僕の番が怖すぎる。

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一章 降って湧いた災難

俺のお姫様、お前をずっと愛する。

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 さて、まだこれでも序盤なんだよ。

 まだまだあいつはヤバいからな。
 本当にありえないやつだったんだ。

《マリー、顔色が悪いわよ?》
《リリィはそんな目にあって大丈夫だったか?》

 まぁ、あいつは溺愛してくれたよ。
 色々とツッコミたいが。

《これまでの話でも大概なんだが…》
《うーん、発情期にαが手籠めにする話はよくあるから、なんとも言えないわね。》

 ……私の味覚障害とメシマズの原因は絶対にあいつのせいだと思っているよ。

《確かにマリーは酷い味オンチだけれど、それがなんで関係あるの?》

 ん?あぁ…こちらの話。


 ◇◇◇


 朱点シュテンに抱かれてはじめてから、どれくらいの時間が経つかはわからないが、
 昼前だった時間が、日が傾くくらいには過ぎたことはわかる。

 何度も精をそのはらに受け、何度も色々な体位で交わり、
 その結果、グズグズになるまでこいつに溶かされ、そして馴染んだ。
 
 今はまた向き合い、抱かれている。

 怖ろしいまでに美しいこの朱い鬼は、色々と怖い話や淫奔ぶりしか聞かない。

 曰く、抱いている時に相手の血を飲みすぎて殺した。
 曰く、抱いている相手を喰らいながらするのが大好き。
 寧ろ、殺して喰らう前についでに抱いている。

 どれも抱いた相手を食べたというのは変らない。
 だから自分もいつそうなるのか気が気じゃない。

 僕の心臓にある、【華】を愛おしそうに見ている。
 僕を覗き込むこいつの朱い髪と、僕の銀の髪も、僕らと同じ様に床で絡む。
 この派手な赤毛もとても綺麗で好みだ。

【華】を指でなぞりながら僕に話しかける。

「俺のお姫様、美しい白い百合。お前の【華】もその匂いも俺は好きだ。」

 そう言うと僕の【華】に口づけし、そのまま強く吸い、痕をつける。

「っつ!!敏感過ぎるとこにそんな事するなよ!お前もされたら痛いだろう!」
 
【華】はぼくらの急所だ。
 こいつはこうして僕を責めながら、僕の心臓の【華】に口づけをするのが好きみたいだ。
 何度かさっきまでも軽い口づけをしたりした。
 そのうち、ここからも飲みたいとか言いそうで怖い。

 (嗜虐趣味でもあるのか?
 御免だな!)

 (だが、家族にも美しい白百合と言われていて、密かに自慢で褒められるのはなんとなく嬉しい。)

 (……イヤイヤ、こんな状態でなんで好ましく思えるんだよ!)

「構わん。
俺のに痕をつけたいなんて、俺好みのエロい感じで嬉しいぞ。
背中につけられた痕もすぐに癒えた。
何かお前に痕を、つけてもらいたい。」

 僕を見る眼は曇りもなく子どもみたいに邪気がない。
 しかし、言っていることは限りなく際どい…


 (コイツ!本 当 に 黙 れ よ 猥 褻 物 ! !)


 (もうずっとそんな恥ずかしい言葉ばかり言いやがって!)

 (お前!とんでもないその美貌がなかったら、本当にマジに勘弁だからな!!)

 (お前の行状知ってても、女も男もΩメスαオスでさえ、お前に抱かれたがるのに、なんでこんなにも幼い僕に手を出すんだ?)

 (『運命』だからとか、それだけだったらぶん殴るぞ!!)

 声に出して文句が言えないくらい、僕の体力もお腹も限界だ。

「しゅ、朱点、僕は…おなかがすいた…お前を、寄越…せ」
「ほら、好きなだけ持っていけ。俺の血は濃い・・からきっと美味いぞ。」

 散々、身体を弄ばれ疲れ切った自分はとてもお腹が空いていた。
 差し出された首にかぶりつく。

 (美味しい………)

 (確かに驚く程、今まで味わったことが無いくらい美味だ。
 流石は始祖の直系。
 でも、強すぎる力が僕には少しキツい。)

 こいつが僕の頭を撫でる。

 鬼族の子供は、性別が分化してから角が生えてくる。
 αなら二本、Ωなら一本の角があるのが常識だ。
 それが成熟した鬼の証。
 それが生えてから、番や伴侶を探すものだ。

 僕は角さえ生えていなかった子供だった。
 童とか幼子とか呼ばれる歳だった。
 その僕をよくもまぁ、こんなふうにしたと思う。

「お前に綺麗な角をやろう。」

 この時はなんの事か分からなかった。

 そう言うや否や、朱点は僕をうつ伏せにした。
 そしてさらに強く、強く責め立てる。

「はあぁぁ…うぁぁ…ぁぁ…うぅ…ぁぁ…ん、ぁぁ…」

 散々、弄ばれた体は貪慾にこいつを飲み込み悦ぶ。
 朱点は僕の項を舐め、軽く食み、

「くっっ!」

 その瞬間、僕の項を噛んだ。

「うぅぁあああああああぁぁぁぁぁ!!」

 とてつもない、今日、体験した中でも一番強烈な刺激を受け、僕は絶頂した。

「俺のお姫様。綺麗な跡ができると良いな。俺はそれを見ると嬉しい。」

 力の入らない僕を抱き、自分と向き合わせ、朱点が僕の首筋に牙を立て、血を啜る。

「はぅっ…」

 ある程度飲むと止め、僕を見て、笑った。

 スメラギの家のものの証の、金色こんじきの二本の角。
 腰まである鮮やかな朱い髪。
 大柄だが無駄な筋肉などなく、彼に最適化された美しい肢体。
 男にも女にも見えるがどこか野生的で美しい顔と、僕を喰らいそうな獣の様な鋭い眼差し。
 色違いの金と銀の眼も美しい。

 でも自分が一番好きなのは、睦合うときに見れる心臓に咲く美しい【青薔薇】。 
 彼の放つ芳醇な薔薇の香りにも酔ってしまった。

 αとΩの始祖から受け継がれたとても強い力をこいつは持っている。
 そんな美しい化け物に自分は今日、抱かれていた。
 
 恐れられるが憧れの存在を独占していたことに、優越感さえ生まれた。

 こいつは気に入らないやつは、抱いて壊して、潰して、喰ったりする。

 だからこんなにも長い間、睦み合うことなどあり得なかった。


「お姫様、お前はまだまだ弱っちい。
俺が全力でお前を可愛がったら、壊れる。
だからお前に俺の【華】をやる。」

 惚けた頭には、言ったことが理解できなかった。

 朱点は僕に手を翳し、言祝ぎ、【】を与えた。

 これを知ったのも発情期を開けてからだった。

「たっぷり、俺を喰って、大きくなれ。
そして俺の子を沢山産め。
百合、俺のお姫様。
俺はお前をこれからずっと愛する。
どんな事があっても、ずっとだ。」

 
 ◇◇◇


 はい、ここで鬼族の常識的にアウトな事が二つあります。

 まずは番契約の一方的に結んだこと。
 これは知っているよね?

《噛まれたら解消出来ない筈よね?お互いしかフェロモンの認識をしなくなる、などの利点はあるけれど。》
《どういう事だ?》
《リリィはシュテンしか受け付けない体にされたのよ…一生ね。》
《何だって?!勝手にレイプしてそんなことをしたのか?!》

 うん…本当にありえないよ。
 なんて事をしてくれんだよね…。

 次に鬼族の権能の中に【眷属化】もしくは【誕生】と言われるものがあって、言っていた下僕にするやつだね。
 それとは違い、伴侶にする、【血の伴侶】というものがあります。
 
《そのへんがマリーの話ではファンタジーよね。オメガバースは現実世界でのお話が多いから。続けて。》

 あちらの世界では様々な種族がいて、その中でも鬼族の寿命は飛び抜けていてね。
 それでだ、番や伴侶に自分と同じ時間を歩んてもらうのがもともとの【誕生】の権能なんだ。

《ヴァンパイアが仲間を創るみたいなものだな?》

 そう、それだね。
 鬼族同士でも結べるんだが、これの酷いところは、相手を任意の条件で【縛】る。
 しかも結んだら最後、解除できない。
 例えば、鬼のΩは血を飲まないといけないんだが、それの相手を伴侶だけと限定して【縛】れば、生死を握ることもできる。
 さらに自分以外の者の血を飲めば毒になる、そう条件づけたら、【伴侶】は離れないよね?

《番契約もそうだけれど、それもまた凄い束縛ね。》

 伴侶以外の血を飲んだ瞬間、殺す。なんかもやれば出来るけれど。

《え?!》

 まぁ…そんな事をするのは流石にしないけどね。
 愛を示すものだから。

《モンスターの愛情表現は凄いな…》

 まぁ、普通はお互いしか飲めないくらいとかにするね。

【誓約】とも言って、番契約をした者同士では大体、結んでいたね。
 伴侶にも条件はナイショってものもいた。
 Ωの側からするものは可愛らしいもので、αからのものは番を束縛したものが多かったね。

 鬼のα共奴らはマジに死ねよ!あいつを見習え!!

《マ、マリー???》

 あ、あはは…ちょっとね。
 あいつはその条件を後になって教えてくれたけど、それがとんでもなかったんだ。

《浮気したら即、心中するとか?》

 いや、悪い意味ではないよ。

《なにか含みのある言い方だな。》

 ちょっとした惚気かな。

 この事を話すのにはかなり時間がかかるから今日では無理かもしれない。
 興味があるなら話すけれどね。
 ちょっとした自慢だしね。
 
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