撃を避け、腕を掴んで首にチョップ。
だが、私の程の実力だと、殺してしまわないか心配になるほどの威力がある。
バタンと大きな音をたてて、男が倒れる。
その拍子にフードが脱げた。
「やはり、野生派か」
「最近は物騒だな」
近くからそんな声が聞こえてくる。
野生派。
どっかで聞いたことあるような単語だ。
詳しいことは聞いていないが……。
このオオカミと思しき、獣人は衛兵に引き渡すとして、
「おーい!」
ちょうどよく、獣人君が姿を見せる。
「大丈夫だった?って、心配するだけ無駄か」
「ちょっと!もっと心配しなさいよ!」
私はほほを膨らませる。
その様子を見ていた周りの人々が「雰囲気が変わった!?」と思ったのは言うまでもない。
戦闘時での彼女と友人と思われる人物との会話の温度差が激しいせいで、獣人たちがフリーズしている間に、
「あれ、二人はどこ行った?」
姿を消していた。
♦♢♦♢♦
「緊急転移!」
「のわ!?」
速攻で逃げ帰った私は路地裏の入り口に転移する。
「あ、おかえりー」
「ここに倒れてた人は?」
「ゴルっちが連れてきた衛兵に運ばれてったよ」
「そう、それなら安心ね」
安堵のため息を漏らす。
「あ、それと聞きたいことがあるんだけど……」
「なーに?」
「ハーフってなに?」
聞きなれない単語を質問したところで、二人とも硬直する。
「ど、どうしたの?」
「ベアトリス、それは聞いちゃいけないお約束だよ?」
「そうなの!?」
どうやらこの話題はタブーとして扱われているらしい。
「ま、特別に教えてあげるけど!」
教えてくれるんかい!
「ハーフっていうのは、魔と獣の間に生まれた子供のことを指すよ」
「ふーん」
「んで、そのハーフたちは忌み嫌われているの」
「まあ、そうだろうね」
普通に考えて敵国の人間との間にできた子供なんてどっちの国からも歓迎されない。
「主に、魔人がいい例だよ」
「魔人?」
「魔族と人族のハーフ。魔族と獣人族のハーフは獣魔と呼ばれて、普通じゃありえない、魔法の行使ができるの」
今思えば、獣人って魔力ないんだっけ?
だから、あの時ハーフって言われたのか。
「そして、それ以外にも特徴があってね?」
「うん」
「獣人としてはありえない行動に移ることがあるのだよ!」
「つまりどういうこと?」
「強さを重んじる獣人、それが平和を重んじるようになったり、食生活も変わったりする。例えば血を吸ったりとかね」
「……!」
獣人君が一瞬体をびくっと反応させる。
私が少し獣人君の様子をうかがっていると、ターニャが顔を近づけてきた。
「ほかに聞きたいことある?」
「え?ええ。野生派の意味も知りたいわ」
「よし!おいらに任せなさい!」
ターニャの説明はまだまだ続く。
「ちっ!」
獣人君の言う通り、後ろから飛び上がって襲い掛かってきた黒フードの男。
(気配を消すのはさすがの獣人ね)
あらゆる能力において、人間を、人族を超えている獣人。
当たり前のことながら、隠蔽能力にもたけている。
だが、
「フォーマのほうがまだ上手い!」
突き出されたキラリと光るナイフを受け流し、男を突き飛ばす。
災害級の化け物と一対二とはいえ、やりあった経験は今でも役に立つ。
それを抜きにしても、この獣人は優秀なのだろう。
(完璧な隠蔽……いくら人が多いからって、私の嗅覚をかいくぐるなんて)
それだけで、ちょっとは分かるのではないだろうか?
こう見えても、『神童』とまで言われるくらいすごい人なのだ。
そんなすごそうな二つ名を持つ人に不意打ちを仕掛けてる時点で、こいつはできるのだ。
「早めに仕留めたほうがよさそうね……」
まわりには何事か!?と、多くの人が野次馬として集まり始めている。
獣人君はその人たちの波に飲まれていた。
実質、一対一。
しかして、負ける要素はない!
強いて言うなら、人間だとばれないようにしないといけないことか。
「うわ!」
繰り出されるナイフの連撃。
適当に振られているように見えて、計算されつくした動きがわかった。
こう見えても、兄さまの訓練を眺めてきたのだ。
剣術、斧術、槍術……多くの近接戦を学んだ今世の私。
ナイフの動きもだいたいわかる。
ただし、職業適性的に才能はないので、人並み以上だったとしても、専門職には勝てない。
だからこその、
「素手だ!」
ナイフを手刀で迎え撃つ。
「なに!?」
黒フードの男も驚愕し、まわりにいた野次馬も驚きを隠せないでいる。
人を殺すに十分な切れ味を持つであろうそのナイフを、やわな手で打ち返す子供。
ものすごくシュールである。
(強化魔法様には感謝しかないわね)
強化魔法をかけたおかげで硬質化した手。
だからこそ、ケガすることなく打ち合えるのだ。
黒フードの男はもはやナイフでは太刀打ちできないと思ったようで、ナイフを捨て去る。
「素手でのタイマンか」
「こいよ、ガキ」
遠慮なくこぶしを握り、突き出す。
先ほどよりも一段階早くしたその動き。
それに周囲は驚きつつもその少女を眺める。
だが、
「もらった」
男は私の攻撃をたやすく避け、反撃に転じてきた。
(やっば!)
避けようはあったが、態勢を崩すことを考慮して、転移で逃げる。
「な!?貴様、ハーフだな!」
「ハーフ?」
またわからない単語が出てきた。
あとで、友達、ターニャたちにしかないか。
始まった体術対決。
繰り広げられる攻撃の嵐。
風圧が周囲にいた女性をふらつかせる。
「筋はいいが、まだまだだ!」
体術系が職業適性か。
なら、この動きも納得だ。
素人の動きではない。
少なくともうちのミサリーよりも強い。
Aランクになったミサリー。
冒険者としての活動もそれなりに……、それよりも強いというのは珍しい。
本来ならば、Aランクでも英雄級なのだ。
ならば、こいつは……。
「隙あり!」
相手は隙を見せたと思い込んだのか、攻撃を仕掛ける。
「ばーか」
「!?」
攻撃を避け、腕を掴んで首にチョップ。
だが、私の程の実力だと、殺してしまわないか心配になるほどの威力がある。
バタンと大きな音をたてて、男が倒れる。
その拍子にフードが脱げた。
「やはり、野生派か」
「最近は物騒だな」
近くからそんな声が聞こえてくる。
野生派。
どっかで聞いたことあるような単語だ。
詳しいことは聞いていないが……。
このオオカミと思しき、獣人は衛兵に引き渡すとして、
「おーい!」
ちょうどよく、獣人君が姿を見せる。
「大丈夫だった?って、心配するだけ無駄か」
「ちょっと!もっと心配しなさいよ!」
私はほほを膨らませる。
その様子を見ていた周りの人々が「雰囲気が変わった!?」と思ったのは言うまでもない。
戦闘時での彼女と友人と思われる人物との会話の温度差が激しいせいで、獣人たちがフリーズしている間に、
「あれ、二人はどこ行った?」
姿を消していた。
♦♢♦♢♦
「緊急転移!」
「のわ!?」
速攻で逃げ帰った私は路地裏の入り口に転移する。
「あ、おかえりー」
「ここに倒れてた人は?」
「ゴルっちが連れてきた衛兵に運ばれてったよ」
「そう、それなら安心ね」
安堵のため息を漏らす。
「あ、それと聞きたいことがあるんだけど……」
「なーに?」
「ハーフってなに?」
聞きなれない単語を質問したところで、二人とも硬直する。
「ど、どうしたの?」
「ベアトリス、それは聞いちゃいけないお約束だよ?」
「そうなの!?」
どうやらこの話題はタブーとして扱われているらしい。
「ま、特別に教えてあげるけど!」
教えてくれるんかい!
「ハーフっていうのは、魔と獣の間に生まれた子供のことを指すよ」
「ふーん」
「んで、そのハーフたちは忌み嫌われているの」
「まあ、そうだろうね」
普通に考えて敵国の人間との間にできた子供なんてどっちの国からも歓迎されない。
「主に、魔人がいい例だよ」
「魔人?」
「魔族と人族のハーフ。魔族と獣人族のハーフは獣魔と呼ばれて、普通じゃありえない、魔法の行使ができるの」
今思えば、獣人って魔力ないんだっけ?
だから、あの時ハーフって言われたのか。
「そして、それ以外にも特徴があってね?」
「うん」
「獣人としてはありえない行動に移ることがあるのだよ!」
「つまりどういうこと?」
「強さを重んじる獣人、それが平和を重んじるようになったり、食生活も変わったりする。例えば血を吸ったりとかね」
「……!」
獣人君が一瞬体をびくっと反応させる。
私が少し獣人君の様子をうかがっていると、ターニャが顔を近づけてきた。
「ほかに聞きたいことある?」
「え?ええ。野生派の意味も知りたいわ」
「よし!おいらに任せなさい!」
ターニャの説明はまだまだ続く。
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