黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

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097 嫌がらせ

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 「乗った! リーダー行こうぜ!」
 「一度は王都住まいも悪くはないな」
 「どうせ、俺達は家には戻れない身だしな」
 「そそ、俺達穀潰しが何処で死のうが、家族は気にも掛けないからよ」

 話が決まり翌朝王都に向かう為に家を出たが、途中で呼び止められた。

 「あれっ・・・ランカンさんにアリシアさんじゃないですか。どうしたんですか?」
 「侯爵様のお供で王都住まいと聞いてますよ」

 「おう、お前達か、今も冒険者を続けている様だな」
 「ねえ、貴方達は五人でやっているの」

 「同じドリバン通りに住む次男と三男が加わり、七人になりました」

 「何時まで家に居られるの?」

 「もう四人が家を追い出されましたよ。跡継ぎが結婚すると気不味いですからね」
 「私もぼちぼち出なきゃならないんですけどねぇ。未だ結婚はしたくないし」
 「多少家に余裕が有るから居させて貰ってますが、跡継ぎ以外は肩身が狭いですよ」

 「所でランカンさん、貴族に仕えているんですか」

 「おう、ちょっとネイセン侯爵様繋がりでな。お前達対人戦の訓練はしているか」

 「はい、あれに懲りて暇な時には鍛えています」

 又近いうちにハランドに帰って来るから一杯遣ろうやと言って別れた。

 ・・・・・・

 「おい、此処って貴族様が使う転移魔法陣だけど良いのか?」

 「大丈夫だよ、俺達は此れを使ってハランドに帰ってきたのだから」
 「何をしているの、さっさと来ないと置いて行くわよ!」

 ビクビクもので後に続くバルバス達を叱咤し、係員に身分証を見せバルバス達六人分の料金金貨36枚を支払う。

 ・・・・・・

 「おい、どうしたんだよ?」

 「出るのよ。もう王都に着いたから」

 「へっ・・・嘘だぁ~」
 「さっき入って来たばかりだぜ」
 「またまたぁ~、俺達が何も知らないと思って」

 「あんたの前に壁に、何て書かれているのか読めるよね」

 「王都ファンネル・・・あれっ、さっきはハランドって書かれていたよな?」

 「おらっ! 取り敢えず出ろ! 出てから説明してやるから!」

 ランカンに怒鳴られて、皆が慌てて外に出る。

 「あれっ・・・此処は何処?」
 「さっき入った所と違うぞ!」
 「本当に王都なのかよぅ」

 「さっさと来なさい。お迎えの馬車が来ているから」

 アリシアに叱られながら止まっている馬車の所へ行くと、御者席のボルヘンがニヤニヤ笑いで出迎える。

 「バルバス、目が白黒しているぞ。大丈夫かい?」

 「ボルヘンか・・・やっぱり此処は王都なのか?」

 「まあ馬車に乗りなよ。王都かどうかは家に着いてみりゃ判るからよ」

 ・・・・・・

 「ふあぁぁぁ、でっけえお屋敷だなぁ~」
 「でもよう、ネイセン侯爵様のお屋敷に比べたら、ちいーっとばかり小さい感じだな」

 「アキュラは領地無しの年金貴族だからよ」
 「えっ、領地が無くても貴族になれるの?」
 「領地の無い貴族様って、本当に居るの?」
 「税金取り立てる相手が居なきゃ、生活出来ねえのに何で?」

 「まっ、その辺はおいおい判るよ。取り敢えず家令のラムゼンの所に行くぞ」

 初めてはいる豪邸に腰の引けた六人を家令のラムゼンへ所に案内する。

 「ラムゼンさん、バルバスとその仲間達だよ。部屋と服を用意してあげてね。アキュラは居る?」

 「森の家へ行っております。お報せしておきましょうか?」

 「良いわ、仕事の手順などは私達が教えるからね。と言っても、ある程度地理を覚えるまでは私達も手伝うわ」

 バルバス達の部屋を決め、屋敷内を案内してからアキュラの住まう区域への立ち入り禁止を言い渡す。
 夕食は使用人達の食堂で済ませ、呼ばれた仕立屋に寸法を測られてドギマギしている。

 「然し、冒険者用の服も良い物を着ていたが、今の服も相当高そうだな」

 「まぁな、値段を聞いたらビックリするぞ。俺達も初めの頃は、大分驚かされたからな。ところで〔ドリバン通りの仲間達〕ってのはどうだ?」

 「どうだとは?」

 「鍛えたら使い物になりそうか?」

 「まぁ、真面目に仕事はしているし、悪さをする連中じゃないのは確かだな。アキュラに鑑定させれば良いじゃねぇか」

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 「取り敢えず冒険者ギルドに行こうか」

 「だな、奴等は近場で細々とやっていると言っていたから。今の時間帯なら会えるだろう」

 滅多に来ないので相変わらずジロジロと見られるが、バルバスと共に森から帰って大量の獲物を出したので、その話が彼方此方から聞こえて来る。
 受付カウンターで彼等の事を訊ねると、今日は未だ来ていないとの返事。
 エールを飲みながら待っていると、外が暗くなる頃に帰って来たが人数が少ない。

 「ランカン、七人って言ってなかったっけ」

 「五日前に会った時には七人居たわよ。呼んで来るわ」

 嬉しそうにアリシアに挨拶をしているのは確かディルソン、死んだ前リーダーの後を継いだ気の良い男。

 「アキュラさん、俺達に話って何ですか」

 「その前に七人って聞いたのだが、もう一人は?」

 ディルソンの顔が曇り少し言い辛そう。
 ディルソンと並んで座った女性が口を開き掛けたときに、無粋な声が割り込んできた。

 「おい、お前等、何も注文しないのにテーブルを占領するな!」

 その声に腰を浮かし掛けるディルソン達を押さえ、銀貨を滑らせて人数分のエールと摘まみを買いに行かせる。

 「済まないね。人数が多いのでカウンターが混み合うと思って先に座らせたのさ。隣が空いているよ、四人なら十分座れるから其方に座ってよ」

 「洒落た事を抜かすチビ助だな」
 「見掛けない顔だが、いい服を着ているところを見ると相当稼いでいるんだろうな」

 「見掛けない顔って・・・何処から流れてきたの?」

 「お前の事を言っているんだ! 糞チビ助!」

 「あんた達止めておきなさい、この子は強いし容赦ないわよ」
 「だな、見掛けで絡んで泣きを見る・・・」

 「どうした、何の騒ぎだ?」

 「誰だぁおめえはよう」
 「横から口を出すんじゃねえぞ! 愚図がぁ!」

 〈バシッ〉〈ドガッ〉て音と共に叩き伏せられた二人。

 〈野郎、巫山戯た真似をしやがって〉

 あららら、腰の剣に手を掛けちゃて勝てるのかしらねぇ。

 「相変わらず、乱暴なギルマスねぇ」

 アリシアの、のんびりした声にピタリと動きが止まる。
 絡んで来た男が、ギギギギッと、音が聞こえそうな動きで振り返る。

 殴り倒された二人も、立っている奴も顔色が一気に悪くなり額に汗を滲ませる。

 「どうした、腰の剣に手を掛けたんだ気にせず来いよ」

 剣の柄に手を掛けたまま、身動き出来ずに冷や汗を流す馬鹿。

 確かに身動きすれば死ぬと思われる雰囲気が、ビンビンに伝わってくる。
 此れが殺気ってやつか、無用な争いを防ぐには最適そうだが練習すれば俺も出来るかな。

 「この街から失せろ!」

 ドスの利いたギルマスの声に、顔色を変えて食堂から出て行く奴等。

 「いやー、ギルマスが来てくれて助かったよ」

 「良く言うよ。俺は模擬戦の審判が面倒だから止めただけだぞ。あんな奴等にポーションを売りたくないからな。ところで酔い止めのポーションを持っていないか」

 「なにっ、その為に助けてくれたの?」

 「ふん、オークキングやシルバータイガーを無傷で狩って来る様な奴を、どうして俺が助けなきゃならんのだ」

 「それじゃー、賄賂が目的だったんだ」

 「賄賂って、お前なぁ~」

 「まっ、面倒な模擬戦を回避出来たので賄賂を渡しておきますね」

 五本ほど酔い止めを渡すと、早速一本飲んでいる。

 「ギルマス、今飲んだら酒に酔わなくなっちゃいますよ」

 「何を馬鹿な事を言っとる。此れで二日酔いを治して今夜も旨い酒を呑むんだよ」

 駄目だ、完全なアル中の思考回路だ、身体を壊したらお高いポーションを高値で売りつけてやろう。

 邪魔が入ったが仕切り直して、一人足りない訳を尋ねた。
 此処に居ないのはグエンドと言う名の男で食堂の三男坊、爺さんの代から続いた商売が出来なくなって困っているそうだ。

 「爺さんの代から続いたのなら味は良いはずだよな、商売が出来ないってどうしてだ」

 「奴のところの長女を、嫁に寄越せって奴が現れたのですが嫌味な野郎でしてね。奴の姉貴も嫌っていて断ったんです、そうしたら麦や豆,香辛料などを売るのを止めやがったんですよ。で、仕方なく市場から仕入れようとしたら、奴の店に売るのなら、お前にはうちの物は売らないと市場の連中に脅しを掛けやがって」

 ありふれた話だが、穀物や香辛料って・・・

 「その穀物や香辛料を扱っているのは何処だ?」

 「ランガス商会って所でして、会長がネイセン侯爵様と懇ろだと言って、威張り散らす嫌な番頭ですよ」

 「判った、そいつは今日明日にも何とかしよう」

 ランガス商会なら話は簡単だ、その番頭を何処かに飛ばしてしまえば片付く。
 後の話はランカンに任せて俺は飲む、色々と条件を聞いて彼等六人は王都行きに同意した。
 ディルソンの話では、番頭の妨害が無ければ、材料の仕込みに奔走している仲間も王都行きに同意するはずだと請け負った。

 ・・・・・・

 翌朝ディルソン達と冒険者ギルドで落ち合い、ランガス商会に向かう。

 「何だねあんた達は、此処は冒険者が来る所じゃないよ」

 「この店の支配人に用があって来たんだけど、此れを見てね」

 そう言って、ネイセン侯爵様から預かっている身分証を見せる。
 胡散臭げに身分証を見ていたが、本物だと判り支配人を呼びに走った。
 「アキュラ様で御座いますね。貴女様の事は主人より伺っております。本日は如何なる御用でしょうか」

 グエンドの店の話をし、営業妨害をしている男を呼び出させた。
 店の支配人と大番頭に冒険者多数、その中にグエンドの顔を見付けて顔が強ばる番頭だが、一瞬でにこやかな顔に戻る。

 然し、此処は貴族社会で、俺はネイセン侯爵様の執事と同等の身分証を有する者となれば、何方の言葉に重きを置くかは問うまでもない。
 それに証人は幾らでも用意出来るのだから嘘は通用しない。
 俺の知り合いに嫌がらせをし、店の信用を傷付けたと即刻解雇になってしまった。
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