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二章 あいつの存在が災厄
俺の望み。俺の理想だ。 四
しおりを挟む義父母との初めての顔合わせは僕に、鬼のαは最悪だという認識をさらに強くしてくれた。
今まで僕の中でぶっちぎりの断トツにクズいのは父であったが、義父は息子の嫁の前でなんてことをするんだろうか?
やはり耳長のみんなの言うように『鬼は野蛮で好色』なのだろうか?
そのことにも悩んでいた。
当たり前だが義母は大変困られて、最後には激怒されていた。
なんというか…ホントに最低である。
そうとしか言えない。
(あれはないだろ!お義母様が可哀想だよ…)
姉や乳母などの耳長たちからは『鬼は好色で野蛮。配慮に欠ける』なんて言われても仕方がないだろう。
朱点が色を好むのは知ってのとおりだし、結構な無茶をして僕を娶ったので、そこらへんはあの父たちと似たようなものかもしれない。
でも…擁護するわけではないが、客観的に見てこいつはとても僕に甘くて、優しい。
守役の四童子や宮の者たちなどが僕に厳しい目を向け、こいつに『甘やかしすぎです』なんて諌めるくらいには、大事にしてくれている。
(閨での振る舞いはそれは酷いものだけど)
僕の部屋や趣味としている好きなもの、それに気が合うだろうと元耳長の使用人まで用意した。
快適に過ごすための環境を作ろうとしてくれているし、僕が何をしても怒らないし、とても寛大な旦那様だ。
そういうこともあり、僕としてもこいつを怒り難く、文句を言い難い。
今も僕がお腹を空かせていると思って、自分の首もとをちょんちょんとつついて「遠慮はいらぬ」なんて言ってくれている。
実はこれもちょっと微妙だったりする。
確かにこいつの血はあり得ないくらいに美味しい。
こいつと暮らすようになるまで、血もここまで飲むこともなかった。
鬼の子は親や兄弟などの血族の血肉で強くなる。
角が生えてαやΩに『羽化』や『開花』していない、まだ性別の分からない時でも、定期的に血を与えるものだ。
だから通常なら乳母などは血の近い身内から選ぶ。
(僕と姉は違ったけど)
『運命』の血肉は『一口で満足してしまう』と言われるくらいに美味で、どんなに力の強く大食いなαの飢えやΩの渇きでも癒やすものだ。
だからみんなはこいつがこんなふうに僕に与えるものを、喜んで飲んでいるだろうと思われている……
だが、僕はこれまでは血もほぼ摂らず、蜜酒の酒精を飛ばして温めた乳に入れて飲んでた。
それも豆や米に麦、扁桃のものなんかに入れてて、血を飲むのは本当にどうしても我慢できないくらいに欲しくなった時だけ。
ごくごく少量のうえに滅多に飲ませてくれなかった。
普段は僕の嫌いな耳長料理をちょっととお菓子ばかり食べていた。
(血肉を摂りすぎると肉欲に惑うなんて言われた)
こいつに初めて抱かれた時は血を飲まれた事からくる渇きと、初めての発情からきた欲求で飲んだ。
めちゃくちゃ飲まされた。
以来ずっと僕の主食にされているが、ホントは蜜入り乳が恋しい時もある。
鳥や家畜の肉に玉子も大好きだったが、それもなかなか食べさせてもらえなかった。
偶に父と食事をする時にのみ、父の血を貰い、肉や玉子をたらふく食べさせてもらえた。
それも滅多にないものだから本当にごちそうだった。
彼ら耳長は何かを恐れ、僕がそれになってしまわないように気をつけていて、それは厳しく色々な制限をして僕を育てた。
それでもみんなは僕を『おひい様』と呼び、慈しんでくれたから不満なんてなかった。
確かに僕は耳長寄りすぎる。
でも、生まれ育った環境とその習慣はなかなか変え難い。
こういった変わりすぎた環境が体調の悪い今になり、我慢できないくらい辛くなっている。
それでこいつに当たり散らしてしまい…もう悪循環だ。
とりあえずこいつから飲んでおかないと悪阻もまた酷くなるので、僕が吸血するのを待ち構えている朱点に声をかける。
「はぁ…悩んでも解決しないものは仕方がない。血は遠慮なく貰うがもう少し優しくしててくれ。
お腹の子がびっくりする。それに僕もつらい」
「……ああ」
残念そうな声と顔で返事をして来られたが、色々と我慢の限界を迎えていた僕はそれにキレてしまう 。
「お前なぁ…なんでそんな顔をするんだよ!
この子はお前が望んで、僕を無理矢理孕ませて出来たんだろうが!!」
「すまぬ。だが、そのような気持ちではない」
こいつの言いたいこともわかるが、今はこうして何かに当たらないとやっていられないくらいに、追い詰められていた。
「言いたいことがあるなら言えよッ!」
何でも許すし、普段は会話も例の単語をつなげた変な話し方。
周りから諫言を呈されるくらい僕に甘いから、こいつの不満に思うことも分からない。
「大丈夫だお姫様。お前こそ何もないか?」
本当にこいつは僕にだけ物凄く甘く優しい。
上位の鬼には珍しく自分の眷属である従者以外の使用人、下部などにも気をかけているが、僕ほどではない。
「……………………」
だから何も言えなくなる。
耳長は様々な欲を良く思わず禁欲的で「ワガママはいけません!」って厳しく躾けられもした。
それに【青】の家での待遇は僕に我慢や忍耐というものを教えてくれた。
(まだ耐えれる)
「…百合、その子は俺の望みだ。俺の理想だ。
お前とその子を俺は望んだ。だからここにいる」
そう言ってまた僕のお腹に手を触れて優しく撫でた。
僕を娶ってからの朱点は、食欲の解消の為でしかこいつの言う『囲っている奴ら』こと後宮の妾奴や妾婢ところへ行かなくなった。
罪びとや奴隷以外は全て義母と話して解放したそうだ(茨木曰く「追い出した」らしいけど…)
それでも残った殆どの者は、義父の後宮に移すらしい(あの方お義母様にあんなにも執着してるのに、妾妃も抱えてるんだよ…ありえないだろ!)
現在は罪びとで処刑待ちの奴らのところで、飢えと渇きを癒やしているらしい。
後宮はこいつの中で屠殺場扱いされている。
そこにいる奴らには物凄く同情するが、それでもこいつが吸血などをする為にその身に奴らの…
僕の知らない女やΩやαの匂いをつけて帰ってくるのが嫌だった。
でも、こればかりは仕方がない。
生きるために必要だし、僕とお腹の子の為でもある。
僕を皇宮に引き留めた「お前にしか勃たぬ」を、このとんでもない淫奔な放蕩皇子が守っているということを周りは喜んでいた。
そのことで義父母に認められ、【青】にも正式に申し入れが行ったらしい。
そこは僕も嬉しい。
変わりすぎた環境や、【青】にいた頃と変わらず、疎まれたり無理難題を押し付けてくるものたちに僕は腹を立てていた。
イライラが止まらず、こいつに酷い態度ばかり取る。
なのにこいつは僕にとても甘く、優しい。
与えられた地位により発生する、責任や義務を放り出すことはできない。
結局僕は【青】にいた頃と変わらない、寧ろそれ以上の窮屈さに参っていた。
そんな時に僕を訪ねてきたひとがいた。
「大丈夫かい?元気にしている?私の可愛い百合」
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