僕の番が怖すぎる。

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二章 あいつの存在が災厄

…綱、お前は随分オス臭くなった。だがまだメス臭くてかなわん。

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 ご覧頂きありがとうございます。
 この章最後の百合視点の話になります。 
 ───────────


 銀の君…銀の鬼姫と呼ばれるようになった百合は漸くその在るべき場所、夫の元に戻り日常を再開した。

ブラックのことなどが気になるわね。》
《あの問題のあるシュテンの親たちに任せて良かったのか?》
スカーレットとそのパートナーも助けてくれたから大丈夫でしょう?》
《養子でも人工授精でもなく男同士、女同士のカップルばかりで不思議なんだよなぁ…》
《だからオメガバースってそういうものなの!》
《リリィとシュテンの話では、良くあるΩ差別とかα至上主義的なお話はないけれどね。》

 うん、息子のことも勿論話すよ。
 そうだね、鬼族はαとΩの長が治めているから仕方ないけれど、他の国…例えば【青の国アスル】や【黄の国ホアン】なんかは結構酷い状況だね。
 まぁ…この二つの国については先でほんの少し語るかもしれないね。

《長い話になりそうだな。》
《期待しているわ。》

 さて、もうそろそろ私の二つ目の災難の物語も終わる。

 一つ目の災難に比べれば色々と事件はあったけれど、あれほど劇的なものではなかった。
 それでもあいつに関わり、共に生きることになって、考え方や生き方は大きく変わった。

 恋を知り、愛を与え合い、それに狂った私達夫夫ふうふはまだまだ周りを振り回す。

《オイオイオイオイ!》
《リリィもシュテンに似てきたな。》
《義父母がありえないって言ったが訂正が必要だな。》

 仕方がないだろう、言ったじゃないか、
『神』って言うのはワガママで、デタラメで、ヒトの都合なんて考えてなんかいないんだよ?
 あいつは元々だけれど、百合もそんな『神』になったんだよ?

 この話を終えたら次は、私の大事な二番目と三番目の子について語ってもいいね。

 
 ◇◇◇


 長く続いている彼の説教に少し嫌気を覚えて畳の目を数えたり、敷物の柄なんかに思いを馳せているとさらに叱責される。
 あいつが出してくれた茶も冷めてきていて、あいつが僕の目の前に置いてくれていた菓子も取り上げられた。

「お前なぁ、ちゃんと聞いてんのか!百合ユリ!!
ほんっとに心配ばっかかけさせやがって!
こんのエロ姫!いい加減にしろ!!
おれ以外の四天王は姫が暴走した後始末にてんてこ舞いだ。
ゲンジたちは更に暴走しそうだし、皇宮の奴らもお通夜ムード…ほんとに参るわ!
旦那サマもお願いですからおれの話を聞いてくださいね?あ、無理ですか…」

 僕の目の前で怒り狂っている友人、ツナ
 この友人は何度もおんなじことを繰り返し言ってくるので、その話に飽きてしまったあいつは半分寝ているみたいだ。

「それからお前なぁ…旦那サマがそんなにひっつき虫みたいにくっついていると、
おれはお前を説教しづらいんだよ!!
なんの為にクロ茨木イバラキたちに任せて俺だけ来たと思ってんだよ!」 

 僕の後ろに座り、背中から抱きしめ、僕の左首もとの自分のつけた【華】に顔を埋め、ずっと匂いを確かめて離さない。
 そんなひっつき虫と言われた僕の大好きな番、朱天シュテン

「気にしたらだめだよ綱。こいつは帰ってきてからずっとこんな感じなんだ。」
「はぁ…もう何も言えんわ。旦那サマは時々おれをすげぇ目で見るから怖すぎるわ!」

 友人は微妙に顔色も悪く、汗もかいている。
 きっとこいつが彼だけに向けて威圧でもしているんだろう。
 それに耐えれる友人も相当凄いのだが。

 僕らは今、久しぶりに入った僕の部屋にいる。
 酒呑童子シュテンドウジ騒動の対策を話し合っていたあの部屋だ。

 僕らの親たちに説教をされてから、僕らの住む宮に戻ってきて【域】の拡大をした。
 この部屋はその時に真っ先に手を入れ、黒や他の従者たちも苦なく過ごせるようにしたところだ。
 落ち着いた僕好みの家具などの調度品の意匠には百合が使われており、輿入れのときにこいつがそれにこだわったことを聞かされた。
 他にも敷物などの布地のものは白や紫に統一されている。
 朱や青に薔薇などがないのは『俺が来るから要らん。』だそうだ。
 僕の身につけさせるものにはそれを望むのに、部屋には置かない。
 常に自分が側にいるから必要ないと言うこいつに呆れるが歓んでしまう。

 そして部屋を飾る花は僕の【白百合】。

 義姉や姪に教えてもらっていたが、これはすっごい疲れた。
 こいつの部屋は既に【青薔薇】が綺麗に咲いていて、簡単に作って維持しているこいつはやはりすごい。
 僕はまだ花瓶に生けるくらいしか出来ていないから、これからそれを拡大していくことになる。

 それでも黒の為だ。頑張るしかない。
 僕らのかわいい黒、母と父は頑張るからもう少しだけ待っていて欲しい。
 
「黒は元気にしている?」
「あぁ、今日もクリと一緒に遊んでやって、今はお昼寝中。」
「そっかこっちの生活にも無事慣れたみたいで良かった。
あの子がどうしても僕や朱点の血を欲しがったら連れてきて。」
「あぁ、そのへんは茨木のお袋さんから聞いてるから大丈夫だ。」

 アルフヘイムにいる時は、今までしなかった添い寝もするくらい構ってあげていた。
 姉や義姉たちから戻ればそんな事はできなくなるので、控えたほうが良いと言われていた。
 けれど、夜泣きのときなどにやっぱりそうしてあげたくなったのだ。
 僕自身の一人寝も寂しかったというのもある。
 気になっていた酷かった夜泣きや癇癪もなくなったそうだ。
 時々、朱天が狩りのあとに血を与える為に行き、遊んであげているからかもしれない。
 鬼の子は親の血で強くなるものだから、僕は血の近い従兄の菖蒲アヤメ兄様に乳母をお願いした。
 けれど僕やこいつの血が一番好きみたいだ。

 茨木の母はこいつの乳母をしていたからその時の経験で色々と僕たちに教えてくれる。
 こいつの子供の頃の話はぶっ飛び過ぎて呆れたりすることばかりだった。その頃から血も肉も大量に欲していたそうだ。
 黒もこいつの子だけあって血をかなり飲む。菖蒲兄様だけでは到底足りないので、こいつや時には義母にあの義父までもあげてくれているそうだ。
 おまけに最近は肉も欲してきた。
 あの子は確実にαになるだろう。
 なんとなく前にた未来ではそんなふうに見受けられた。番もΩっぽかったし。

「偶にお前や旦那サマに会いたいみたいだけれど、今までも発情期のときは会えないのを知っているから、あと少しは大丈夫みたいだ。」

 どうやら黒には僕らが発情期だと伝えて我慢させているらしい。 
 以前からその時は会えない期間だったので納得しているみたいだ。
 母のいない僕には分からないが、他の鬼の親子ではそんなものみたいだし、朱天もそうだったらしい。

「うん、ありがとう。
もうちょっとしたら新しく作りあげた【域】も安定するから、それまでお願いするよ。」
「おう。ちゃんと見といてやるから早くしてやんな。
もうちっと大きくなったら剣術なんかも仕込んでやるから。」

 そう言ってニカッと笑った友人と僕はお互いに拳を作り、それをコツンと合わせる。
 これは四天王の皆と僕でする挨拶だ。
 ちょっと不思議なこれを僕は気に入っている。

 すると後ろのこいつがより強く僕を抱きしめてきた。

「痛たた…オイコラ、朱点。これはちょっと締め過ぎでキツいから緩めてくれ。」
「そこでやめろとか言わないのな、お前…」

 呆れた顔して僕に話す友人。
 僕はもうこいつを拒否できない。こいつの匂いと温もりに酔い、離れがたい。

 けれど今の様にぎゅうぎゅう僕を抱きしめ匂いを嗅いで、さらには頭を擦り付け僕に匂いを付けているこいつには呆れる。
 こいつは僕がこいつの妃で番で、絶対に手を出すやつなんていないのに、こういったことを止めようとしない。

 (そんなことしなくても、僕はちょっと前までお前に抱かれていたから大丈夫だっての!)

 微妙な空気の流れる僕の部屋に静かだが強い力のあるこいつの声が響く。

「…綱、お前は随分オス臭くなった。だがまだメス臭くてかなわん。」

  その衝撃的な発言に僕と綱が驚く。

「んなぁッ?!」「は?!」

 僕の左側から聞こえたこいつの言葉はそれが悩ましく困ると伝えた。
 でも、そんな事よりもなぜこいつがそれ・・を知っている事が不思議だ。
 綱も指摘されてから奇声をあげて物凄い顔をしている。

 (もしかして…綱と初めて会ったときに『俺は抱ける。』と言っていたから…まさか?!
 いや、綱は『男は無理無理無理無理!!』ってずっと言っているし…でももやもやする!)

「……なぁ、百合、旦那サマはほんとにすげぇよな?なんでわかんの?」

 複雑そうなそれに少し泣きそうな顔の友人。
 
「僕にも分かんないよ…」

 綱の頼光ヨリミツに可愛がられていた過去は、他の四天王の皆と僕だけの秘密だ。
 酒呑童子騒動の時に僕らの全員を【しゅ】で縛りそれを守る事にした。
 未だに色々とヤツを想うことがあるのか、時々僕へのちょっとした助言ついでに聞くことがある。
 クズと言いながらもヤツとの間に築いたものが忘れ難いということなんだろう。

 (こいつと閨でしていることも綱に教えてもらったこともあるくらいだからな。
 僕もまさか綱があんなに凄いことをされていたとは思わなかったけれど…)

「強いオスでもあるお前を、俺は大事なお姫様と二人きりにさせたくない。」

 (あ、そっちのことでなんだ。僕と友人はそんな関係には絶対ならないから安心しろ!)

「綱、お前の魂に執着するものがある。穢のある青だ。
百合が取り込み今も浄化中の『頼光ヤツ』だな。」

 さらに衝撃的なことをさらりと話すこいつ。
 未だ僕の中で存在する『ヤツ』について知っている事に驚く。

「『神』の干渉を直接受けたものはそれに時間がかかる。
俺でも幾年もかける。お姫様だと、百はかかるか?」

 (こいつ、本当に凄いな…まぁ、こいつの並外れた化け物っぷりは知っているけれど。)

 今の僕はこいつよりも強いΩの力と、目を凝らさなくても魂をる眼を持っているのに、そういったものはまだわからない。
 生まれたときからある力と、僕より九十年以上生きている経験からだろうか?

「構えるな。俺は視え過ぎるし、聴こえ過ぎるだけだ。」

 落ち着いた抑揚で話されるこいつの力。
 自分をあんまり語らないこいつが偶に話してくれるこういった事は、度肝を抜かれることが多い。
 姉や義母などから折に触れて、驚くかもしれないけれどどうか拒絶してくれるなと言われていた。
 僕はそんなことはしないけれど、こうして吃驚することは許してほしい。

「ヤツのあまりに強い執着がお姫様に影響して、綱を抱いたら俺は悲しい。」

 本当に嫌そうに語るこいつの続けられた言葉に、僕と友人は色んな意味でさらに衝撃を受ける。

「イヤイヤイヤイヤ無いから無いから百合はおれのダチで弟みたいなそんなもんだからな?な?旦那サマ違うから!!ありえないからナイナイナイナイ!!!」

 必死に手を振り早口でまくしたてる綱。

 僕のことを友達で弟と言ってくれていることに嬉しくなる。
 僕もこいつの言ったそれは絶対にしないし出来ないから安心して欲しい。

 (お前のワガママで、可愛がるのは『【俺以外は駄目だ】』と発情期の惚けた顔と潤んだ目で見てくれるから、【呪】で約束させられたのを忘れたのか?)

 こいつが結構可愛くてなんでみんな手を出さなかったのか不思議なくらいだった。

 (僕がオスになるのはお前だけ。それも滅多に来ない発情期限定でだから安心しろよな!)

 まぁ、それはひとまず置いておいて…

「朱天、その事は綱が嫌がっているから外では言うなよ!特に茨木には絶対に駄目だ!」

 大事な事だから強く念を押して言うことにする。
 彼女と折角上手く行っているのに僕らが壊しては可哀相だ。

 (別に恋敵が減って安心!とか思ってないからな!!これは本当だ。)
 
「なるほど。お前の匂いが暫く前よりあれからしていた。縁付いたか?
あれからはまだ報告はないな。
なぜだ?あれもなかなか具合の良い、佳い女だ?」

 少し呆れたような口調で話すこいつの相変わらずな発言に僕は怒りを覚える。

 振り返りこいつと向き合うと、予想通り僕の怒りがよくわからないという様な不思議そうな顔をしている。

 僕を見てにこりと笑ってくれるが、それで怒りは治まらない。

「お前なぁ…ほんっとにその思考と発言はいい加減にしろよな!!」

 しっかりと叱りつけないとこいつはわからない。
 …叱ってもわからないことも多いが。

 言ってもわからないときはこいつを【血吸ちすい】で殴ることに今決めた。
 躾だ。

「なぜ悪い?事実しか俺は口にしない。」

 (だからそれが悪いし腹が立つんだよ!嫁は怒ります!!)

「お前が【β性角なし】だからか?
あれの父母は親父と母上の腹心だから気にしているのか?」
 
 僕の背後にいる綱に向かって話すこいつ。
 自分の乳兄弟で腹心の従者だから気になるんだろうが、その態度は気に入らない。
 綱だって僕の友人で【名】まで与えた腹心の従者だ。

 姉の様に【華】を捨て【角なし】になる者とは違い、他の種から鬼になったもの、αでもΩでもないβのものは角を持たない。
【角なし】はその特徴から鬼と認められないこともあるくらいだ。
 四天王もゲンジ達も大多数がこれになる。
 けれど彼らは人族に紛れ工作をするのに良いので気にしないそうだ。
 このへんも彼らが恐れられているところかもしれない。

 そして茨木の両親は義父母の腹心中の腹心の様な存在だ。
 かつての僕のように家を継ぐとかはないだろうが、やはりそのへんも障害なのかもしれない。

「いや、あいつはそんな事は気にしてねぇし、親父さんともお袋さんとも会ったがそれも言われなかった。」
「じゃあ、『運命』とか番に憧れでもあるのかな?」 

 鬼のαは番に物凄く執着する。
 彼女も例に漏れず、それを求めているのだろうか?

「あれの『運命』はもう縁付くことはない。
番に憧れがあるのかは知らんが、あれの父母はα同士の男女だ。」

 こいつが彼女の背景を話す。
『運命』と縁付く事はないと言うことに少しばかり引っかかりを覚えたが。

「ぶっちゃけるとおれは今、あいつの実家に住んでんだよ…もうほぼ婿状態。
親父さんとお袋さんに妙に気に入られてな。」

「それはもう完全に親公認の実質的には夫婦なんでは?」

 友人の発言に少し呆れる。
 その状態で夫婦と呼ばないことの方がおかしい。

「でもなぁ…あいつが一番気にしてんのはおれらじゃあ子が出来ないって事だ。
んで、子が出来たらおれと夫婦になるってさ。
元人間のβと鬼の上位のαじゃあほぼ不可能に近いんだけれどな。」

 僕はそんな友人の話で先日義母に話された事を思い出した。

 最近の鬼族の混血化で【角なし】は【青】には居ないが、他の【赤】【黄】【緑】の家にも幾人か生まれている。
 そのことを義父母は危ぶんでいて、よろしくないと言われている。
 それぞれに役割を持つのであまりスメラギの血、厳密に言えば朱天鬼の亜神の血から離れると困るそうだ。

『百合があの子の嫁に来てくれましたから、あなた達の子に役目を継がせることも考えています。』

 なんて仰られたから、こいつは真剣にあと四人は僕に産ませる予定らしい。
 そんなに都合よくその色の魂を持った子が産まれる訳がないのにって話したら、

クロはそうした。』

 とか聞き捨てならないことをほざいたので問いただしたところ、【しゅ】で以て色々やったらしい。
 僕の妊娠も、黒の力や姿も、やろうと思えば自分自身さえも作り変えることが出来ると言うこいつに、もう…色々とツッコむことは諦めた。

「ま、そこは俺らの問題だからそっとしておいてくれ。
それよりも百合、それから旦那サマ。お説教は終わってません!!
………なぁ、オイコラ!聞けよエロ夫婦!!」

 友人の説教はまだまだ終わりそうにない。

 ◇◇◇

 やっと整えられた僕らの【域】。鬼族の亜神の住まう場所。

 そこには、朱天の持つ【青薔薇】と僕の【白百合】が咲いている。

 もう今までの何もなかった空虚で静寂な場所でもなく、義母の持つ【白菊】の咲く皇宮の本殿とも違う。なんだか派手で華やかな見た目になってしまった。

『お前の庭白百合と旦那サマの青薔薇だから、洋風のガーデンスタイルになるとは思ったけど派手だなぁ…』
『マドンナリリーにブルーローズの取り合わせはとても美しいと思うよ?
朱、百合良いものができたね。』

 綱と姉はそう評価してくれた。

 朱天の宮殿の外の庭から一帯が僕らのこれからの住処になる。
 黒もずっとここに居るにはまだ厳しいけれど、殆どの時間を過ごせる様になった。
 どうやら義父母が、かなりの血肉を与えて黒を鍛えていたらしい。
 なんだかまだまだあの方たちには敵わない。

「ははうえ、ちちうえ、わたしはどちらもすきです。
いつかわたしの【華】もフノスねえさまみたいにさかせたい!」

 黒は最近またこいつのことを『ちちうえ』と呼んでくれるようになった。
 ひと月ぶりくらいになるが、久しぶりに見るこの子はさらに義父に似てきた。
 艷やかな黒髪に琥珀の様な透明度のある黄金の瞳。
 凛々しくかわいい小さなαオスの鬼の男の子。

「ええ、これから教えます。いつかお前の【鬼灯】も咲かせて母と父を楽しませて下さい。」

 かわいい黒。父も母も本当にお前に会いたかった。

「黒、こちらに来い。」
「ちちうえ!」

 駆けて来る黒を朱天が抱き止めて、抱っこしてやる。

「ちちうえとははうえがそばいないのはいやだ…」

 ほんの少し潤んだ目をしている黒。今にもまた以前みたいに大泣きしそうだ。
 それを見られるのが恥ずかしいのか、朱天の胸に頭を埋めてその匂いを嗅いでいる。
 僕に似たのか意地っ張りで素直じゃない。

 そんな息子にこいつは優しく話す。

「俺はお前たちを離さない。ずっと守り愛していくと誓った。 
黒、俺の言うことは本当だ。それを俺は違えない。絶対だ。」 
「ほんとうに?」 
「お前が生まれた日、俺はお前と百合に誓った。」

 そう言って未だに自分の胸に頭を埋める黒の頭を優しく撫でている。
 その姿を見て僕は胸が熱く、苦しくなった。

 黒を身籠り、こいつに嫁いで色々と悩んだけれど、お互いの気持ちも確かめ合い、こいつの本当の名前を教えて貰い、こいつに【名】を与えた。

 生まれてきた黒のに悩んで…この子と朱天の為にできることを考えた。

 綱から【酒呑童子】の話を聞いて、それを防ぐために動き、四天王やゲンジの皆を仲間にした。
 こいつを縛る全てを開放して自らを食わせたり、【説教の躾】で義父母を縛ったり、
 綱と二人だけで頼光たちを始末し【血吸】を手に入れ、それでこいつや義父母たちに皇宮まで壊して家出までした。
 そしてこいつに【】を与え、その誓約にとんでもないものを引き受けた。

 問題行動ばかりしているこいつの番もやっぱり問題のあるやつだった。

 こいつと僕の突飛すぎる考えや行動には、もうみんなが着いてこれないだろう。

 僕らは愛に狂いすぎている。

 どうやら涙も止まり、やっと顔をあげてこちらを向いた黒はとんでもない事を僕らに言った。

「ちちうえ、ははうえ、わたしはおとうとがほしい。
フノスねえさまのロキみたいなおとうとがほしいです。」

 それは先日産まれた甥っ子の名前だった。

 「ハイ?!」

 僕は奇声をあげた。

「そうか。弟か。百合、ロキはΩだったか?」

 朱天は乗り気でこう返すが、今はまだ少し落ち着かないと難しい。

「え?!…イヤイヤイヤイヤ、旦那様!まだ今は難しいですから!!」

「ははうえ、だめ…?」

 僕を見る金色の目に涙を溜め、今にも泣きそうな声の黒。

 (ヤバい!この子の癇癪はかなり酷い!!)

 それにそんな目をされると母はものすごく弱い。

 早く作れとは言わないけれど、義父母たちは血の薄まった【四家】の立て直しを望んでいるから、こんな状況でも構わないだろう。
 呪いもあるし、こいつはすぐに実行しそうだし、やるとなったら絶対勝手にするのが目に見える……

 ちらりと見たこいつの目は…ヤる気だ。

 ──『俺の閨に籠もり、作ろう!』──
 ──『ふざけんな!ちょっと状況を考えてから言え!!』──

 けれども今は黒だけに集中して愛を注ぎたい。

 それとも黒は一緒に遊べる兄弟の方が良いんだろうか?

 綱と茨木の様な悩みではないけれど、これはこれで困ってしまう。

 ──『お姫様、次はお前に似た銀髪のΩの子にしよう。それとも俺に似た子が良いか?』──
 ──『だから話を聞けよこのバカ赤毛!殴るぞ!!』──

 どうやらまだまだ僕の災難は続くみたいだ………


 ◇◇◇
 
 
《シュテンはやっぱり最後までシュテンだった…》
《ツナとイバラキが上手く行くと良いな。》
《シュテンに頼めばcurse呪いで何とか出来そうだが?》

 それは綱と茨木両方から断られた。あくまで自然に、その流れで、だそうだ。

《不妊カップルにはそれなりの悩みがあるものよね。》
《私の患者さんにもいたわね…》
《それで関係が壊れなくて上手くいっているんなら良いんじゃないのか?》
《確か、2千年は確実に恋人?なんでしょう?》

 そうだよ?そのうち後から生まれた若いものたちは、彼らが夫婦だと思いこんでいたけれどね。

《そりゃそうなるわな。》
《親公認でそれなら完全に事実婚よね。》

 さて、これで一先ず百合の第二の災難は終わったけれど、次に起こることについてはなんとなく想像がつくよね?
 また機会があったら話すけれど、次は次でまた色々とやらかしてくれるよあいつは。

《そうね、また機会を設けて聞きたいわ!》
《ではそろそろお開きにしよう。》
《ではマリー送っていくよ。》

 あぁ、いつもありがとう。
 では今年はこれで最後になる集まりもお終いだ。
 みんな良い年を。

 ◇◆◇

 帰宅した私を子どもたちが迎えてくれる。

「おかえりお袋。」「おかえりなさいマリーさん。」
「ただいま、私の可愛い子たち。」

 迎えてくれた子たちを抱きしめる。

 匂いなどからどうやら今日は睦み合ったりしていないようで安心する。
 舌の根も乾かないうちに流石にそれはないと思うが、この子達はやりかねない。

「明日からお祖父様とお祖母様のところに行くけれど、用意は出来ているのかな?」
「ばっちし!」「うん。」

 にっこりと笑うランディとはにかむコリン。

 コリンはともかく、ランディはまた私の母親に叱られるかもしれない…
 いや、この子はフランス語ではそんな言葉遣いをしないから大丈夫か。
 でもこの子と母の遣り取りは、義母とあいつを思い出させる。

 毎年クリスマスから新年は実家に帰り、お祝いをする。
 フランスのボルドー地方にある、私の実家でみんなが集まりお祝いをするのだ。
 コリンは私の両親の友人の孫であるので、彼の親とうちの親、双方に確認を取っており、連れて行くことに問題はない。

「では、今日は早く寝ないといけません。明日は飛行機ですからね。」
「わかった!」「はい。」

 明日は早いので二人にそれを促して寝かせることにする。

「それでは二人ともおやすみなさい。」

 彼らの頬にそれぞれキスをしてやる。
 
「「おやすみなさい!」」

 そう言って子どもたちは手を繋ぎふたりで寝室に消えた。

 ◇◇

 軽くシャワーを浴びて、寝支度をして寝室まで戻ってきた。
 今日も色々話したせいか寂しくなり、クローゼットから久しぶり『あれ』を出すことにする。

「久しぶり。」

 それをしっかりと抱きしめる。
 知り合いに調香してもらったあいつの【華】に似た薔薇のパルファムを放つそれ。

 皇のものの証の金色の双角、鮮やかな朱い髪、金と銀の色違いの眼、そして…
 とてもあいつに似せて如実に模した、でっかいちんちん。

 この手作りの等身大のぬいぐるみも何体目になるだろうか?
 子供の頃から作っていて、うっかり母に見つかって大変なことになったこともある。

 ベッドの中に入り抱きしめたそれにおやすみの挨拶をする。

「おやすみなさい、僕の大好きな僕だけの番。」

 マリー今世の僕は三十代でまだまだ若い。
 お前に再びまみえるまでどれくらいだろうか?
 早くお前に抱きしめて頭を撫でて貰い、そのでっかいやつで可愛がられたい。
 僕はお前が恋しい。恋しくて仕方がない。

 今夜も僕はきっとお前を夢に見て、泣くことだろう。


 ───────────
 朱点などの別視点を挟んで次章になります。
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