1 / 22
プロローグ
しおりを挟む
閉め切ったガラス窓から差し込む月光が、並ぶ枯れ木の影を室内まで伸ばし、椅子や机の上を滑らせる。
誰一人いない静かな空間で、“彼女”はただ一人、暗闇の中を歩く。
左右に並べられた本棚の隙間から、時折、鋭く差し込んでくる夜の光を頬に受けながら、思いを馳せる。
――あいつのせいだ。
あらゆる感覚が酷く希薄になってしまったこの肉体の奥で、それでも確かに残っている強い思いがあった。
静かに湧き上がってくる、例えようのない恨み。
今までの自分では決して感じなかったであろう、明らかな邪悪さを孕んだ憎しみ。
今の“彼女”を突き動かしているのは、それだ。
こうして大好きだったこの場所にいるというのに、考えれば考えるほど、肉体の奥底でどす黒い炎が燃え上がり、騒ぎ立てる。
本棚の前に立ち、“彼女”は背表紙の群れを見つめ、自然と呟いてしまう。
固く拳を握りしめ、瞬きすらせず、一心不乱に呪文のように口走る。
あいつが悪いんだ。
あいつのせいで全てを失い、こんなことになっているんだ。
居場所を失い、宝物を奪われ、未来を消され。
“命”すら――無くなった。
人気のない図書館に、怨嗟の言葉がこだまする。
渦巻く憎悪を身にまとった“彼女”は、誰にも届くことのない無数の呪いを、ただひたすらに吐き出し続けた。
書物は決して答えてはくれない。
無数の“物語”が詰まったそれらはただ黙したまま、月光の中で蠢く“彼女”の言葉に耳を傾けていた。
誰一人いない静かな空間で、“彼女”はただ一人、暗闇の中を歩く。
左右に並べられた本棚の隙間から、時折、鋭く差し込んでくる夜の光を頬に受けながら、思いを馳せる。
――あいつのせいだ。
あらゆる感覚が酷く希薄になってしまったこの肉体の奥で、それでも確かに残っている強い思いがあった。
静かに湧き上がってくる、例えようのない恨み。
今までの自分では決して感じなかったであろう、明らかな邪悪さを孕んだ憎しみ。
今の“彼女”を突き動かしているのは、それだ。
こうして大好きだったこの場所にいるというのに、考えれば考えるほど、肉体の奥底でどす黒い炎が燃え上がり、騒ぎ立てる。
本棚の前に立ち、“彼女”は背表紙の群れを見つめ、自然と呟いてしまう。
固く拳を握りしめ、瞬きすらせず、一心不乱に呪文のように口走る。
あいつが悪いんだ。
あいつのせいで全てを失い、こんなことになっているんだ。
居場所を失い、宝物を奪われ、未来を消され。
“命”すら――無くなった。
人気のない図書館に、怨嗟の言葉がこだまする。
渦巻く憎悪を身にまとった“彼女”は、誰にも届くことのない無数の呪いを、ただひたすらに吐き出し続けた。
書物は決して答えてはくれない。
無数の“物語”が詰まったそれらはただ黙したまま、月光の中で蠢く“彼女”の言葉に耳を傾けていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

禁忌index コトリバコの記録
藍沢 理
ホラー
都市伝説検証サイト『エニグマ・リサーチ』管理人・佐藤慎一が失踪した。彼の友人・高橋健太は、佐藤が残した暗号化ファイル「kotodama.zip」を発見する。
ファイルには、AI怪談生成ブログ「コトリバコ」、自己啓発オンラインサロン「言霊の会」、そして福岡県██村に伝わる「神鳴り様」伝承に関する、膨大な情報が収められていた。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。

最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!


僕が見た怪物たち1997-2018
サトウ・レン
ホラー
初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。
怪物を探す先生と、行動を共にしてきた僕が見てきた世界はどこまでも――。
※作品内の一部エピソードは元々「死を招く写真の話」「或るホラー作家の死」「二流には分からない」として他のサイトに載せていたものを、大幅にリライトしたものになります。
〈参考〉
「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」
https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる