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「おーい!ベアトリスー!」
「んあ?」
手に時々持ち歩いているメモ帳を片手に、振り向く。
そこにはトーヤと、その一行……ついでに、ユーリもいた。
(なんだ?勢ぞろいじゃん)
時計が見渡してもなく、仕方なく私は太陽の位置を確認する。
家に隠れていて見えなかったはずの太陽はいつの間にか、南へと近づいていた。
南中しかけてる……?
さすがにそこまではいかないが……、
「え、待って待って今何時?」
「えっと、だいたい九時半くらいじゃない?」
うっそだぁ!?
ついつい夢中になって帝国民の仕事っぷりを観察していたらこの有り様である。
今後の生活にも関わってくる重要な案件なので、熱心になるのはあながち間違ってはいないのだが、さすがに五時間ほど研究していたとは……。
一つだけわかったのは、時給制の店員さんは数時間ごとに入れ替わって仕事を行うみたい。
数時間働いたら、帰って次の人が入ると……。
なるほどと感心し、メモを取り出したのが一時間前。
異納庫を開き、取り出すメモ帳。
使い道がたくさんあるこの能力。
いろいろなものが収納してあるのだ。
メモ帳は一応入れておいて、私の武器、大剣も入っている。
なんていう名前かは分からないので、大剣、ただの大剣。
なんかこう、かっこいい名前が欲しいな。
って、それは良いとして、もっとたくさん家具やら何やら入っているんだけれど、そこからペンも取り出してメモをしだした時には時間を忘れていたことだろう。
「キュン!」
「ユーリ?」
普段は誰の肩の上にも乗らないユーリがトーヤの肩に乗っていた。
「え、どういうこと?トーヤなんかやったの?」
「俺は何もしてないんだけど……むしろ……」
トーヤ曰く、私を食卓に呼ぼうとしたらいなかったと。
そして、いきなりユーリにべチンと叩かれ、肩の上に乗せられたそうな。
そして、私を探してここまでやってきたということらしい。
「キュン!」
「もしかして、私が長時間留守にしてたから怒ってるの?」
「……………」
あ……。
「ご、ごめん!」
ユーリに対して謝罪する。
すると、ユーリはトーヤの肩から降りて私のほうに登ってくる。
許してくれたのかな?
とか、思っていたら、肩を乗り越え、頭の上に乗ってきた。
「キュン!キュン!」
ペチペチと頭の上を叩かれる。
後ろ足を私の耳のあたりに持ってきて、そのまま頭に張り付いているような形の状態になっている。
いや、タコかよ!
とか思ったけど、
「あはは、ごめんって……」
しばらくは怒っていそうだった。
「ところでさ……」
「ん?」
トーヤが苦笑いしながら聞いてくる。
「お前、変装はどうしたの?」
「あ」
数秒間固まったのち、私は無言で転移する。
そして、さらに数秒後——
「よし!これで完璧だな!」
声のトーンを少し下げる。
「あのなぁ……」
「なんだ、トーヤ?文句でもあんのか?」
「いや、ないんだけどさ……」
トーヤの視線は私の頭に……
そういえば、ユーリが頭の上に乗っていたな。
それを思い出した時には遅かった。
ユーリが帽子の中から出ようとモゴモゴ動いていた時、パッと外に出て、
「「「あ」」」
帽子が飛んで行った……。
(いや、でも追いかけったら取れる!)
とか思った途端、追い風が吹いて、上空に上がっていった。
「あー……」
「結局どうすんのさ?」
私に聞くな!
「しょうがないかー」
私は手に持っていたペンを逆手に持ち、
「えい!」
「「「は?」」」
勇者一行、全員驚いている様子。
「どうしたの?」
私の黒髪ロングの髪がバサッと流れていき、後ろにあった川にまで飛んでいく。
ちょうど話していた場所が橋の手前だったことが幸いした。
「ちょ、ちょっとそれはやりすぎじゃない?」
「でも、こっちの方が男らしいだろ?」
ショート、ボサボサだけどそれっぽくなったのではないだろうか?
結果的に、若干憧れていたショートヘア(ボサボサだけど……)になれたんだから、楽観的に考えよう!
「まあ、良いじゃん良いじゃん!」
「ベアトリスがいいんなら良いんだけど……。あ、一つ言うの忘れてた」
「ん?今度は何?」
またまた感じる嫌な予感。
そう言う予感はあたってこそってもんだよね……うん。
「お前、皇帝陛下の謁見すっぽかしてるからな?」
「え?」
「え?って……」
「いやいやいやいやいやいやいや!どうしてだよ!そんな謁見なんていつあったの!?」
意味わからん。
昨日と今日でいろいろありすぎなんだよ……。
「今日の朝イチで謁見の予定が入ってたんだけどさ、お前だけ来なかったの。その後食事の時にも来なかったからさ、呼びに行って……」
「今に至ると?謁見って、いつあるとか聞かされてないよ?」
「そりゃそうだろうな……馬車のなかで話したことだもんな……」
ため息つくな!
ユーリも若干『馬鹿だな』みたいな呆れた顔で見ないで!
「じゃあ、皇帝陛下も怒ってたり……」
「それは大丈夫!皇帝陛下はそこまで心の狭い人じゃないから、多分!」
最後の一言で台無しだよ!
「まあ、それはいいわ……。んで、なんで私がここにいるってわかったわけ?」
「それはユーリに聞いてくれよ……」
「ユーリ?」
頭の上を見れば、『えっへん!』と言わんばかりにドヤ顔を決めているユーリの姿が見えた。
ただし、後ろ足だけで立ち上がっているため、若干震えていて台無しであるが。
「なんかわかるのかねえ?そういうのって……」
飼い主をすっごい離れたところから見つけ出したよっていう、犬の昔話に似ているな。
そんな感じか?
「まあ、ユーリだもんね。若干言葉理解できてるし……いつまで経っても成長しないし」
「キュン!?」
それは事実だろう……。
ユーリってば、五年経った今でも全然身長?が伸びない。
体が成長してないのでは?
と、思ってしまうほどだった。
「まあ、それは良いとして。ベアトリス、今日から調査に参加してもらうつもりだから、冒険者たちが止まってる宿まで行こうか!」
「朝から元気いいな。羨ましいわ……」
一日寝ていない私にはできない。
トーヤが私の後ろにある橋を渡っていく。
それに続いて、勇者一行も……。
そして私も渡ろうとした時、
《ご主人様……》
「え?」
「どうしたの、ベアトリス?」
「いや、なんでもない……」
頭の中にそんな言葉が響いた。
疲れすぎなのかな?
幻覚まで聞こえるようになるなんて……。
「先行くよー?」
「あ、ちょっと待ってー」
私も橋を渡っていくのだった。
「んあ?」
手に時々持ち歩いているメモ帳を片手に、振り向く。
そこにはトーヤと、その一行……ついでに、ユーリもいた。
(なんだ?勢ぞろいじゃん)
時計が見渡してもなく、仕方なく私は太陽の位置を確認する。
家に隠れていて見えなかったはずの太陽はいつの間にか、南へと近づいていた。
南中しかけてる……?
さすがにそこまではいかないが……、
「え、待って待って今何時?」
「えっと、だいたい九時半くらいじゃない?」
うっそだぁ!?
ついつい夢中になって帝国民の仕事っぷりを観察していたらこの有り様である。
今後の生活にも関わってくる重要な案件なので、熱心になるのはあながち間違ってはいないのだが、さすがに五時間ほど研究していたとは……。
一つだけわかったのは、時給制の店員さんは数時間ごとに入れ替わって仕事を行うみたい。
数時間働いたら、帰って次の人が入ると……。
なるほどと感心し、メモを取り出したのが一時間前。
異納庫を開き、取り出すメモ帳。
使い道がたくさんあるこの能力。
いろいろなものが収納してあるのだ。
メモ帳は一応入れておいて、私の武器、大剣も入っている。
なんていう名前かは分からないので、大剣、ただの大剣。
なんかこう、かっこいい名前が欲しいな。
って、それは良いとして、もっとたくさん家具やら何やら入っているんだけれど、そこからペンも取り出してメモをしだした時には時間を忘れていたことだろう。
「キュン!」
「ユーリ?」
普段は誰の肩の上にも乗らないユーリがトーヤの肩に乗っていた。
「え、どういうこと?トーヤなんかやったの?」
「俺は何もしてないんだけど……むしろ……」
トーヤ曰く、私を食卓に呼ぼうとしたらいなかったと。
そして、いきなりユーリにべチンと叩かれ、肩の上に乗せられたそうな。
そして、私を探してここまでやってきたということらしい。
「キュン!」
「もしかして、私が長時間留守にしてたから怒ってるの?」
「……………」
あ……。
「ご、ごめん!」
ユーリに対して謝罪する。
すると、ユーリはトーヤの肩から降りて私のほうに登ってくる。
許してくれたのかな?
とか、思っていたら、肩を乗り越え、頭の上に乗ってきた。
「キュン!キュン!」
ペチペチと頭の上を叩かれる。
後ろ足を私の耳のあたりに持ってきて、そのまま頭に張り付いているような形の状態になっている。
いや、タコかよ!
とか思ったけど、
「あはは、ごめんって……」
しばらくは怒っていそうだった。
「ところでさ……」
「ん?」
トーヤが苦笑いしながら聞いてくる。
「お前、変装はどうしたの?」
「あ」
数秒間固まったのち、私は無言で転移する。
そして、さらに数秒後——
「よし!これで完璧だな!」
声のトーンを少し下げる。
「あのなぁ……」
「なんだ、トーヤ?文句でもあんのか?」
「いや、ないんだけどさ……」
トーヤの視線は私の頭に……
そういえば、ユーリが頭の上に乗っていたな。
それを思い出した時には遅かった。
ユーリが帽子の中から出ようとモゴモゴ動いていた時、パッと外に出て、
「「「あ」」」
帽子が飛んで行った……。
(いや、でも追いかけったら取れる!)
とか思った途端、追い風が吹いて、上空に上がっていった。
「あー……」
「結局どうすんのさ?」
私に聞くな!
「しょうがないかー」
私は手に持っていたペンを逆手に持ち、
「えい!」
「「「は?」」」
勇者一行、全員驚いている様子。
「どうしたの?」
私の黒髪ロングの髪がバサッと流れていき、後ろにあった川にまで飛んでいく。
ちょうど話していた場所が橋の手前だったことが幸いした。
「ちょ、ちょっとそれはやりすぎじゃない?」
「でも、こっちの方が男らしいだろ?」
ショート、ボサボサだけどそれっぽくなったのではないだろうか?
結果的に、若干憧れていたショートヘア(ボサボサだけど……)になれたんだから、楽観的に考えよう!
「まあ、良いじゃん良いじゃん!」
「ベアトリスがいいんなら良いんだけど……。あ、一つ言うの忘れてた」
「ん?今度は何?」
またまた感じる嫌な予感。
そう言う予感はあたってこそってもんだよね……うん。
「お前、皇帝陛下の謁見すっぽかしてるからな?」
「え?」
「え?って……」
「いやいやいやいやいやいやいや!どうしてだよ!そんな謁見なんていつあったの!?」
意味わからん。
昨日と今日でいろいろありすぎなんだよ……。
「今日の朝イチで謁見の予定が入ってたんだけどさ、お前だけ来なかったの。その後食事の時にも来なかったからさ、呼びに行って……」
「今に至ると?謁見って、いつあるとか聞かされてないよ?」
「そりゃそうだろうな……馬車のなかで話したことだもんな……」
ため息つくな!
ユーリも若干『馬鹿だな』みたいな呆れた顔で見ないで!
「じゃあ、皇帝陛下も怒ってたり……」
「それは大丈夫!皇帝陛下はそこまで心の狭い人じゃないから、多分!」
最後の一言で台無しだよ!
「まあ、それはいいわ……。んで、なんで私がここにいるってわかったわけ?」
「それはユーリに聞いてくれよ……」
「ユーリ?」
頭の上を見れば、『えっへん!』と言わんばかりにドヤ顔を決めているユーリの姿が見えた。
ただし、後ろ足だけで立ち上がっているため、若干震えていて台無しであるが。
「なんかわかるのかねえ?そういうのって……」
飼い主をすっごい離れたところから見つけ出したよっていう、犬の昔話に似ているな。
そんな感じか?
「まあ、ユーリだもんね。若干言葉理解できてるし……いつまで経っても成長しないし」
「キュン!?」
それは事実だろう……。
ユーリってば、五年経った今でも全然身長?が伸びない。
体が成長してないのでは?
と、思ってしまうほどだった。
「まあ、それは良いとして。ベアトリス、今日から調査に参加してもらうつもりだから、冒険者たちが止まってる宿まで行こうか!」
「朝から元気いいな。羨ましいわ……」
一日寝ていない私にはできない。
トーヤが私の後ろにある橋を渡っていく。
それに続いて、勇者一行も……。
そして私も渡ろうとした時、
《ご主人様……》
「え?」
「どうしたの、ベアトリス?」
「いや、なんでもない……」
頭の中にそんな言葉が響いた。
疲れすぎなのかな?
幻覚まで聞こえるようになるなんて……。
「先行くよー?」
「あ、ちょっと待ってー」
私も橋を渡っていくのだった。
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