上 下
46 / 504

嫌いになる

しおりを挟む
 ほぼほぼお風呂タイムではなく、追いかけっこタイムとなりはてたのち、互いにお風呂から出る。

 結局一緒にお風呂は入れなかった。
 反対側で入るのは絶対一緒に入ったという判定にはなれないはずだ。

 ひどいよ、ひどいよ。

 私は悲しいよ。

 そんなに嫌われていたとは。
 前世から嫌われていたのは知っていけどね。

 前世と言っても、未来の話であるんで、実質前世はこのぐらいの年齢から嫌われていたということだろう。

 というか、そもそも正しく未来を辿れていないのでよくわからない。
 あの、今更なんだけどかなり未来変わってきてるんよ。

 前世なら今頃いくつかの領地で反乱とか起きているはずなのに、そんな報告は上がっていない。

 つまりは、どこかしらで未来が変わっているということ。
 でも他の線もあるんだよなぁ~。

『他にも私と同じような人がいる』

 何が言いたいかといえば、私のように未来から死んでやってきた人がいるということ。

 っていうか、私オンリーでここまで未来を変えられるはずがない。
 そのため、この線が濃厚である。

 現在は、軽い服に着替えて、殿下の部屋で待機している。
 殿下はすでにお眠なようだ。

 うとうとしているため、こんな険しい表情をしていても何も言われないのだろう。

 その線が濃厚だと思うのはさっきも説明したが、だったらいったい誰なのかという話である。

 この世界でそれぐらい影響を及ぼせる人なんだから、有名人という可能性が高いんよ。

 そんなわけで、『王国内にいる』という可能性も浮かんできた。

「同じ国に私含めて数人くらいいるかもしれんってことは、他国にいてもおかしくないのでは?」

 あれ?

 つまり、私の境遇ってそんなに珍しくなかったりする?
 いや、王国民約百万人の中の数人だから珍しいことに変わりはないんだけど。

「これからどうなるんだろうなぁ」

 私は私のことを邪魔しない限り、どうでもいいけど。

 そんなことを考えていると、いつの間にか時間は経っていきーー

「ベアトリスお嬢様、謁見室にて国王陛下がお待ちです」

「は、はい!あの、殿下は連れていかなくてもいいんですか?」

「はい、第一王子様はまだまだ子供だからと、国王陛下が」

 子供ってなんだよ。
 なんなら、私も子供だよ?

「わかりました」

「お連れいたしますね」

 ドアを開けてみれば、お風呂の時にいたメイドさんだった。

「あの、聞いてもいいですか?」

「はい、なんなりと」

「お風呂の時何をしていたんですか?」

「え!?あ、いや、何もしてないですよ!?」

 めちゃめちゃ動揺してるじゃん!
 いったい何をしていたんだ?

 ちなみに、この人だけ手に持っている何かと、お風呂を交互に眺めていて、他のメイドさんたちよりも若干異質だったため、名前も覚えてしまった。

「じゃ、じゃあいきましょう!陛下がお待ちです!」

「は、はぁそうですか」

 なんか話を逸らされたけど、よしとしよう。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「やあ、やっときたかベアトリス嬢!」

 やけに上機嫌になっている国王。
 なんかいいことがあったのか?

「で、貴殿を呼んだ理由なんだが……」

「はい」

「実は、“勇者“が現れたんだ」

「はい、そうですか」

「……………え?」

「え?」

 だから、何なの?
 私が喋ったら時々相手が『え?』ってなるこの現象はいったいなんなの?

「なぜ、驚かんのだ?」

「え?いや、すごいなぁとは思いますが、特別な思いはありませんね」

「そ、そういうものなのか?」

 いつの間にか横にいた、父様に目配せ。

 あぁ、今度は何を相談しているんだよ……。

「まあ、それはいいんだ。その、勇者が現れた国が問題なんだよ」

「はい、どの国でしょうか?」

「ログノード帝国」

「はい?」

 ログノード帝国

 それは人間が収める国の中で最も国力の高い国である。
 だからこそ、そう何度も勇者召喚の儀を行えたのだろう。

 勇者召喚の儀というのは、文字通り勇者召喚をするための儀式である。
 勇者っていうのは、魔王を倒せる唯一の人物って感じで有名だよね。

 先代勇者も、見事魔王討伐を果たした英雄って言われてるし!
 私、前世からそういうの大好きなんよ!

 カッコよくない!?
 勇者だよ!?

 前世の子供の頃なら、なって見たい職業ランキングにさ、勇者をサポートする“聖女“になりたいとも思ったけど、十歳の時の職業適性を見る儀式で現実を思い知らされたけどね。

 昔は良かった、純粋チックで。

 適性を見る儀式を成人式と間違えるほどバカだったが……。

 あれ?

 今もか?

 まあ、いいけど、とにかくそんな尊敬する勇者が召喚されたということはログノード帝国の国力が上がったということだ。

「まずいですね」

「さすがだな、ベアトリス嬢。やはり気づいたか」

 まあ、そりゃあ気づくだろうね。

「つまり、かもしれないということだ!」

 控えている騎士団にも伝わるような声で宣言する。

 ん?

 って………。

「そっちですか?」

「む?ベアトリス嬢は違う考えに至ったのか?」

「はい、勇者召喚によってログノード帝国の国力向上により、他国の緊迫状況の悪化。周辺国家の属国化、もしくは戦争が起こり、帝国周辺から波紋が広がるものかと。その余波で我々の食料輸入も一時期途絶え、王国の貧民及び難民が増加傾向になり、経済面が圧迫されるものかと思っていました」

「「「……………」」」

「あの、何か間違っていましたか?」

「い、いや決してそんなことはないのだが………」

 その場にいた全員がため息をつく。

「え?」

「すまん、国王として不甲斐ないのだが、その可能性は思い浮かばなかった」

 おい!
 国王でしょ!

 シャンとしないさいな!

「ついつい魔王に気を取られてしまった。だが、ベアトリス嬢の言う通りでもある。このままでは、最悪の場合人類の滅亡もありうる」

「魔王の復活と戦争の同時進行ですか。それは最悪ですね」

「ああ、その通りだ」

 魔王の復活で戦争しまーす!
 帝国が戦争起こしまーす!

 で、我が国挟まれて、滅亡!
 人類敗北不可避。

 って感じ?

「その勇者って名前はなんですか?」

「あぁ、秋嶋藤也トーヤ・アキジマと言うらしいぞ?」

「東方の名前見たいですね」

「一応、別世界の住人らしいが………」

 やっぱり、先代勇者と似たような名前だな。
 漢字とか言う文字を使っている名前というのは同じだった。

「まあ、それはいいんだ。重要なのはその勇者がとんでもなく強いということなんだ」

「それは………ある意味いいことなのでは?」

「もし、帝国がその力を行使しないとしての話だがな」

 それで、と話を続ける国王。

「その勇者が自らがどのくらい強くなったのか、試したいとか言い放ってな」

 言い方によると、きっと召喚されて何日か経っているのだろう。

「まあ、この世界での強者の名を皇帝が教えてしまってな………」

 ん?
 なんか言い方が不穏なんだが?

「飛竜隊、緑光の飛鳥、暗黒騎士、大賢者、大聖女、戦神、剣聖。そして……」

 国王が私の方を見てくる。

「そして、“神童“」

 なんでそこに私が出てくるんだよ!

「帝国の皇帝が告げた強者の名前だ。世界の名だたる二つ名、パーティ名、騎士団名を持つ面々の名前が挙げられた。その中にベアトリス嬢の名前もあったというわけだ」

「どういうわけですか!?」

「いや、私に言うでない!有名な二つ名を持つ人物なんて全員強いと相場が決まっておるのだ!」

「私は全然強くありません!」

「「「十分化け物です!」」」

「と、そこで勇者はこう尋ねた。『まずは、言い方は悪いけど、一番弱い方から戦って見たい』と!」

「つまり?」

「強さの基準が未だ不明なため、年齢が一番若いベアトリス嬢が最初に相手することとなった!」

「なんでですか!?」

 え?
 私勇者と戦わなくちゃいけないの?

 初めて勇者が少し嫌いになったのは内緒…………内緒事でもないか。

「もう、ほんっと嫌い………」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

処理中です...