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変装という名の男装

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「なあ、なあ。どっか行こう?」

「は?なんで私が……」

「おお?いいのかなぁ、みんな(獣人たち)に『変な人に見られてたよ』って言っちゃおっかなぁ?」

「すいませんした」

 現在、ターニャと屋上の上で合流したところだ。

(ターニャって案外鬼畜?)

 ボーイッシュ風な短いボサボサ髪、半袖短パンの姿はどう考えても元気っ子にしか見えない。

 だが、中身はただの鬼畜である。

「というか、なんでベアトリスは獣人の街にいるの?」

「なんでって、観察……的な?」

「はっ!もしや、戦争の準備をするための!?」

「んなわけないでしょ!」

「知ってるよん!」

 こいつ………。

 歯軋りしたい気持ちを抑えながら、会話を続ける。

「でもさー。じゃあなんでここまできたの?一番近い人間の街でも数十キロ離れてるのにさ」

 私は転移とか、魔法でショートカットしているが、実際はそれぐらい距離があるのだ。

 私が全力疾走をずっと続けたとして、一、二時間くらいはかかる。

 ……………もちろん身体強化してだよ?

「え?だってかわいいじゃん?」

「か、かわ?」

「だってさ、あのもふもふな毛見てよ!触ってみたいとか思わないの?」

「いや別に?」

「とにかく!ただの人間目線だと、癒しの他なにものでもないの!」

「へーそうなんだ。じゃあおいらの触ってみる?」

 ターニャの耳がちょこちょこ動く。

(っく!心持ってかれそう……)

 ターニャは耳と尻尾しか生えていない。
 そのため、人間とさほど変わらない見た目をしている。私目線で言えばとんでもない愛らしさで思わず卒倒してしまいそうだが……

「いいよ……触らない」

「え?いいの?」

「無理に触らせてもらうのは、なんか違うでしょ?」

「ふ~ん、そういうもんかぁ」

「それより、どっか行きたかったんじゃないの?」

「あ!そうそう!おいらおすすめの観光スポットに連れて行くんだ!」

「案外普通ね」

 ターニャのことだから………。

「どこに連れてかれると思ったんだ!?」

「拷問部屋とか?」

「連れてかねーよ!」

「あ、そう?獣人って人間のこと嫌ってるらしいから、そういうことかと……」

 嫌ってる……っていうのは少し違う。
 前世の頃、今から数年先に即位するであろう獣王が人間のことを嫌っているのであって、現段階の獣王は別に人間を嫌っているわけではない。

 つまり、嫌っているのは今代の獣王の息子であるということだ。

「別に嫌ってるわけじゃないけど……まあ、いいや!観光スポットを巡るにあたって、ベアトリスくんにはして欲しいことがあるのだな!」

「なに?そのいやらしい目」

「むふふふ!」

 なんだか嫌な予感がする。

(逃げたいけど……)

 逃げたら、後でもっとやばいことさせられそうだと思った私は、素直に従うのだった。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「か、かわいい!」

「どこが!?」

「このちょこんと出てる髪の毛とか!」

「はぁ?」

「名付けて、『変装大作戦』だね!」

 現在私がなにをさせられているかといえば、それは……。

 言うなればファッションショーである。
 観光スポットを巡るにあたって、私は獣人の格好をしなくちゃいけない。

 見つかったら普通に不法侵入だしね。 
 それはわかってはいるのだが……。

「な、なんで私が男の子の格好を……」

「だって、そっちの方がよく似合うんだもん!」

「私は女よ!」

「イケメンのくせに贅沢言うな!」

 逆ギレ、だと?

「それに、尻尾も無理やりつけるんだから、スカートじゃなくて、短パンとかの方がいいでしょ?」

「それはそうかもだけどさ……」

 店の中で服を選んでいて、よくこんなしっぽ見つけたな。
 それとも、元から持ってたとか?

 鏡を見てみる。
 黒色の尻尾がだらんとお尻のあたりから垂れている。

「うんうん、かっこかわいい!」

「どっちよ……」

 それを言うんだったら、ターニャも大概だ。

「ターニャだって、昨日は髪長かったじゃん。だから女の子だってわかったのに……なんで切ったの?」

「え?なんか邪魔だなーって思って……引きちぎった!」

 だからボサボサなのかよ!
 ターニャは昨日まで、肩ぐらいの長さの髪を持っていた。

 だけど、引きちぎったは凶暴すぎでしょ。

「どうせならベアトリスもちぎる?」

「ちぎんないよ!私はちゃんとお団子にして帽子かぶってるし!」

 だからボーイッシュに見えるのも仕方ないと思わなくもないが……。

 はい!

 ここで、私の見た目の特徴を振り返ってみましょう!

 まず、髪の毛は帽子で見えません!(ショートに見える)
 帽子の中から鋭い眼光が見えます!(女らしさが消え去る)
 ぶかぶかな長袖を着ています!(ダボダボファッション)
 ズボンは短パンを履いてます!(男の子がよく履く)
 そして、尻尾がついています!(かわいい)
 &謎にくっついてる靴とズボンを繋ぐベルト(なんか……ターニャの趣味を感じる……)

 …………………………あれ?
 私って男?

 ちょっとチャラついてる男の子?

 ついでに言えば、私の声って普通の女の子よりかは、若干低いので、男だと言われても違和感ないと思う。

「まあ、いいや。もう疲れた……」

「じゃあ、早速行ってみよう!」

 だいぶ疲れた私の体に鞭を打つかの如く、ターニャが手を引いて、走り出す。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「まじで、しんどい……」

「なにが?」

「見る分にはいいけど、見られるのはダメなのよ……」

 観光スポットを回るのは正直楽しい。
 だが、それまでの途中経過が地獄なのだ。

 いやぁ、大人目線から見たら私たちは元気に走り回ってる男の子二名なのだ。

 暖かい目で見ている人もいれば、やばそうな人も……。

「じゃあ、じゃあ!観光スポットじゃないんだけど、連れて行きたい場所があるの!いい?」

「連れてきたい場所?もう、この際どこでもいいわよ」

 別に観光することに関して言えば、楽しいのなんの。
 いいスポットが見れて楽しいってのもあるし、すれ違う獣人さんたちがみんな可愛いって言うのもある。

 いやぁ!
 最近はストーカー(勇者)の相手で忙しかったから、まじで最高!

 まあ、そんなことを考えながら、私はターニャの後をついて行くのだった。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「じゃーん!おいらのお家だ!」

「はぁ!?」

 やってきたのは、でかいお家の前だった。

「あ、あの、ここってお家というか、お屋敷なんだけど?」

「そうなの?よくわからないけど、ここに住んでるんだ!」

 まってまって!

 ターニャって貴族だったの?

「ほら!早くきて!」

「あ、ちょっとまって!」

 屋敷の中に入って行くターニャを見て、私も後を追うのだった。
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