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二章 あいつの存在が災厄
お前に手を出す者は魂すらも消す。 壱
しおりを挟むそういえば私はこの話を始めた時に、あちらの世界がどんなものだとかの詳しい舞台については何も話していなかった。
私も最初はここまで語るとは思わなかったからな。
よし、少し情報を整理しようか。
あちらは私達が住んでいる地球と似たような世界だ。
名前もほぼ同じだから、便宜上こっちの世界を『青』、あちらの世界を『赤』と呼ぼう。
あちらは地球によく似た星が舞台だ。
他の天体もほぼ同じで、こちらと違うところは…既に異星からの移住した者たちが多数いることかな?
《は?》
《エイリアンが!》
《マジかよ?!》
うん、鬼族の始祖たちなんかもそうなんだ。
《えぇええ!》
《オイオイ!!噓だろ?!》
《それで亜人種なのか…》
いや、ホントホント。マジだから。
他種族もそういった者たちだ。
《はぁ?!》
勿論私達と同じような普通の人、地球人にあたる者もいる。
あちらでは人族と呼ばれていたね。
彼らは殆ど私達と変わらない。
性別も男と女のみだった。
《だった?》
鬼族や他の種族と混じり、アルファやベータやオメガの性を持つものも出てきたし、両性のものもいたな。
皆が大好きなエルフ族の祖の片割れは両性の者だ。
《ワァ!!ピューピュー》
……はぁ、なんでこんなに人気なんだろうな?
そこまで騒ぐ程のものか?
こちらのファンタジーと全然違って、リアリストでフェミニストでなんというか夢のないやつらだぞ?
《マリーは夢がない!》
《そのとおりだ!》
(これは何を言っても聞かないだろうな)
話が飛んでしまったが、鬼族が居を構える地は連山で、その一帯の山全てが鬼の郷だった。
そこは神奈備と呼ばれ、その連山一帯は皇の結界により外界から隔離され守られていた。
もちろん他種族や物のやり取りなんかの為に、参拝用の道が一本だけ皇宮まで続いていた。
私も住んでいた皇宮と呼ばれる大神殿は、神社みたいな構造をしているんだ。
本殿が鬼の神の御座する場所になるから、本来なら朱点の宮がそれになるはずだった。
だからあいつの宮は神奈備の中でも最も奥深い場所にあった。
神奈備は…ニホンのキョウトのような所、京の中でも北端の方になるかな?
《オオゥ!!》《wow!!》
これもまたどよめきが凄いな。
この話の当時の鬼族はニホンに似た陽ノ本と呼ばれる国の支配者だった。
人族や妖族と呼ばれるモンスターの種族などに、それなりに自主性を持たせ、適当に支配していた。
《支配なのに適当?》
鬼族の長の皇はそのへんはもうなんというか…
『私は忙しい(妻を可愛がるのに)』『そんな暇はない(それより妻を…)』『面倒だ(以下略)』とかそんな事を仰られる方だったのでね。
それはもう適当にし過ぎでまわりは大変だったね。
《ああ、そういえばシュテンの父親はとんでもないやつだったな。》
《リリィの前でもシュテンの母親とSEXしようとしてたもんな…》
……コホン!
あー、それでこれからする話は、その陽ノ本の私達鬼の住んでいた場所、京や神奈備が舞台で、人族の者たちも出てくる。
他にもベータ性の者も出てくるね。
奴らのおかけで、私は予定よりもかなり早く【昇神】する事になった。
◇◇◇
最近、朱天の良くない噂を聞く。
それは『酒呑童子』という者が悪行を重ねているという話だった。
曰く、その者は京の貴人の姫君を攫い側に侍らし、人を生のまま喰らう。
生まれたときから数々の人離れした力や知能で恐れられた。
絶世の美男子であり、様々な女から求められるが袖にした。
そのことにより無数のものから怨みを買って呪われた鬼。
そんな風に言われているらしい僕の旦那は………
「お姫様…これは相当なやんちゃらしい。
この様に暴れられてお前は大事ないのか?」
僕のお腹を触る朱天が激しい胎動に驚き、心配そうに僕に尋ねる。
その姿は番を溺愛して、初めての子の出産を楽しみにしている、新しく父親になる者にしか見えないが、僕ら鬼族の『神』様である。
「痛ッ!ちょっ、…と苦しいときもあるけど、出産直前は結構激しく動くこともあるらしいから、仕方ないよ」
「然様か?」
この皇宮にいる時はこんな感じで殆ど僕と一緒に居るし、僕から離れようとしない。
産み月に入って過保護が加速して少しウザいくらいだ。
(でも、結構嬉しかったりもするけど)
朱天が外に出るのは狩りと言われる『末端』や『ろくでもないもの』たちを始末したり、捕まえて奴隷として飼ったりする為のそれくらいだ。
だからこいつのそんな噂はかなりおかしいし、噂に出てくるさらった姫はなんと僕のことらしい。
一体誰がそんな事を言っているのか?
僕が視た夢にも出てきた名前で、少しばかり気になってもいる。
僕と朱天がとんでもない出逢い方をした、夏に入りかけの卯月(4月)から、季節は変わり今は冬の師走(12月)。
一年の終わりも近い二十日だ。
相変わらずこいつの血を吐くくらいまで飲まされ、参るくらい可愛がられている毎日だ。
今日に至るまでの間に色んなことがあった。
嫁ぐまでの事はあれなので省くけど、文月(7月)に嫁いでから、葉月(8月)に『天』と『ᚷ』を与えた。
他にも毎日のように僕を悩ませ困らせるけど、楽しくて飽きないそんな色んなことがあった。
僕の嫌いな朱天の後宮についてだが、現在は完全に処分場になった。
今では罪びとしか暮らしていないが、そこは住まう者が随分と減りかなり寂しくなったらしい。
こいつが食べるのもそうだが、僕もかなり食べるようになってしまったからだ。
それ以外の妾妃(?)などは殆どの者が義父の後宮に移ったり、下賜されることになった。
(こいつはホントに興味がなくてそのあたりは義母に任せていたけど…)
今は狩りで捕らえてきた者たちを鬼にして、肉や血を捧げさせているそうだ。
(姉様は『もうさ『牧場』って呼んだら?』なんて言ってたけど、僕も思う)
僕ら鬼は人を食べたりしない。
鬼のαの旧き者は同族の肉でしか飢えを癒せない。
Ωにしてもそれは同じで同族の血でしか渇きは癒せない。
だから犯罪者をわざわざ鬼に変えてから食べたりもするくらいで、人を食べるのは噂によるとすっごく不味いらしいから…
意味不明だ。
それに犯罪者以外で人族など他種族を害するのは、番などに手を出されない限り掟に反する。
鬼同士で争うことはまだ許されるがそれも掟の範囲でだ。
それを破れば朱天から制裁を受けることになる。
朱天は追放後に帰ってきてからは、そんなことばかりさせられているらしい。
それも百年近くの時を。
これについてはもやもやした気持ちはあるが、それも亜神の務めらしく『詮方ない』と返された。
あの約束から必死になって血や肉に魂すらも自分からどんどん摂るようになった。
子どもの為もあるが沢山交わってもいる。
そのことについて姉も義母たちもあまり良い顔をしなかったが、僕の選んだことを止めることもしなかった。
朱天の妃…番として守られ与えられるだけじゃなく、僕が与えたいと思ったからだ。
こいつに何かを与えてやれるのは僕しかいない。
事情があるにしても朱天に対する扱いは酷い。
尋常じゃないくらいに縛られた朱天に癒やしを与える者。
こいつだけの【慈悲】であろうと決めた。
義母は朱天を滅茶苦茶に溺愛していて甘やかすけれど、それは母親であるから。
何より義父の番だからやっぱり義父が一番になる。
鬼のΩは番のαにデロデロに甘やかされ、大切に守られて可愛がられるけれる。
耳長たちに守られるそんな生活をずっと送ってきていたけれど…
『クソ生意気なくらいがお前は可愛いんだ』
『猫かぶりよりも生意気なくらいが良い』
姉もこいつもこんなことを言う。
だから僕らしく生きていくことに決めた。
お妃なんて柄じゃないけれど、人前では淑やかに振る舞い、朱天の前では素の自分で居る。
そうすることで大分息がしやすくなった。
朱天の爺やたち四童子が何があったかは知らないが、とても僕に優しくなり、茨木もさらに優しくなった。
(宮の者たちは絶対に【青】に帰らないように、と言ってくるようになったから、あの事を知ったのかもしれない)
僕はΩだから、そんなに強くならないと思っていたけれど、日々びっくりするくらいに、色々な力が規格外になってきてしまった。
そのことも僕が楽に生きれているところかもしれない。
Ωの美徳とされる『弱く、儚く、美しい』。
そんなものは僕らしくないし、こいつの嫁はそんなんじゃ務まらない。
あんな規格外の化け物の番は、同じようなものでなければ無理だ。
最近は【域】で暮らす時間も長くなってきた。
監禁生活に入る日も遠くないかもしれないが、僕だって好きに外に出たりもする。
厨の元耳長たちとお茶をしたり、姉や茨木や四童子の誰かが付いている事が条件だけれど、外歩きも許された。
鬼族の郷のある山を降りて、京の市を覗きに行ったりもした。
安定期の頃とかはちょくちょく姉と行き、一回だけ朱天とも一緒に遊びに出た。
姉曰く、『デート』というものらしいがとても楽しかった。
また何度も二人で出かけたい。
制約の多すぎるこいつを楽にして、ずっと笑えるようにしてやりたい。
そう思って今の僕にできる事をしてあげている。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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