召喚された勇者ですが魔王様のペット『犬野郎』として後宮で飼われています。

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1章 『勇者』は失業の危機にある。

『犬』から『妃』に職種変更命令(プロポーズ)お受けします! 2

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「私は蜜月に入っている。孔雀の阿呆に厄介なものを使われている故、完全に抜けるまでに少し時はかかるが、問題などない」

 覚醒半ばの状態で微睡んでいた俺の耳に入ってきたのは、部屋の外で言い争うご主人様のお声だった。
 玲瓏とした高いお声は自信に満ち溢れている。

 普段のご様子が冷淡で高慢にすら見受けられるご主人様は、そのツンの強過ぎるお姿が大変お似合いになる、神々しほどの美貌のショタ人外様でいらっしゃる。

 そのお姿は麗しくただ在るだけで、それだけで周りの者を圧倒する!

 
 (はうぁぁぁ~~~!推しの声で目覚めるなんて最高おすぅ!!)


 ───ご主人様はお声も素晴らしくええんよ。
 命令慣れしていらしゃる、生粋の貴種の中の貴種であられるから、えらい凛々しいて…
 前夜の閨での行為を思いだした俺はそれに悶てしまい、興奮し過ぎてあの時は過呼吸になったくらいに尊いんよ!

 攻め様を演じている声優さんが推しの友人は、推しの声の目覚ましを欲していたが、俺は即物的に快楽を求める性質なので、ちょっと理解できていなかった。

 だが、今の俺には腐仲間の気持ちが分かった!
 これは体の色んなところにおぼえる痛みなど、綺麗さっぱり忘れてしまえるほどの威力がある。
 寧ろ思い出して体が疼く。

 (特に愛されすぎたおけつとかな)

 布団からはお姿が見えないので、全て俺の脳内フォルダから補完した妄想で残念だが、俺にはそのご様子がありありと思い浮かび、そのお姿に萌え、悦っていた。

 (はぁ…今日も……………尊い)

 そんな方と組んず解れつの決闘を数日に渡り繰り広げていたことを、体の疼きに引きずられ思い出し、俺はアハンな思い出フォルダにアクセスして、イケない妄想に耽りそうになる。

 貞操帯も外された今は自由なので、起き抜けの俺は少しワルいことを考えてしまった。
 一月に及ぶ清い生活を強いられたムスコ殿は、現在自由を謳歌しており、生理現象によりおッキしている。
 アルバート氏が「ちょっとワタクシと遊んでみないかね?」と俺を誘ってくださるのだが、バレた時の毒蛇様おしおきが非常に恐ろしい。

 ………アルバート氏には悪いが、淫らなお遊戯抜くのは控えておくことにした。

 (もともと俺は自家発電より、誰かとニャンニャンしとる方が好きやしな)

 それにご主人様が戻られたら再び抱かれる。
 その時に搾り取られるだろうから、無駄玉を撃つ訳にはいかない。

 (ご主人様にとっては俺の精も栄養やし)

 ───この時アルバート氏の誘いに乗れば良かったと本気で後悔しとる。
 それはそれであの悪魔みたいなふたりに、おんじことをされたかもしれんけどな……

 俺がそんなことを考えている間も、廊下で繰り広げられる口論はどんどんヒートアップしており、何やら雲行きがあやしい。

 従者さん方と口論されているご主人様のお声で目が覚めた俺は、快感に悦び啼きすぎた体が休息を求めるので、うとうとと微睡みながらその話を聞いていた。

 時々、ご主人様のお相手に上がった方の御名前なども話題に上がり、胸がもやもやすることもあったが、ご主人様は俺に対する執着を終始口にされた。
 
「──若様…もう既に四日に渡り、その様な状態のお妃様をお召しになられていらっしゃるのですよ!」
「私の愛に応える妃を初めて得た喜び故のことだ。それに今は少し休ませている」

 イキ過ぎて落ちたり、飛んだりもして寝たおぼえがあるので、仮眠だとしてもそれなりの休息は挟んでいるはずだが…

 (ほんまかいな?!4日間もずうっとニャンニャンしとったんか!
 ご主人様の精力凄過ぎやろ…)

 ここでもご主人様の人外っぷりに驚く。
 起きていた時に毒蛇様が俺のお穴から出ていかれた記憶はない。
 どうやら本当にこの四日間、寝ずにずーっと俺を愛でていらしたらしい。

 酷使された歴戦の勇者なお穴の方も心配だが……

 (ご主人様、気にされてらっしゃるお背がたこうなる為には、しっかり寝ぇへんとあかしまへん)

 でも、それほどまでに俺をお望みということは嬉しい。
 俺もご主人様にこの身を捧げた以上、そのことに関してはお付き合いできる限りは頑張らさせて頂くつもりである。
 だが、ご主人様からの呼びかけでもある『妃』というのが、俺を指すことだと理解してはいるものの、男である俺としてはまだそのことがしっくりこない。

「問題ない!あれのことは私がしっかりと見ている」

 ご主人様はそれまでは穏やかな口調でいらっしゃったが、どうも従者さん方に対してとうとうキレたらしく「何故わからない?」とでも言いたげなお声の調子でお話しになられている。
 俺にはよくキレられるが、配下の者に当たることなどほぼ無いので、ご主人様にしたら大変珍しいことをされている。

 (どないしたんやろか?)

「鬼のαオスの熱情は、角なしの身には随分お辛いはずです。壊されるおつもりですか!」
「随分昔の話になりますが、当時お召しになられていたβ性角なし性奴隷メス犬では、若様の発情ラットがお鎮まりにならず、難儀致しました。
お妃様を大切に想われるのなら、少しはお控えくださいませ」
「お妃様がまた・・『毒花』となられてもよろしいんですか!」

 彼らは口々にご主人様に一度俺と離れろと迫っているらしい。
 それも俺を嫌ったりしているからではなく、心配してくれての言葉であるらしかった。

 どうもそれをご主人様が「問題ない」みたいなことを仰り、俺を離したくないとごねられているご様子だ。
 頭に血が登っているのか「構わぬ」なんて仰り、彼らの忠言を退けたり「要らぬ」と仰って突っぱねていらっしゃるようだった。

 (にしても『毒花』ってなんのことやろか?)

 少し遠いので聞こえない会話もあるからどうにも要領を得ない。
 この世界のことも鬼族についても、あまりに無知な俺にはわからない言葉も多かった。
 それでも、ご主人様がどうやら発情ラットされていて、俺に対してあんまりな無理無体を強いてはといけないと思った皆さんは、必死になって引き留めているようだった。

「はじめて…初めて本当に大人になられ、発情を経験されていらっしゃるのです。
それ故我を忘れておられます。どうかお鎮まりを」

 泣いているのか声の震えた従者さんの進言に、ご主人様もとうとう「すまぬ」と仰り謝られた。

 ───彼らの主、『白』の君様が本当の大人になることを、αとしての覚醒めである『羽化』の訪れを願い続けてきたという皆さんは、非常に慎重になってはったそうや。
 皆さんは寝ずにいたり、水垢離みずごりなどまでして、俺らの蜜月の期間中祈り続けたと後で聞いた。
 俺は彼らがそこまで過保護にご主人様のことを心配することがよく分からへんのやけど、ちょっとキレ気味で、高揚状態でいらしたご主人様が、本当は恐ろしゅうてしゃーないはずやのに、気丈にもそれを必死に堪えて、昂り続けるご主人様を宥めてはった。

 (当てられたらしんどいやろうけど、α様の威嚇やプレッシャーとかほんまにカッコえぇやろうなあぁ……)

 ───でもそないなことを全く知らんかった俺は、呑気に『キレたご主人様もごっつぉはんですぅ~♡』とか萌えとった。

 まだ昂りを持て余し、熱が収まらないご主人様を諌める彼らのもとに、さらに従者さんらしき鬼さんが駆けてきた。

 (音も無く来はったけどそういう雰囲気ってことやで)

「報告致します。若様」

 ───片膝をついて頭を垂れる鬼さんは赤毛に金眼で、白地のご主人様のご紋入りの水干に赤袴を纏っていた。
 いわゆる白拍子みたいな格好や。
 これも見えへんかったけど雰囲気や、いつもその装束なんや!
 そんでこの鬼さんはご主人様の側近様の従者さんで、その名を………

石熊イワクマか、許す」

 ───石熊はんはご主人様の従者さんやないけど、主人様のご紋を与えられている女のαの鬼さんやねん。
 本当ならケネルの北守には、このひとかランちゃんのおかあはんが就くべきらしいんやけど、片や女のひと、片や小学生のお子様なので、仕方なくランちゃんが兼任・・してたらしい。

 石熊はんは静かに語りはじめたが、報告された内容は非常に恐ろしく、驚くことばかりだった。

「既に若様とお妃様の蒸発した汗などが空気中に拡散され、この【赤】の犬舎いぬごやに詰める蘇芳スオウ様の配下である我々、【赤】の眷属以外は…罪びと共は全て毒にやられておりました」

 (ヒェェッ!なんやて?!)

 なんと散々ご主人様の体液を腹の中に撒かれた俺と、その製造者のご主人様は、現在進行形で汗などから毒を撒き散らかしているらしかった。
 しかも既に北殿は汚染されているらしく、話によると『犬』の健康被害が甚大であるらしい。


 (俺が宿主原因やなんて嘘やろ?!)


 ───そう、隠世に存在するご主人様こと、【白】の君様の後宮兼遊郭である、ケネルの北殿ではこの時、深刻な生物災害バイオハザードが発生していた!


 しかも原因は俺!



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