僕の番が怖すぎる。〜旦那様は神様です!〜

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二章 あいつの存在が災厄

クロはちいさいかわいいおとこのこがすきになる。 弐

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 無言で杜を暫く歩き、御神木のところまで来た。
 僕が行きたいと言ったのは朱の神籬ひもろぎとなる御神木、朱の御魂みたまを祀る場所だ。

 四方に標柱を立て注連縄しめなわで囲まれたそれは、朱が生まれ落ちたその時に顕現したはじまりの神木だ。

 見上げるほどに大きな朱の背の二倍はある青薔薇の木。
 黒が生まれた日にはじめて咲いた青薔薇の【華】は、ここから採られたものだ。

 実はこの朱の御神木の脇には僕と黒のものも生えている。
 僕が朱と番になった時と黒が生まれた時に顕現したらしい。
 どちらも朱のものと同じように祀られているが、まだ苗木のように小さい。

 朱が言うには鬼の神としての神格が足りないから、そんな状態だった。
 ところが、最近になって急に僕のものだけ大きくなってきた。

 そちらをちらりと見るが、まだ僕の【華】は蕾さえ付けていなかった。

 再度、御神木を見るとまばらではあるが青薔薇が咲いている。
 前に一度連れてきてもらった時は蕾しかなかった頃で、開いたそれが見れず残念に思っていた。

 ここには朱の神格の一つが封じられている。
 それ故に朱は鬼族の『神』として今は祀られていない。

 御神木には札が貼られており、まだそれを義母から教わっている最中の僕には読めないが、鬼の神代文字で朱の『神』としての名が書かれている。
 

 その名前は【素戔嗚】。


 そして今、感じるのは、ここにある封印をもうすぐ破りそうくらいに膨らんだ、こいつの怒り。


 暴れ狂うスサノカミの本能だ。


 僕はずっと不思議だった。
 強い力と神格を持つ筈のこいつがなぜここまで飼い殺しにされているのか?

 奏上される祝詞や祓え詞を無視して術の行使を許さず、神勅も下して『長老』たちを懲免…もしくは裁きを与えれば良いのにとすら思っていた。

『神』として生まれた朱には神の名があった。
 義母や義父、姉や義姉、そして僕だって耳長の神の名を持っている。
 朱の神としてのさがと共に、それすらここに封じられているから、今まで何もできなかった。

 鬼の『神』の神格たるみたま。その性は四つの要素から成り立つ。

『勇』の荒魂あらみたま。『親』の和魂にぎみたま。『愛』の幸魂さきみたま。そして…『智』の奇魂くしみたま

 これは祝の神子と四家の象徴でもあり、【赤】は『勇』を。【黄】は『親』を。【緑】は『愛』を。【青】は『智』を司る。

 神子の中でも【白】と【黒】は神子は特殊で二つの性質を兼ね備えており、【白】は『愛』と『智』を。【黒】は『勇』と『親』を司っている。

 だから黒は【赤】の力と【黄】の力も使えるらしいけど、詳しい事はまだ教えてもらってない。

 (僕は【青】の跡継ぎだったのに、自分の家の役割や力も知らないしね)

 幼い頃朱は悪しき神、曲霊まがひになりかけた。
 その事を恐れた義父母は朱から荒魂それを分け封じた。
 そしてそのに近づくことを許さず、神奈備はおろか陽ノ本からさえ追放した。

 今の朱には何かを成そうとする力である【勇】が、【赤】が失われている。
 それで朱は今までずっと色々なものを諦めていた。
 でもそれは僕と出逢い番となり、子を儲けたことで変化した。

 いつかこの封じられた荒魂を朱に戻す日が来るだろうが、それはまだ先と言われている。
 
「紫、ここは俺の荒ぶるこころを鎮める為に、母と父が封じた場所だ。
現世うつしよ常世とこよが交わるゆえ、あまり長く居ることは良くない」
「うん、分かってる。もう少しだけ居させて」
「危うくなれば抱えてでもして帰るぞ」

 いつも僕に甘いが、僕の身に危ないことなどの場合は厳しくなる。
 以前ここに連れてきてもらった時も、『お前がの伴侶として、世界に認められた!』と言って、僕の神木が顕現したことを喜んでいたが、似たような顔をして近づくのは危険だと窘められた。

 ここに連れてきてもらったのは、もう一つの目的があった。

 こいつを縛るものがどれくらいのものなのかを、確認しておきたかった。
 いつかこいつを縛り付け苦しめ続けるものから、この荒ぶる魂も含め、全てを解き放ってあげたかった。

 これも元服と共に解放してもらいたいと願い出たが、まだ時期ではないと言われていた。
 ようやく安定したばかりの神域を見ても分かるように、まだ危ういらしい。

 それに今は番である僕や黒にまで手を出され、急速に怒りが膨らんでいるから本当に危険だと言われ、それなら僕が慰めたいと申し出ると、義母や義父はそれはすごい剣幕でそれを止めさせた。

 こいつが話したがらない昔のことで何かあったのかもしれない。

 それでも百年以上に渡り、痛め続けられたこいつのこころを、僕の【慈悲】の力で慰め、癒やすには一度荒魂これを解き放ってあげなければ無理だ。
 
 今の僕にできることは、僅かでもその怒りを治めてもらうようにお願いすることだけ。

 最近は殆ど使わなくなった交心テレパシーを使い話しかける。


 ───『ほんの少しの間で良いから…
どうかその怒りを治めてください、僕の神様。
朱が、お前が僕の大好きな『天』の笑顔で、黒も一緒にみんなで仲良く暮らせるように頑張っているから……』───


 そう祈り、お願いをしていた。
 そうやって暫くの間、朱の荒ぶる御魂を慰めていた。

 じっと神木を見つめていた僕に、こいつが言い出したのはとんでもないこと。

「俺の【華】が欲しいのならいくらでもやる。なぜ蜜酒を断った?」
「うぇッ?!」

 どうやら僕がここに咲く、青薔薇が欲しくて来たと思ったらしい。
 思わず朱を見返すが、平然とした様子で「なにゆえにだ?」と尋ねてきた。
 あの時も散々叱ったのにまだそれをわかっていないらしい。

 全くこの鬼の神様は本当に常識がない!

 しんみりしていた僕の気持ちを吹き飛ばしてくれる、信じられない発言に目眩がしそうだ。

 先日綱に渡し、プレゼントしてくれた花びらの砂糖漬けだが、あれだけでも今の朱の神域の【華】から作るのはギリギリだった。
 それなのにこいつは僕の好物である蜜酒まで作ろうとしていた。

 あの時もこいつは『やつらには血をやれば事足る』と平然とした調子で返したが…

 (お前を慕ってる眷属や下部たちに悪いだろうが!何考えてんだアホ!)

 そのことで、朱の宮の下部たちが震え上がり、幾人かの者が卒倒した大事件を巻き起こした。

 目前に迫っている、頼光率いる四天王と源氏たちによる、酒呑童子とその配下の鬼の討伐。
 それによって予測される最悪の結果を回避するために動いているのに、それの為に気を引き締めに来たここでも、こいつは空気読まない。

 でも、うちの旦那は色々と気の抜けるというか、ズレているというか…
 こういうやつだ。

 毎日飽きさせないくらいに僕を振り回してくれる。

「お前なぁ…あの時もあんなに叱っただろうが」
「やつらには俺の血でも与えれば良い」

 またしれっとした態度であの時と同じことを言う。
 今はそれが難しい状況だから叱っているのに、まだわからないこのアホを怒鳴りつける。

「今のお前は飢えて!渇いて!どんだけ僕を貪っていると思っているんだ!!
自覚がないのか!このアホは!!」

 僕が叱りつけると、ものすごくしょっぱいものを食べたみたいな、そんな顔をしている。

 (あ、そんな顔をしていてもお前は美人だね……)

 自分の番の美貌に見惚れてしまうが、前みたいに絆されてはいけない。
 こいつは何度も同じようなバカなことを、繰り返してするからと義母からも言われている。
 そういうときはしっかりとこの『アホ』を叱りつけないといけないとも教えられた。

 でも、この頃はなぜかこいつの匂いを嗅ぐと、物凄く愛おしくて可愛くて仕方がない。
 なんか僕がこいつを愛でたくなるというか、慈しみたくなるみたいな、そんな不思議な気持ちになっている。
 それもあり、酒呑童子対策を必死になってしているところもあるし、絆されて甘くなる。

『僕が守ってやらないといけない!』

 そう思わせる何かを、最近のこいつから感じていた。
 そんな自分のおかしさにもだが、こいつの匂いは本当におかしい。
 こいつはαでありながらΩでもあるし、亜神という特異な存在でもあるし、特別なんだろうか?
 どうにも不思議に思えて仕方がないので、こんな事をこいつに話すのは恥ずかしいが、聞いてみる。

「朱、お前最近匂いがなんかおかしい。
僕は最近のお前が妙に可愛く見えて不思議なんだけど、薫りフェロモンって変わるもの?」
 
 すると少し考え込んだ朱は、そんな僕の質問にも真摯に答えてくれる。
 
「いや、そのようなことはまずないが?」
「だよね?」

 卑猥な方向に偏った考えをするけど、こいつは常に至って真面目で、こんなふうに僕が質問してもすぐに返せるくらいに博識だ。

「でもなぁ…ホントにおかしいな。
茉莉花みたいな薫りがほんの少しだけするんだよなぁ…」

 返された答えに納得できず、僕が考え込んでいると、

「お姫様は俺を可愛がりたいのか?
時間が押しておるが、お前が望むのならば構わぬぞ?」

 何故か物凄く嬉しそうな顔をして、僕が周りに聞かれると危険で、心臓がドキリとすることを言ってくれるので、思わず罵倒してしまった。

「違うわ馬鹿野郎!
それは聞かれたらヤバいから、外では絶対にそれを言うなと僕は何度も言ったよな?」
「…然様か」

 前言撤回。

 (やっぱりこいつのエロ寄り過ぎる頭は残念すぎる!)

 すごく可哀想で仕方なかったし、Ωの僕でもズギュンと来るくらいに可愛かった。
 初めての発情期ヒートで可愛がってやったら、味をしめたのだろうか?

 (でもあれは発情期しか駄目だからな!)

 まだ二月か三月くらい前の話だが、こいつの歳なら次の発情期までは数年単位で期間が開くはずだ。
 僕は割ときっちりとした周期で来ているが、はじめの頃は乱れるというし、また来たのだろうか?

 しかし、お前の為に頑張っているのに、色々と僕を脱力させてくれたり怒らせるこいつにうんざりする。

「もういい!気も済んだから行くぞ!」

 封印の確認も終わったので、黒のところに急ぐことにする。


 ───この時に僕が怒らずに、この後の話までちゃんと聞いていれば、僕らの未来は変わっていたと思う。
 それでも『        』は【黒】と【白】の神子を目の敵にしているから、似たようなことになっていたのかも知れないけど。

 朱の抱えた心の傷はまだ小さかった筈だ───


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