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ベアトリス、誕生日会をする②

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 来てしまったよ、誕生日。
 つまりは今日が誕生日会が行われる当日なわけだ。

 私も現在、それ用の服に着替えているところだった。

「わ~!お綺麗です、お嬢様!」

 ミサリーが私を褒めてくる。

「えへへ。ありがとう!」

 私の服装としては、淑女系の白い服だ。
 服というよりドレスだけどね。

 それはそうとして、私は最後の計画の見直しをする。

(まずは、普通に他貴族の前で挨拶する。その後に、殿下が私のもとに来る前に、自分で睡眠薬を飲む。それで体調が悪いと言って、どこかで寝かせてもらう。そのまま、次の日を迎える。よし、完璧!)

 私の計画を見破る人は……………そんなにいないだろう。
 というか、そもそもの問題として、そのようなことをしようとするとは誰も思わないだろう。

(まあ、誰よりも未来を知っているからね)

 私以外に転生というのか、巻き戻りした人なんているかも知らないため、今のところは私が最も正確な未来を知っているということだろう。

(だからこそだよね)

 ここで未来を変えることで、多分私と殿下場合によっては王家そのものの未来を変えることになるだろう。

 だが、私は妥協しないよ?
 あんな地獄はもう嫌だ。

 殿下に裏切られたことが一番辛かったが、二番目に辛かったのは拷問だよね。
 まあ、そうだよねって感じ。

 処刑される人っていうのは、拷問されることが当たり前みたいな風潮があるらしい。

 いや、知らないけど……。
 現に私は拷問された。

 内容は言わないけど………。

 というわけで、私は妥協しない。
 未来が変わろうが私の知ったところじゃない。

(じゃあ、そろそろ準備を終えますかね!)


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


 私は、順調に準備を行い、時間は過ぎていく。
 夜になり、だんだんと貴族たちが集まってくる。

 顔を除けば、純粋にお祝いにきた人物、利益目当ての人物、なんとなくできたという風の人物など、様々いた。

 面白いとは思う。
 人間観察しても、前世は特に何も感じなかったが……。

 前世なんて、他人の顔色はうかがったことなんてなかったからなぁ~。
 今世はすぐに貴族社会から出ていくつもりだが、それまでの間は、真面目なふりをしておこう。

 ふりって言っても、普通に貴族らしい振る舞いをするだけなんだけどね。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 私は考え込んでいるところにミサリーが割って入る。

「うん、大丈夫」

「今回の誕生日会、初めてですもんね。緊張しちゃいますよね」

 私が考え込んでいるのを緊張だと思ったのだろうか。

「うん、でも大丈夫だよ」

 笑顔で返事を返す。

「ふふ、そろそろ出番ですね」

「行ってくるわ」

 私は、会場に向かっていくのだった。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


 俺は公爵家に来ていた。
 特に行きたかったとかではないのだが、父上……国王が参加しているのだ。

 俺は第一王子なのだ。
 来なければ、公爵家に対して失礼に値する。

 それは、王家の質を下げることになるのだ。
 それに、今回は顔合わせという意味も含まれているそうな。

 ここの長女との婚約はすでに決定事項らしい。
 顔も見たことない相手と結婚させるのはどうかという話になってくるので、それも含めてだそうだ。

 つまりは、俺に拒否する権利はないのである。

「どうだ、ロイド。案外悪くはなかろう?」
 
 相変わらず、ただの称号で呼んでくる人物。
 父上が話しかけてくる。

「…………そうですね」

 貴族たちがわちゃわちゃとしている空間は嫌いだ。
 堅苦しい称号呼びもいやだ。

 お互いがお互いの顔色をうかがいあっているのがとても気持ち悪い。

 俺は真正面から話せる相手が欲しいのだ。

「今回の誕生会の主役はベアトリスという公爵家長女だということは聞いているな」

「はい、文武両道で有名ですよね」

 武を学び、すでに文学はマスターしたと言ってもいいほどらしい。
 もちろんただの噂だが………。

「そういうわけではないが………これから会うのに緊張はしないのか?」

「してますよ、でもそれ以上にまともに話せるかが不安ですね」

 自分が………という話でも相手が………という話でもない。
 相手が俺の腹の底を伺ってくるかが問題なのだ。

 そんなやつとじゃれ合う気はないし、子供もできれば作りたくはない。
 まあ、四歳である自分がいうのもおかしな話だ。

 妙なところで大人よりも優秀で、それでいて、発想が飛び抜けているとよく配下からは言われるが。

「お?そろそろだぞ」

 父上が階段の上の方を見上げる。

「それでは、ベアトリスお嬢様の挨拶です。お願いします!」

 執事だろうか、黒い服を着ている男が、自分から見て右手の方に手を向ける。
 そこからゆっくりと誰かが出てくる。

「「「……………」」」

 その場は静寂に包まれた。
 決して、出てきた少女が何かをしでかしたというわけではない。

 どちらかというとその反対、少女の美しさに息を飲んだのだ。

 自分は子供なため、美には疎いが、均等に作られた顔立ちと白い肌。
 若干染まっている頬や、少し切れ長な目がまた妖しい雰囲気を漂わせている。

 子供ながらにして、すべてを持ち合わせているかのようだった。

「皆様、本日は私の誕生会にお越しくださり、誠にありがとうございます」

「「「……………」」」

 落ち着いた口調かつ、丁寧に告げられたその声音に再び黙り込む周りの貴族たち。

 それは、もはやただの五歳児だとは思わせなかった。

「本日は綺麗な月が出ていますね。今宵の宴を祝福してくださっているようです」

 微笑を浮かべる少女に何度目かの沈黙。

「では、長ったらしい話は皆様お嫌いでしょう?早速ですが、乾杯をしてしまいましょうか」

 周りにいた貴族が慌てた様子でグラスを手に持つ。

「私の誕生会に参加してくださったすべての方々、その関係者の方々に最上級の感謝を。乾杯」

「「「乾杯」」」

 そこで、その少女は元きた場所まで戻っていく。

「思った以上の逸材だな」

「挨拶だけでわかるのですか?」

 父上はどことなく、遠い目をしているような気がした。

「あれは、あの所作は……貴族社会で数十年生きていないとできないだろう。それに、一人一人の顔を見渡して、全体での感情を把握し、挨拶を省略した。もはやプロだな」

 感心したように、父上が述べる。

(なんだ、やっぱり同じか)

 結局その少女も顔色をうかがうだけの存在だということだ。

(何も変わらないか)

 期待していた自分もばかだったのだろう。
 この宴で、貴族としては異端な自己を貫き通すような人物は見当たらなかった。

「どうだ?惚れたか?」

「は?何を言ってるんですか!そんなわけないでしょ!」

 いきなりの言葉に顔を赤くし動揺しつつ、きっぱりと否定する。 

 そして、いつの間にか、少女は階段を降りてきていた。
 そこには、わらわらと人だかりができていた。

(貴族派閥の奴らか)

 派閥というものが存在するということは貴族では知っていて当然のこと。
 その話はまた今度するとしよう。

 少女は困ったような顔で全員の相手をしている。

(しょうがない、俺も向かうか)

 挨拶くらいは一人でしなくてはならない。
 できて当然のことだからだ。

(と、その前に何か飲み物でも飲もうかな)

 喉がガラガラでは格好がつかないし、そのようなところを他人に見られるわけにはいかない。

 喉もちょうど乾いていたところだったという面もある。

(あれでいいか)

 一際目立つように置かれている高級そうなグラス。
 その中には、透明な液体が入っていた。

(王家用だろうな)

 貴族たちは現に、このグラスに触ろうとする様子はなかった。
 皆が王家のものだと理解しているかのように……。

(貴族用と、王家用に分けてあるのか)

 それが、当たり前なのかは知らない。
 宴に呼ばれる回数は少ないからである。

 まあ、国王にわざわざきてもらおうと考えるのはきっと公爵家、辺境伯などの一部地位が高い者たちだけだろう。

 俺はそのグラスを手に取り飲もうとする。
 だがーー

「ダメ!」

 少女の声に驚き、思わずこちらに向かってくるその少女にその中身をかけてしまった。形としては、彼女が俺に突っ込んできたからかけてしまったわけだが、ここで謝罪すれば周りの誠実さのアピールになる。

「すみません、ベアトリス殿。貴殿の服を汚してしまいまして……」

 弁解しようとする言葉は次に出る少女の言葉によって遮られることとなる。

 その言葉は、貴族たちをも驚かせるに十分なものだと、次の瞬間には知ることとなる。
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