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実力の露見

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 私ことベアトリス。
 本日は、街に出歩く許可を得ました。

 と言っても、専属騎士を連れて行かなければいけないということらしい。

「やった!」

 それを父様から聞かされた時は、跳ね上がって喜んでいたものだ。
 ただ、許可されたとはいえ、確実に安全が確保できるように、警備兵を増やして、十分に警戒に当たるらしい。

 だが、許可を得られた最大の理由はというと、それは「ベアが強いから」らしい。

(ふっふっふ!私ってば強いでしょ!)

 何気に一ヶ月が経って、かなり体を鍛えることができてきていた。
 ただし、筋肉はついていない。

 こればっかりは、女性ということもあって、どうしようもない。
 だが、確実に同年代の子よりは動けるだろう。

 それは一体なぜか?


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


 少し前のことーー

「お嬢様!競走しましょう!」

「ふえ?いいけど?」

「では、私の隣に並んでください!」

 メイドさん改め、ミサリーは体を動かし準備体操をしている。
 最近、名前で呼んで良いかと聞いたところありがたく許可をいただいたのだ。

 前世で友達ゼロだった私にとって初めてのお友達……!
 使用人だけど、そこはご愛嬌だよ?

 別に前世で、メイドたちにいじめられたとかそういうことは一切ない。
 ただ、私と関わろうとするメイドさんがいなかっただけでね。

 私ってば、父様に溺愛されてたから、調子に乗って偉そうになり、メイドさんたちからは避けられていた……。

 完全に自業自得!

「では、行きますよ~!」

「うん」

 おっと、今は競争に集中しなければ……!

「よーい、どん!」と、声をあげたと同時に二人とも走り出す。

 その時、ミサリーが駆け出す。

「ほらほら!お嬢様も全力で走ってください!」

 後ろを振り返りいい笑顔でミサリーが声をかけてくる。

(まあ、そこまで言われたら?)

 私も全力で走る。
 毎日の鍛錬の成果、ここで見せる!

「わ!?」

「まてまて~!」

「お嬢様!?めっちゃ早いじゃないですか!?」

 ずっと、走ってないと思われるミサリーに毎日走っている三歳児がどこまで通用するか、これはいい検証の機会となるだろう。

「っく!」

「あ!まって~!」

 意外にもミサリーは足が早いのか?
 それとも、自分がまだ三歳児であるからかは不明だが、明らかに追いつけないほどの差ができていた。

(あ、速い………)

 流石にまだ鍛えが足りなかったらしい。
 圧倒的差が生まれたのち、ゴールと定めていた場所までミサリーが到着する。

「はぁ~!ゴールです!」

「まけた~!」

「ですが、お嬢様も十分速いですよ?十分すぎるほど………」

「ん?」

 神妙な顔をして、何かを考えている。

「どうちたの?」

「え!?なんでもないですよ!」

 驚いたかのように声が裏返っているけど、本当だろうか?
 まあ、いいけど。

 踏み込んだところまで聞くのは野暮ってものだ。

 それよりも、こんなにも遅いなんて!
 負けてしまったことを考慮すると、まだまだのようだった。

(鍛錬時間……睡眠削ってやってみようかな)

 地獄の鍛錬を、数時間伸ばして続ける。
 そうすれば、きっと……。

「お嬢様!私のストレス発散に付き合っていただきありがとうございます!」

「え?ストレス?」

 走る前には聞かされなかった真実に驚く。

「実は、ちょっとばかり、お仕事のことで疲れてしまいまして………だから、今日はありがとうございます!」

「え?う、うん」


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


 ストレスって走ることで発散できるのだろうか?

(今度私もやってみよう……)

 ミサリーはすっきりできたようだから、まあ、よしとしておこう。
 まあ、なにが言いたかったかというと、私はミサリーほどではないが、十分早く、すばしっこいから問題ないのだと……。

 大人の女性よりも遅いのに、なぜ大丈夫なのか?ということにツッコミする気はない。

 だって、出かけることができるのは今日が初めてだから、ここで引くわけには行かないのだ。

 ということで、私は早速お着替えをすることになった。

「あらまあ!可愛らしいですよ!お嬢様!」

「えへへ……」

 ミサリーが私のことを褒めてくる。
 鏡で自分の姿を見たが、そこまで可愛いだろうか?

 私は私の見た目が可愛いとは思わない。

 なぜならーー

(目つきこっわ!)

 前世で慣れているとはいえ、こんな目で友達ができるだろうか?
 街に出るのにこんな見た目では怖がれるのではないかとうとう、不安は拭えなかったが、そこは諦めた。

(服は十分可愛いし、顔立ちも悪い方ではないのが、唯一の救いだな~)

 のんきに私はそんなことを考える。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「お嬢様!いってらっしゃいませ!」

「うん!」

 護衛に囲まれながら、お嬢様お手を振られてお出かけなさる。
 なぜ、お嬢様が出かけることができるようになったか、正直にいえば、ほとんど私ことミサリーのおかげとも言える。

 自画自賛というわけではなく、本当にそうなのだな。
 私は、お嬢様を送り出した後、すぐに旦那様に呼び出された。

 私は、扉をノックする。

「入れ」

「はい、失礼します!」

 声を張り上げて入室する。
 そこにはいつも通りの態勢で旦那様が座っていた。

 だが、その表情はいつもよりも暗い。

「ミサリー。お前を信じ、ベアを街に行かせたが、本当に大丈夫なんだろうな?」

 その疑問は、親なら当然のものだろう。
 だから、私も嘘偽りなく答える。

「大丈夫だと思います。旦那様」

「ふむ、その根拠は?」

 そうくると思っていた。
 だが、私の回答はもう決まっている。

「お嬢様がお強いからです」

「普段のベアの生活のほとんどは、お前が支えていることだろう。だからこそもう一度聞く。なぜ、であるお前が強いと判断したんだ?」

 私は旦那様がおっしゃった通り、冒険者をしていた。
 代々メイドをやっている我が家は“自分の身は自分で守る“がモットーだった。

 だからこそ、冒険者になり、技術を磨いていたのだ。
 一応Bランクというまあまあ、高ランクな冒険者になった私が強いと言ったのだ。

 気になるのは当たり前だろう。

「それは、外遊びで見せたお嬢様の走り方です」

「なに?」

「走り方だけではありませんが、一つずつ説明させていただきます」

 一度息をついて話し始める。

「私がBランク冒険者であることはご存知ですよね?」

「ああ」

「Bランク冒険者というのは、一般人に比べてだいぶ実力があるんです。どのくらいあるかと申されますと、お答えしかねますが……。少なくとも、一般人の男性の二倍以上が足が早いのが当たり前という世界です」

「それは、お前のような“瞬足“などの呼び名がない普通のBランクの話か?」

「はい」

 私はBランク冒険者の中でも、足が早いことで有名だったのだ。
 そんな私がこれからする話はきっと旦那様は信じられないことだろう。

「私、この間、お嬢様とかけっこしたんです」

「え?あ、ああ」

 いきなりの話の変わりように旦那様が戸惑う。

「そこで、お嬢様に本気で走ってもらうように促してみたんです」

「そ、それで……どうなったのだ?」

「結果は私の勝ちでした。ですが……」

「ですが?」

 言葉をためて一気に吐き出す。

「その走りは、並の大人の早さを超えていました。それどころか、最近の低ランク冒険者よりも速いと、私は思っております」

「なんだと!?」

 そもそも、年齢から考えておかしいのだ。
 三歳児の走る速さはせいぜい大人の歩く速度くらいだろう。

 にもかかわらず、その大人よりも速いというのはいい意味で異常なのだ。

「どうして、そんなことになったんだ?」

 すぐに冷静になった、旦那様が理由を聞いてくる。
 これに関しては、すでに気づかれないように探りを入れてあるのだ。

「おそらく、魔力増強訓練と、筋トレの同時進行が原因でしょう」

「なに?そんなことができるはずがない!魔力を感じることができたとしても、それを使った訓練なんて、早くて五歳以上だぞ!?」

「ええ、私もそう思いました……ですが、なんと言いますか。まあ、強いていうなら、さすがはお嬢様、といったところでしょう」

「どういうことだ?」

「天才的なんですよ、お嬢様の魔力の扱いが……」

 それは、才能だろう。
 そうでなければあり得ない。

「魔法に関しての才能がピカイチすぎるんです。だから、増強訓練によって、今では魔法も直接行使できるようになったみたいです」

「それは、単なるデマだと、いっていなかったか?」

「実際は違いました。この目で魔法を使っているところを見ましたし……」

「はあ。魔法の話はもういい。いや、よくはないが、先程の話に戻そう。なぜだ?」

 先程の話というのは、おそらく足が速くなったのはなぜかという部分だろう。

「先程、申された通り、魔力増強訓練と、筋トレによるものだと思っています。魔力増強訓練というのは、魔力量を増やすだけの訓練ではないのです」

「それは、私も知っているぞ?散々昔からやらされてきていたのだ。それがどうした?」

「ご存知の通り、その訓練は訓練を行なっている本人の体を鍛えることにもつながるのです。極限まで疲労した場合、肉体に直接負荷がかかり、その負荷が筋肉量など、代謝をよくし、健康状態も良くします」

「確かそうだったな、そんな効果があると知ったのはつい最近だが……って、ちょっとまて!てことは、ベアは?」

 流石に旦那様も気づいたようだった。

「そうです。なぜ、足が急激に速くなったのか。それは、極限状態まで疲労した体で、筋トレを行っていたからです」

「!?」

「通常ではあり得ないほどの疲労が襲いかかる訓練の後に筋トレを行った人など、この世に存在しないでしょう。使い切った段階で皆、失神してしまいますから」

 にっこりと私は微笑む。
 その代わりに、旦那様の顔が青ざめる。

 私が言いたいのは、こういうことだった。

 失神するほどの筋肉負荷をかけたのちに、さらに自分の体を追い込む。
 正直いって、お嬢様はおばかさんなんでしょうか?

 そうでないとあり得ないと言いますか……。

 最近は怪我も増えてきたお嬢様の身が心配でたまらない。
 ぎゃーという悲鳴を何回聞いたことか……。

 そのたんびに私は駆けつけたが、けろっとした表情で一週間もすれば治っていた。

 治癒能力も成長している……ということなのでしょうかね?

「短期間での成長か………はあ」

 問題の多さに頭を抱える旦那様。

「よし、四歳から授業を組み込もう。これ以上危険なことをさせる時間を与えるわけには行かないからな。それと、体育の授業はなくす。かまわんな?」

「仰せのままに」
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