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さっきの敵は今の友

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「おーよしよし!」

「……………」

「キュイ!」

 あぐらをかいて、股の間に入れて頭を撫でてあげる。
 スカートを履いている女子としてはあり得ない体勢だが、別にいいだろう。
 
 やはり可愛い。

 小動物を飼ってない人にはあまり、伝わらない感情かもしれない。
 あれだ。

 うちの子まじ天使!

 ってやつ。
 私には前世でも今世でも未だ子供はいないが、もはやユーリは子供と考えても問題ないのでは?

「見て!うちの子!」

「なにを言っている?」

 伝わらなかった。
 悲しくなったので、とにかくユーリを撫でまくり、あまり鳴かなくなったあたりで話の続きをする。

「それで、あなたたち組織はなにを目的に掲げてるわけ?」

 幹部勢のことはひとまず置いておくとして、問題は組織の目的。
 なにがどうしたら、私を狙うことにつながるのか。

 流石に、私くらいの年頃の少女が、発言権を持っていて、こいつ捕まえての一言であんな大軍が動くわけない。

「私は知らない」

「おいおい……仮にも情報部門の幹部なんでしょ?なんで知らないのよ?」

「情報部門は諜報活動もする。だから、捕まった場合、裏切ることを考慮して、重要なことは教えてもらえない。私も例外じゃない」

「あ、はい」

 案外真面目に答えてくれた白装束にびっくりする。

 ん?

「ごめん、そう言えば名前なんだっけ?」

「聞くの遅すぎ」

「すみませんでした……!」

「フォーマ、私の呼び名」

「それが名前?」

「多分」

 なんでわかってないんだよ!

「組織はいるときに、傀儡に記憶操作されたから、わかんない」

「なにそれ……ひどいことをするものね!」

「ある程度の知識はあるけど、前所属の教会のこととか、ほとんど覚えてない」

 傀儡か……。

 とりあえず、

「一番危険なのは傀儡ってことでいい?」

「ん。記憶操作はお手の物。二つ名の通り、操作に長けてる」

 未来予知の次は操作系かよ!
 しかも記憶まで操れるんでしょ?

 私も操られたりしてないだろうか……。

 ……………。

 まさかね!

 そんなことがあるわけない!
 私は今までそんな奴と会ったことないから!

 ん?
 ちょっと待てよ?

 そんな奴、どっかであった気がする。
 思い出すは五歳の誕生日の日。

 襲撃事件が起き、その首謀者みたいな奴がいた。
 そいつは、ちょっと強い男を操作し、私に戦わせて……。

「いや、気にしすぎだよね……」

 接触したかもしれないが、記憶を操られたとは限らない。
 だって、あいつと戦わせたのは分身の方だから。

「それで、他に情報はない?」

「ん~。強いていうなら……ベアトリスが強くなるのを放置しても問題ないと決定したのは傀儡だった。それぐらい……」

「私が強くなる?」

 確かに不自然だ。
 なぜ、傀儡は私が強くなることを止めようとしなかったんだろう。

 今では、その黒薔薇とやらの組織の幹部と戦えるほどにはなっているというのに……。

 そして、今回のスタンピードの件では私を捕まえようとしていたみたいだし……。

「あ!あと、協力者……」

「私と同じくらいの歳の子のこと?」

「それ、そいつが後から教えてくれた話なんだけど、『問題ないよ。それが“上の人“を守ることにつながるのだからさ!』って傀儡が言っていたらしい。私には理解できないから聞き流してた」

 上の人?
 つまり本物のボス?

 でも、組織上、ボスがいないと成り立たないよね。
 影武者を代理にしてボスが不在というのも、幹部たちの事情を知るものたちに不信感を与えかねない。

 ということは、

「黒薔薇以上の組織が上にあるということ?」

「なるほど」

「でも、守ることにつながるって一体……」

「それに関して一言」

 白装束、もといフォーマが手をあげる。

「多分、上の人とやらが、ベアトリスのすぐそばにいるんだと思う」

「え?」

 フォーマにしては真面目なことを言う。
 まだ一日の付き合いだが、彼女の性格は大体把握できた気がした。

 ずばり、人をおちょくるのが大好きな性格。

 だが、こんな真面目なトーンで言っているのだ。
 内容的にも冗談とは思えない。

「じゃあ、一体なんだって言うの?」

「疑わしいのは、外部から入ってきた者」

「外部から入って来た者って……雇いメイドとか?」

「怪しい行動をしている人はいた?」

「いや、そんな気配はないけど……」

 わからないが、なんとなくフォーマが答えにたどり着いているんじゃないか、と感じた。

「何かわかったの?」

「一番自然で怪しまれない方法……メイドよりも安心な立場にある人物。つまり、ベアトリスにより近い者」

「勿体ぶらないで教えてよ」

「ん」

 指をさす。
 指した方向は再び私だった。

「なんなの?私自身ってこと?」

「そうじゃない」

 指の角度がやや下に向き……。

 私はそれを目で追う。

「キュン?」

 そこにはなんとも愛らしい小動物の姿が……って、

「は?まじで?」

「それしかない」

「うちの子が!?」

「キュン??」

 一匹だけ話についてこれてない……。

 ん?

 ちょっと待て!

「そう言えば、なんか言葉が通じてるような行動を普段からしてたよね、ユーリ……」

「キュ、キュン?」

 なにとぼけてんだ!
 いつも通じてるやろ!

「普通の小動物が会話できるわけない」

「じゃあ、ユーリはキツネじゃないの?」

「予想が合っていれば」

「うっそ……」

 いつも普通の小動物として接していたから、いろいろ思うところもある。
 騙されていた気分だが、こっちも可愛がっていたし、今はもう家族同然とまで思っているのだ。

 今更怒る気もないし、お互い様なので、ユーリを仲間外れ……家族外れにする気もない。

「ユーリ?」

「!」

 怒られると思ったのか、顔を埋めて、しっぽを立てる。
 威嚇のつもりだろうか、こんなことされたのは久しぶりだ。

「怒らないから、大丈夫」

「キュン?」

「安心して。今まで何か言い出せない事情があるんでしょ?大丈夫よ。家族なのは今までと変わりないし、今まで通り接するわ。だから……」

「キューン!」

 いきなり元気になり、私の顔に飛びついてくるユーリ。

「あはは!やっぱり言葉通じてるんじゃん!」

「キュン!」

「不思議な生き物……」

「不思議でもないよ。この子は家族なんだから!」

 不審がるのは当然だけどね。
 そこら辺、私は甘いのだろう。

「ベアトリス、本当にそれでいい?」

「もちろんだよ!」

「じゃ、私も納得」

「それでいいの?あなたたちのボスかもしれないんだよ?」

「私、そこまで組織に未練はない」

 さいですか……。

 幹部な割に忠誠心のかけらもないんですね……。

「まあ、とりあえず、ユーリがあなたたちの言う“上の人“かもしれないんだよね。だったら、ひとまずはあまり一人で行動させないほうがいいってこと?」

「ベアトリス的にはその方が組織に襲われる可能性も減る。万々歳」

「そっか、じゃあ、ユーリ?」

「キュン!」

「これからは、一緒にいようね!」

 一人にさせることが多かった。
 だが、それも終わりである。

 学院に連れていき、どうにか一緒に暮らす。
 そして、いつもの日常に戻って、ずっと一緒にいるのだ!

「キュン!」

「あはは!じゃあいこっか!」

「キュンキュン!」

「フォーマ!」

「ん?」

「情報ありがとう!この部屋は好きなように使っていいからね!あ!でも、今は私の父様がいないからいいけど、誰にも気づかれないようにしてもらっていい?」

 危険な行為とはわかっている。
 なぜなら、もともと敵対していた仲だからである。

 情報をペラペラと話してくれたし、そこらは大丈夫だろう。

 それに、『昨日の敵は今日の友』という言葉がある。
 それを信じることにしよう。

 私たちの場合は、『さっきの敵は今の友』だけどね!

「了解した、主よ」

「うん!じゃあ行ってきます!」

 なんだか勝手に主人扱いされた気が……まいっか。それで、どこへ行くのかと言えば……
 ……学院のグラウンドである。

 転移してすぐ、私の姿を見つけ、駆け寄ってくるのは、

「ベアトリスさん!どこへ行ってたんですか?心配したんですよ?」

「オリビアさん!そっちも大丈夫そ?さっき吹き飛んでたけど……」

「へ?そうなんですか?」

「ははは!覚えてないの?」

「すみません……記憶があやふやになってしまっていて……。って、さっきから気になっていたんですが、肩に乗ってるその子は?」

 オリビアさんの視線の先には、オレンジ色のモフモフな毛玉があった。

「うふふ、この子は……」

 自信満々に告げる。

「私の家族よ!」
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