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二章 あいつの存在が災厄
ふざけんな!!童貞なめてんのか!!! 陸
しおりを挟む新たに京の方から訪ねてきた客人たちを僕の部屋に招き入れた。
綱の紹介で知り合った一緒に力になってくれる協力者たちだ。
彼らには既に僕が『ᛉ』の加護を与え、エインヘリャルの契約を交わしている。
彼らの望みは僕の眷属して仕えるから、鬼族からは虐げられ、人族からは恐れられ爪弾きにされる一族が、僕や姉の庇護を受けること。
その約束を交わして契約していた。
彼らを味方に引き入れたのは姉の薦めだった。
多分、綱との出会いから色々と仕組んでそうだったけど、 姉には狙いがあり、それは……やっぱり物騒だった─────
『リリィには【鬼殺し】の従者たちが必要だと思うんだよね』
ある日、綱とお茶をしているところに姉はいきなり訪ねてきて、こんなことをポロっと言った。
まるでそれが当然の流れであるみたいな言い方だったが、どう考えても鬼族の皇子(廃嫡されかけ)の妃(まだだけど)の持つ配下ではない。
『ウェッ?!姉様!僕は【お手つき】すら無理なんだよ?』
それに僕は【華】を与え、従者を創ることが出来ない。
戸惑い思わず姉に聞き返す。
『私の【戦乙女】たちなんかがそうだけれど、ケツを叩いて躾けるものがないと、神の伴侶はやってられないから!』
僕の部屋の入り口で腕を組んで佇む姉は、いつものように飄々とした調子で、僕の言うことなんてまるで意に介さない。
これは姉の中ではもう決まっている事なんだろう。
なんだかんだで、姉は朱のことを大切にしているから、きっとあいつに害になることはしないと思う。
…しないよね?
尚も続ける姉は独自の考えを披露してくれる。
『それに鬼の中では、お前くらいの力を持つ者が眷属を持たないのも馬鹿にされる…』
ここでひと呼吸おいて、僕のところまで歩いてきた姉は、いつぞやのルーンの小石を僕に返した。
『ᛉ』と『ᚢ』。
告げられた言葉と渡されたそれに、さらに困惑して狼狽える僕。
『そこでだ、お姉ちゃんと少年がなんとかするよ!』
そこへ姉は僕と綱に爆弾を落とした。
『ハイ?』
『ブフォーーッ!!』
何を言われたのかわからず奇声をあげる僕に、びっくりしすぎて飲んでいたコーヒーを盛大吹いてしまった綱。
『お、お姉サマ?お、…おれ???』
慌ててそれを拭きながら姉に問いかける綱。
『そ!君、いや…『ゲンジ』たちかな?』
にっこりと笑う姉の細められた金の瞳は、危ない光を宿していて、次に出てくる言葉が僕にはなんとなく想像できた。
『戦争をする!』………と。
─────こんなやり取りが二年ほど前にあった。
朱や姉に守ってもらってばかりで悪いが、未だに誰かに【華】を与えるのは怖かった。
特に朱が僕の従者にと苦心して集めてくれた、元耳長の鬼たちは話しやすくて良い者たちだが、彼らを信じきることがどうしても出来なかった。
耳長の価値観では欲に振り回され、『運命』と番った彼らを軽蔑することが多い。
母の場合は請われて行った先でたまたま出会ったから別であるが、【華】を捨てず、自分から外に飛び出して行った彼らに対する目は厳しい。
それにそんな彼らの中から、『運命』の相手からの懇願により、母を…己の主を陥れる者が出たのも大きかった。
それで了承した僕の従者候補であるが、姉の擁する【戦乙女】は本当に色々と厄介なうえに怖いひとたちだから、どんな者が来るか戦慄していた。
だが、やって来たのは綱とその同僚だった。
僕が客人たちに席を勧めて彼らがソファに掛けると、キッチンからトレイを手に戻った綱がコーヒーの入ったカップをみんなに配る。
「…綱よ、お前妙に手慣れてないか?」
「何度も来ているもんでね」
「お前は適応力があるというか、メンタルが強すぎないか?」
「ダチん家ならこんなもんだろ?」
「一応、お前の『守役』として大将から任されている俺は、リリィやこの宮の皆さんに迷惑をかけていないか本当に心配だ。
大将はお前を甘やかすから良くない」
「うっせぇ!濃い目だからミルクや砂糖は好みで入れろよ…ってコラッ!」
大柄で金の髪に蘇芳色の目をした青年、金時と綱が話している時に、コーヒーに蜜酒を入れていたら止められた。
「エロ姫、お前は昼間から酒を飲むんじゃねぇ!!」
僕の手から蜜酒の瓶を取り上げ、それを高く高く持ち上げる。
手を伸ばしそれをつかもうとしても、多少伸びはしたがまだ彼よりも背の低い僕には難しく、その手は空を切った。
取り上げられ遠くなった蜜酒を恋しく思い呟く。
「あ、あぁ……母様…」
「紛らわしい言い方すんな!」
「…最近は血が足りなくて喉が酷く渇くんだよ」
「はいよ、コレでも食っとけ。旦那サマから渡された」
すっと差し出されたのは、瓶詰めされた青薔薇の花びらの砂糖漬け。
朱の神域の【華】から作られたのは分かるが、まだまだ安定して咲いていないものをこんなふうして寄越すのはよろしくなかった。
(気持ちは嬉しいけど)
「俺も食べとけって言われたけど…大丈夫なのか?」
「問題ないよ」
(『ご主人サマ』の体液なんかを随分飲まされているから平気だろう)
しかし綱にも食べておけというのは…見抜いているんだろうか?
どういう影響があるかは良くわからないが、間接的に奴を救おうとしているのだろうか?
彼の首に巻かれた包帯にはまだ少し血が滲んでいる。
その傷あとを付けた者とつけられた理由を考えると、このままでは彼の未来も明るくない。
僕の視線に気づいたのか、気まずそうな顔をして手で首の包帯を僕の視線から隠すように覆う。
それから「始めんぞ」と言って席についた。
あの朱が悪い鬼とかいう噂はどんどん拡がった。
人族を浚い犯し、喰らうなどと言われていて、それを退治するとか言う話も出ている。
本当に理解不能だが、帝というやつとか人族の貴人などが、僕を見初めたとか言ってきかず、朱の所から救うとかほざいているらしい。
綱から聞いて唖然とした。
たった一度一目見たくらいで、何故そこまで執着するのか訳がわからない。
それで僕らは最悪な結果を回避する為の話し合いを重ねていた。
「さて、金時、貞光、季武…そして綱。
頼光の動向と『 』から授けられた神器についてだけど詳細は?」
今日集まってもらった彼らは頼光の【四天王】という二つ名を授かった者たちだ。
彼ら『源氏』は人族では珍しい権能持ちで、驚くことに頼光を含め全員が『青の世界』から来た魂だそうだ。
『俺ら【四天王】は高校の剣道部の仲間で 、遠征帰りのバスの事故で死んだんだ。
殆どの仲間は見つかってるが、歳とか種族はバラけて産まれた。
けど、頼光がちょっと問題でな…』
───これは金時の話。
『頼光はマジにクソなクズ野郎だっただから、俺としても部下になるのは遠慮したかったんだけど、今のあの人の境遇には同情するよ。
鬼の【四家】、それも宗家生まれの若様なのに本人曰く、源氏に『売払われ捨てられた』らしいからね』
───これは貞光の話。
『自分は下半身ゆるゆるなのに恋人への執着と縛りが酷いサイテーの屑だよ?
見ていて可哀想だったから、僕くらいは『ざまぁ』って言っとくよ』
───これは季武の話。
『…………顔がめちゃくちゃ良い。あとちん(略)』
───うん。変態、お前は黙れ!
そんな事を口々に言われた。
ところどころ良くわからないが頼光はクソでクズらしい。
でも、あまり良い境遇にはいないらしい。
……綱の評価は信用に値しない。
姉の欲した源氏の一族の持つ不思議な力、【鬼殺しの力】は多少の強さの違いはあるが、一族の者ほぼ全てが持つ力らしい。
その中でも体が強く、鬼のαみたいな力があれば武士に。
目が良くてΩみたいな力があれば、陰陽師として育てられるそうだ。
彼らは殆どの者が片親のみしかおらず、一族全体で子を育てる。
十歳前後の頃に力の発現があれば、その力の教育を受ける学び舎、兵部寮か陰陽寮に進み、そこで力の使い方などを修める。
綱はどちらにも適正があり、それを見定める為に一族の長に会うことになり、頼光と会ったらしい。
だから彼だけが頼光の唯一の弟子でもあるらしい。
他にも『田村麻呂』と『清明』という者からも学んだそうだ。
彼ら【四天王】は同じ年に元服の儀式を受け、その際に頼光から任命されたそうだ。
儀式を経てより強い鬼殺しの力と二つ名を与えられている。
なんだかところどころ鬼の儀式に良く似ている。
金時は親のどちらかが鬼なのか、その血が入ったとはっきり分かる体格の武士で、 季武は綱と同じく陰陽師としても学んでいる為、目の良いΩみたいに勘も働く。
貞光は彼らの中で一番弱いらしいが金時と仲が良く、熱くなった彼や季武を上手く御する仲裁役だ。
金時の言うように綱は彼らの中では友であるが、守るべき存在でもあるらしい。
そんな彼ら四天王の前でも僕は素でいられる。
綱に素の姿を盛大にバラされ、『同年代の友人がおれだけとか駄目だろう?』なんてその場で言ってくれたおかげで、彼らとも気安く付き合えている。
本当に綱は良いやつだ。
僕の今の暮らしについて心配してくれているし、昇神の事も本当は気に入らないらしい。
手籠にしたうえに孕ませ、勝手に至らせようとする朱に、腹を立ててくれた。
綱には救いたい者がいる。
濃い鬼の血を持て余しているのに、鬼として生きれない鬼が。
今は人族に身を置き、鬼狩りと鬼殺しを無理やりやらされいる頼光が。
頼光は、朱を…『酒呑童子』を害することの出来る【童子切】という力を『 』から授かっている。
この力を彼ら【四天王】に分け与えたそうだ。
綱は【髭切】。金時は【波切】。貞光は【石切丸】。季武は【痣丸】と名付けられた刃を顕現させ、それで鬼や妖を狩るそうだ。
他にもどんな鬼の力も受付けず、『神便鬼毒酒』という物も持つらしい。
どう考えても鬼を滅ぼす為の存在としか思えないくらいに恐ろしい力を持っている。
綱は頼光に血と体を与えているが、鬼は同族の血でないと渇きも飢えも癒せない。
それに朱のように近頃の頼光は酷く飢え、渇くらしい。
このまま行くと綱が危ない。
彼を蝕む病も酷くなるばかりだ。
特に最近の綱は穢れを持つようになってきていた。
七日置き以外にも、調子が悪くなると僕のもとに来るので、その度に祓ってやり体につけられた酷い傷などは魔術で癒やしていた。
その日も様々な議論をして、みんなは帰った。
半分はお菓子を食べながらお茶をして、話していたみたいなものだけれど…
彼らの手を借りて、僕は大切な家族を…朱と黒、それから朱の従者や朱の宮のみんなを守ると決めた。
もちろん僕らの親たちなどもいるけど、そこまでは手が届かないし、まだ子ども扱いされている僕らだから、仕方ないよね?
◇◇◇
………酒呑童子。この名は嫌いだ。
《シュテンドージ???》
《何度か出てきたが、なんだそれは?》
《シュテンのことか?》
日本のモンスターの中でも最強のオーガと言われているモノの話だ。
ニホンには3つの強力で強大なモンスターがいてその1つだな。
《シュテンは最強のオーガに違いないでしょう?》
《なんでそれが出てくる?》
そうなんだが、前に話したかもしれないが、あちらとこちらは似すぎるくらい似ているんだ。
私が『赤の世界』から、『青の世界』に来ているようにあちらに行く者がいる。
《何度か言ってたな》
《それでそれがどうしたの?》
《なんとなく想像がつくが…》
そしてそうやって世界を渡って行った者たちの中で、こちらに似たあちらの世界の歴史を変えたり、こちらの世界をなぞろうと考え、良くないことをする者がいた。
《まぁ…異世界トリップものにありがちだな》
そしてこの話は、そんな者たちに『神』が手を貸したことで、最悪なことが起こった。
そのはじまりの話だ。
《また邪神か!》
《邪神、ウザすぎね》
こちらのニホンに伝わる話では、酒呑童子は討たれ、配下の鬼たちは滅ぼされてしまう。
茨木童子も熊童子、虎熊童子、星熊童子、そして金熊童子たち四童子も…
《ハァ?!》《あんなデタラメなシュテンが!》《ウソでしょう!!》
《シュテンの爺やさんもか?!》《あれ?カネクマ?》《Goldのおっさんじゃないのか?》
姉の渡した『ᚢ』とはそのことだった。
今日話すのは、それを綱たちとの『ᛉ』で打ち克ち、百合と朱天『ᚷ』によって守られる。
そんなお話だよ。
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