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085 祝福
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「汝エルド・ネイセン伯爵を侯爵に任ずる。尚、元ガーラント侯爵の館を下賜する」
「有り難き幸せ。賢きフランド・エメンタイル国王陛下とエメンタイル王国に、より一層の忠誠を誓います」
新年祝いの宴の三日後に行われた、ネイセン伯爵陞爵の話しを聞きヘンリーは呆然としていた。
侯爵に陞爵すればこの館も祝いの客で溢れるだろう、国王陛下の御前で失態を晒した自分が居ては笑い者である。
急いで身の回りの物を纏めると、母親のセレーヌにのみ簡単な挨拶をして逃げるように館を出て行った。
ネイセン伯爵が侯爵に陞爵した夕暮れには、王都に住まう豪商達の馬車が貴族街に殺到したが、侯爵陞爵を祝う貴族の馬車列に進路を塞がれて身動き出来なくなっていた。
・・・・・・
陽が落ちて建築現場を片付けた工事関係者を送り出したが、少し先で行き詰まり騒ぎが起きていた。
何事かと思い駆けつけると、ネイセン伯爵様陞爵の祝いに訪れた馬車が多すぎる為に道を塞いでしまっている。
ランガス会長から聞いていたのに忘れていた。
工事関係者の馬車を止め、下がらせようと怒鳴り散らす衛兵の所に行く。
「何故そんなに怒鳴り散らすのだ? 馬車の整理も出来ないのか」
「何をぉぉ、小娘がぁ~ぁぁ」
「オイ! 止めろ! 申し訳在りません。ネイセン伯爵様の陞爵祝いに訪れた馬車が多すぎて・・・」
「貴族の盆暗共が道を塞いでいるのか?」
「いえ・・・商人達の馬車を帰らせる為に、奥まで行かせて引き返す様に指示したのでありますが、侯爵邸から帰る馬車と鉢合わせてしまい・・・」
にっちもさっちもいかなくなったって事か。
此れじゃランカン達も帰れなくなってしまうし、こんな所で大渋滞を起こされてはネイセン伯・・・侯爵様も帰って来られないだろう。
仕方がないので天下御免の身分証を振りかざして、交通整理をする事にした。
まず鉢合わせしいてる馬車に指示があるまで動くなと命令させた後、警備兵を引き連れて大渋滞している馬車列の中を進み、ネイセン侯爵邸まで行く。
通用門まで商人達の馬車で塞がれているのを見た時は、呆れてしまった。
汗だくの衛兵を捕まえ、執事のブリントを呼べと命じると共に、通用門の出入りを別命有るまで止めさせた。
日頃出入りしていて、俺に対する執事ブリントの態度を見ている衛兵は素直に指示に従った。
汗だくのブリントがやって来たので、正門の衛兵に命じて出入りを止めろと指示する。
次いで、ネイセン侯爵家の隣に行き門衛に身分証を示して、主か執事を呼べと偉そうに命令する。
貴族街の有名人で禍津日神である俺の事はよく御存知で、身分証を見せる前から直立不動でガチガチに緊張している。
やって来た執事が「主人は只今気分が優れず・・・」と言い出すのを遮り、開門して通りを塞ぐ馬車を中に入れろと命じる。
目を白黒させる執事に、「ネイセン侯爵様陞爵祝いの馬車が大渋滞しているので、一時的に受け入れ貴族街を外に出る通路が空いたら帰らせろ」と命じ「嫌なら後日改めてお前の主人に挨拶に出向く」と言ったら、即行で開門を命じている。
仮病を使って執事を寄越すなんて、尻の穴の小さい貴族だな。
禍津日神も日本では神様、貧乏神よりは高位の神様だと思うが、嫌われていても神の言葉は霊験あらたかだ。
後は貴族街の出口に向かって歩きながら、外に向かう側の通路に面する館の出入り口を全て開けさせて行く。
付いてくる警備兵が呆れているが、大渋滞を起こされたら俺達も帰れないんだよ。
呆れる警備兵を貴族街入り口に走らせて、入場を止めてネイセン侯爵様の馬車を探して中に入れろと命じる。
俺の側を離れられるのが嬉しいのか、満面の笑みで全力疾走して行きやがった。
続々と貴族街を奥に向かって流れていた馬車列が途切れたので、手近な館に待機する馬車から帰らせろと命じ、少しずつ渋滞が解消し始めた。
交通整理を終わり迎えの馬車を待っていると、空いた通路を警備兵に守られた馬車がやって来る。
ネイセン侯爵様の馬車だ、あっちゃーと思ったが逃げ隠れ出来る場所が無い。
御者は俺の顔を知っているので、自然と俺の前で馬車を止める。
「アキュラ殿、有り難う御座います」
「いえいえ、侯爵に陞爵なされお目出度う御座います。お館は大変な事になっていますので急いで帰られると宜しいですよ」
貴族の馬車列は止まったままなので大注目、さっさと逃げ出したいので侯爵様を急いで帰らせる。
暫く貴族街へは近寄れないので、騒ぎが収まるまでは新たな家の内装を手がけて貰うことにする。
最奥部にいた俺達の馬車がやって来て、漸くホテルに帰り着いたときはすっかり暗くなっていた。
・・・・・・
「ハランドの家より大分大きいな」
「漸く、ホテル暮らしをしなくて済むのね」
「馬車置き場がちょっと遠いがな」
「あのお屋敷より余程良いんじゃねえか」
「あんな大店の本店に停めさせてもらえるなんて、どんなコネを使ったのよ」
「気兼ねなく暮らせる家が出来たのだから良いじゃない。俺の部屋は三階の左側四室で一つは居間にするから気楽に使ってよ。二階の右は厨房と食堂に使用人用の控え室。左側に客間と予備の部屋に一つ使うから、残りの部屋を好きに使って」
「使用人用って誰か雇うの?」
「ん、毎日の食事の用意や家の掃除をしたいの。各部屋を毎日掃除するって大変だよう」
「アキュラ様にお任せします」
「そうそう、家を借りたのはアキュラだからね」
「リンディ市場まで歩いて八分くらいだって、此処なら便利で良いだろう」
借家の内装が思ったより早く終わり、ネイセン侯爵様の陞爵祝いの騒ぎも落ち着いたようなので、森の家建設を再開する。
・・・・・・
貴族街も落ち着いてきたので森の家の工事を再開し、ネイセン侯爵邸にポーションの納品に出掛ける。
何時もの数量を並べ確認した後に、提供するポーションとは別に特注の小瓶が収まった革ケースを差し出す。
「アキュラ殿これは?」
「侯爵位陞爵のお祝いの品ですよ。もっと早くお祝いに来たかったのですが、私のような冒険者が居てはご迷惑と思い、遅くなってしまいました」
見ても良いかと、目で問いかけてくるので頷く。
察しは付いているのだろう、慎重な手付きで革ケースを手に取り蓋を開けると、淡い金色の光が漏れてくる。
「宜しいのですか?」
「陞爵の返礼も必要だと思い四本お渡しします。二本も渡せば満足するでしょう」
「有り難う御座います。返礼の品に悩んで居たところでした」
その四本はエリクサーを完成させた後、“こがね”にお願いして魔力を込めて貰ったので、百年程度は変質しないと思うが黙っておく。
元々ポーションなんて薬草エキスの混合液なので、長期保存がどの程度有効なのかは知らない。
侯爵様も国王も遮光性のある革ケースに入れ、時間遅延効果の高いマジックバッグに保存すると思う。
となれば、俺の生きている間に効果が無くなることは無さそうだ。
王都の森に建設中の家が完成すれば、暫くハランドの西の森に行くので当分ポーションの提供は出来ないと伝えてお暇する。
・・・・・・
「ネイセン・・・此れは?」
「陛下御所望の品で御座います。侯爵位陞爵祝いに贈られた四本のうちの二本を献上致します」
「鑑定使いを呼べ!」
急遽呼ばれた鑑定使いは、テーブルに置かれた二本の小瓶の鑑定を命じられた。
テーブル上に置かれた二本の小瓶は淡い金色に光り、一目見てエリクサーだと判ったが慎重に鑑定をする。
「エリクサーに間違い御座いません。然し以前鑑定したエリクサーよりも遥かに純度が高く、まるでアリューシュ神様の加護を受けた物の様で御座います」
鑑定使いの言葉に、その場に居た国王,宰相,侯爵の三人はお互いの顔を見合わせた。
三人とも直接目にした事はないが、部下からの報告で何度か聞いたものを思い浮かべた。
「陛下、彼女が以前王城の薬師達の面前で作ったエリクサーと、同じ物かどうか薬師達に比べさせてはどうでしょうか」
「薬師達はポーションの鑑定に関しては、高い能力を発揮するのでやらせてみましょう」
レムリバード宰相の提案にネイセン侯爵が賛同し、国王も受け入れて、数名の薬師が呼び出された。
はやり病の際に、アキュラからポーション制作の指南を受けた者の中から、特に優れた三名が選ばれてやって来た。
呼ばれて来た三人はテーブルに置かれた小瓶を目にして立ち止まり、国王に呼ばれた事も忘れて凝視している。
「お前達は以前、アキュラ殿が作られたポーションを見たであろう、それと同じ物かどうか確認してみよ」
レムリバード宰相に命じられて初めて、国王陛下の御前であると気づき慌てて跪く。
「よい、そのポーションを鑑定して率直な意見を言ってくれ」
国王にそう言われて戸惑う三人をレムリバード宰相が「思ったことを言ってくれ。如何なる感想であろうとも罰する事は無い」と促して鑑定させた。
三人はテーブル上のポーションを矯めつ眇めつ眺め、両手で捧げ持って光に透かして吐息を漏らす。
そっとテーブルにポーションを戻すと、三人が目を見交わし何事か囁き会うと、意を決した一人が一礼して感想を述べ始めた。
「以前アキュラ様が、エリクサーを作るのを目の前で見せて頂きました。その時と同じポーションですが・・・ですが以前の物と比べて僅かながら光が強いように思われます。それと、アキュラ様のエリクサーと同じく、多くの治癒魔が込められていますが、これはその上の存在・・・アキュラ様の作られたエリクサーに間違いない筈なんですが、まるでアリューシュ神様の祝福を授けられた様に感じられます。鑑定ではアキュラ様の作られたエリクサーと出るのですが・・・そう感じるのです」
その言葉を聞いて、以前アキュラの作ったエリクサーを見た事のある、ネイセン侯爵とレムリバード宰相は、エリクサーを見た時の違和感はそれかと納得した。
「予も以前、此れとは違ったエリクサーを見た事があるが、此れほど神々しい光を放ってはいなかったな」
「有り難き幸せ。賢きフランド・エメンタイル国王陛下とエメンタイル王国に、より一層の忠誠を誓います」
新年祝いの宴の三日後に行われた、ネイセン伯爵陞爵の話しを聞きヘンリーは呆然としていた。
侯爵に陞爵すればこの館も祝いの客で溢れるだろう、国王陛下の御前で失態を晒した自分が居ては笑い者である。
急いで身の回りの物を纏めると、母親のセレーヌにのみ簡単な挨拶をして逃げるように館を出て行った。
ネイセン伯爵が侯爵に陞爵した夕暮れには、王都に住まう豪商達の馬車が貴族街に殺到したが、侯爵陞爵を祝う貴族の馬車列に進路を塞がれて身動き出来なくなっていた。
・・・・・・
陽が落ちて建築現場を片付けた工事関係者を送り出したが、少し先で行き詰まり騒ぎが起きていた。
何事かと思い駆けつけると、ネイセン伯爵様陞爵の祝いに訪れた馬車が多すぎる為に道を塞いでしまっている。
ランガス会長から聞いていたのに忘れていた。
工事関係者の馬車を止め、下がらせようと怒鳴り散らす衛兵の所に行く。
「何故そんなに怒鳴り散らすのだ? 馬車の整理も出来ないのか」
「何をぉぉ、小娘がぁ~ぁぁ」
「オイ! 止めろ! 申し訳在りません。ネイセン伯爵様の陞爵祝いに訪れた馬車が多すぎて・・・」
「貴族の盆暗共が道を塞いでいるのか?」
「いえ・・・商人達の馬車を帰らせる為に、奥まで行かせて引き返す様に指示したのでありますが、侯爵邸から帰る馬車と鉢合わせてしまい・・・」
にっちもさっちもいかなくなったって事か。
此れじゃランカン達も帰れなくなってしまうし、こんな所で大渋滞を起こされてはネイセン伯・・・侯爵様も帰って来られないだろう。
仕方がないので天下御免の身分証を振りかざして、交通整理をする事にした。
まず鉢合わせしいてる馬車に指示があるまで動くなと命令させた後、警備兵を引き連れて大渋滞している馬車列の中を進み、ネイセン侯爵邸まで行く。
通用門まで商人達の馬車で塞がれているのを見た時は、呆れてしまった。
汗だくの衛兵を捕まえ、執事のブリントを呼べと命じると共に、通用門の出入りを別命有るまで止めさせた。
日頃出入りしていて、俺に対する執事ブリントの態度を見ている衛兵は素直に指示に従った。
汗だくのブリントがやって来たので、正門の衛兵に命じて出入りを止めろと指示する。
次いで、ネイセン侯爵家の隣に行き門衛に身分証を示して、主か執事を呼べと偉そうに命令する。
貴族街の有名人で禍津日神である俺の事はよく御存知で、身分証を見せる前から直立不動でガチガチに緊張している。
やって来た執事が「主人は只今気分が優れず・・・」と言い出すのを遮り、開門して通りを塞ぐ馬車を中に入れろと命じる。
目を白黒させる執事に、「ネイセン侯爵様陞爵祝いの馬車が大渋滞しているので、一時的に受け入れ貴族街を外に出る通路が空いたら帰らせろ」と命じ「嫌なら後日改めてお前の主人に挨拶に出向く」と言ったら、即行で開門を命じている。
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禍津日神も日本では神様、貧乏神よりは高位の神様だと思うが、嫌われていても神の言葉は霊験あらたかだ。
後は貴族街の出口に向かって歩きながら、外に向かう側の通路に面する館の出入り口を全て開けさせて行く。
付いてくる警備兵が呆れているが、大渋滞を起こされたら俺達も帰れないんだよ。
呆れる警備兵を貴族街入り口に走らせて、入場を止めてネイセン侯爵様の馬車を探して中に入れろと命じる。
俺の側を離れられるのが嬉しいのか、満面の笑みで全力疾走して行きやがった。
続々と貴族街を奥に向かって流れていた馬車列が途切れたので、手近な館に待機する馬車から帰らせろと命じ、少しずつ渋滞が解消し始めた。
交通整理を終わり迎えの馬車を待っていると、空いた通路を警備兵に守られた馬車がやって来る。
ネイセン侯爵様の馬車だ、あっちゃーと思ったが逃げ隠れ出来る場所が無い。
御者は俺の顔を知っているので、自然と俺の前で馬車を止める。
「アキュラ殿、有り難う御座います」
「いえいえ、侯爵に陞爵なされお目出度う御座います。お館は大変な事になっていますので急いで帰られると宜しいですよ」
貴族の馬車列は止まったままなので大注目、さっさと逃げ出したいので侯爵様を急いで帰らせる。
暫く貴族街へは近寄れないので、騒ぎが収まるまでは新たな家の内装を手がけて貰うことにする。
最奥部にいた俺達の馬車がやって来て、漸くホテルに帰り着いたときはすっかり暗くなっていた。
・・・・・・
「ハランドの家より大分大きいな」
「漸く、ホテル暮らしをしなくて済むのね」
「馬車置き場がちょっと遠いがな」
「あのお屋敷より余程良いんじゃねえか」
「あんな大店の本店に停めさせてもらえるなんて、どんなコネを使ったのよ」
「気兼ねなく暮らせる家が出来たのだから良いじゃない。俺の部屋は三階の左側四室で一つは居間にするから気楽に使ってよ。二階の右は厨房と食堂に使用人用の控え室。左側に客間と予備の部屋に一つ使うから、残りの部屋を好きに使って」
「使用人用って誰か雇うの?」
「ん、毎日の食事の用意や家の掃除をしたいの。各部屋を毎日掃除するって大変だよう」
「アキュラ様にお任せします」
「そうそう、家を借りたのはアキュラだからね」
「リンディ市場まで歩いて八分くらいだって、此処なら便利で良いだろう」
借家の内装が思ったより早く終わり、ネイセン侯爵様の陞爵祝いの騒ぎも落ち着いたようなので、森の家建設を再開する。
・・・・・・
貴族街も落ち着いてきたので森の家の工事を再開し、ネイセン侯爵邸にポーションの納品に出掛ける。
何時もの数量を並べ確認した後に、提供するポーションとは別に特注の小瓶が収まった革ケースを差し出す。
「アキュラ殿これは?」
「侯爵位陞爵のお祝いの品ですよ。もっと早くお祝いに来たかったのですが、私のような冒険者が居てはご迷惑と思い、遅くなってしまいました」
見ても良いかと、目で問いかけてくるので頷く。
察しは付いているのだろう、慎重な手付きで革ケースを手に取り蓋を開けると、淡い金色の光が漏れてくる。
「宜しいのですか?」
「陞爵の返礼も必要だと思い四本お渡しします。二本も渡せば満足するでしょう」
「有り難う御座います。返礼の品に悩んで居たところでした」
その四本はエリクサーを完成させた後、“こがね”にお願いして魔力を込めて貰ったので、百年程度は変質しないと思うが黙っておく。
元々ポーションなんて薬草エキスの混合液なので、長期保存がどの程度有効なのかは知らない。
侯爵様も国王も遮光性のある革ケースに入れ、時間遅延効果の高いマジックバッグに保存すると思う。
となれば、俺の生きている間に効果が無くなることは無さそうだ。
王都の森に建設中の家が完成すれば、暫くハランドの西の森に行くので当分ポーションの提供は出来ないと伝えてお暇する。
・・・・・・
「ネイセン・・・此れは?」
「陛下御所望の品で御座います。侯爵位陞爵祝いに贈られた四本のうちの二本を献上致します」
「鑑定使いを呼べ!」
急遽呼ばれた鑑定使いは、テーブルに置かれた二本の小瓶の鑑定を命じられた。
テーブル上に置かれた二本の小瓶は淡い金色に光り、一目見てエリクサーだと判ったが慎重に鑑定をする。
「エリクサーに間違い御座いません。然し以前鑑定したエリクサーよりも遥かに純度が高く、まるでアリューシュ神様の加護を受けた物の様で御座います」
鑑定使いの言葉に、その場に居た国王,宰相,侯爵の三人はお互いの顔を見合わせた。
三人とも直接目にした事はないが、部下からの報告で何度か聞いたものを思い浮かべた。
「陛下、彼女が以前王城の薬師達の面前で作ったエリクサーと、同じ物かどうか薬師達に比べさせてはどうでしょうか」
「薬師達はポーションの鑑定に関しては、高い能力を発揮するのでやらせてみましょう」
レムリバード宰相の提案にネイセン侯爵が賛同し、国王も受け入れて、数名の薬師が呼び出された。
はやり病の際に、アキュラからポーション制作の指南を受けた者の中から、特に優れた三名が選ばれてやって来た。
呼ばれて来た三人はテーブルに置かれた小瓶を目にして立ち止まり、国王に呼ばれた事も忘れて凝視している。
「お前達は以前、アキュラ殿が作られたポーションを見たであろう、それと同じ物かどうか確認してみよ」
レムリバード宰相に命じられて初めて、国王陛下の御前であると気づき慌てて跪く。
「よい、そのポーションを鑑定して率直な意見を言ってくれ」
国王にそう言われて戸惑う三人をレムリバード宰相が「思ったことを言ってくれ。如何なる感想であろうとも罰する事は無い」と促して鑑定させた。
三人はテーブル上のポーションを矯めつ眇めつ眺め、両手で捧げ持って光に透かして吐息を漏らす。
そっとテーブルにポーションを戻すと、三人が目を見交わし何事か囁き会うと、意を決した一人が一礼して感想を述べ始めた。
「以前アキュラ様が、エリクサーを作るのを目の前で見せて頂きました。その時と同じポーションですが・・・ですが以前の物と比べて僅かながら光が強いように思われます。それと、アキュラ様のエリクサーと同じく、多くの治癒魔が込められていますが、これはその上の存在・・・アキュラ様の作られたエリクサーに間違いない筈なんですが、まるでアリューシュ神様の祝福を授けられた様に感じられます。鑑定ではアキュラ様の作られたエリクサーと出るのですが・・・そう感じるのです」
その言葉を聞いて、以前アキュラの作ったエリクサーを見た事のある、ネイセン侯爵とレムリバード宰相は、エリクサーを見た時の違和感はそれかと納得した。
「予も以前、此れとは違ったエリクサーを見た事があるが、此れほど神々しい光を放ってはいなかったな」
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