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どうなっても知らんから

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 二週間後——

「ここから帝国領内だよ」

「やっと?馬車旅長すぎでしょ」

「しょうがないじゃないか、俺たちだけ先行して先に行くわけにはいかないんだから」

 予想以上の長旅に私は溶けていた。
 文字通り溶けていた!

 思ってた以上に長い馬車旅……長時間揺られっぱなし。
 それがどれだけ辛いか皆さんお分かり?

 そんなの大したことないだろ、とか思う人もいるかもしれないが、二週間ほぼずっと体を揺さぶられ続けるんだよ?

 しかも、道中は荒道となっていて、まともに渡れたもんじゃない。
 整備された街道ではないから当然なのだが、ここまでの揺れを経験したのは初めてた。

 だからと言って、魔法を使えばミレーヌに馬鹿にされそうなので使わない。

 ただの見栄である!

 当の本人は余裕そうで……。

 私ときたら、体半分乗り出して、涼しい風にあたりどうにか耐えている。

(早く着けー!)

 と、願っていた。
 そのおかげもあってか、

「う~ん、帝都まではまだまだ先だし、予定よりもだいぶ遅れちゃってるな~」

「どうします?」

「ここは、ひとまず次の街を拠点にしよう。幸いにも、森は帝都まで続いているからね。ここらの森から調査を始めようか」

 次の街!

 その言葉を待っていたのだ!
 そろそろ限界が近づいてきた今日この頃。

 トーヤときたら、やることがないからか剣を研ぎ始めた。

(くっそ……こっちは辛いってのに)

 見えてきた街は質素なものだった。
 どれくらい質素かというと、勇者ことトーヤが着ている鎧の方が価値があるんじゃないかと思うほどだった。

(なんでもいい!早くしてくれ!)

 そうして馬車は到着した。
 私は静かに誰にも気づかれないように転移する。

 どこに行ったかは、ひ・み・つ☆である。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「あれ?ベアトリス。どこに行ってたんだ?」

「な、ナンデモナイヨ」

「どうしてカタコト?」

「そんなのはいいじゃん!とりあえず、この街で一番偉い人に挨拶にいこ!」

「それもそうだな。よし!冒険者の皆さんには一旦宿を取ってもらって、俺たちは挨拶に行こうか」

 そんなわけで、降り立った質素な街……というか、もはや村の市長さんに挨拶に行くのだった。

 向かう道中では、何名かの住人にすれ違ったが、ほとんどすべての人が痩せ形であり、太っている人が全くいなかった。

(お金がないのかな?)

 でも、そうであったら、国から支給金などが出るはずだ。
 だったら、なんでこんなに廃れているのだろうか?

「ねえトーヤ」

「どうした?」

「なんで、この街は廃れてるか分かる?」

 帝国に召喚された勇者様なら何か知っているかもと思い聞いてみる。
 これも情報収集の一環だ。

「あぁ……。帝国は上下の差が激しいんだよ」

「どういうこと?」

「完全なる上位者社会で、ただの街の住人なんか、人として扱われないような国なんだ」

「は?そんなわけないじゃん」

「それがあるんだよな……。俺も見てきたから分かる。貴族たちが偉そうに振る舞って、住人たちが必死に生きている様を」

「じゃあ、なんで助けてあげないのさ!勇者でしょ!」

「だからだよ。勇者だから、反抗されたら困るって思われたらしくて、どうにかして西の国にいかせたかったらしいよ。だから、皇帝からも、ベアトリスのことが紹介されたわけだし」

 つまりあれか?
 勇者が現場を見て皇帝に訴えかけたはいいものの、反抗されれば自分たちが不利になると分かった王侯貴族が勇者を西の遠征に行かせたのか?

「何それ最低!」

「ベアトリス様もそう思われるんですね」

「ミレーヌはなんか思わないの?」

「私は特には……実力で勝ち取った今のポジションですから」

 ミレーヌは実力主義なんか……。
 努力次第で、ここの住人も高待遇を受けれるってことだと思うけど、そんなの滅多にいないだろうなぁ。

「でも、こんなに廃れた街を見るのは初めてだ。帝都に近づけば近づくほど栄えている街が多いんだけど、帝国の端の街はこんな風になっていたなんて……」

 立ち寄るのは今回が初めてだったらしく、トーヤも驚きを隠せないでいる。

「どうにかできたらいいけど……」

「それも踏まえて、市長さんに話を聞きに行こうか」


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「勇者様がこんな辺境な地に寄られるとは……。街のみんなもさぞ喜ぶでしょうな」

「あはは……。ところでなんですけど、街の宿とか、お借りしても平気ですか?」

「ええ!どうぞどうぞ!是非お使いください!して、何故に勇者様はこんな街にいらしたのです?」

 市長と思わしき男の人も、住人と変わらず痩せ形。
 ただし、住人と一つだけ違うのは、体調だった。

 明らかに尋常じゃないほどの疲れ目。
 クマができ、街の住人よりもやや痩せていて、髪の毛は白色になりかけていた。

 服はボロボロで、街で一番偉い人など、一目でわかるような格好ではないのは確かだった。

 ヨボヨボのおじいちゃんのようにカクカク震えているが、実年齢はまだ三十代前半とのこと。

 生活の苦労さが窺える。

「詳しい内容は言えないんですけど、ちょっと森の調査で……。こっちからも質問したいことがあるんですけど、いいですか?」

「もちろんでございます!」

「なんで、この街は……その……廃れているんでしょうか?」

「街ですか……」

 一気に元気がなくなる市長さん。

「元々はそれなりに栄えていたんです」

「元々は?」

「ええ、このような帝国の首都、帝都とはかけ離れた位置にある街は帝国からの支給金でどうにか特産品を生産し、暮らしていました。ですが、いつの日かそれが途絶えたんです」

「支給金が……」

「だから、特産品の生産もできなくなり、冒険者はよりつかず、どんどん変わり果てていったのです」

「なるほど……」

 考えられるのは、皇帝が支給金をストップしたか、貴族たちが横領したかの二択だろう。

 このどちらかが、最もあり得そうである。

 皇帝の性格などを知らないため、はっきりと断言することはできないが……。

「そうですか……ありがとうございました。帝都に着いたら、皇帝陛下にも話してみますね」

「おぉ!ありがとうございます、勇者様!」

「いえいえ」

 仰々しくお辞儀をされて困りながらも、笑顔で返す勇者。

(私にもなにかできないからしら)

 流石にお金をばら撒くと、何かと不審に思われるしな……。
 うぅん……だったら、

「一ついいですか?」

 手を挙げる。
 それは、その部屋にいた、勇者一行と市長にもちゃんと見えたようだ。

「あの、勇者様。そちらのお坊ちゃんは?」

「坊ちゃ……えっと、そいつは臨時で勇者パーティに加入した子です。実力も俺たちと引け劣らないですよ」

「なんと!こんな子供が!?」

 バカにしてんのかな、この市長さん。
 でも、生活っぷりを考えると、かわいそうに思えるので、手は出さない。

 これが勇者だったら、三回は本気で殴ってる。

「それで、なんですかなお坊ちゃん」

「一つやりたいことがありまして……」

「それはなんでしょうか?」

「この近くにある森なんですけど、魔物を退治しても問題ないですか?」

「え?ええ、それくらいであれば、問題はありませんよ。むしろ大歓迎です」

「分かりました。じゃあ、俺は知らないですからね?」

「は、はぁ、そうですか……」

 ちゃんと許可はとった。

 魔物を狩ることが可能となったわけだが……。

「トーヤ」

「どうしたんだい?」

「俺、ちょっと出かけてくるわ」

「え?どこに行くんだ……って話聞いてる!?」

 私は、早々に部屋を退出する。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


 ——後日、冒険者ギルドには大量の魔物死骸が運ばれてきたそうだ。
 全部で何百頭もの魔物が無尽蔵に冒険者ギルドの前にどさっと置かれていた。

 すべて無傷。

 市場に出せば、街を復興するには十分すぎるほどのお金が入ってくることだろう。

 そればかりか、復興して、十年ほどは住人も普通に暮らせるだろう。

 そして、この魔物を倒した人物はまだ判明していないそうだ。
 一体どんな英雄がこの大量の魔物を狩ったのだろうか。

 だが、一つ問題……とも言い切れないが……が起きたそうだ。

 森の中で現れるはずの魔物が一匹残らず姿を消してしまった。
 これは、運ばれた魔物と関係するのだろうか。

 生態系が壊れてしまった。

 そのせいで、起こる問題は冒険者の減少だが、もともと一人もいなかった冒険者ギルドだ。

 魔物がいてもいなくても関係ない。
 だから、この街は大して傷を受けなかったそうな。

 その代わりに、森の中から普通の動物が姿を見せ始めた。

 ウサギ、鹿、イノシシ……それに虫たちもだ。

 その後、この街が動物触れ合いの場として、有名になったのはまた別のお話。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


 数日後——

「ここら一帯には鉱山はなさそうだな」

「みたいだね」

「魔物も全くいないし、平和だな」

「み、みたいだね……」

「ここに止まる理由もないし、そろそろ次の街に行こうか!」

「「「はい!」」」

 今日も元気に馬車の旅。

 ——なお、次の街までは一ヶ月かかることを、ベアトリスはまだ知らない。
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