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裏切り?

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「誰だ!」

 トーヤが叫び、前に進み出る。
 冒険者たちは横道に逸れ、トーヤが進み出やすいように道を作る。

 その目の前にいる男と、トーヤが対峙する。

(あれ?あいつどっかで見たことあるような?)

 ひげを生やしていて、妙に偉そうな口調……。

(もしかして!)

 思い当たったのは密談をしていた男のうちの片方、魔術師の方だった。
 軽装な服……一般的な服よりも豪華だが、防御に関して言えば全くダメな服を着ているその男はトーヤが前に出ても尻込みすることなく話しかける。

「これはこれは勇者様、こんなところでなにを?」

「こっちの質問に答えろ!お前は誰だ!」

「ふふふ、ただのしがない老人ですよ」

 そういい、彼もまた一歩前に出る。

「なにが目的だ?」

「いやね。私は今の職を捨て、違う国に行きたいのですよ」

「亡国すると?」

「そうとは言いませんが……、そのためには鉱山にある資源が必要なのです」

 売れば相当な値段になりそうな妖精たちの住処にある鉱物。
 それを使えば、別の国に逃亡したとして、年単位で仕事をしなくても遊んでいけるかもしれない。

 妖精たちが『お宝』と称するほどなんだから、それぐらいの価値はするだろう。

「お前たちには渡さない」

「いいえ、渡してもらいますよ」

 睨み合う二人。
 それを見守る私たち。

「そう言えば、なんで私がここの洞窟の存在を知っていたと思います?」

「い、いきなりなんの話だ!」

 話題が唐突に変わる。
 ただ、これには意味があることなのだろう。

「私はね、王国のとある方に教えてもらったのですよ」

「王国だと?」

 は?
 嘘つけよお前。

 思いっきし、帝城にいたじゃんか!

「えー!その方に帝国にこんなお宝があると教えてもらってね!奪わずにはいられなかったのですよ!」

「なんて下賤な……」

 ミレーヌも怒りにそんなことを呟く。

「王国の誰だ?」

「教えてあげてもいいですけど……報酬をもらいたいですね」

「いいから教えろ!」

「わかりましたよ。そこの中にいますよ?」

「え?」

 ちょっと待て!
 こいつさっきから適当なことばっかり言ってるだろ!

 ふざけんな!
 王国にそんなひどい奴なんかいるもんか!

 愛国主義ではないが、さすがに言いがかりをつけるのはやめてほしい。

「まさか……」

 そんなことを言ってトーヤがこっちをみる。

「え?」

 私?
 私が怪しいって!?

「な、なんでこっちをみるの?」

「い、いやだってこの中で一番怪しいのって……」

「そう!その子供ですよ!」

「は!?」

 おい!
 どういうことだよ!

 私はそんなこと教えたつもりはないのだが!?

(なにがしたいんだ?)

 そんなことよりも、いい方法……どうにか違うって信じてもらわなくちゃ!

「貴族の子供であり、勇者と行動を共にする……そして王国の民!」

 なんで知ってんだよ!
 あのクソやろう……ふざけんな!

「ちょっと待て!トーヤ。本気で疑ってるわけないよな!?」

「……………」

「おい!」

 黙り込むトーヤ。
 周りもそれを止められない。

「そんなことする理由がないだろ!?」

 私にそんなことをして利益が出るわけない。

「ありますよ」

 そんなことをほざくひげの男。
 まじでうざい。

「私はこの国の宰相

「さ、宰相?」

「そんな国のトップの近しい人を王国に引き入れ、鉱山の資源で王国と帝国の戦力バランスは一気に傾く!戦争が起きても問題ないくらいにね!」

 ぐぬぬ……。
 こいつが言っていることは正しいけど、こんな人の心がない奴が正直なわけがないし、さっきから私に教えてもらっただの、変なことを言っている。

 到底信じられない。
 だが、本人でないトーヤがどこまで私のことを信じるかによる。

「と、トーヤ?」

 いまだに無言。
 地面を見つめ、何か考えにたどり着いたのか、サッと顔を上げる。

 そして、

「ちょちょ!?なんで剣抜くの!?」

「そ、そうですよ!ベアトリスがそんなことするわけないじゃない!」

「考え直せよ、トーヤ」

「トーヤにしちゃあ気が急いでいるんじゃねーか?」

 勇者メンバーも引き止める。
 ミレーヌがそんなこと言うとは思ってなかった……。

 ありがたく思いつつも、私はトーヤを注視する。

「悪いみんな」

 その言葉を言い放ち、剣を完全に抜ききる。

「一応だよ。本気でベアトリスがそんなことするとは思ってないさ。でも、もしかしたらってあるだろ?」

 乾いた笑みを漏らす。

(え?なに?やっちゃうの?)

 ユーリもトーヤに対して威嚇しだす。
 え、嘘でしょ?

「ごめんベアトリス。拘束させてもらうよ」

「ちょ!まじで言ってんの!?」

 私も少し身構える。

「あはは!私にはどうでもいいことだ!せいぜい逃げてください!」

 関係大アリだよ、ひげ男!
 ふざけんなよ!

 そんなことを考えながら、

「あ?」

 トーヤの振った剣が私をかすめる。

「勝負、しようか」

「っち!もう!後で、絶対に謝らせるんだから!」

 私は収納していた大剣に手を伸ばすのだった。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎↓『傀儡』視点↓


「大成功☆」

 一人木の上でそんなことを考える。
 森の奥になってくると、木々もどんどん高くなっていき、俺がいるのは地上から三十メートルほど離れた木のてっぺんだった。

「ベアトリスは勇者を相手にさせて、俺は優雅に見物。お宝とやらもあの男から奪えばいいし!俺は優雅にメアリを探すかな」

 森の中を仲間を連れて進んでいた男を見つけ、なんとなくで操ろうと思い至る。
 それが始まり。

 捜索が楽になるかなと思って、操ったわけだが、これが思わぬことにベアトリスに出会ってしまった。

 ちょうどいいからはめてやろうと思い、言いがかりを言わせて勇者を惑わせる。
 そしてその後、揺れ動いた心の隙間に入り込み操れば、完成だ。

「このまま勇者がベアトリスを倒してくれたらユーリ様回収できんだけどなー」

 本人に怪我をさせるわけにもいかないので、本気は出さないように設定した。
 だが、勇者も大概化け物。

 なにが起こるかわからない。
 オリビアのように自力で抵抗するのか果たして……。

「ふふん!メアリのついての目星はついているし、俺は跡を辿るかな」

 ここの地域では珍しい獣人がいた。

 帝国、王国、獣王国と東順に並んでいることからも明らか。

 西側に位置する獣王国の民がこんなところにいるわけがない。
 何か裏があるだろう。

 そう思って、跡を追った結果、一人の女性がいた。
 顔までは確認できなかったが、間違いなくメアリだ。

 そして、獣人の方はというと、こいつも化け物。
 なんとまー、魔力を一切感じないのは当たり前として……覇気が全く無い。

 人一倍覇気がある獣人のおいて珍しい。
 だが、俺の目はごまかせない。

 隠蔽しているのだろう。
 力を隠す。

 裏社会では常識。
 表社会でもやっている人はやっていることだ。

「あいつがメアリから離れたら狩りに行くかな」

 これでようやく始まりだ。

 懐かしくもあるメアリを殺したと思ってた日。
 路地で一人笑っていた。

 あの頃の自分がバカに見えてくる。

「さあ、終わりの始まりってやつかな」

 俺は、木から飛び降りるのだった。
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