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 でも、やっぱり攻撃はあたらなかった。

「未来予知っていうのはあってそうだね」

「ヒントはあげた」

 はいはい、私が馬鹿で申し訳ないですね!

 そんな非常識なスキル?みたいな力なんて、知ってるわけないでしょ!
 予想しろと言う方が無理である。

「それに、あなたも大概」

「は?何がよ」

「職業次第によっては、私なんかよりも強くなれる」

 職業によって、何が変わるかといえば、手にするスキルの種類である。

 だが、職業を持ってない私でもスキルは使える。

 いや、当たり前でしょ。

 天職がなんなのか知るのが、職業鑑定の儀であって、職業を得るわけではない。
 つまり、全員最初からスキルは持っているのだ。

 ただ、その存在を知らされない間はもちろん使おうとしないし、知ったとしても、十歳にならないと使えないよと言う、固定概念があるため使おうと思う人がいないのだろう。

 きっと知ってる人は知ってる。
 子供でも使えることを……。

 ただし、こんな職業でこんなスキルを持っていて、こんなふうにすれば使えるという情報が一切ないため、実際に使える人はいないだろう。

 それに比べて私はというと、自分の職業がなんであるかわかっているため、余裕で使える。

 自分では自分の職業をあまり好いてはいないので、誰にも教える気は無いが…。

「職業ね……かもしれないけど、今は関係ないでしょ」

 手に電気を流す。
 磁界を作って白装束の動きを制限するつもりだったが、やはりそれは通じない。

 ただ、

「範囲外に逃げるってことは、一応効果があるのかな?」

 白装束のことだから、謎の力で私の魔法をキャンセルしたりするのかと思えば、その範囲から逃げるという選択を取っている……。

「なんとかなりそう。というわけで、少年!手伝ってくれ!」

「あ、はい!」

 フードの少年と協力することになったことで、ある程度の技も通じるようになった。

 まず、私が囮として、白装束の視界の中に入る。
 その隙に、後ろからぶん殴ってもらうという戦法である。
 
 さっきとおんなじような戦法だが、私にかかる負担がなくなるので、戦闘において余裕が生まれるのは目に見えているだろう。

 私が白装束の気を引いている間に、少年が視界外に脱出できたおかげもあって、なんとか“戦い“を保てている。

 さっきまでの私のボコされっぷりを見てもらえばわかるだろうが、到底一人では勝てなかったため、少年の存在は非常にありがたい。

「さすが、私の攻撃を避けただけはあるわね」

 少年は、私の本気のパンチを避けた。

 それだけでもこの白装束と戦えるに十分なのだ。

「なんで、化け物が増える?」

「おんなじ化け物には言われたくないわ!」

「私より、二人とも、若い。だから、君たちの方が化け物」

 ほんとはわかってる。
 自分が周りとはちょっと違うことに。

 周囲の人たちと比べても、実力がある。
 別に馬鹿にしてるわけじゃないし、自分で自画自賛してるわけでもない。

 だが、前世と比べても気持ち悪いぐらいに化け物と化しているというだけだ。
 でも、今世は周りとは違う生き方をしたくなかった。

 家出すると言っている時点でそれは矛盾していることになる。

 私はただ、『異常』とあまり思われたくないし、かと言って自分の都合よい展開にならないのもいやだという……。

 単なるわがままだ。

 自分の都合のいい展開……ご都合展開というのか?
 何歳になってもそれを望んでしまう。

 それが人間の性質なんだろうな。

 だけど、私は我慢してきた方だと思うよ!?
 だって、できるだけ、正直に隠し事しないようにしたつもりだし!

 そのおかげで『神童』という不名誉な称号をもらってしまったが……。

「人間って最悪ね……」

「ベアトリス、壊れた?」

「ふん!なんでもないわ!」

(ベアトリスっていうんだ……)

 もちろんこの少年の呟きは二人に聞こえることはない。
 白熱したバトルに少年も意識を戻す。

 ベアトリスはというと……。

 馬鹿にされ、代わりとばかりにぶん殴ってごまかす。
 もちろん避けられたが……。

(傲慢なのが人間の本質だもん……でも、そんなこと考える必要はないわね)

 化け物化け物と言われ、前世の性格を取り入れてまで戦っているからそう感じるのだろうか?

 とにかく、この思考は一旦私の中から切り離すのだった。

『少年。どうにかなりそう?』

『のわ!?うるさいです!頭に響く……』

 いきなりだが、レイと同じように思念を飛ばせるようにしてみた。

 これで、会話は聞かれない。

 聞かれたところで、白装束が何かをしてくる様子はないけど。
 真面目に攻撃する気がなさそうな、白装束。

 だけど一応警戒は必要だからね。

『ごめんなさいね。で、どうなの?』

『あんまりよくないです……パンチもキックも効かないですし』

『魔法は試したの?』

『あ、えっと……僕、魔法が使えなくて……』

『え、そんな人世の中にいるんだ……』

『うぅ……』

 とりあえず、魔法はダメそうだ。
 今から立ち位置を入れ替えるとか言っても、視界の外に出ることは不可能だろう。

 いや、可能ではあるが……。
 視界の外に出ようとするのを予測されてしまえば、おしまいである。

 だから、今更そんな危険を犯すわけにはいかない。

『何かいい案はある?』

『そんなのありません』

『使えないやつ……』

『ひどくないですか!?』

 正直に、今のこの二人でも勝てる気はしない。
 だが、それは私が魔法を使用できない状況にある場合の話だ。

『じゃあ、私から一つ案があるんだけど……』

 私は自分の考えたアイデアを少年に話す。
 見知らぬ少年だが、なぜかすべて話すことができた。

 もしかしたら、この白装束の仲間かもしれないのに……。

 そういう心理的作用があるのだろうか。
 でももう、話してしまったので、遅いが……。

『なんて、シンプルな……そんなんで大丈夫なんですか?』

『複雑に考えすぎてたのよ。未来予知の能力を上回ろうとしていること自体が馬鹿だったの』

『まあ、わかりました!準備オッケーです!』

『じゃ、作戦開始だよ!』

 話はまとまった。

「何か、企んでる?」

「さて、なんでしょうね?」

 流石に、思念で会話している間、棒立ちになるのもどうかと思ったので、同じような攻撃を繰り返していたら、逆に怪しまれてしまった。

「んじゃ、いくわよ!『火球ファイヤーボール』!」

「こんなんで倒せるわけないのに……」

 人を哀れむような目で見るな!

 だが、その目線はとてつもなく巨大な火の玉によって遮られ見えなくなる。

(今だ!)

 私は光魔法の準備をする。

 気づかれてしまうと思うかもしれない。

 だけど、その心配はいらないのである!
 なぜなら、視界は奪ったから!

 おそらく白装束の目の中に映るのは現在、ファイヤーボールのみとなっている。
 目の中に映ったものの、先が見えるのであれば、その後ろに隠れて見えない、私の未来は見通せないのである。

 だからこそ、光魔法!

 嫌がらせで、さらに視界を奪ってやる!

「ほい」

 軽く掌で軌道を逸らされる火球。
 だが、それは重要な役割を果たしてくれた。

「今よ!」

「了解です!」

 光魔法が発動する。
 白装束は視界に入った私の未来を読み取る。

 そして、自身の後ろに魔法が来ることを察知する。
 ただ、いつもみたいに余裕な態度ではなく、焦った態度で……。

 一瞬視界に映っていなかった私が、何をしでかすか分からないからだ。

 私が光魔法を発動すると同時に、白装束が後ろを向く。

「うっ!な、なに?」

 発光し出した光の球体を直視した白装束は目を腕で覆う。
 なぜ、光魔法がくることをわかっていたのにも関わらず、こうしてくらってしまったのか……。

 それは、光魔法がくることはわかっても、どの魔法がくるかまでは分からないのだろう。
 ライトアローかもしれないし、ライトボールかもしれない。

 どちらも攻撃魔法だ。
 なぜ、分からないのか……。 

 発動した魔法は視界の外側にあるのだから当然と言えるだろう。

「オラァ!」

 そこに少年のタックルが入る。
 視界が奪われたことによって少年の姿が見えず、もろに食らう。

 そのまま押し倒し地面に背中をつけさせる。

 そして、

「『影の手シャドウハウンド』」

 三歳になったある日に初めて使った魔法である。
 こんな時に役立つとは……。

 光魔法によって白装束のわずかな隙間から影が生まれる。
 そこから無数の手の形をした影が伸び、彼女の体を拘束する。

「あ……」

「確保完了」

 白装束は体をジタバタと動かそうとするが、影に対して物理攻撃が効くはずなく、意味をなさない。

 地面に対しても同じくで、抵抗力が奪われた状態で、地面を叩き割って脱出することができるかと言われれば、これもできない。

 故に……

「私の勝ちよ!」

「これは……よく考えた」

 ふふん!
 褒めてもらっちゃった!

 敵に褒められるのはなんともいえないような気分だが、褒められたこと自体は嬉しい。

「分身体でも代用はできたかもだけど……うまくいってよかったわぁ」

「え?あの……これって、僕、必要でした?」

「必要だったに決まってるじゃない!分身体を操作しながら火魔法を使って光魔法も使って、闇魔法も使うって、かなりきついからね。手伝ってくれて感謝するわ」

「えへへ……」

 照れたような笑いが聞こえる。
 喜んでいるようで何よりだ。

「捕まっちゃった……」

「そう、あなたは捕まった」

「じゃあ、早く殺して」

「は?」

 いや、どうしてそうなるんだよ!
 それは流石に残虐非道すぎるだろ!

 そんなことをするはずもないし、想像すらしてなかったんだが?

「どうしてそうなった?」

「ベアトリス、残虐そうだったから……」

「断じて違う!情報を引き出させてもらうだけだよ!」

「情報?」

「そ、なんでこんなことをしたのか……わかった?」

 影の拘束があるから、白装束に拒否権なんてない。

「ん」

「よし、とりあえず、あの魔物たちの動きを止めてもらえる?」

「可能」

 そう言って、ゆっくりと目を閉じる白装束。

 その瞬間、学院内にいた生き残っている魔物約五十匹が一斉に森の中へと逃げ込んでいくのが、探知魔法で分かった。

「はぁ~これで一安心ね。そこの少年も——」

 そう言おうとしたあたりで気づいた。

「あれ?あの子どこ行ったんだ?」

 少年の姿はどこにもなく、辺りには静寂が広がるだけとなったのだった。
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