召喚された勇者ですが魔王様のペット『犬野郎』として後宮で飼われています。

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1章 『勇者』は失業の危機にある。

『犬』から『妃』に職種変更命令(プロポーズ)お受けします! 4

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 ───絶対絶命の俺のピンチに駆けつけて(?)くれたのはランちゃんやった。

「腰、抜けてんだろ?大将と寝ると最初は皆そうなる。肩を貸すぞ」

 そう言うと蹲っている俺の肩をポンと叩いた。


 (…っ!!ぎゃ゛あ゛ーーーッ!響くぅ!!)


 腕も痺れきっていた俺はとうとう限界を迎えた。
 上半身が崩壊し、orzポーズはケツ天ポーズに変わる。
 それに一度は治まったかに思えた媚毒の熱がぶり返してきて、俺は導かれし者になった。

 (はぅぅ……っ♡)

 おッキしていたムスコ殿は昇天召された。

 ───救世主メシアかと思たこの鬼さんは、とんだ悪魔さんやった。

 俺が包まったシーツの中ではぽたぽたと落ちる俺のモノと、おけつから流れ出たご主人様のモノが混じり合っている。
 ご主人様と俺の愛の結晶が誕生したが…これがさらなるバイオハザードを生みそうである。

 (あかん!劇物が爆誕しとる。
 とんでもないもんを産んでもうた)

 ケツ天で突っ伏している俺の様子を、ランちゃんは面白そうに「大将の毒、やっばいだろ?」なんて笑いながら言う。

「ははっ…大将の薫りフェロモンの凄ぇ匂いがするわ。エロいぞナシくん!」

 (アンタ、何セクハラ親父みたいなこと言うとりはるのッ!)

「アンタのせいやろ!」と怒りたいところだが声も出ないし、絶頂の余韻で頭まで痺れているのでそんな場合ではない。
 動けない俺は、後ろにいるらしいランちゃんのお顔を見ることができないが、きっと笑顔だ。
 
 (殴りたい、その笑顔)

「ほら、俺につかまって立て。
それで声や物音を立てずに、黙ってお兄さんに付いて来てくれるか?」

 ランちゃんは俺の横にしゃがみこんで、再度柔らかい声で俺にそうお願いしてきたのだが、ふるふると首を振り断った。

「ら゛…「なんだ顔も合わせてくれないのか?」

 俺の状況を説明しようとしたが、酷く掠れた音が漏れて「ケホッ」っと咳き込んでしまう。
 続けようとした言葉もランちゃんの言葉に遮られた。
 さっきまでのランちゃんの態度もないが、今の俺には物理的に難しい。

 (無理な相談おすぅ~!)

「すまん。からかって悪かった。怒ってるのか?」

 先程までの自分の態度を素直に悪いと認め、謝ってくれたので許すことする。
 だからその問いかけへの返事は、首を再び横にふるふると振って答えた。

「う゛ご、………へん゛」
「あちゃー。大将もほんと手加減しろって感じだよなぁ?喉も酷いな」

 ようやくランちゃんは俺がこの姿勢で動けず、固まっていることに気づいてくれた。
 指切りげんまんの時と同じようなあの聞き慣れない言葉で、

「【ᚺᛖᛖᛚ癒やしを】」

 と呪文?みたいなものを唱えると、ランちゃんは俺の腰にそっと手を触れた。
 ランちゃんの触れたところから、全身がほんのりと温かくなり、

「もう動けるぞ」

 という言葉と同時に彼の手は離れた。
 ランちゃんの言うとおり痛みが消えた去った体に驚く。

「さ、さすが異世界や!ランちゃんコレ何?これなにコレナニこれなんなんよ~~ッ!」
 
 喜びのあまり思わずランちゃんに抱きついたうえに、はしゃいでしまいこんなことを言ってしまった。

「あ?魔術を見るのは初めてだったか?」
「知らんよ。俺、こんなん初めて見たわ。魔術かぁ…凄いわぁ!」

 ぎっくり腰も辛かったが、思うように喋れなかったのもツラかったので、やっと話せるようになりホッとした。
 ランちゃんは「よしよし辛かったな」と俺の背をポンポンと子どもをあやすみたいにして叩いた。
 それに……

「あれ?ご主人様の媚毒の熱が消えとる?!」

 何気にこれもありがたかった。
 延々と続くエンドレス催淫地獄はイキっぱなしで、それで俺のポンコツな頭がよりお阿呆になったかと思う。

「あんまり得意じゃないが、大将の毒も少しは抜けたはずだ」
「おおきに。それにしてもえらいわぁ!」
「まぁ…浄化もできる癒やしの術というのは、古耳長語を解するハイエルフだけのもんで、普通のハーフエルフの鬼にゃ使えん」
「レアなスキルなんやねぇ……」

 この質問にランちゃんは少し考えてから、その理由を教えてくれた。

「……そうだな俺みたいなハーフエルフは昔も少なかったが、エルフ族にハイエルフが生まれなくなった今は、俺と妹に俺の父、それから旦那様の奥方様くらいしか鬼族にはもう使い手がいないな。
本当は俺と妹は父などから、呆れるほど才能がないと言われるくらいにヘタクソなんだが…」

 ───ランちゃんのあの底の知れない美ショタのおとうはんは、なんと元ハイエルフさんなんやて。
 それでランちゃんは鬼とハイエルフの混血さんやさかい、エルフの神さんの祝福を受けてて使えるそうや。
 俺はチートらしいチートをもろてへんのに…ご主人様もランちゃんもごっついチート持っとる。
 ずっこい!!

「なのにあのサドショタ糞野郎!無茶振りしやがる!!」

 何かに相当腹が立っているのか、普段は愚痴をこぼしたりすることなどないランちゃんが、眉間に皺を寄せてそんな文句を呟いた。

 魔術の凄さに驚いてしまって質問ばかりしてしまったが、ランちゃんに魔術についても色々と詳しく尋ねたいところだが、本当は何よりもまずはお礼を言うのが先だった。

 (しもた!爺様にバレたら折檻レベルの失礼をやらかしてしもた)

 その嬉しさのあまり勢いでランちゃんに抱きついてしまったが、俺は劇物まみれのシーツに包まったままだった。
 恩人に対して非常に悪いことをしてしまった。

 (あああ…俺のアホ!)

 そんな礼を欠いた行動ばかりしてしまったが、とにかくまずは謝ろう。

「ランちゃん、もう遅いけどかんにんえ?」
「なんだ?どうした?」
「ご主人様と俺のもんが混じった、愛の汚シーツに包まったまんまで抱きついてしもた。離れるわ」

 だが、ランちゃんはそんなことは気にせず、俺の頭をいつもみたいにポンポンとして「構わんさ」と言ってくれたが、「俺が落ち着かへん」と渋ると離してくれてた。

 改めて体の治癒のお礼を言おうと思い、ランちゃんの顔を見た。

 (え?どちらはん???)  

 そこにいたのは 見たことのないえらい男前の鬼さんだった。

 まず、装束からして明らかにこのケネルに務める男娼さんではない。
 神社の神主さんみたいな上下とも白地だが、同色の糸でご主人様のご紋『白紫陽花』が入った着物と袴を身に着けていた。
 彼が着ているものはご主人様の従者さん方の中でも、特に重用されている側近の方【四天王】と呼ばれるお方たちが着ている物によく似ていたが、それとも少し違い更に豪華だった。
 
 ランちゃん?が着ているものは、ご主人様が水干の下に着ていらっしゃるものによく似ていた。

 (ご主人様のもんは全て銀糸のお刺繍やけどな)

 しかしながらこの男前の鬼のお兄はんは、ランちゃんと同じ髪の色と眼の色に目元のエロい黒子もある。
 それに顔立ちと声も俺の友だちの鬼さんによく似ているが……

 多分違うおひとかと思う。

 そうなると俺の中での対人警戒レベルが一気に引き上がる。
 慌てて劇物まみれのシーツに包まり直し、少し距離をとって正座する。

 (その1、まずはおけつを守らなあかしまへん!)
 
「ん?どうした?」

 俺の行動を不思議に思ったのか、怪訝なお顔で覗き込んてくる鬼のお兄はんに、失礼にならないように極力視線を合わせないようにして、お礼を申し上げる。

 (その2、俺の顔を見せない。特に目を合わせたらあかん)

「………おおきに。お兄はん」

 (すんません。助けて頂いといてほんまに申し訳あらへんけどあかんのや)

「お前さんなぁ…この姿を見せるのは初めてだけど、俺だよ俺!」

 (………やっぱりや)

「イケメンのお兄はん、オレオレ詐欺はあかんよ?
初犯でもわりと重い罪になるさかいに」

 やんわりとした口調で相手の機嫌を損ねないようにしつつ、それを指摘する。
 もちろん貞操を守る為に警戒は怠らない。

 そんな俺の言葉にランちゃん?らしきお兄はんは眉間を揉みながら、

「はー…。この子はホントにまぁ。
ボケが強すぎて気が抜けるというかなんというか…だからな、俺は俺だよ!」

 と俺に対して「呆れた」みたいな感じの失礼なことを言った。

 (その眉間を揉んどる癖はランちゃんの癖とよう似とるな?)

 その後も俺とランちゃん?らしきお兄はんは、何度か同じような遣り取りを繰り返した。
 そのうちに、焦れたご本人から、


「俺はお前さんの友だち!
ランちゃん!
わかったか?」


 と申告されたので、とりあえずだが暫定ランちゃん?は、ランちゃんであるらしい。

 (なんや日本語がややこいことになっとるな)
 
 彼の声は確かに俺の友だちのランちゃんのものである。

 しかし、ランちゃんを名乗るお兄はんは、ランちゃんであるなら短く刈られているはずの金髪を長く伸ばし、それをオールバックにして、後ろの高い位置で結われたマンバンヘア、いわゆるお団子にしている。
 鬼のαオスの象徴である二本の角も切り落とされておらず、立派な赤黒いものがこめかみからちゃんと生えている。

 (呪術や魔術もあるから可能なんか知らへんけど、短期間で髪や角が伸びたりするもんか?)

 さらに罪びとの『犬』として、真名を封じられている勾玉留めの白い首輪も付けていない。

 (首輪あれは下手に外そうとしたら死ぬ呪いがかかっとる)

 だからランちゃんを名乗るお兄はんが、その出で立ちで信用しろというのは無理な話である。

 俺のステータス見るやつはこのランちゃん?には『認識阻害魔術により不可』と出る。
 だからこのお兄はんがランちゃんと言われても、その真贋の判別が不可能だ。

 (俺をどこかに連れて行くと言ってはるし、何か疚しいことがあるに違いない!) 

 俺がずっと猜疑に満ちた目で見ていたからか、ランちゃんを名乗るお兄はんが遂にキレた。

「もうなぁお前いい加減に分かれよッ!
大将が気づいて来る前に逃げなきゃなんないのに、余計な時間を取らせるなっ!」

 その発言もあり未だ疑惑の目を向ける俺に、疲れた顔をした暫定ランちゃらしい男前のお兄はんは、襟元を寛げるとちょっとキレ気味に首もとにあるご主人様のご紋を見せてきた。


「ほら、コレで良いか?確かに俺の真名は朱頂蘭じゃないし、あざなもそれじゃない。
でも、このお前の大好きな大将の所有物もんて分かる【しるし】が付いてるだろ!」


 ───ご主人様のご紋を首もとに付けとる方は6人だけしかいてはらへん。
 この頃はその数までは知らんかったけど、それを賜われるのは本当に特別で、稀なことだと言うことを『犬』仲間から聞いとった。

 言われてみると動きやすいように背中で大きな蝶々結びにしたたすきがけの紐や、腰に佩いている刀の下げ緒は、ランちゃんがいつも身につけていた組紐と同じ手ものを使っている。
 躑躅ツツジ色にポイントでツツジのお花の入ったそれを、えらい大切にしていたのを覚えている。

 (貰いもん言うてたさかい、例のお嫁はんにもろたやつなんかもしらへん)

 ご主人様のご紋を首に持ってる。ランちゃんの大事にしてた組紐。エロい黒子。
 …以上のことからこのお兄はんを暫定ランちゃんと認めることにする。

「あぁ!ラン、ちゃん…?」
「なんでまだ疑問系なのかなぁ…お前さんは」

 さっきから俺に対して随分呆れたような様子で話をされているが、これに関しては自分を守る為に必要だったことなので、許してほしい。

「これには深ーいワケがあるんや、話すから誘拐はかんにんしておくれやす」

 俺の言葉に「急がにゃならんのだがなぁ」なんて言ってる暫定ランちゃんがなにかに気づき、慌てて廊下の方にいるそれ・・を警戒すると俺を抱き込みながら叫ぶ。

「…っ!まずいっ!!」

 ───ようやく落ち着いて話ができそうやった俺たちに、『魔王』様の来訪を知らせる衝撃が襲った。

 暫定ランちゃんが俺を庇うようにして包み込んでくれたが、次の瞬間に強烈な冷気と凄まじい殺気のようなものをぶつけられ、それに中てられた俺は正座の状態から更に崩れ落ちた。

 暫定ランちゃんが「すまんが強引に連れてくぞ」と俺の右手を掴んで立ち上がらせる。
 恐怖などから足腰はガクガクとした震えが止まらず、上手く立ち上がれない。
 またへたりと腰が抜けてしまうが、それをランちゃんが支える。

「あのサドショタ変態クソ野郎が気づきやがった。逃げるぞ」

 どうやら彼は本当にランちゃんであるらしい。
 必ず俺を守ると約束してくれた彼の突然のイメチェンぷりに再度驚くが、現在進行形で俺を連れ去る為に俺を肩に担ごうとしているランちゃんに、これだけは言わなくてはいけない。

「あんな、ランちゃん。俺を拉致して人質にしてご主人様から逃げるやなんて、そこまで思い詰めるやなんて相当なことがあったんやと思う」
「いや…俺はさるお方のご命令でほんの少しの間だけ、こんなふうに猛りまくった大将からお前を引き離せと、そう命じられているだけなんだが……」
「でもな、脱獄はやめときおし。
お嫁はんと子どもさんがいはるんやさかい、犯罪を重ねるんはあかしまへん!」

 ご主人様が俺を叱るときのように、俺もピシリとした厳しい態度で友だちを叱りつけた。

 ランちゃんは額に手をあてると

「大将の従者もお前さんのおもりも、辞めれるもんならもうやめたいわ…」

 そう呟くと膝から崩れ落ちた。


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