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迷宮攻略で勝負⑤
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変な声が聞こえてきたと思ったら、今度は目の前から黒いもやが出現する。
その黒いもやはゆっくりと広がっていき、何かを形作っていく。
(今度はなに!?)
殲滅したと思ったらこれである。
おそらく、何か強大な魔物でもくるのだろう。
物量は通じないと、気づいたと思うからね。
そもそも、二階層がボスの時点で変だったのだ。
こんなに短い迷宮が果たしてあるのか?
そんなんだったら、不屈の迷宮なんて呼ばれたりしないだろう。
つまり、迷宮の主人自ら、ここをボスの間へと変更したということになる。
自分の意思で、迷宮の攻略難度を下げた?
違う。
何かを確実に仕留めるためだろう。
それもなるべく早く。
何か焦っているのか?
でも、そんなことはどうでも良い。
「今は目の前の敵に集中しないと……」
黒いもやは巨大に膨れ上がり、やがて完全な姿が見えた。
「あれは……」
「死竜……デスドラゴン!?」
「勇者、そいつはやばいの?」
「やばいっていうか、俺以外まともに戦えないと思う」
レジーさんやミレーヌの攻撃は通じないってか?
ナニソレ、インチキじゃん……。
レジーさんたちだって、帝国で選ばれた精鋭中の精鋭なんだよね?
先代勇者でいうところの大賢者とかそこら辺の立ち位置だよね?
そんな人たちの攻撃が通じないなんてやばくない?
「私の攻撃は?」
「単純な魔力攻撃とか物理攻撃は通じない。残念だけど無理だと思う」
そんなにか!?
私って、魔法が専門でもないし、物理が専門でも何でもないのだ。
それは仕方ないと思う。
別の方法を考えた方が良さそうだ。
(はいはい、じゃあ私はどうしましょうかねぇ~)
やるべきことは一つだけだろう。
その考えが正しいと思ううちに私は行動を開始する。
「勇者、何分ぐらいそいつを抑えてられる?」
「わかんない。だけど、俺の魔力が尽きるまでは必ず持たせて見せる」
「そ。じゃあ、ここは勇者に任せる」
「え?いや、ちょっとま——」
というわけで、私は自分の役目を果たすべく転移していくのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「うふふふふ、まだかなぁ?まだかなぁ?早く倒れないかなぁ?」
一人の女性が歓喜に打ち震えている。
今にも喜びが爆発しそう、とでもいうように水晶を覗いている。
だが、彼女の目は捉えた。
その動きを……。
「ん?今なにを……」
「それはこっちのセリフなんだけど?」
「!?」
後ろを振り向く。
「何で、何でここにいるのよ!ベアトリス嬢!」
「あら?一応『嬢』呼びはしてくれんのね」
「答えなさい!」
焦りはベアトリスにも伝わってくる。
(案外間抜けな主人さんなのかな?)
これだったら、楽勝に倒せるかもと思うベアトリスである。
「簡単よ。あなたから発せられる魔力の道筋を辿ってきたにすぎないわ」
「簡単じゃないじゃん!」
そもそもとして、ベアトリスの簡単の定義が間違っているのだ。
簡単というのは魔力を使って転移することではない。
いや、それ以前に転移魔法自体が儀式魔法であり、何名かの術者によって実現可能となる魔法なのだ。
それを一人でやってのけるあたり、基準が明らかに違うのである。
「まあ、いいわ。こっちにきてくれたなら好都合よ。ここで私が倒すだけ!」
「それは困るわね。困る……」
ベアトリスがそう言葉を吐いた瞬間、彼女の周りを中心に雰囲気が変わる。
言うなれば、世界そのものが変わったような感じがした。
「な、なにこれ?」
ベアトリスに近づこうとすれば、足取りが重くなる。
緊張とか、恐怖とかではない。
明らかに何かの力が働いている。
「私が作った『磁界』よ」
「磁界?」
「この磁界……範囲は半径五十メートルくらいなんだけど、その範囲にいるものは、全部私の魔力の影響下になるの」
つまりは、ベアトリスの操る雷系統の魔力の影響を受けるということ。
「電気を使えば、あなたの行動だって制御できるってわけ」
足取りが重くなったのはそういうことか?
だが、女性はそんなこと気にもしてない様子だった。
「傀儡様のような真似を……」
「傀儡様?」
ベアトリスはその名について聞こうとするが、その前に女性が声を上げる。
「まあ、いいです!私がこれから排除する相手ですので!」
魔力操作なんて関係ない。
そんな気持ちを感じさせるほどの素早い動きでベアトリスに接近する。
だが、そう簡単に攻撃を受けるはずもなく、
「!?」
「あっぶないな……」
いつの間にか手に握られていた大剣によって軽く弾かれる。
黒色をベースにした大剣は女性の攻撃を軽く弾き返す。
「どこから出した?」
「アイテムボックス……まあ、異納庫というのかな?呼び方はわからないけど」
どうでもいいことかのように、ベアトリスは自分の大剣を眺めている。
(なんて硬い武器だ……)
密かに女性は焦り始める。
武器の強度が思った以上に高いことから、近接攻撃は全て意味を為さないと判断するに十分だったからだ。
だったら魔法を使う?
それではダメだ。
磁界の影響下にある状態での魔法の行使は危険だ。
(結局はスキル頼みってわけね)
勝てれば何でもいい。
つまりはそういうことである。
「『影移動』」
陰に潜り背後からの奇襲。
武器の強度なんて関係ない。
当たればいいのだ。
背後を狙い、攻撃を放つ。
「遅い」
無慈悲な言葉とともに、簡単にはじき返された。
「な、なんで……」
「磁界は全て私の監視下にあると思った方がいいわよ?」
「無理ゲーじゃんか、ふざけんな!」
次はどうする?
まだ、スキルはいくつか保有している。
試してみるのも——
「誰が、攻撃しないって言ったの?」
目線を上げれば接近していたベアトリスが拳を握るところだった。
それは自分に直撃する。
が、それだけだ。
「うふふふ、私には一切攻撃は効かないのよ!」
「……へー。どんな能力?」
「私は迷宮の主人!核が潰されない限り私は不滅の存在なのよ!」
だからこそ、強者たりえているのだ。
「核を潰せば、攻撃が入るってことね」
「あははは!核は私の手元にあるから、それも不可能よ!」
盛大に高笑いする。
だが、それは間違っていたと、後々後悔することになった。
「ふん!」
ベアトリスが、大きく体を回して大剣を力任せに振る。
そのせいで、女性がさっきまでいた部屋の面影は無くなっていた。
真っ二つに斬られた壁の破片が辺りに散らばる。
「なにをする気?」
内心、なにが行われるのか恐怖以外のなにものでもなかったが、女性は意を決して尋ねる。それに対してのベアトリスの反応は淡白だった。
「私が攻撃できないなら、絶対に攻撃が当たる状況を作ればいい。それだけよ」
「どういう意味よ!」
「鈍いわね。ここは地下よね?」
確かにここは地下だった。
ほんとはもっと階層がたくさんあるのだが、早く仕留めたいあまり、物量作戦に出たため、上の階層はほとんどガラ空き状態となっていた。
「地下だったらさ、倒す手段は他にもあるってわからない?潰れるように私は誘導するだけ」
「ま、まさか?馬鹿かお前!そんなんしたら、お前も潰れて死ぬだけだってーの!」
女性にははっきりわかった。
こいつが、私を迷宮の下敷きにしようとしていることに……。
こんな地下であれば、確実に死ぬ。
迷宮の瓦礫に押しつぶされてしまうのだけは避けなくてはならない。
もはや余裕は無くなっていた。
焦る気持ちはつい本音を口走らせる。
「くそが!」
「あ、ちなみになんだけど、私は転移できるので死にません、残念でしたね。ついでにいうと、ここは私の磁界なので、あなたがいくら迷宮を操作しようとしても、絶対にうまくいきませんのでご安心を」
焦りは絶望へと変わり始める。
「くそ!お前を殺すだけなのに!こんなガキに私が殺される?そんなのだめだ!あとお前とその父親だけなんだ!母親はうまく始末できたというのに!」
「母親?生憎母親は生きてるわよ?」
困惑しているベアトリスは時間がないと判断し、その場を後にする。
「今はいっか。じゃあね、哀れな主人さん」
薄く笑みを浮かべながら、その表情は瓦礫とともに見えなくなった。
残骸として残ったのは、半分に割れた水晶玉だけだった。
その黒いもやはゆっくりと広がっていき、何かを形作っていく。
(今度はなに!?)
殲滅したと思ったらこれである。
おそらく、何か強大な魔物でもくるのだろう。
物量は通じないと、気づいたと思うからね。
そもそも、二階層がボスの時点で変だったのだ。
こんなに短い迷宮が果たしてあるのか?
そんなんだったら、不屈の迷宮なんて呼ばれたりしないだろう。
つまり、迷宮の主人自ら、ここをボスの間へと変更したということになる。
自分の意思で、迷宮の攻略難度を下げた?
違う。
何かを確実に仕留めるためだろう。
それもなるべく早く。
何か焦っているのか?
でも、そんなことはどうでも良い。
「今は目の前の敵に集中しないと……」
黒いもやは巨大に膨れ上がり、やがて完全な姿が見えた。
「あれは……」
「死竜……デスドラゴン!?」
「勇者、そいつはやばいの?」
「やばいっていうか、俺以外まともに戦えないと思う」
レジーさんやミレーヌの攻撃は通じないってか?
ナニソレ、インチキじゃん……。
レジーさんたちだって、帝国で選ばれた精鋭中の精鋭なんだよね?
先代勇者でいうところの大賢者とかそこら辺の立ち位置だよね?
そんな人たちの攻撃が通じないなんてやばくない?
「私の攻撃は?」
「単純な魔力攻撃とか物理攻撃は通じない。残念だけど無理だと思う」
そんなにか!?
私って、魔法が専門でもないし、物理が専門でも何でもないのだ。
それは仕方ないと思う。
別の方法を考えた方が良さそうだ。
(はいはい、じゃあ私はどうしましょうかねぇ~)
やるべきことは一つだけだろう。
その考えが正しいと思ううちに私は行動を開始する。
「勇者、何分ぐらいそいつを抑えてられる?」
「わかんない。だけど、俺の魔力が尽きるまでは必ず持たせて見せる」
「そ。じゃあ、ここは勇者に任せる」
「え?いや、ちょっとま——」
というわけで、私は自分の役目を果たすべく転移していくのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「うふふふふ、まだかなぁ?まだかなぁ?早く倒れないかなぁ?」
一人の女性が歓喜に打ち震えている。
今にも喜びが爆発しそう、とでもいうように水晶を覗いている。
だが、彼女の目は捉えた。
その動きを……。
「ん?今なにを……」
「それはこっちのセリフなんだけど?」
「!?」
後ろを振り向く。
「何で、何でここにいるのよ!ベアトリス嬢!」
「あら?一応『嬢』呼びはしてくれんのね」
「答えなさい!」
焦りはベアトリスにも伝わってくる。
(案外間抜けな主人さんなのかな?)
これだったら、楽勝に倒せるかもと思うベアトリスである。
「簡単よ。あなたから発せられる魔力の道筋を辿ってきたにすぎないわ」
「簡単じゃないじゃん!」
そもそもとして、ベアトリスの簡単の定義が間違っているのだ。
簡単というのは魔力を使って転移することではない。
いや、それ以前に転移魔法自体が儀式魔法であり、何名かの術者によって実現可能となる魔法なのだ。
それを一人でやってのけるあたり、基準が明らかに違うのである。
「まあ、いいわ。こっちにきてくれたなら好都合よ。ここで私が倒すだけ!」
「それは困るわね。困る……」
ベアトリスがそう言葉を吐いた瞬間、彼女の周りを中心に雰囲気が変わる。
言うなれば、世界そのものが変わったような感じがした。
「な、なにこれ?」
ベアトリスに近づこうとすれば、足取りが重くなる。
緊張とか、恐怖とかではない。
明らかに何かの力が働いている。
「私が作った『磁界』よ」
「磁界?」
「この磁界……範囲は半径五十メートルくらいなんだけど、その範囲にいるものは、全部私の魔力の影響下になるの」
つまりは、ベアトリスの操る雷系統の魔力の影響を受けるということ。
「電気を使えば、あなたの行動だって制御できるってわけ」
足取りが重くなったのはそういうことか?
だが、女性はそんなこと気にもしてない様子だった。
「傀儡様のような真似を……」
「傀儡様?」
ベアトリスはその名について聞こうとするが、その前に女性が声を上げる。
「まあ、いいです!私がこれから排除する相手ですので!」
魔力操作なんて関係ない。
そんな気持ちを感じさせるほどの素早い動きでベアトリスに接近する。
だが、そう簡単に攻撃を受けるはずもなく、
「!?」
「あっぶないな……」
いつの間にか手に握られていた大剣によって軽く弾かれる。
黒色をベースにした大剣は女性の攻撃を軽く弾き返す。
「どこから出した?」
「アイテムボックス……まあ、異納庫というのかな?呼び方はわからないけど」
どうでもいいことかのように、ベアトリスは自分の大剣を眺めている。
(なんて硬い武器だ……)
密かに女性は焦り始める。
武器の強度が思った以上に高いことから、近接攻撃は全て意味を為さないと判断するに十分だったからだ。
だったら魔法を使う?
それではダメだ。
磁界の影響下にある状態での魔法の行使は危険だ。
(結局はスキル頼みってわけね)
勝てれば何でもいい。
つまりはそういうことである。
「『影移動』」
陰に潜り背後からの奇襲。
武器の強度なんて関係ない。
当たればいいのだ。
背後を狙い、攻撃を放つ。
「遅い」
無慈悲な言葉とともに、簡単にはじき返された。
「な、なんで……」
「磁界は全て私の監視下にあると思った方がいいわよ?」
「無理ゲーじゃんか、ふざけんな!」
次はどうする?
まだ、スキルはいくつか保有している。
試してみるのも——
「誰が、攻撃しないって言ったの?」
目線を上げれば接近していたベアトリスが拳を握るところだった。
それは自分に直撃する。
が、それだけだ。
「うふふふ、私には一切攻撃は効かないのよ!」
「……へー。どんな能力?」
「私は迷宮の主人!核が潰されない限り私は不滅の存在なのよ!」
だからこそ、強者たりえているのだ。
「核を潰せば、攻撃が入るってことね」
「あははは!核は私の手元にあるから、それも不可能よ!」
盛大に高笑いする。
だが、それは間違っていたと、後々後悔することになった。
「ふん!」
ベアトリスが、大きく体を回して大剣を力任せに振る。
そのせいで、女性がさっきまでいた部屋の面影は無くなっていた。
真っ二つに斬られた壁の破片が辺りに散らばる。
「なにをする気?」
内心、なにが行われるのか恐怖以外のなにものでもなかったが、女性は意を決して尋ねる。それに対してのベアトリスの反応は淡白だった。
「私が攻撃できないなら、絶対に攻撃が当たる状況を作ればいい。それだけよ」
「どういう意味よ!」
「鈍いわね。ここは地下よね?」
確かにここは地下だった。
ほんとはもっと階層がたくさんあるのだが、早く仕留めたいあまり、物量作戦に出たため、上の階層はほとんどガラ空き状態となっていた。
「地下だったらさ、倒す手段は他にもあるってわからない?潰れるように私は誘導するだけ」
「ま、まさか?馬鹿かお前!そんなんしたら、お前も潰れて死ぬだけだってーの!」
女性にははっきりわかった。
こいつが、私を迷宮の下敷きにしようとしていることに……。
こんな地下であれば、確実に死ぬ。
迷宮の瓦礫に押しつぶされてしまうのだけは避けなくてはならない。
もはや余裕は無くなっていた。
焦る気持ちはつい本音を口走らせる。
「くそが!」
「あ、ちなみになんだけど、私は転移できるので死にません、残念でしたね。ついでにいうと、ここは私の磁界なので、あなたがいくら迷宮を操作しようとしても、絶対にうまくいきませんのでご安心を」
焦りは絶望へと変わり始める。
「くそ!お前を殺すだけなのに!こんなガキに私が殺される?そんなのだめだ!あとお前とその父親だけなんだ!母親はうまく始末できたというのに!」
「母親?生憎母親は生きてるわよ?」
困惑しているベアトリスは時間がないと判断し、その場を後にする。
「今はいっか。じゃあね、哀れな主人さん」
薄く笑みを浮かべながら、その表情は瓦礫とともに見えなくなった。
残骸として残ったのは、半分に割れた水晶玉だけだった。
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