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二章 あいつの存在が災厄
ヒュドラの願い
しおりを挟む*少しカニバリズム的な表現があります。
◇◇◇
僕には『名』というのものが無い。
所謂【名無し】だ。
存在しない者として扱われなければならない経緯があって、こうなった。
人族からすれば短くない時を名無しで過ごして来たが、この生の終わりまでこれは変わらないだろう。
それじゃ困るというのなら、取り敢えず『毒蛇』とでも呼べば良い。
他にも僕を指す呼び名はいくつかあるけど、借り物か僕を形容したものだし、前の生でもちゃんとした名が付くまではそう呼ばれていたし、僕の本質は多分毒蛇だから。
色んな者に仇なす存在だが、死ぬことが怖い僕は自死が出来ず、それを封じられて飼われている奴隷だ。
そんな僕には狂しいほどに愛しい存在がいる。
それは前の生でも、今の生でも変わらず僕の側に居てくれる清き魂を持つ彼だ。
でも、彼が僕の側に居てくれるのは、僕が彼に捧げるような『愛』からではない。
色々とすることはしているが、彼から僕に与えられる『愛』は親愛の情。
以前の彼は僕にとって弟であったし、彼も僕を兄として見ていた。
その関係を壊し、強引に体を奪ったのにも関わらず、彼は流されてだが最期まで付き合ってくれていた。
博愛主義で人が良く、友も多い彼の愛を信じれきれない僕は、酷い事ばかりして彼を傷つけ続けた。
綺麗な女の子が好きで一目惚れも良くしたし、彼は容姿も整ってたからナンパなんかも上手くいくし、嫉妬してたんだ。
それでちょっと過激な虐待を繰り返していたから、そのうちに彼の心が離れたのも仕方がなかった。
ある時、僕は『赤の世界』に喚ばれる事になった。
理由は色々とあったけど、僕が【神子】だからだそうだ。
僕の前の生の生まれはちょっと特殊で、母親が抑圧された環境で育った反動で、学生時代にバックパッカーからネオヒッピーを経て、海外のさるカルト教団に入った。
そこで産まれたのが僕で、その教団の生き神様みたいなものをしていた。
そこでは蛇神とアルビノを信仰していて、信じれない話だけれど、僕のごはんは人の頭というとんでもないものだった。
他にも恐ろしい拷問や倒錯した性的行為を見せられ、それに染められた。
そう、僕は前の生と色合いは似ている。
目の色は違うけど。
そこに居たのは7歳までのことだけど、それでなのか僕の価値観は『青の世界』よりも『こちら』寄りだし、鬼の食性にも嫌悪などが一切なかった。
それで選ばれたんだろう。
『こちら』に生まれ落ちる前、見返りに『 』から尋ねられた願いには、彼を側にとだけ望んだ。
関係のやり直しがしたかった。
今度は彼の望む優しいお兄ちゃんでいようと思った。
その願いが叶い、出会うまで百年もの時がかかるとは思わなかったが、その時には僕の手も彼くらいならこの世界の恐ろしくて汚い。そんなものから守れるくらいの長さにはなっていた。
(そんなちっこいのにって?比喩だからね?)
彼を慈しみ、穢れを受けぬように大事に大事に守り育てている。
彼と出会うまでの間に『 』が僕を喚んだ際、その召喚に巻き込まれ、共に命を散らす事になった者たちも、できる限り救った。
僕には前の生も今の生も多数の兄弟がいたけど、彼らを喰らうこともあれば守ることもした。
この世界は僕らに全然優しくない。
それを知った彼が絶望するのを見たくなくて、彼を無垢で無知に育て過ぎたが、彼の周りには救った彼の友を守る者として育て、彼と同じように僕の側に置いた。
そして今、再び彼と体を重ねたことを後悔している。
猛烈な毒を持つ蛇である僕は、彼を徐々にその毒に溺れさせ、狂わせてしまった。
僕が歩むのは破滅の道だ。
これは生まれる前から決まっていた。
『 』に呪われ、本来在るべき姿で生まれず、禍しか撒かない。
鬼を滅ぼす為の歪められた存在。
そんな者に同道させる訳にはいかないのに離し難く、彼も僕から離れられない体になった。
なんとか彼を救いたいのに道が見つからない。
我ながら蛇の執念というのは恐ろしいと思う。
共にこのまま破滅に向かい歩んで行くのだろうか?
あるのかはわからないが、一緒に地獄に堕ちてくれるものなのか?
僕は討つ側の役割に立たされているが、実際には討たれる者だ。
残された時間は少なく、奴隷として縛られた身は自由に動くことを許されない。
ヒュドラもヤマタノオロチも、ひとに仇なす毒蛇は討たれるものだ。
それでも最後に一矢くらいは報いたいが…現状では無理だろう。
ふと、僕の褥に眠る彼を見る。
再会した頃から随分成長して、大きくなりかなり逞しく育った。
(僕の背丈も結構前に超されたな)
年明けには元服だが、その時にどうしようか?
この世界の真実を告げて『どんなものからも守るから妻になって欲しい』とでも乞えば、僕のもとに来てくれるだろうか?
優しい彼は僕の渇きに苦しむ姿に絆されて、そこから今の生のこの関係が始まった。
性に関するモラルが緩すぎるこの子にとって、僕は『セフレ』らしいから叶わぬ願いだろう。
取り敢えず僕の下僕に伝えて彼を買い取ることにした。
『命じられなくてもそうするつもりでした』と即座に返されるくらいに、僕はこの子を偏愛しているらしく、彼らも苦笑していた。
確かに横からかっ攫われるなんてゴメンだし、封じてはいるがこの子もなかなか濃い血を引いているし、いつ目覚めるかわからない。
友である他の3名もなんとかしてやらないといけないが、全員を匿えば僕の御主人様に何かを悟られるだろう。
(スオウまでが限界か?)
お前が楽しみにしている成人の儀式は、悍しい欲に満ちた者たちがお前を嬲る。
そんな世界へ出品されるものなんだ。
だから…
「アオ……僕と一緒に堕ちて欲しい」
眠り続ける愛しい彼に告げた本当の望みは、起きている彼には絶対に告げる事が出来なかった───
◇◇◇
*この話から、二章後半の【酒呑童子】編になります。引き続きお付き合い頂けると嬉しいです。
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******
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