デュランダル・ハーツ

創也慎介

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第14話 変わり者

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 高い位置にある天窓からは、雲一つない青空が覗いていた。透明のガラス越しに降り注ぐ混じり気のない陽の光は、“工房”内の空気を浄化し、どこか爽やかなものへと変えてくれているようである。

 リオンは案内役の女性――“たぬき”の耳と尻尾を持つ獣人・ノノに案内され、備え付けられた昇降機へと乗り込む。工房謹製のバッテリーに蓄えられた魔力を利用することで、二人が乗る足場は音もなく上昇していく。

 ノノがあれやこれやと説明してくれはしたのだが、一方でリオンの視線は頭上――天窓のすぐ下に鎮座する巨大な“船”へと釘付けになってしまう。唖然としてしまう“義賊”を察したのか、ノノはどこか意気揚々とその“船”について解説してくれる。

「でっかいでしょぉ? あれが、今、『デュランダル』の工房班が総力を上げて作ってる“飛空艇”っす。特大の魔導石を切り出して作ったエンジンを4基も組み合わせた、うちらの最終兵器なんすよ」

 彼女はどこか得意げに語るが、リオンは「ほお」とどこか気の抜けた声を上げることしかできない。それほどまでに工房高くに設置された“飛空艇”は巨大で、そのスケールに圧倒されてしまう。

 まだところどころ骨格や機関がむき出しになってはいたものの、おおよその形が組み上がったそれは、青い船体に施された彫刻の数々も相まって、じつに荘厳なたたずまいをしている。

 頭上に鎮座する飛空艇はもちろん、工房の各所でキビキビと動く作業員たちの姿に、リオンは改めてため息をついてしまった。『デュランダル』の本拠地に隣接する形で建てられたこの工房内では、日夜様々な発明品が生み出され続けている。

 諸外国から取り込んだ“機工”はもちろん、古代の遺物を解析したり、薬品や生物の生態分析といった施設まで備わっているのだ。

 リオンは部外者として初めて足を踏み入れたのだが、眼前に広がる充実した開発機関とそこで働く人々の熱量に、自然と圧倒されてしまっていた。

 いくつかの昇降機を乗り継ぎ、リオンらはその飛空艇のすぐそばまで辿り着く。彼が探し求めていた人物はワイヤーによって肉体を宙から吊るし、飛空艇の側面で計器類を相手に格闘していた。

 溶接機で火花を散らしながらも、時折、“彼”は手元の部品を見つめ、ぶつぶつと呟いている。

「ん~、良くないなぁ。ここのシャフトが歪んじゃってるよ。大丈夫かなぁ。もしこれが原因で、何かしら不具合が出でもしたら――」

 こちらに気付かず集中している彼に、案内役のノノが声をかける。彼女は大声で作業中の男性の名を呼んだ。

「ニーアさぁん。お客さんですよぉ!! お迎えに来たらしいっす!!」

 小柄な彼女の声量に、すぐ後ろに立つリオンまでも驚いてしまう。工房の各所から響く喧騒を押し払うような大声に、宙吊りになっていた男性・ニーアもすぐに気づいた。

「ああ、ノノ。あれ、もうそんな時間ですか?」
「そうっすよぉ。ロビーにいて欲しいって言ったのに、なにしてるんすか?」
「うわぁ、ごめんなさい! すぐ、すぐに用意しますんで!」

 ノノの言葉を受け、ニーアは急いでワイヤーを巻き戻し作業場から撤退する。ミノムシのように上へと姿を消した彼を、リオンはなおもあっけに取られたまま待っていた。

 やがて、二人が立つ連絡通路へとニーアがやってくる。彼は困ったように笑いながら、リオンらに何度も頭を下げた。

「本当にすみません。ちょっと良い所だってんで熱中しちゃって……以後、気をつけますんで――」

 必死に謝罪をするニーアに対し、リオンはただ「いや、全然」とたどたどしく返すことしかできない。ニーアは物腰柔らかな男性ではあったが、何より彼のその“異様な姿”を前にリオンは茫然としてしまう。

 ニーアは工房の面々が身につけている作業用ジャケットや厚手のズボン、ブーツといった出で立ちだったのだが、肝心なのはその隙間に覗く彼の肉体である。

 ニーアは全身の至る箇所に“包帯”を巻いており、一見すればミイラ男のそれだ。彼は隊員に支給される頭巾をかぶっていたが、その下の素顔も包帯で埋め尽くされ、目元しか見えていない。

 小言で責め立てるノノに、ニーアはなおも頭を下げている。穏やかな性格の男性というのは分かるのだが、それにしてもその異様な姿にリオンは唖然とするほかなかった。

 しばしリオンが呆けていると、ようやくニーアが視線をこちらへと投げかけてくる。

「リオンさんですよね? はじめまして、ニーアと言います。お待たせしてしまって、本当にごめんなさい」
「あ……い、いや、別に。俺はただ、あの女騎士さんに言われて、呼びにきただけだからさ」

 強烈な見た目とは裏腹に、ニーアはなおも物腰柔らかに頭を下げてくる。隙間なく巻かれた包帯のせいで表情は分からないが、目元だけでも彼の爽やかな笑顔が十分に伝わってきた。

 どうにも調子が狂ってしまうリオンだったが、このまま呆けているわけにもいかない。ニーアと合流したことで、二人は工房から次の目的地へと移動する。

 通路を足早に歩きながらも、包帯まみれの男・ニーアは、なおもにこやかにリオンと言葉を交わしてくれた。

「いやぁ、お聞きしてましたけど、随分とお若い方だったんですね。たしか隊長と同い年でしたっけ?」
「あ、ああ。今年で24だよ」
「へええ! 僕の4つも下なんですねぇ。そうなると、まだまだ僕が7番隊の最年長ってことになりそうですねぇ」

 包帯姿のせいで年齢不詳だったが、どうやらリオンが思っていた以上にニーアはまだ若者であるらしい。

 リオンは歩きながらも、自然とニーアの素性に興味を抱いていく。

「あんたも7番隊のメンバーってことは、あの女騎士さんの部下ってことだよな。なんでまた、工房で作業なんかしてるんだ?」
「僕は元々、工房の開発班に所属していたんですよ。最初こそ、部隊が利用する道具や薬なんかを作る係だったんですけど、ひょんなことから隊長に引き抜かれまして。今も暇があれば、ああやってお手伝いさしてもらってるんです」
「そうだったのか。しかし、驚いたよ。まさか、あんなでかい船まで作ろうとしてるんだからさ」
「すごいでしょう? 開発班が2年も前から試行錯誤してる、渾身の作品なんですよ! 外骨格にミスリルを取り入れることで強度と軽さを維持しつつ、それをそのまま魔導回路として利用することで、防御壁の発動機工を確保できたんです!」

 飛空艇の話題になった途端、ニーアはより一層饒舌に語り始める。リオンは隣を歩きながらも、「お、おお」とたじろいでしまった。

「船体には、大陸南部で見つけた特殊なマホガニー材を組み合わせてるんです。この地域に群生してるものは滞留した“魔力”をふんだんに取り入れてるんで、外骨格が発生させた魔法場の干渉をあまり受けない仕組みになってまして――」
「そ、そうなんだな……それはその――すごい――んだな?」
「ここだけの話ですが、最終的には主砲として旧文明の設計図を流用して作った特注カノン砲を取り付けようかと思ってるんですよ! これはさっきお会いしたノノの班が手掛けてくれていて、あの子のおかげでコストがなんと3分の1に――」

 次から次へと溢れ出るニーアの“機工語り”に、リオンはもはや返す言葉を失ってしまう。ニーアは怒涛の勢いで語りながらも、一方で隊員らとすれ違うたびに礼儀正しく「こんにちは」と挨拶だけは忘れず交わしていった。

(あの隊長さんの部下だけあるな……)

 ニーアのその“変わり者”っぷりに、リオンは肩の力が抜けてしまう。身振り手振りを交え興奮気味に語るニーアの姿を眺めながら、リオンはひたすら廊下を進み続けた。

 その怒涛の勢いがわずかに緩んだところで、リオンもようやく何気ない一言を返す。

「いや、驚いたな。あんた、本当に開発が好きなんだな」
「恐縮です。元々、幼い頃から“機工”が好きで、発明ばかりしてたんですよ。ただまぁ、そのせいでこんな姿になっちゃったわけですけど」

 唐突に話題がニーアの出で立ちに移り変わり、リオンも目を丸くしてしまう。ニーアは困ったように笑い、己がなぜ包帯まみれなのか、その背景を語ってくれた。

「10代の頃に発明品を作っていて、ちょっとした爆発事故を起こしちゃいましてね。そのせいで全身、大火傷を負ったんですよ」
「そうだったのか。いまだに包帯で治療してるってことは、よほど酷い怪我だったのか?」
「ええ、まぁ。火傷もそうだったんですが、発明品に組み込んでいた“魔晶石”の破片が全身に刺さっちゃったせいで、身体中で“魔力”の流れが不安定になっちゃったんです。だから今でもこうして、“呪文”を刻んだ包帯を巻いて、バランスを維持しつづける必要があるんですよ」

 ニーアはなおも明るく笑ってはいたが、彼の口から語られた深刻な過去にリオンは唖然としてしまう。ニーアの巻いた包帯は傷を癒すためだけではなく、彼の肉体に埋め込まれた小さな“地雷”が暴走しないための、抑制装置でもあったのだ。

 なんとも重々しい境遇にリオンが閉口してしまうなか、なおもニーアは笑顔で語り続ける。

「初めて見た方は、驚いちゃいますよね」
「あ、いや……すまない。そんな過去があったなんて」
「いえいえ、お気になさらず! 僕も最初は戸惑ってましたけど、もうすっかり慣れっこですから」

 リオンはその風貌からニーアをただの“変わり者”だと決めつけかけていたが、思いがけない彼の過去に絶句してしまう。安易な考えを抱いてしまった自分のことが、ひどくちっぽけに思えてならない。

 少し後ろめたい気持ちに支配されてしまうリオンだが、なおもニーアは調子を崩さずに笑みを浮かべていた。

「それに、その事故があったおかげで、結果的にこの組織にもいられるわけですしね。人生、なにがどうなるか分からないものですよ」
「事故がきっかけで、『デュランダル』に引き抜かれたのか?」
「ええ。僕の過去の発明品に組織が目をつけてくださって、アイデアを部隊の開発に活かしてくれるようになったんです。特にうちの隊長が、随分と僕のことを買ってくれましてね。気が付けば7番隊の隊員にまでなってました」

 ニーアはどこか困ったように笑ったが、彼の思いがけない経歴にリオンは素直に頷いていた。

「ご存知だとは思うんですが、うちの隊長って変わり者でしょう? けれど彼女、人を見る目は確かですからね。だからきっと、リオンさんも頼り甲斐のある方なんだろうって思ってるんですよ」
「そこまで買い被られても困るんだけどな……あの隊長さんが変わり者ってのは、素直に認めるけれども」

 リオンの一言で、ニーアが笑い声を上げた。彼は歩きながら、その柔らかな眼差しを前に向けている。

「“類は友を呼ぶ”って言いますからねぇ。これから合流するもう一人――“彼女”も、負けず劣らずに癖の強い子なんですよ」

 ニーアの一言で、リオンもほんの少しだけ我に返る。リオンは自身に託されていた依頼内容を思い出し、気を引き締め直した。

 リオンが“作戦室”に連れてこなければいけない隊員は、もう一名いる。二人は残りの7番隊隊員の居場所――『デュランダル』の拠点に備え付けられた大書庫へと急ぐ。

 目的地にたどり着き、ニーアが事情を説明することで難なく書庫の中へと入ることができた。扉が開いた瞬間、飛び込んできたおびただしい量の書物に、リオンはまたもや圧倒されてしまう。

 なんでもこの大書庫には『デュランダル』が各地から収集した“知識”が揃えられているようで、物語や伝記、魔導書に古文書、開くことが許されない禁書など、並べられている書物も実に様々だ。

 そんなどこか厳かな大書庫のなかで、やはりリオンはまず自分たちの頭上に注目してしまう。そこには先程までのような飛空艇の姿はなかったが、代わりにある一人の“少女”が浮かんでいた。

 彼女はワイヤーのような道具を一切使わずに宙に浮かび上がり、周囲に浮かぶ無数の書を眺めている。淡い光が数々の書を自動的にめくり、閉じたものを自動的に本棚へと戻していった。

 工房で見たものとはまた一風違った異様な光景に、リオンは言葉を失ってしまう。だが、頭上の少女はこちらに気付き、声をかけてきた。

「あんたが、例の“義賊”ね。なんだ、思ったより随分と若いじゃない」

 唐突に言葉を投げかけられ、リオンは「えっ」とうろたえる。少女は手を一振りし、周囲に浮かんでいた書物の数々を片付けてしまった。書物が棚に戻っていくなか、少女の小さな姿がすぅっと降下してくる。

 気が付いた時には、リオンらの目の前に“彼女”が着地していた。ローブと赤いマントを身に着けた彼女の姿を、改めてまじまじと見つめてしまう。青白い肌と後ろでまとめ上げた白髪、尖った耳というその少女の特徴的な容姿を自然と観察していった。

 そんなリオンに対し、頭二つほど背の小さい彼女は深紅の瞳を持つ眼をどこか不機嫌にゆがめてみせる。

「“ダークエルフ”がそんなに珍しいの? じろじろ見つめられるの、好きじゃあないんだけど」

 鋭く、どこか刺々しさすら感じられる声色だった。リオンは一瞬、たじろいでしまうが、ニーアがすかさず間に割って入ってくれる。

「まぁまぁ、ココ。そう、つんつんしないでくださいよ。なにせリオンさんだって、まだうちの部隊に来て日が浅いんですから」
「別にいつも通りよ。大体、7番隊の“隊員”になったわけじゃあないんだから、余計な気なんて使う必要ないわ」

 フォローしてくれるニーアに対し、ダークエルフの少女・ココはなおも不機嫌そうなまなざしを浮かべていた。その独特の圧に押し負けそうになるリオンだったが、一方で彼女が口にした“ダークエルフ”という単語に思いを馳せてしまう。

 それは遥か北の大陸に生息する人種で、“魔法の民”として有名なエルフから派生した種族の名である。エルフとは異なった独特の肌色はしているものの、種族特有の強力な“魔力”は決して失われておらず、過去には何人もの“ダークエルフ”が大魔導士として名を残している。

 ココが手にした長い杖と、道具一つ使わずに宙に浮かび上がっていたその芸当。そして無数の書を手すら使わずに読み進め、棚へと自動的に戻した先程の所業が、彼女が“魔力”を使いこなすエキスパートなのだということを悟らせた。

 リオンもその種族名を聞き及んでいただけに、目の前に立つココのその姿にどこか疑問を抱いてしまう。

(たしか“ダークエルフ”は、もっと高身長な種族だったはずだが……)

 どこか自身の記憶している像と目の前の少女を見比べてしまうリオンだったが、ココが今まで以上に不機嫌な眼差しで彼を睨みつけた。

「悪かったわね、“チビ”で」
「えっ――?」
「なに? イメージ通りのすらっとした、美人でグラマラスな“ダークエルフ”が良かった?」

 なに一つ言葉に発してはいないリオンだったが、一方でココはまるでこちらの心中を読み切ったかのように先回りした言葉を投げかけてくる。彼女の口の悪さもさることながら、一手先を読んだその話術にリオンは唖然とするほかなかった。

 少女のただならぬ立ち振る舞いにリオンが気圧されるなか、なおもココはその顔を不機嫌そうに歪ませていく。

「だいたい、どいつもこいつも“エルフ”ってイメージを美化しすぎなのよ。特に男ども……馬鹿の一つ覚えみたいに“巨乳の美女”ばかり連想して。己の願望ばっかりで虫唾が走るのよね」
「い、いや。なにもそこまで……」
「大体、長い手足なんて、“魔導士”には不必要なのよ。ましてや、胸なんて――こちとら、牛じゃないんだから、脂肪の塊ぶら下げる意味なんざないっての!」

 黙っているリオンを前に、ココはなぜかどんどんヒートアップしていってしまう。彼女の視線はもはやリオンではなく、どこか遠くを強く睨みつけていた。

 ニーアはこと“機工”に対する好奇心から止まらなくなる癖があるようだが、このココという少女もまた自身の“体系”に抱いたコンプレックスで暴走する悪癖があるらしい。

 また一人、7番隊に所属する“変わり者”と対峙し、リオンは冷や汗を浮かべて苦笑いする他なかった。

 ココがひとしきり愚痴をぶちまけたところで、ようやくニーアが割って入る。相変わらず彼は「まあまあ」と優しく少女をなだめていく。

「その件は一旦置いておくとして――ひとまず、今は“作戦室”のほうに戻りましょうよ。ほら、隊長たちだって待っているでしょうし」

 一瞬、ココは語りかけてきたニーアすらもキッと睨みつけたが、なんとか自身を制していく。少女は「ちっ」と舌打ちした後、実に気に入らなそうな表情でリオンに杖を向けた。

「改めて言っておくけど、変な気は起こすんじゃあないわよ。こっちは、あんたの考えてることくらいなら簡単に読めるんだからね。出し抜こうとした瞬間、消し炭にしてやるから」

 敵意に満ち満ちた言葉を投げ捨て、ココは杖を片手にそそくさと書庫から出ていってしまう。突きつけられた言葉に反論一つできず、リオンは歩いていく少女の小さな背中を脱力し見送ってしまった。

 その場に立ち尽くしてしまうリオンに、ニーアは「ははは」と苦笑いしながら救いの手を差し伸べてくれる。

「本当、すみません。ココはうちの隊員のなかでも、なかなかに気難しい子でして」
「あ、いや……大丈夫だ。あんたが謝るようなことじゃあねえよ。まぁたしかに、“起爆剤”みたいな性格のガキだな」
「ああ見えて、“魔法”の力は確かですし、根の部分は悪い子じゃあないんです。隊のなかでは僕に次いで年配者ですから、しっかりしないとっていう気持ちが強いんだと思います」
「そうなんだな――ん?」

 何気ないトーンで返そうとしていたリオンだったが、ニーアの口にした“年配者”という言葉が気になってしまった。彼は思わず隣に立つ包帯男を見つめ、首をかしげてしまう。

「今、年配者って言ったな? ええと……確か、あんたの年齢が――」
「僕は今28で、ココは一歳下なので27ですね」
「え……俺より年上なのか、あいつ!?」

 ニーアはあっけらかんと「ええ」と頷いているが、リオンは思わず目を丸くし声を上げてしまった。見た目こそ少女のそれだったが、一方でココは彼よりはるかに年上の隊員ということになってしまう。

 思いがけない事実にあんぐりとしてしまうリオンだったが、書斎の外から件の“ダークエルフ”の声が響いた。

「なにしてんのよ。とっとと行くわよ!」

 遠くから聞こえたその怒号に、二人は思わず身をすくませる。ニーアが「はいはい」と慌てて駆け出すなか、リオンは肩の力を抜いて脱力してしまった。

(つくづく、変わり者だらけだな……)

 新たに邂逅した隊員たちのその“癖”の強さに、リオンはたまらずため息をついてしまう。とはいえ、彼もまたニーアに続き、書庫の外へと駆けだしていく。このままじっとしていると、またいつ、あの少女――否、年上の女性の怒号が響くか分かったものではない。

 『デュランダル』の本拠地内を、三つの足音がそれぞれの歩幅で進んでいく。指定された時間に遅れまいと、“変わり者”たちは目的地である作戦室へと急いだ。
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