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099 精霊誕生
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「アキュラ・ドライド・・・殿ですか。此の国は何時の間に国王陛下と臣下が対等になったのですかな」
「そうだったな、ベルネ・エメンタイル。臣下の分際で、国王である予に紹介を要求するとは不届きな奴だな」
「我は王家に繋がる者にして、貴方の伯父である。冒険者の成り上がり貴族と、同列に扱わないでいただきたい!」
「伯父か・・・何かと賢しらに意見をしてくるが、お前の背後で尻尾を振る奴等を頼みに、何を望んでいるのだ」
国王が、伯父と言った男の背後に群れる集団に目を向け、揶揄する様に尋ねる。
真っ向から見返す者、目を伏せたり逸らしたりする者と様々だが、不味い事態になっているのは理解している様だ。
「此の国も平和が長く続いたせいで、予を含めてお前の様な箍の緩んだ者が多い。其方の様に、血の継承,王位継承権を誇る間抜けと違い、アキュラ殿は〔精霊の巫女〕にして〔アリューシュ神様の愛し子〕様だ」
あっちゃー、王国中の貴族や派遣大使,豪商達が集う中で言い切ったよ。
「その方とは立場が違うわ! 控えの間に戻って頭を冷やしておれ!」
そう言って宰相に頷くと、合図を受けた近衛騎士達が公爵の腕を取り引き摺る様に大広間から連れ出す。
呆然と見ている取り巻きの貴族達に「その方達も、忠誠を誓う相手も判らぬ様だから謹慎していろ」
〈陛下! 私はその様な〉
〈馬鹿な! 流民を貴族に取り立てる男などに〉
〈お許しください陛下〉
〈女神教の噂を信じて貴族になどと・・・〉
騒ぎ出す一団を、壁際に控えていた騎士が取り押さえ、ベルネ・エメンタイルと呼ばれた男の後を追うように大広間から連れ出した。
静まりかえる大広間だが、国王の発した〔精霊の巫女〕〔アリューシュ神様の愛し子〕との発言に、さざ波の様にその言葉が広がっていく。
〈まさか・・・あの噂は本当なの?〉
〈国王陛下のお言葉が、偽りとでも〉
〈でも、まさか、冒険者の流民が・・・〉
〈でも待って! それならはやり病の時の薬師様が彼女って事なの〉
〈薬師様は淡い黄金色の精霊を従えて、その精霊と共に治癒魔法を使っていたと聞いたわ〉
〈女神教の大教主が、精霊の怒りに触れて氷の像にされたと聞いたが〉
〈私は、風魔法で避難所から放り出されたと侍女が話していたのを・・・〉
〈真昼の落雷音を聞いて不思議がっていたら、精霊様の怒りに触れた音だって〉
〈あんな小娘が精霊の巫女だなんて、流石に国王陛下のお言葉とはいえ信じ難い!〉
〈どうしましょう、先程あの御方の事を・・・〉
〈アリューシュ神様に祈り、許しを請わねば。ああ何て事でしょう〉
聞こえて来るのは圧倒的に女性の声で、先程までは揶揄していたのにな。
まっ、馬鹿にしていたのは男も同じだが、問題は三人の派遣大使達だ。
「陛下、迂闊な事を口走らないで貰えますか。ご覧なさい派遣大使達を、あれは完璧に獲物を見付けたゴブリンの目付きですよ」
「済まない、あの男の余りな言い様につい。だが其方が精霊を従える者であるのも事実だし、聖女達は其方をアリューシュ神様の愛し子と疑っていないぞ」
「それはどの程度広まっているのですか?」
「女神教を含む治癒魔法師全般と、其方とは知らないが貴族の間では結構噂になっているな」
「彼等を私の屋敷に近づけないでくださいよ。陛下の責任ですからね」
「承知した」
「ネイセン侯爵様、不思議何ですけど派遣大使って何故全員伯爵なんですか?」
〈プーッ〉と吹きだし、腹を抱えて笑い出すネイセン侯爵様とザブランド侯爵。
「こんな時に、いきなり何を言い出すのやら」
「派遣大使を任ずるのに下位貴族では相手国に対して失礼になる。かと言って公,侯爵では高位過ぎて万が一を考えれば無理。となると、消去法として高位貴族の端くれの伯爵となるのだよ」
「端くれとは又・・・」
「事実そうなのだ。相手国との緊張が高まれば、万が一の時の斬り捨て要員だからね。かと言って、腰抜けや間抜けには務まらないのも確かだよ」
雰囲気を変える為に予定より早く始められた晩餐会だが、エメンタイル公爵を含め貴族席の其処彼処が空席になっている。
俺は侯爵の末席の筈が、ザブランド侯爵とネイセン侯爵様に挟まれた場所になっていた。
しかし憂鬱だね、全ての貴族と豪商達に俺が精霊を従える者と知れ渡ってしまった。
たった一つの救いは、王妃様以下居並ぶ王族への挨拶が割愛された事だ。
紹介されたところで、国王にすら跪かない俺に好意を寄せる王家の者もいないだろうと思うので、ほっとした。
・・・・・・
食事が終わり、お茶の席はお礼がてらキャロランの所に潜り込む。
「アキュラ様は、中々大変そうですね」
「他の貴族や豪商達の間では、どの様な話になっています?」
「確信が持てないながらも陛下の話された通りですが、信じない者も多いですよ。ついこの間までは、精霊とは子供の戯言お伽噺と思われていましたからね。自分の目で見ても、信じない者は幾らでもいますよ」
「確かにね。自分の信じたいものだけを信じて、他を排除する者は一定数いるでしょう」
「アキュラ様は、本当に精霊様を従えておられますの?」
「キャロラン、従えるってどういう事か判るかな」
「アキュラ様に仕えている事かしら」
「俺は精霊を従えていないよ。服従させた訳でも無いし強制もしていないからね。ヤラセンの里の長老に、精霊の加護とは聞かされたけれどね」
「はやり病の時に、精霊様を見た者達は神々しいお姿だと感激していましたよ」
「神々しいねぇ」
精霊を見た者の多くは死んでいるんだけど、いや見る前に死んでその後に姿が現れたのを、第三者が目にしているだけなんだよね。
俺達の話を周囲の者が聞き耳を立てているので、知られている事のみを口にし、後は当たり障りのない話でお茶を濁す。
・・・・・・
晩餐会から五日後にネイセン侯爵様の訪問を受け、新年の宴への出席を要請された。
一年に一回以上、顔見せの為の出席が条件だが指定は無いはずだ。
俺の疑問に対し、今回の様な騒ぎを起こさせない為にも君の出席が必要なのだと言われて、仕方なく受ける事にした。
何かを企んでいるのだろうが、面倒事が防げるのなら黙って従うのが吉だろう。
ただ、参加条件が聖女の正装との事に首を捻るが、分かる訳もないので当日のお楽しみと考えを放棄した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
晩餐会から六日後、サランドル王国,クリルローン王国,ブルマズ王国,スリナガン大公国の派遣大使に書状が届けられた。
書状は親書の名を借りた新年の宴への招待状である。
エメンタイル王国国王の名で、各国国王の側近にお見せしたいものがあるので、新年の宴に参加してほしいとの要請書。
親書にしては型破りなもので、何かの罠かと各国の王家と側近達の間で様々な意見が交わされたが、見せたいものが有るとの一文に側近を派遣する事に決まった。
四カ国とは別に、アリューシュ神教国ではエメンタイル王国より送り込まれたスフレン・シンドにより、ラフォール・ウルバン教皇に新年の宴への出席が要請された。
新年の宴への出席要請は、サランドル国王と女神教のフェルナド,ウェルバに対しても出された。
尤も、サランドル国王は奴隷の首輪を嵌められたままなので、彼に拒否権はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
新年の宴当日、空はどんよりとした雪雲に覆われていて、各国の招待客が転移魔法陣から足を踏み出す頃には雪がちらついていた。
貴族や派遣大使達がそれぞれの控えの間に落ち着いた頃、アキュラは何時もの冒険者スタイルで王城に到着し与えられた控えの間に入る。
今回も侍女役はシンディで、聖女の正装を手伝ってくれるが、ウェルバが用意した正装にはローブが付いていた。
此れがテレビで見る打ち掛け程では無いが、裾を引きずる厄介な奴。
シンディは綺麗ですとうっとりしているが。正装にスカーフで頭を隠しローブを羽織ると動き難いんだ。
迎えが来て控えの間を出ると、侍従の他にネイセン侯爵様と近衛騎士が待っていた。
悪戯っぽく笑うネイセン侯爵様、いったいどんな仕掛けをしたのやらだが、今後の生活の安寧の為に黙って従う。
以前と同じ大広間に到着したが、高位貴族用では無く王族専用の入り口から室内に入ると、既に国王以下王族や貴族が整列している。
ネイセン侯爵様が一礼して先導をレムリバード宰相と替わる。
導かれたのは玉座を背に数メートル前で、正面に丸テーブルが置かれている。
左右には各国の派遣大使と彼等の国の側近達が、興味深げな顔で俺を観察している。
その向こうには王国の貴族や伴侶達が並んで俺を見ている。
完全な晒し者だが、此処でごねる訳にはいかない。
横に立つレムリバード宰相が周囲を見回し、徐に懐から取り出した書状を広げ読み上げる。
「此れより新年の宴に先立ち、エメンタイル王国とサランドル王国の不可侵条約の調印式を執り行う」
興味津々で見ていた人々から騒めきが漏れるが、レムリバード宰相は構わず続きを述べる。
「署名者は、エメンタイル王国フランド・エメンタイル国王陛下、サランドル王国オリオス・サランドル国王陛下、見届け人はアキュラ・ドライド侯爵」
完全に意表を突かれた人々から悲鳴と怒号が飛び交い、狂乱の幕開けとなりそうだったが、一瞬にして大広間が静まりかえった。
人々の目は俺の頭上に注がれ、驚愕の表情になっている。
するりと俺の前に“こがね”が現れたが小さな精霊を伴っていて、俺の前に連れて来ると少し離れる。
《アキュラ、その子に魔力を》
あれか、魔力のお団子か。
掌を差し出し掌に魔力を送りお団子を作ると、以前と同じように魔力の団子に飛び込み吸収する。
〈見て! 精霊が生まれた!〉
その叫び声に誘われた様に、次々と俺の守護精霊達が姿を現す。
「そうだったな、ベルネ・エメンタイル。臣下の分際で、国王である予に紹介を要求するとは不届きな奴だな」
「我は王家に繋がる者にして、貴方の伯父である。冒険者の成り上がり貴族と、同列に扱わないでいただきたい!」
「伯父か・・・何かと賢しらに意見をしてくるが、お前の背後で尻尾を振る奴等を頼みに、何を望んでいるのだ」
国王が、伯父と言った男の背後に群れる集団に目を向け、揶揄する様に尋ねる。
真っ向から見返す者、目を伏せたり逸らしたりする者と様々だが、不味い事態になっているのは理解している様だ。
「此の国も平和が長く続いたせいで、予を含めてお前の様な箍の緩んだ者が多い。其方の様に、血の継承,王位継承権を誇る間抜けと違い、アキュラ殿は〔精霊の巫女〕にして〔アリューシュ神様の愛し子〕様だ」
あっちゃー、王国中の貴族や派遣大使,豪商達が集う中で言い切ったよ。
「その方とは立場が違うわ! 控えの間に戻って頭を冷やしておれ!」
そう言って宰相に頷くと、合図を受けた近衛騎士達が公爵の腕を取り引き摺る様に大広間から連れ出す。
呆然と見ている取り巻きの貴族達に「その方達も、忠誠を誓う相手も判らぬ様だから謹慎していろ」
〈陛下! 私はその様な〉
〈馬鹿な! 流民を貴族に取り立てる男などに〉
〈お許しください陛下〉
〈女神教の噂を信じて貴族になどと・・・〉
騒ぎ出す一団を、壁際に控えていた騎士が取り押さえ、ベルネ・エメンタイルと呼ばれた男の後を追うように大広間から連れ出した。
静まりかえる大広間だが、国王の発した〔精霊の巫女〕〔アリューシュ神様の愛し子〕との発言に、さざ波の様にその言葉が広がっていく。
〈まさか・・・あの噂は本当なの?〉
〈国王陛下のお言葉が、偽りとでも〉
〈でも、まさか、冒険者の流民が・・・〉
〈でも待って! それならはやり病の時の薬師様が彼女って事なの〉
〈薬師様は淡い黄金色の精霊を従えて、その精霊と共に治癒魔法を使っていたと聞いたわ〉
〈女神教の大教主が、精霊の怒りに触れて氷の像にされたと聞いたが〉
〈私は、風魔法で避難所から放り出されたと侍女が話していたのを・・・〉
〈真昼の落雷音を聞いて不思議がっていたら、精霊様の怒りに触れた音だって〉
〈あんな小娘が精霊の巫女だなんて、流石に国王陛下のお言葉とはいえ信じ難い!〉
〈どうしましょう、先程あの御方の事を・・・〉
〈アリューシュ神様に祈り、許しを請わねば。ああ何て事でしょう〉
聞こえて来るのは圧倒的に女性の声で、先程までは揶揄していたのにな。
まっ、馬鹿にしていたのは男も同じだが、問題は三人の派遣大使達だ。
「陛下、迂闊な事を口走らないで貰えますか。ご覧なさい派遣大使達を、あれは完璧に獲物を見付けたゴブリンの目付きですよ」
「済まない、あの男の余りな言い様につい。だが其方が精霊を従える者であるのも事実だし、聖女達は其方をアリューシュ神様の愛し子と疑っていないぞ」
「それはどの程度広まっているのですか?」
「女神教を含む治癒魔法師全般と、其方とは知らないが貴族の間では結構噂になっているな」
「彼等を私の屋敷に近づけないでくださいよ。陛下の責任ですからね」
「承知した」
「ネイセン侯爵様、不思議何ですけど派遣大使って何故全員伯爵なんですか?」
〈プーッ〉と吹きだし、腹を抱えて笑い出すネイセン侯爵様とザブランド侯爵。
「こんな時に、いきなり何を言い出すのやら」
「派遣大使を任ずるのに下位貴族では相手国に対して失礼になる。かと言って公,侯爵では高位過ぎて万が一を考えれば無理。となると、消去法として高位貴族の端くれの伯爵となるのだよ」
「端くれとは又・・・」
「事実そうなのだ。相手国との緊張が高まれば、万が一の時の斬り捨て要員だからね。かと言って、腰抜けや間抜けには務まらないのも確かだよ」
雰囲気を変える為に予定より早く始められた晩餐会だが、エメンタイル公爵を含め貴族席の其処彼処が空席になっている。
俺は侯爵の末席の筈が、ザブランド侯爵とネイセン侯爵様に挟まれた場所になっていた。
しかし憂鬱だね、全ての貴族と豪商達に俺が精霊を従える者と知れ渡ってしまった。
たった一つの救いは、王妃様以下居並ぶ王族への挨拶が割愛された事だ。
紹介されたところで、国王にすら跪かない俺に好意を寄せる王家の者もいないだろうと思うので、ほっとした。
・・・・・・
食事が終わり、お茶の席はお礼がてらキャロランの所に潜り込む。
「アキュラ様は、中々大変そうですね」
「他の貴族や豪商達の間では、どの様な話になっています?」
「確信が持てないながらも陛下の話された通りですが、信じない者も多いですよ。ついこの間までは、精霊とは子供の戯言お伽噺と思われていましたからね。自分の目で見ても、信じない者は幾らでもいますよ」
「確かにね。自分の信じたいものだけを信じて、他を排除する者は一定数いるでしょう」
「アキュラ様は、本当に精霊様を従えておられますの?」
「キャロラン、従えるってどういう事か判るかな」
「アキュラ様に仕えている事かしら」
「俺は精霊を従えていないよ。服従させた訳でも無いし強制もしていないからね。ヤラセンの里の長老に、精霊の加護とは聞かされたけれどね」
「はやり病の時に、精霊様を見た者達は神々しいお姿だと感激していましたよ」
「神々しいねぇ」
精霊を見た者の多くは死んでいるんだけど、いや見る前に死んでその後に姿が現れたのを、第三者が目にしているだけなんだよね。
俺達の話を周囲の者が聞き耳を立てているので、知られている事のみを口にし、後は当たり障りのない話でお茶を濁す。
・・・・・・
晩餐会から五日後にネイセン侯爵様の訪問を受け、新年の宴への出席を要請された。
一年に一回以上、顔見せの為の出席が条件だが指定は無いはずだ。
俺の疑問に対し、今回の様な騒ぎを起こさせない為にも君の出席が必要なのだと言われて、仕方なく受ける事にした。
何かを企んでいるのだろうが、面倒事が防げるのなら黙って従うのが吉だろう。
ただ、参加条件が聖女の正装との事に首を捻るが、分かる訳もないので当日のお楽しみと考えを放棄した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
晩餐会から六日後、サランドル王国,クリルローン王国,ブルマズ王国,スリナガン大公国の派遣大使に書状が届けられた。
書状は親書の名を借りた新年の宴への招待状である。
エメンタイル王国国王の名で、各国国王の側近にお見せしたいものがあるので、新年の宴に参加してほしいとの要請書。
親書にしては型破りなもので、何かの罠かと各国の王家と側近達の間で様々な意見が交わされたが、見せたいものが有るとの一文に側近を派遣する事に決まった。
四カ国とは別に、アリューシュ神教国ではエメンタイル王国より送り込まれたスフレン・シンドにより、ラフォール・ウルバン教皇に新年の宴への出席が要請された。
新年の宴への出席要請は、サランドル国王と女神教のフェルナド,ウェルバに対しても出された。
尤も、サランドル国王は奴隷の首輪を嵌められたままなので、彼に拒否権はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
新年の宴当日、空はどんよりとした雪雲に覆われていて、各国の招待客が転移魔法陣から足を踏み出す頃には雪がちらついていた。
貴族や派遣大使達がそれぞれの控えの間に落ち着いた頃、アキュラは何時もの冒険者スタイルで王城に到着し与えられた控えの間に入る。
今回も侍女役はシンディで、聖女の正装を手伝ってくれるが、ウェルバが用意した正装にはローブが付いていた。
此れがテレビで見る打ち掛け程では無いが、裾を引きずる厄介な奴。
シンディは綺麗ですとうっとりしているが。正装にスカーフで頭を隠しローブを羽織ると動き難いんだ。
迎えが来て控えの間を出ると、侍従の他にネイセン侯爵様と近衛騎士が待っていた。
悪戯っぽく笑うネイセン侯爵様、いったいどんな仕掛けをしたのやらだが、今後の生活の安寧の為に黙って従う。
以前と同じ大広間に到着したが、高位貴族用では無く王族専用の入り口から室内に入ると、既に国王以下王族や貴族が整列している。
ネイセン侯爵様が一礼して先導をレムリバード宰相と替わる。
導かれたのは玉座を背に数メートル前で、正面に丸テーブルが置かれている。
左右には各国の派遣大使と彼等の国の側近達が、興味深げな顔で俺を観察している。
その向こうには王国の貴族や伴侶達が並んで俺を見ている。
完全な晒し者だが、此処でごねる訳にはいかない。
横に立つレムリバード宰相が周囲を見回し、徐に懐から取り出した書状を広げ読み上げる。
「此れより新年の宴に先立ち、エメンタイル王国とサランドル王国の不可侵条約の調印式を執り行う」
興味津々で見ていた人々から騒めきが漏れるが、レムリバード宰相は構わず続きを述べる。
「署名者は、エメンタイル王国フランド・エメンタイル国王陛下、サランドル王国オリオス・サランドル国王陛下、見届け人はアキュラ・ドライド侯爵」
完全に意表を突かれた人々から悲鳴と怒号が飛び交い、狂乱の幕開けとなりそうだったが、一瞬にして大広間が静まりかえった。
人々の目は俺の頭上に注がれ、驚愕の表情になっている。
するりと俺の前に“こがね”が現れたが小さな精霊を伴っていて、俺の前に連れて来ると少し離れる。
《アキュラ、その子に魔力を》
あれか、魔力のお団子か。
掌を差し出し掌に魔力を送りお団子を作ると、以前と同じように魔力の団子に飛び込み吸収する。
〈見て! 精霊が生まれた!〉
その叫び声に誘われた様に、次々と俺の守護精霊達が姿を現す。
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