ゴースト×ライター

創也慎介

文字の大きさ
上 下
1 / 22

プロローグ

しおりを挟む
 閉め切ったガラス窓から差し込む月光が、並ぶ枯れ木の影を室内まで伸ばし、椅子や机の上を滑らせる。
 誰一人いない静かな空間で、“彼女”はただ一人、暗闇の中を歩く。
 左右に並べられた本棚の隙間から、時折、鋭く差し込んでくる夜の光を頬に受けながら、思いを馳せる。

 ――あいつのせいだ。

 あらゆる感覚が酷く希薄になってしまったこの肉体の奥で、それでも確かに残っている強い思いがあった。

 静かに湧き上がってくる、例えようのない恨み。
 今までの自分では決して感じなかったであろう、明らかな邪悪さを孕んだ憎しみ。

 今の“彼女”を突き動かしているのは、それだ。
 こうして大好きだったこの場所にいるというのに、考えれば考えるほど、肉体の奥底でどす黒い炎が燃え上がり、騒ぎ立てる。

 本棚の前に立ち、“彼女”は背表紙の群れを見つめ、自然と呟いてしまう。
 固く拳を握りしめ、瞬きすらせず、一心不乱に呪文のように口走る。

 あいつが悪いんだ。
 あいつのせいで全てを失い、こんなことになっているんだ。

 居場所を失い、宝物を奪われ、未来を消され。
 “命”すら――無くなった。

 人気のない図書館に、怨嗟の言葉がこだまする。
 渦巻く憎悪を身にまとった“彼女”は、誰にも届くことのない無数の呪いを、ただひたすらに吐き出し続けた。

 書物は決して答えてはくれない。
 無数の“物語”が詰まったそれらはただ黙したまま、月光の中で蠢く“彼女”の言葉に耳を傾けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

禁忌index コトリバコの記録

藍沢 理
ホラー
都市伝説検証サイト『エニグマ・リサーチ』管理人・佐藤慎一が失踪した。彼の友人・高橋健太は、佐藤が残した暗号化ファイル「kotodama.zip」を発見する。 ファイルには、AI怪談生成ブログ「コトリバコ」、自己啓発オンラインサロン「言霊の会」、そして福岡県██村に伝わる「神鳴り様」伝承に関する、膨大な情報が収められていた。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

【実話】女子校の不思議な話、怖い話

早奈恵
ホラー
【本当にあった怖い話】【本当にあった不思議な話】作者自身が過去に体験した話や、家族や友人の体験など、創作ではないと確信できる話を載せていきます。

僕が見た怪物たち1997-2018

サトウ・レン
ホラー
初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。 怪物を探す先生と、行動を共にしてきた僕が見てきた世界はどこまでも――。 ※作品内の一部エピソードは元々「死を招く写真の話」「或るホラー作家の死」「二流には分からない」として他のサイトに載せていたものを、大幅にリライトしたものになります。 〈参考〉 「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」 https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...